抗生物質を真面目に飲まない人達 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
これは2007年の論文で、
当時は多分報道等でも紹介されたと思います。
医療ブログのようなものでも紹介されたのではないかと思いますが、
僕はそれは目にしていません。
いずれにしても、非常に面白い内容なので、
改めて僕なりにご紹介したいと思います。
皆さんは医者からもらった抗生物質を、
その指示の通りにお飲みになりますか?
真面目に飲む、という方もいらっしゃれば、
治ったと思ったら後は飲まない、
という方や、
もらいはしたけれど、
抗生物質は却って身体に良くない、
という話を何処かで聞いたので、
飲まないで家に置いてある、
という方もいらっしゃるかと思います。
世界的にも医師が処方した薬が、
果たしてどのくらい指示通りに使用されているのか、
という点は問題になっていて、
それは個人のコンプライアンスの問題であると共に、
本当に医療資源が適切に使用されているのか、
という問題でもある訳です。
そこで上記の論文は、
抗生物質の使用に焦点を当て、
世界11の国と地域の方にインタビューをする形式で、
そのコンプライアンスの順守の程度と、
国や地域別の傾向を考察したものです。
トータルの患者さんの数は3966名、
国別には、アメリカが452名、ロシアが353名、中国が285名、
日本が270名、トルコが371名、ブラジルが393名、メキシコが405名、
イタリアが446名、オランダが362名、南アフリカが357名、
そしてフィリピンが272名です。
対象は12か月以内に外来で抗生物質を処方された18歳以上の患者さんで、
電話や対面でインタビューを行ない、
その薬を医師の指示通りに飲んだかどうかを聞き取ります。
その結果がこちら。
図が大きいので、
部分のみですが、
一番左のカラムが全体で、
薬を指示通りに飲まなかった患者さんの比率です。
要するに、トータルでは22.3%の患者さんが、
処方通りに薬を飲んでいません。
その右に並んでいるカラムが、
国毎の「不真面目比率」で、
1位が中国の44.0%、そして2位が日本で34.4%です。
つまり、今回の調べの中では、
「薬を真面目に飲まないランキング」の1位は中国で、
2位が日本、3位がメキシコの順でした。
最も真面目に薬を飲んでいたのはオランダで、
日本では3人に1人は処方通りに飲まなかったのに対して、
オランダでは10人に1人以下しかそうした人はいませんでした。
では次をご覧下さい。
これはまた面白いのですが、
個々の患者さんに抗生物質についての質問をして、
その理解度を確認しているのです。
ここで図示されているカラムは、
理解度の低いか誤っている患者さんの比率です。
折れ線で示されているのは、
最初の図に示した、「不真面目比率」です。
元の図は大きいので全てはここには示していません。
すると…
「不真面目比率」の高い中国は、
この「無理解比率」も1位です。
つまりこれは、
抗生物質を処方通りに飲むことの有用性を、
理解していないから指示通りに飲んでいない、
という可能性を示唆しています。
逆に言えば適切な知識を得れば、
この「不真面目比率」も低下するだろう、
ということを期待させます。
一方で日本は「不真面目比率」は2位ですが、
この「無理解比率」は7位で、
要するに抗生物質の知識はあり、
その必要性を理解しているにもかかわらず、
真面目には飲まない人が結構多い、
という可能性を示唆しています。
「不真面目比率」最下位のオランダは、
「無理解比率」も最下位でバランスが取れている、
ということが分かります。
もう1つは医者への信頼度です。
これは図はお示ししませんが、
末端の医療者の端くれとしては、
本当にしょんぼりして泣きたくなるような結果が出ています。
医者や医療を信用しているかどうかを4段階で評価し、
そのどれかを選択してもらうと、
日本では患者さんの55%の方は、
医者を信用しないか、それほど信用しない、
というランクを選択しています。
つまり、抗生物質の必要性は理解しているけれど、
医者は信用していないので、
指示通りには使用しない、
という悲しい結果が見えて来ます。
一方でオランダではこの比率は22%で、
ほぼ8割の方は医療に信頼を寄せ、
アメリカでも8割の方が信頼を寄せています。
面白いのはロシアで、
医療を信頼していない人は日本より多く7割を超えていますが、
それでいて8割の方は指示通りに薬を飲んでいます。
つまり、信用はしていなくても、
「上から」の指示には従っているのです。
勿論この研究は各国数百名のインタビューの集計に過ぎないものですから、
ここから突っ込んだ分析をするのは、
適当ではないと思います。
ただ、それでも非常に面白く示唆的であることは、
間違いがないと思います。
感染症の専門家がこのデータを取り上げて、
日本では1日3回などの処方が多く、
処方日数も多いので、
そうした結果が出たのではないか、
という分析をされていましたが、
僕はその考えは楽観的過ぎるような気がしてなりません。
医療不信はこうした先生がお考えになるより、
深刻なものなのではないでしょうか?
