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中性脂肪を下げる薬の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は僕の親族に不幸がありました関係で、
午後の診療は3時までで終了とさせて頂きます。
急なことでご迷惑をお掛けしますが、
よろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日は中性脂肪を下げることの意味と、
その効果について考えます。

健康診断では必ず総コレステロール(もしくはLDL-コレステロール)と、
一般的に善玉コレステロールと呼ばれるHDL-コレステロール、
そして中性脂肪という数値を測ります。

このうち中性脂肪という数値に関しては、
150mg/dl を超えると「高い」と言われ、
「生活指導」が行なわれます。

お酒を飲んでいる人にはお酒を控えるように指導がされ、
太っている人や、
ファーストフード主体の食生活をしているような人では、
食生活を見直して、
体重を減らすようにと指導がされます。

それで数カ月後に再び数値を測ってみて、
正常値とされる150未満になっていればOKですが、
まだ数値が高いと、場合によっては、
中性脂肪を下げる効果のある薬が、
処方されることになります。

中性脂肪を下げる作用のある薬の代表は、
「フィブラート」と呼ばれる薬です。

フィブラートとは何でしょうか?

これは細胞の核の中にある受容体の、
PPARα(ピーパーアルファ)を活性化する作用を持つ薬剤です。

PPARαが活性化すると、
脂質を分解する酵素の活性が高まって、
中性脂肪が分解され、
身体で利用され易くなります。
同時に善玉コレステロールの分解を抑える作用があるので、
この薬は主に中性脂肪を下げる効果と共に、
悪玉コレステロールを下げ、
善玉コレステロールを上げる、
2つの作用を併せ持っている、
と考えられています。

最初のフィブラートはヨーロッパで開発され、
35年以上前に発売された、
Gemifibrozil という薬です。
この薬は日本では発売されませんでした。

その後1995年にベザフィブラート(商品名ベザトール)が日本で発売され、
海外でも使用されました。

それから少し遅れて、
フェノフィブラート(商品名リピデイル、トライコア)が、
同様のメカニズムの薬として発売され、
アメリカのFDAはこの薬のみを、
重度の高脂血症の治療薬として認可しています。

日本では現在ベザフィブラートとフェノフィブラートの両者が、
高脂血症の治療薬として使用可能です。

この薬の効果とその適応については、
色々な意見があります。

フィブラートの効果を検証した、
最初の大規模臨床試験は、
1987年に発表されたHHSと呼ばれる試験で、
使用された薬剤はGemifibrozil です。

4081人の男性で、
総コレステロールからHDLコレステロールを引き算した数値が、
200mg/dl 以上の方を対象として、
その半数はフィブラートを使用し、
残りの半数は使用しないで、
5年間の経過を見たものです。
結果、フィブラートを使用した方が、
心筋梗塞の発症率が有意に低下しました。
ただ、死亡数を減少させる効果は認められませんでした。

1999年に発表されたVA-HITと呼ばれる試験では、
同じくGemfibrozil が使用され、
心筋梗塞の既往があり、
悪玉コレステロールは正常で、
HDL-コレステロールが40mg/dl未満の男性を対象として、
フィブラートを使用するかしないかで、
その後5年間の心筋梗塞の再発の有無を見たものです。
その結果、フィブラートを使用した方が、
心筋梗塞の発症と死亡率が、
共に2割程度有意に低下しました。

この結果が、
フィブラートの有用性を考える上で、
1つの基準になっています。

最初のHHSの試験は、
コレステロールの高い患者さんを含んでいるので、
中性脂肪を下げHDL-コレステロールをやや上げるけれど、
悪玉コレステロールの低下作用は充分ではないフィブラートでは、
全体の予後は改善出来なかったのです。

VA-HITの試験は、
そうした人は除外しているので、
有用性がはっきり確認されたのです。

つまり、フィブラートという薬は、
悪玉コレステロールが正常で、
善玉コレステロールが低下しているような、
中性脂肪の高い患者さんで、
最もその心臓病や脳卒中の進行と再発の予防に、
有用な薬である可能性が高い、
と考えることが出来るのです。

日本で最も広く使用されているフィブラートである、
ベザフィブラートは、
アメリカではあまり使用はされていません。

その理由の1つは、
2000年に発表されたベザフィブラートの大規模臨床試験である、
BIPと呼ばれる試験の結果が、
あまり思わしいものではなかった、
という点にあります。

この試験は心筋梗塞の既往のある、
45~74歳の患者さん3090人を対象として、
ベザフィブラートを使用するかしないかで、
その後の心筋梗塞の予防効果を見たものです。

