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放射性物質拡散をどう考えるか? [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から色々とやることはあったのですが、
何となくボーっとして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

こうした話題ももううんざり、
という感じもあるのですが、
過去記事に非常に重要な点をご指摘頂いたので、
今日はその点についての話です。

原発事故後、福島で飼育されていた肉牛が、
全国各地に移動し、
原発付近でたっぷりと放射性物質を浴びた稲藁や汚泥、
廃棄物なども全国に移送されました。

それが今になって深刻な事態を引き起こしているのは、
皆さんもご存じの通りです。

東大の児玉龍彦先生の国会答弁によれば、
福島の原発事故でこれまでに放出された総放射線量は、
熱量の換算で広島原爆の29.6個分に相当するそうです。
プルトニウム換算で20個分とのことです。
「医学のあゆみ」の先月号の先生の記事にも、
ほぼ同じ内容が書かれています。

びっくりですね。

この数字の真偽はともかくとしても、
途方もない量の放射性物質が、
日本の国土のかなりの範囲に放出され、
一部は海などを通じて国外にまで達していることは事実です。

巷には放射性セシウムを身体から排泄するための、
様々な方法がトリビア的に溢れていますし、
薬剤としてのラディオガルダーゼやリンゴペクチンの効果などについては、
ブログの過去の記事でも取り上げました。

所謂「除染」です。

除染というと如何にもその放射能自体が消失するかのように、
何となく思えますが、
実際には放射性物質を、
体内や身体の表面から、
それ以外の場所へと移動させるだけのことです。

放射性物質のトータルな量自体は、
その物質固有の物理的半減期による、
崩壊を待たなければならないのです。

トータルでたとえば1京ベクレルの放射性セシウム137が放出されたとすれば、
その量が半分になるのは30年後のことで、
それはもう確定した事項です。
何かの薬剤を使っても、何処かに埋めても、フィルターを通しても、
海に流しても、
それはその場所から移動したり、
拡散したり濃縮したりはするでしょうが、
その量は急に減るようなことはないのです。

たとえばあなたが1000ベクレルの放射性セシウム137を含む牛肉を食べ、
その後で不安に駆られてリンゴペクチンを食べたとしましょう。

あなたの身体から便や尿を介して、
ある程度の量のセシウムは身体から排泄されます。

しかし、その排泄されたセシウムは、
トイレの排水抗から下水を流れ、
周辺の水系に拡散します。

つまり、セシウム137自体は全く減ってはいないのです。
この凶悪な物質は人間がその手で作ったにもかかわらず、
人工的に消滅させたり、
減衰を早めたりする方法はないのです。

それが現実であり、その現実を直視する必要があります。

「3000ベクレルのセシウムを毎日食べても云々」
という安全性を訴える方の、
いつもの決まり文句がありますね。

これはね、汚染されているのが、
日本の国土のほんの一部分であったり、
被曝を受けた人がほんの一握りの人である場合には、
その通りに成り立つのです。

しかし、原発から100キロ200キロ圏内全域に、
放射性物質がばら撒かれている、
というような状況では、
その正当的な意味合いを失ないます。

その地域においては、
全てが汚染され、汚染の連鎖が起こるからです。

もう1つの例を出しましょう。

少し前に、大阪の市街地の川の水から、
微量のヨード131が検出された、
という報道がありました。

何故こんな場所に今、
という疑問をお感じになった方も、
いらっしゃるのではないかと思います。

これは原発から飛来したものではなく、
放射性ヨードの治療を受けた患者さんが、
退院してその方のおしっこや便、
そして場合によっては呼気から、
周囲に拡散した放射性物質が検出されたものと考えられます。

放射線科の医者は、
これは極微量であり、
環境に影響を与えるものではない、
と考えるのです。

勿論それは極少数の患者さんが、
その治療を受ける、という前提であれば事実です。

しかし、一度に数百万人の患者さんが、
同時にその同じ地域で、
同じ放射線治療を受ければ、
どういうことになるでしょうか?

