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エロモナス感染性腸炎の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は食中毒を起こす細菌の話です。

最近数例の患者さんを診療所で経験しましたので、
その事例を含めてお話します。

細菌の名前はエロモナス(aeromonas )です。
ちょっと耳慣れない響きかも知れません。

エロモナスは鞭毛を持つ細菌で、
大腸菌と良く似た性質を持っています。
ただ、通常は人間の腸には生育せず、
淡水の水の中に生息しています。

その主な生育場所は河川や汚水で、
淡水魚やカエル、蛇、トカゲ、亀などの体内にも感染しています。
これが主に汚染された魚や水と一緒に、
体内に入ることにより、
人間の食中毒の原因となるのです。

エロモナスには幾つかの種類があり、
このうちのAeromonas hydrophila とAeromonas sobria は、
1982年に厚生省から食中毒菌の指定を受けています。

その感染経路は川魚の生食と、
汚染された水の使用、
そしてペットからの感染がその主なものです。

病院の貯水槽から検出された、
という海外の報告もあり、
ペットのミドリガメから感染した、
という日本のお子さんの報告もあります。

下痢を来す細菌性腸炎の患者さんの、
2~10%から検出された、
という海外の報告もあり、
その頻度は意外に多いのです。

ある日本の大学病院の統計によると、
便の培養検査で検出された病原性のある細菌の中で、
カンピロバクター、肺炎桿菌、病原性大腸菌に次いで、
第4位の検出頻度と記載されています。

その症状は下痢と腹痛、発熱などですから、
通常の感染性の腸炎と、
その見分けは付きません。

下痢は白い水下痢になる場合と、
出血性腸炎と言って、
血と間違うばかりの真っ赤な下痢便が、
バッと出る場合があります。
出血性の下痢は、
細菌が分泌する、
エンテロトキシンと呼ばれる毒素による症状で、
大腸粘膜の虚血を誘発するのが、
1つの特徴とされています。

動脈硬化と関連性がある、
虚血性腸炎という病気があり、
これは狭心症と同じように、
腸の血管に虚血が起こり、
それによって腹痛や下血などの、
出血性腸炎と見分けの付かないような症状の、
出現するものです。

この虚血性腸炎とエロモナス腸炎とが、
合併して重症の症状を出した、
という報告が複数あり、
またエロモナス腸炎自体が、
特にご高齢の方では、
虚血性腸炎様の症状を呈し易いのでは、
という報告もあります。

僕が経験した診療所の事例では、
30代の男性で水様の下痢が数ヶ月に渡って持続し、
過敏性腸症候群かと思われたケースで、
便の培養からエロモナスが検出され、
ホスミシンの内服により、
症状が改善した、
ということがありました。

もう1例はある程度動脈硬化の進行の疑われる、
中年の女性の方です。
頻回に腹痛の発作を繰り返していたのですが、
便からエロモナスが検出され、
矢張りホスミシンの内服を行なったところ、
その後そうした腹痛発作はなくなっています。

この2例の事例だけで、
結論めいたことは勿論言えないのですが、
どうもエロモナスの感染症は、
急性の一時的な感染だけではなく、
ある程度持続的な感染が成立して、
腸炎のような症状を呈することがあるようです。

実際免疫の低下した状態では、
そうした病状が起こることは確認されていて、
また潰瘍性大腸炎の一部には、
エロモナスの感染症が存在するのでは、
という考え方もあります。

潰瘍性大腸炎は難病ですが、
そうと診断されて、
自然に改善するケースも結構あり、
その一部は細菌感染に伴う症状だった可能性が考えられるのです。

僕はそのため慢性の腸炎のような症状のある方では、
一度は便の培養検査は行なうようにしています。

今日はエロモナス腸炎の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

catfish

石原先生
毎日どうやったらこのように情報を発信さることができるのだろうと、先生の日ごろの勉強熱心さに頭が下がる思いです。いつもありがとうございます。
土曜日に腸炎の子供さんに「ホスミシン」と「ビオフェルミン」が処方されていました。ビオフェルミンーRでなくてもいいのかと上司に聞いたら「このビオフェルミンはそういう意味じゃないから」(抗生物質による大腸の菌叢の破壊の手当てで処方されているのではないから、という意味だと思います)と言われたのですが、それでもやっぱりビオフェルミンでよかったのか気になります。ものすごく初心者質問で恥ずかしいのですがどう思われますか?
by catfish (2011-08-01 18:06) 

songpibao

言い訳はダメだ、と思いつつ、子供達がまだ小さくて、仕事以外で自分一人外出することも全くなく、勉強し直そうにも高い医学雑誌や、本を買える訳もなく、今は仕方ないよね、子供達が大きくなるまでは…と言い訳ばかりの私です。
でも、先生のこのブログを毎日寝る前に読み、感心し、感謝しています。本当にいつも勉強になります。
お身体に気をつけて、これからもよろしくお願いいたします。
by songpibao (2011-08-01 18:52) 

ごぶりん

エロモナス、初耳なのでちょっとググってみたらビブリオの仲間みたいですね。
でも腸炎ビブリオと違って好塩性ではないんですね。
あと、私が見たサイトでは、成人ではニューキノロン系、小児には
ノルフロキサシン、5歳未満の小児にはフォスホマイシンをとあるので
基本的な治療薬はニューキノロンなのかなと思いましたが、先生は
ホスホマイシンが第一選択薬ですか?
見過ごしていただけかもしれませんが実際の臨床例を知らないので
伺いました。
それにしても何が専門やろう?と疑問に思う位、幅広い医療知識や雑学をお持ちで
あろう先生が子どもの時に知ったかぶりをしていたなんてびっくりしました。
そんな知ったかぶりは可愛いと思いました。
知ったかぶりをすることで相手より優位に立とうとするのは最低やと
思いますが・・・。
by ごぶりん (2011-08-01 21:31) 

fujiki

catfish さんへ
コメントありがとうございます。
ミヤリサンなどは抗生物質への耐性もあるようですが、
ビオフェルミンやエンテロノン、ラックビーのように、
耐性菌とそうでないものの両者がある場合には、
耐性菌を使用した方がより良いとは言えると思います。
ただ、実際的にどの程度の違いがあるのかについては、
やや疑問に思うところもあります。
by fujiki (2011-08-02 08:13) 

fujiki

songpibaoさんへ
コメントありがとうございます。
励みになります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-08-02 08:14) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
ホスミシンは静菌的な薬なので、
効果は限定的ですが、
通常はホスミシンで問題はなさそう、
という経験的な印象はあります。
ニューキノロンは強力ですが、
抗がん剤に近い性質の薬なので、
必要性の高い時のみの使用と考えています。
また、最近はじゃんじゃん処方されるので、
耐性菌は多いと思います。
by fujiki (2011-08-02 08:18) 

ごぶりん

大変参考になりました。
有り難うございます。
米疾病対策センターのレポートに淋病の治療でキノロンの使用が
耐性菌の為に2007年には中止になり、今やセファロスポリンも
使用できなくなりつつあると書いてありました。
なので、先生がニューキノロンを安易に使われないと知り安心しました。
抗癌剤に近い性質というのは作用機序が似ているということでしょうか?
アフィニトールのマクロライド系免疫抑制作用もよく調べないままうっかり忘れてました。
それも合わせて勉強してみます。
by ごぶりん (2011-08-02 22:39) 

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