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頚動脈超音波検査動脈硬化病変画像集 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプトのチェックをして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は頚動脈の超音波検査の画像を幾つか見て頂きます。
いずれも診療所の事例です。

まず、こちらを。
頚動脈正常.jpg
正常の総頚動脈の画像です。
色が付いている部分は、
ドップラーと言って、
血流の部分を色で表示したものです。
赤い矢印に挟まれた帯のような部分が、
「内膜中膜複合体」と呼ばれる場所で、
頸動脈の動脈硬化の所見の、
1つの指標となるところです。

動脈という管の壁は、
内膜、中膜、外膜という3層構造になっているのですが、
超音波検査においては、
内膜と中膜との区別は出来ません。
従って、内膜と中膜の部分を併せて、
「内膜中膜複合体」と呼んでいるのです。

この部分が、動脈硬化により種々の変化を見せます。

では次を。
頚動脈IMT肥厚.jpg
これも総頸動脈の画像ですが、
赤い矢印で挟まれた「内膜中膜複合体」が、
少し厚くなっています。
厚さがこれで1.1ミリ程度で、
1ミリを超えると肥厚と判断されます。

総頸動脈の内膜中膜複合体のこうした肥厚は、
主に泡沫細胞と呼ばれる、
コレステロールを多く取り込んだ白血球の一種が、
そこに沈着した状態を示しています。

これがこうした「弾性型」の動脈に起こる動脈硬化性の変化の、
1つの特徴的なパターンです。

こうした変化が長く続くと、
それがより進行した動脈硬化に結び付き、
脳卒中や心筋梗塞の原因になるのだ、
というのが1つの考え方ですが、
これは実は立証されたものではありません。

脳卒中や心筋梗塞を起こすような動脈硬化巣(プラーク)と、
こうした泡沫細胞によると思われる内膜中膜複合体肥厚とが、
同じ性質の病変だというのは、
1つの仮説に過ぎません。

実際解剖所見の検討では、
小児や思春期の心臓の血管にも、
泡沫細胞の沈着は一般的に認められる、
という報告もあります。

勿論ある程度以上の泡沫細胞が沈着して、
内膜中膜複合体が厚くなることが、
動脈硬化の進展と無関係ということはないでしょう。
ただ、コレステロール低下療法で、
この肥厚は改善することから、
この現象は多分に可逆的で、
脳卒中や心筋梗塞の発症との関連性は、
はっきりした動脈硬化巣(プラーク)ほど、
強いものではないのです。

では次をご覧下さい。
頚動脈の分岐.jpg
これは昨日にお見せした画像と同じものですが、
総頚動脈には軽度の内膜中膜複合体の肥厚があり、
内頚動脈には青い矢印の先に、
はっきりとした石灰化を伴うプラークがあります。

こうした石灰化したプラークは、
大腿の動脈や腹部の大動脈にもよく見られ、
その場所が詰まるような病変に進行することは、
殆どありません。

ここで「プラーク」という言葉ですが、
これは出来上がった動脈硬化巣を示す一方、
超音波検査においては、
内膜中膜複合体が、
肥厚して周囲より盛り上がった部分を指す、
とされています。

日本の基準は内膜中膜複合体が1.1ミリ以上で盛り上がりがあれば、
プラークと呼ぶのが一般的ですが、
昨日ご紹介したNew England…の論文では、
それが1.5ミリ以上のものをプラークとして定義していて、
別の文献では1.9ミリ以上を有意としているものもあります。

僕の個人的な見解としては、
1.5ミリくらいで線を引くのが無難ではないか、
と考えます。
日本の今の基準はある年齢を超えれば、
プラークだらけになるものです。

ポイントは繰り返しになりますが、
超音波検査のプラークというのは、
便宜的な基準で定められたもので、
実際の動脈硬化巣とイコールではない、
ということです。

では次を。
頚動脈不安定プラーク1.jpg
これも総頸動脈の画像ですが、
赤い矢印の先に、
ちょっともやもやしたような病変が見えます。
こういうものが脂質の核を持ち、
そこに出血などを伴った、
不安定な病変の可能性が高い、
と考えられています。