大阪の街は回復不可能な、
放射線の汚染を受けることになるでしょう。

そうです。

問題は個別の人間や牛が、
その体内に貯め込む放射線の量ではないのです。

勿論それも問題ではありますが、
今回のような大事故の際には、
より問題にしなければならないのは、
トータルの放射線量がどれだけであるか、
ということと、
そのトータルな量の、
環境に与える影響が、
どの程度のものか、
ということなのです。

その本質的な部分を、
多くの方が忘れているように、
僕には思えます。

放射性ヨードは半減期が短いので、
急速に減衰して、
現時点ではγ線の放出源としては、
無視出来るレベルになりました。
被曝を受けた方の影響は、
10年は経たないと検証は出来ません。

今主に問題になっているのはセシウムで、
137と134とが、
主に半々で放出されたと考えると、
134の半減期は2年と短いので、
もう数ヶ月でトータルなγ線の放出量は、
その分は減少し、
後には137が残ります。

セシウム137の身体への影響については、
山下俊一先生は低線量のセシウムで、
チェルノブイリ周辺でも癌の発症などが増えた事実はない、
と断言をされていましたが、
前述の児玉先生は膀胱癌の増加についての、
福島昭冶先生らのデータを、
国会でも示されていました。

これについては元の論文の内容などについて、
また後日記事にしたいと思います。
ただこれは端的に言えば、
セシウムが原因だ、という根拠は、
汚染地域とそうでない地域とで、
膀胱癌の発症に差があった、
というだけのもので、
セシウムとの関連性の根拠には乏しいのです。

セシウム汚染地域にのみ特異的な膀胱上皮の組織所見がある、
という趣旨なのですが、
これは甲状腺癌とヨードのように、
その部位への蓄積が明らかであれば意味を持ちますが、
セシウムは基本的には排泄時に尿管と膀胱とを通過するだけですから、
それが病変の主因である、
と確定することにはやや無理があります。
勿論その可能性を否定するものではなく、
僕は個人的な感想としては、
そうしたことも有り得るかな、
とは思いますが、
腎臓から主に排泄されるのは、
他の多くの放射性物質でも違いはないのですから、
たとえば放射性カリウムでも、
同様のことが起こる理屈になり、
バナナの食べ過ぎは膀胱癌のリスクになる、
ということになってしまいます。

しかし、低線量の放射線の長期の影響を、
膀胱癌というちょっと特異な癌を用いて検証した、
という点では意義のあるものだと思います。
この推論の真偽は、
悲しいことですが、
数十年後の日本が証明してくれることに、
なるのかも知れません。

β線を放出するストロンチウム90は、
半減期29年でこの環境に存在し続けます。

α線を放出する物質が、
どの程度拡散しているのかは分かりません。
ただ、そのエネルギー量はγ線の20倍で、
その恐ろしさは過去に造影剤のトロトラストと、
夜光塗料のラジウムで証明されています。

前述の児玉先生の話の中にも登場した、トロトラストは、
レントゲン撮影に使用する造影剤で、
1930年代から40年代に掛けて非常に多く使用されました。
日本でも勿論使われたのです。

その主成分は放射性物質の二酸化トリウムで、
トリウム232の半減期は140億年でα線を放出します。

人間の体内に取り込まれたトリウムは、
骨髄や肝臓に集まり、
肝臓癌や白血病を高率に発症させることが確認されています。

勿論その使用は現在では行われていませんが、
これも使用された当初には、
「画期的で安全な検査法」であったのです。
当時の全ての医者が、
「ああ綺麗な画像が撮れて良かったね」
と喜んでいたのです。

科学者の言う「安全」というものの実態は、
常にそうしたものです。
その「安全」は時間という自然に存在するパラメーターを、
意図的に無視した次元に成立しています。
自分の研究のみは進歩をし続け、
それ以外の事象はそのままの姿で存在し続ける、
というのが基本的な彼らの世界観です。
皆さんが彼らの「安全」を信じるかどうかは、
今この瞬間の「科学の恩恵」というものを、
刹那的に信じることが出来るかに、
懸かっているのです。
彼らが保障するものは常にそれだけです。

夜光塗料にかつて用いられたラジウム226は、
半減期1600年でα線を出す放射性物質ですが、
それを筆で舐めながら作業をした作業員に、
内部被曝をもたらし、
高率な骨髄障害や骨の悪性腫瘍の発症をもたらしました。

人間の身体に取り込まれたラジウムは、
骨に集積する性質を持っています。

ストロンチウム90の内部被曝自体で、
癌が増加したというデータはないと、
これも山下俊一先生は断言をされていましたが、
それでも骨の癌の発症を危惧する意見が多いのは、
このラジウムの事例があるからです。
ただ、ストロンチウムはβ線を放出し、α線は出さないので、
その意味合いはラジウムとは異なります。