全体の結果としては、
使用した群で有意な予防効果はありませんでした。

ただ、サブ解析といって、
特定の患者さんだけを選択して統計処理をすると、
中性脂肪が200mg/dl 以上の患者さんに限定した場合に、
4割近い心筋梗塞の発症予防効果が認められました。

海外の中性脂肪の治療の目安の基準値が、
概ね200mg/dlとなっているのは、
この結果が1つの裏付けになっています。

さて、アメリカで主に使用されているフィブラートは、
フェノフィブラートのみです。

このフェノフィブレートを使用した大規模臨床試験が、
2005年に発表されたFIELD試験と、
2010年に発表されたACCORD試験です。

特徴は両方の試験とも、
糖尿病の患者さんをその対象にしている、
ということです。

FIELD試験は2型糖尿病の患者さん9795例を対象として、
フェノフィブラートの心筋梗塞の発症や再発に対する効果を見たものです。

その結果はやや期待を裏切るもので、
全体として心筋梗塞の発症は1割程度減少しましたが有意差はなく、
死亡率はむしろ増加した、
というものでした。

つまり、闇雲にフィブラートのみを使用したところで、
あまり効果の期待出来るものではなく、
症例を選んで使用することが重要だ、
というのがFIELD試験の教訓でした。

そこでACCORD試験においては、
2型糖尿病の患者さんに血糖コントロールを行ない、
悪玉コレステロールを低下させる薬を使用して、
低下させた上で、
フェノフィブラートの誘導体をそれに上乗せすることによる、
心筋梗塞や脳卒中への予防効果を検証しています。

その結果は全体としては心筋梗塞や脳卒中の発症に、
低下傾向はあったものの、
統計的に有意な結果は出ませんでした。

サブ解析として、
中性脂肪が204mg/dl 以上あり、
更にHDLコレステロールが34mg/dl 以下という患者さんを、
選択して同様の結果を見ると、
31%のリスクの低下が認められました。
ただ、これも統計的には有意ではありません。

つまり、どのような事例を選んでも、
フィブラートにはあまりクリアな心筋梗塞や脳卒中の予防効果は、
現時点では確認は出来ていないのです。

こうして並べて見ると、
ベザフィブラートは中性脂肪が200以上のサブ解析で、
一応の有意差をもって、
心筋梗塞を4割近く減らしているのですから、
フェノフィブラートより優秀に思えますが、
それでもアメリカではフェノフィブラートが重視されるのは、
表面には現れない理由が存在しているのかも知れません。

現状でフィブラートの処方を、
どう考えるべきでしょうか?

2型糖尿病の患者さんでは、
そうでない方に比べて、
心筋梗塞や脳卒中のリスクが高いことは、
これはもう間違いのない事実で、
悪玉コレステロールを下げることで、
そのリスクが低下することも、
ほぼ間違いのない事実です。
従って、順番としてはまず血糖を下げることで、
次に悪玉コレステロールを低下させることです。
しかし、それでも中性脂肪が200mg/dlを超えていて、
善玉コレステロールが40mg/dl を切っていると、
それ自体が独立した発作のリスクになるので、
フィブラートの併用を、
検討する必要性が生じます。

この場合単独の使用はあまり推奨されませんから、
スタチンと呼ばれる、コレステロール低下剤との併用が、
基本的なスタンスになります。
ただ、これは横紋筋融解症という、
筋肉の副作用を増すという懸念があり、
日本ではその併用は慎重に考える必要があります。

その判断は正直なところ、
非常に微妙です。

糖尿病の患者さん以外では、
脳卒中や心筋梗塞の既往のある方では、
矢張り中性脂肪が200を超えていて、
善玉コレステロールが40を切っているような方では、
再発予防に一定の効果が期待出来ると思います。

それ以外の方に関しては、
現状でフィブラートを使用する積極的な意味は、
見出し難いのではないかと思います。

使用量はベザフィブラートで1日400mg、
フェノフィブラートで1日200mg。
これは海外の臨床試験のデータと同一で、
日本でも処方が可能です。

僕は個人的には悪玉コレステロールレベルが正常に近く、
中性脂肪が200以上で善玉コレステロールが40未満の方では、
フィブラートの使用を積極的に考えますが、
実際にはそうした方の比率はそう多くはなく、
悪玉の上昇があれば、
スタチンの使用が優先となり、
併用は副作用に留意しなければならないので、
現実には非常に迷うところです。

海外ではまた別個のガイドラインの作成が検討されているようですので、
大規模臨床試験の結果を含め、
その動静を見ながら個々の患者さんの処方を、
僕なりに考えたいと思います。

今日は中性脂肪を下げる薬の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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臼井康浩

ベザフィブラートは中性脂肪をさげ、
脂質異常症の改善にもなるということは、
血液もサラサラになるということでしょうか?
by 臼井康浩 (2017-05-08 22:44) 

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