では次を。
不安定プラーク2.jpg
同じ画像に血流の信号を加えたものです。
これを見ると、
プラークの範囲がよりはっきりします。

それでは次を。
頚動脈狭窄1.jpg
これはかなり進行した病変で、
プラークにより頸動脈が狭窄を来しています。

それでは最後の画像です。
頚動脈狭窄2.jpg
血流信号を付加すると、
狭窄の程度がはっきりとします。

こうした病変は場合によって、
侵襲的な治療の適応になります。

このように頸動脈の超音波検査は、
治療の必要な頸動脈の病変を発見する目的と、
将来的な心筋梗塞や脳梗塞の発症を予測する目的の、
2つの意味合いを持つ検査です。

ただ、将来の病気の発症を予測する目的で使用する場合には、
必ずしも頸動脈の病変と同じことが、
心臓や脳の血管に起こっている、
という訳ではありませんし、
そのリスクとしての評価には、
まだ確定したものはない、
という点に注意が必要です。

現状は内頸動脈の1.5ミリを超えるプラークには、
ある程度の積極的な意味合いがありますが、
それ以外の特に軽症の所見については、
まだその位置付けは立証されたものとは言えない、
とお考え頂いた方が良いのではないかと思います。

今日は頸動脈の超音波所見について、
その画像とそれをどう捉えるべきかを、
僕なりに考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 9

fmata

いつも先生のブログを拝読しております。
難解な内容を実にわかりやすく説明されており、
ムンテラの手本としても勉強になります。
これからも宜しくお願い致します。

ところで、泡沫細胞はマクロファージ由来と思われます。

by fmata (2011-08-08 20:55) 

fujiki

fmata先生
ご指摘ありがとうございます。
リンパ球⇒白血球の一種、
に修正しました。
ケアレスミスで申し訳ありません。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-08-08 21:44) 

いち

先生ご無沙汰してます。今回の会社の健康診断で、昨年指摘された、プラークがなくなっていました。結果指摘なしでした。IMTも0.5でした。安心しました。消えることは無いかもしれませんが、LH比は現在総CLと中性脂肪から計算しても、1.1です。よいけいこうですかね。運動は無理のないようつづけてます。
PS
C型肝炎の進歩が著しいとききますがそうなんですか?
by いち (2011-08-20 08:55) 

fujiki

いちさんへ
検査は問題なくて良かったですね。
C型肝炎はインターフェロンと抗ウイルス剤の進歩によって、
治癒率が9割以上に向上している、
ということだと思います。
by fujiki (2011-08-21 06:13) 

こごみ

先日,かかりつけの町医者で、頚動脈のエコーの検査をしたら厚さが1.5ミリと言われもうだめだみたいにいわれ、とてもショックでした。去年の6月に冠動脈のバイバス手術をしたばかりなのに、暗くなりました。 
 1箇所だけはれたようになっていますと言われたのは、今年の4月でしたわずかの間にこんなにふくれていますと言われたのはついこの前のことです   どうなるのか不安です!

by こごみ (2014-10-14 17:57) 

fujiki

こごみさんへ
あくまで一般論ですが、
比較的短期間での肥厚は、
また短期間で縮小する可能性も高いと思います。
スタチンは使用されていると思いますので、
3ヶ月程度でご経過を見て頂くのが良いように思います。
by fujiki (2014-10-18 08:39) 

こごみ

ありがとうございました。ちょっと安心しましたスタチンてなんですか?
by こごみ (2014-10-18 20:37) 

fujiki

こごみさんへ
最も広く使用されている、
コレステロールの合成を抑えるタイプの、
コレステロールの降下剤です。
by fujiki (2014-10-20 08:45) 

福島

お世話になっております。いつもブログを拝見させていただいております!
頸動脈硬化症の診断で「2.3ミリ」を超えるプラークというものは、やはり投薬治療レベルのものでしょうか?
球部・石灰化ありとのことでした。
よろしくお願いいたします。

by 福島 (2022-03-08 13:30) 

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