日本人が現時点で被ばくしている放射線の量は、
確かに「低線量」と言って誤りではないと思います。

ただ、それだから安心で何の心配もない、
という考え方は誤りです。

問題はトータルな放射線量の膨大さで、
それによりこの僕達の身近な環境が汚染され、
その「汚れ」は決してすぐには解消しない、
という事実です。

その土地自体が汚染されていれば、
繰り返し繰り返し「低線量の」被曝は積み重ねられるのです。
それを排泄し続ける行為が、
却って膀胱癌の発症を生むのではないか、
というのが前述の福島先生の警告するところです。
人間は生物としてその土地から離れて生存することは出来ないのです。
環境そのものを守る努力をしなければ、
肉やお茶や米や人間の放射線量だけを測定して、
それに一喜一憂してみたところで、
本質的な解決にはならないのではないでしょうか?

震災から5ヶ月。
僕達はその事実を、
もう少し直視した上で、
その膨大な量の放射線を、
果たして拡散させるべきなのか、
それとも集約させるべきなのか、
もう一度根本から考え直す必要があるのではないか、
と僕は思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 18

songpibao

私も同じ事をずっと心配しています。
私の考えとしては、福島原発は、汚れていてとても除染が間に合う状態ではないので、
全国に散らばった放射性物質は、福島原発に集めて、封じ込めるしかないと思っています。
今回の事故で放出された放射性物質の総量は、
全国に散らばして薄まるような生易しい量ではないからです。
家畜や瓦礫の移動も絶対に許せませんし、スーパーで、汚染されているであろう地域の野菜などが売られているのを見ると、頭にきます。
日本の未来が心配なのです。
子供達が心配なのです。

by songpibao (2011-08-06 08:52) 

fujiki

songpibao さんへ
コメントありがとうございます。
放射性物質は政治的には、
「負の補助金」と化しているように僕には思えます。
そうだとすれば、
平等の名の元に拡散されるのは、
防げないのではないか、
という絶望感もあります。
by fujiki (2011-08-06 09:12) 

Jasbest

いつも拝読いたしております。
先生のブログは楽しく、勉強になり、
乳児を関東で育てる身としては、心の支えになります。

汚染の拡散は極力避けたいところですが、
流通にのって、ある程度の濃度で平衡(?)状態に
なってしまうのではないかと感じています。

あとはセシウム134の半減と、風雨による風化、
土壌へのセシウムの固定による作物への影響の低減
などで、今後数年でどれくらい影響が減るか、見つめて行きたいと思います。
セシウム137が残るかぎりは、長い戦いになるのでしょうけど…

もちろん、出来るかぎり、人の手による除染は続けていかなくては
ならないと思います。

今年の広島の平和記念式典の放送は、特に心に刺さるものがありました。

せめて子供達だけでも、安心できる次の時代を創っていってほしいものです。

by Jasbest (2011-08-06 10:44) 

ごぶりん

人類は日々、放射能以外にも汚染物質をまき散らし、増殖していく。
まるで癌細胞のようですね。
広島の式典を見ていて、被害者の方々の体験談に胸詰まる思いがある一方、
もし、日本のことをあんまりよく知らない外国人がこれを見たら、原爆を2発も
投下されて恐ろしさを知っている筈なのにまた放射能をまき散らすなんて
なんて愚かな国だろうと思っても不思議ではないと感じました。
by ごぶりん (2011-08-06 22:40) 

yuuri37

私の周りでは、汚染についてほとんど話題になりません。というよりもあえて避けているって感じです。
絶望感から来る逃げ・・・かな?
by yuuri37 (2011-08-07 01:26) 

人力

児島先生が取り上げられているチェルノブイリにおける膀胱癌の増加が正しいかどうか、私ももう少しデータが必要かと思っています。初期の上皮腫の診断をどう行うのか私には分かりませんが、死後解剖による統計であるならば、チェルノブイリ以外の地域でこれに比較し得るデータ群が存在するのかが先ず問題になると思います。

