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頚動脈の動脈硬化とその意味を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は動脈硬化の診断についての話です。

動脈硬化は誰の身体にも、
年齢と共に必ず起こる現象ですが、
その身体に与える影響には、
かなりの個人差があります。

動脈硬化が身体に与える影響の中で、
一番深刻なのは脳卒中と心筋梗塞です。
両者の病気はいずれもその臓器の血管の、
動脈硬化が進行し、
最終的にその血管が詰まることによって、
発症すると考えられています。

詰まる血管が脳であれば、
それは脳梗塞となり、
心臓を栄養する血管であれば、
それは心筋梗塞となります。

特に症状がない状態であれば、
どのくらい動脈硬化が進行し、
脳梗塞や心筋梗塞の危険性が、
どのくらいあるのかを、
簡単に知る方法はないのかというのが、
医療者と患者さんの双方にとって、
最も関心のある事項の1つです。

心臓の場合には、
造影剤を入れてCTを撮る、
という方法はあります。

ただ、非常に放射線の被ばく量の多い検査であり、
造影剤による合併症もゼロではないので、
検診のように全ての人にこの検査を、
考えなくするのはあまり良い方法とは言えません。

脳梗塞に関しては、
これも脳のCTやMRIの検査はありますが、
起こってしまった脳梗塞の診断には有用性が高くても、
起こる前の予測の検査としては、
コストの掛かる割にその得られる情報は少ないのが実際です。

従って問題は、
簡便でお身体に負担の掛からない検査で、
動脈硬化の程度を判断し、
脳梗塞や心筋梗塞に移行するリスクを、
推測するような方法はないだろうか、
ということになります。

その目的で最近広く使用されているのが、
「頸動脈の超音波検査」です。

ちょっと実際の画像をお示ししましょう。
頚動脈の分岐.jpg
頸に指を当てて、ドクドクと脈を触れる部分が、
頸動脈の分岐部の当たりです。

総頸動脈という左右1本ずつの太さ1センチはない動脈が、
頸の下から上がって来て、
それから2つに分かれます。
表面に行く1本が外頸動脈で、
奥に入る1本が内頸動脈です。

この画像はその分岐部を示しています。
向かって右が上になり、
右上の分岐が外頸動脈、
右下の分岐が内頸動脈で、
青い矢印の先に見えるのは、
内頚動脈の動脈硬化巣(プラーク)です。

内頸動脈はそのまま脳を栄養する血管ですから、
非常に重要で仮にこの血管が詰まれば、
重症の脳梗塞の原因になります。

その血管の状態を、
全てではありませんが、
簡単に見ることが出来るのですから、
それだけでもこの検査には、
有用性があると言って良いのです。

この検査のポイントは、
身体にある動脈のうち、
幾つかのひな形を、
同時に見ることが出来る、
という点にあります。

総頸動脈は「弾性型」の動脈です。
心臓に近い太い動脈というのはこのタイプのもので、
血管の壁の中膜という部分に、
弾性線維の多いのが特徴で、
そのため伸展性が良いのです。

一方で内頸動脈は「筋型」の動脈です。
これはより細い動脈で、
弾性線維は少なく、
その代わり平滑筋という筋肉がその壁に多いのです。
収縮力が強く血圧を保つのに有効性が高いのが、
この血管の特徴です。

分岐部は「弾性型」の動脈と「筋型」の動脈との移行部でもあり、
そのために圧力が掛かり易く、老廃物も溜まり易いのです。

つまり、この3種類の特徴的な部位を、
同時に観察出来るという点が、
頸動脈の超音波検査の利点です。

頸の血管の動脈硬化は、
脳梗塞や心筋梗塞の発症と関連性があるのでしょうか?

無関係ではないことは間違いがありません。

ただ、どの程度の関連性があるものなのか、
そしてどのような所見に、
より注意を払うことが必要なのか、
という点については、
まだ諸説あり統一的な見解はないのが実際だと思います。

こちらをご覧下さい。
頚動脈肥厚と心血管イベント論文.jpg
これは先月のNew England Journal of Medicine誌に掲載された論文です。

1940年代からアメリカで行なわれている、
フラミンガム研究という大規模な臨床研究があります。
これはある地域の住民の方を対象に、
長期間に渡って病気の発症と生活習慣等との関連性を見たもので、
現在では「フラミンガム子孫研究」として、
当初の対象者のお子さんの世代で、
同様の観察が続行されています。

この論文はその「フラミンガム子孫研究」の一環として、
2965名の対象者に頸動脈の超音波検査を行ない、
その対象者の経過を平均7.2年間観察して、
心筋梗塞や脳卒中などの病気が、
どの程度出現し、
その病気の発症と頸動脈の超音波所見との間に、
関連性があるかどうかを検証したものです。

その結果…

総頸動脈の内膜中膜複合体の肥厚という所見と、
内頸動脈の同様の所見は、
いずれも心筋梗塞や脳卒中の発症のリスクとなることが、
確認されました。
ただ、その関連性は特に内頚動脈の病変、
プラークと呼ばれる動脈硬化巣の有無と、
最も強い関連性がありました。

つまり、頸動脈の超音波所見のうち、
どれかの所見のみを代表させるとしたら、
内頚動脈のプラークの有無が、
最も重要性が高いことが示唆されたのです。

これがこの文献の最大のポイントです。

明日は実際の超音波の画像を元に、
今回のデータの意味を、
もう少し具体的に考えたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

シロ

やはりうまく付き合っていくしかないんですね。焦る気持ちもありますが、地道にがんばります。ありがとうございました。
by シロ (2011-08-04 15:34) 

Hirosuke

実際の画像を見れたのは貴重でした。
明日の画像も楽しみです。
by Hirosuke (2011-08-05 00:01) 

fujiki

Hirosuke さんへ
コメントありがとうございます。
ご期待に添えたかどうか分かりませんが、
僕なりの考えでまとめてみました。
by fujiki (2011-08-05 08:09) 

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