意外と高齢者にはある確率で膀胱の初期発癌は存在するけれども、寿命以内には顕著な癌化に至らない・・・そんな可能性が頭に浮かびました。

素人考えで恐縮です。
by 人力 (2011-08-07 04:38) 

fujiki

Jasbest さんへ
コメントありがとうございます。
パフォーマンスではない、
堅実で持続性のある対策を望みたいのですが、
現状では難しそうですね。
by fujiki (2011-08-07 22:07) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
何か1つでも良いニュースがあればと思います。
by fujiki (2011-08-07 22:10) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。
僕も自分に関しては、
全く気にはしていません。
by fujiki (2011-08-07 22:12) 

fujiki

人力さんへ
コメントありがとうございます。
これはあくまで前癌状態に近い膀胱炎が、
汚染地域で多く発見される、
というデータが主で、
ウクライナで膀胱癌が増えている、
というのは別個の疫学データです。
元の論文はしっかりしたものなのですが、
児玉先生のご発言は、
明らかにセシウムによる膀胱癌が増えている、
という誤解を招くもので、
ちょっとエキセントリック過ぎるのでは、
と感じました。
by fujiki (2011-08-07 22:16) 

サンフランシスコ人

「バナナの食べ過ぎは膀胱癌のリスク....」

知りませんでした!
by サンフランシスコ人 (2011-08-08 03:29) 

fujiki

サンフランシスコ人さんへ
勿論そのご心配はないと思います。
by fujiki (2011-08-08 08:18) 

sweets

はじめまして。2歳男児の母親です。予防接種の検索から先生のブログにたどり着きそれ以来ずっと拝見させて頂いております。私は今子供を連れて東京から西日本へ疎開しております。最初は一時帰省のつもりでしたが、色々な情報を得るうちに東京からしばらく離れた方がよいと思うようになりました。汚染肥料の流通、瓦礫の拡散、食品暫定基準値等、納得できないことばかりで、この先子供をどこでどう育てて行けばよいのかわからなくなっています。「負の補助金」を大人の私は受け入れますが、子供も共に犠牲になることが耐えられません。この国に絶望感でいっぱいです。
by sweets (2011-08-13 02:45) 

fujiki

sweets さんへ
コメントありがとうございます。
女性の方が将来を見据えたお気持ちを持って頂ければ、
絶対に世の中は良くなると僕は思います。
気を付けられる点だけ気を付けつつ、
東京で暮らすのも悪くはないのでは、
と個人的には僕は思います。
by fujiki (2011-08-13 17:44) 

sweets

お返事ありがとうございました。私も文化溢れる東京で子供を育てたい気持ちを諦め切れずにいましたので、先生のお言葉に希望を戴いた思いです。ひとつお伺いしたいことがあるのですが、都内の子供の放射能障害(鼻血・咳等)の多発はそれほど心配しなくても大丈夫なのでしょうか?公園や保育園の土壌汚染にも不安が拭えません。除染してくれたらどれほど安心か…と思います。何一つ取っても難しいです。
by sweets (2011-08-15 00:00) 

つつ

先生、こんばんは。
岩手県や東京都の汚泥からヨウ素が検出されました。
今、いろいろ騒がれてます。先週夕刊紙の一面にもなってました。
http://savechild.net/archives/8569.html

先生の言うように原発由来じゃなければいいですが、8月18日~19日に空間放射線量が上がった事実もあり、気になりますね。

先生、どう思われますか?
原発のニュースもテレビ等では段々と流れなくなり(TBSとテレビ朝日は頑張ってますが)、情報がなかなか入らないと思うので、見解と言われても難しいと思いますが、ご意見聞かせてもらえればと思います。
by つつ (2011-09-11 22:08) 

fujiki

つつさんへ
断定的には言えませんが、
僕は現時点では医療用か実験用のヨードが、
検出されたものと考えます。
あれは1回で5億ベクレルくらいを使用するので、
尿からの排泄も、
一時的にはかなりの量になります。
また、不用意に放射性物質が、
研究施設などから廃棄されるケースも、
現実には結構ありうると思います。
周辺にそうした施設がないかどうかの検討が、
まず第一ではないかと考えます。
by fujiki (2011-09-11 22:41) 

つつ

先生、ありがとうございました。
1回5億ベクレルっていうのは衝撃でした。
放射線治療って凄いんですね。
副作用が出るのも納得がいきます。

苦しい思いをする人が多いので、
癌が完治できる時代が早く来てほしいですね。
by つつ (2011-09-13 00:19) 

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