ただ、これは医療のみならず、
日本の社会の大きな問題のような気もします。
何が正しいのか、どうするべきなのかの知識はありながら、
あらゆる権威や規則、秩序に対する漠然とした不信感から、
「何となく」正しいことやすべきことをせず、
そのために実際には自分が損をしているのに、
それにすら気付かず、
自分の不幸の全てを、
テレビに出て来る、
何処かの悪人のせいにしているのです。
念のため補足しますが、
国毎の違いはあくまで上記の論文のデータのみからの推論で、
実際の国に対する評価とは、
全くの別物ですので、
その点はご理解の上お読み頂ければ幸いです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
これは2007年の論文で、
当時は多分報道等でも紹介されたと思います。
医療ブログのようなものでも紹介されたのではないかと思いますが、
僕はそれは目にしていません。
いずれにしても、非常に面白い内容なので、
改めて僕なりにご紹介したいと思います。
皆さんは医者からもらった抗生物質を、
その指示の通りにお飲みになりますか?
真面目に飲む、という方もいらっしゃれば、
治ったと思ったら後は飲まない、
という方や、
もらいはしたけれど、
抗生物質は却って身体に良くない、
という話を何処かで聞いたので、
飲まないで家に置いてある、
という方もいらっしゃるかと思います。
世界的にも医師が処方した薬が、
果たしてどのくらい指示通りに使用されているのか、
という点は問題になっていて、
それは個人のコンプライアンスの問題であると共に、
本当に医療資源が適切に使用されているのか、
という問題でもある訳です。
そこで上記の論文は、
抗生物質の使用に焦点を当て、
世界11の国と地域の方にインタビューをする形式で、
そのコンプライアンスの順守の程度と、
国や地域別の傾向を考察したものです。
トータルの患者さんの数は3966名、
国別には、アメリカが452名、ロシアが353名、中国が285名、
日本が270名、トルコが371名、ブラジルが393名、メキシコが405名、
イタリアが446名、オランダが362名、南アフリカが357名、
そしてフィリピンが272名です。
対象は12か月以内に外来で抗生物質を処方された18歳以上の患者さんで、
電話や対面でインタビューを行ない、
その薬を医師の指示通りに飲んだかどうかを聞き取ります。
その結果がこちら。
図が大きいので、
部分のみですが、
一番左のカラムが全体で、
薬を指示通りに飲まなかった患者さんの比率です。
要するに、トータルでは22.3%の患者さんが、
処方通りに薬を飲んでいません。
その右に並んでいるカラムが、
国毎の「不真面目比率」で、
1位が中国の44.0%、そして2位が日本で34.4%です。
つまり、今回の調べの中では、
「薬を真面目に飲まないランキング」の1位は中国で、
2位が日本、3位がメキシコの順でした。
最も真面目に薬を飲んでいたのはオランダで、
日本では3人に1人は処方通りに飲まなかったのに対して、
オランダでは10人に1人以下しかそうした人はいませんでした。
では次をご覧下さい。
これはまた面白いのですが、
個々の患者さんに抗生物質についての質問をして、
その理解度を確認しているのです。
ここで図示されているカラムは、
理解度の低いか誤っている患者さんの比率です。
折れ線で示されているのは、
最初の図に示した、「不真面目比率」です。
元の図は大きいので全てはここには示していません。
すると…
「不真面目比率」の高い中国は、
この「無理解比率」も1位です。
つまりこれは、
抗生物質を処方通りに飲むことの有用性を、
理解していないから指示通りに飲んでいない、
という可能性を示唆しています。
逆に言えば適切な知識を得れば、
この「不真面目比率」も低下するだろう、
ということを期待させます。
一方で日本は「不真面目比率」は2位ですが、
この「無理解比率」は7位で、
要するに抗生物質の知識はあり、
その必要性を理解しているにもかかわらず、
真面目には飲まない人が結構多い、
という可能性を示唆しています。
「不真面目比率」最下位のオランダは、
「無理解比率」も最下位でバランスが取れている、
ということが分かります。
もう1つは医者への信頼度です。
これは図はお示ししませんが、
末端の医療者の端くれとしては、
本当にしょんぼりして泣きたくなるような結果が出ています。
医者や医療を信用しているかどうかを4段階で評価し、
そのどれかを選択してもらうと、
日本では患者さんの55%の方は、
医者を信用しないか、それほど信用しない、
というランクを選択しています。
つまり、抗生物質の必要性は理解しているけれど、
医者は信用していないので、
指示通りには使用しない、
という悲しい結果が見えて来ます。
一方でオランダではこの比率は22%で、
ほぼ8割の方は医療に信頼を寄せ、
アメリカでも8割の方が信頼を寄せています。
面白いのはロシアで、
医療を信頼していない人は日本より多く7割を超えていますが、
それでいて8割の方は指示通りに薬を飲んでいます。
つまり、信用はしていなくても、
「上から」の指示には従っているのです。
勿論この研究は各国数百名のインタビューの集計に過ぎないものですから、
ここから突っ込んだ分析をするのは、
適当ではないと思います。
ただ、それでも非常に面白く示唆的であることは、
間違いがないと思います。
感染症の専門家がこのデータを取り上げて、
日本では1日3回などの処方が多く、
処方日数も多いので、
そうした結果が出たのではないか、
という分析をされていましたが、
僕はその考えは楽観的過ぎるような気がしてなりません。
医療不信はこうした先生がお考えになるより、
深刻なものなのではないでしょうか?
ただ、これは医療のみならず、
日本の社会の大きな問題のような気もします。
何が正しいのか、どうするべきなのかの知識はありながら、
あらゆる権威や規則、秩序に対する漠然とした不信感から、
「何となく」正しいことやすべきことをせず、
そのために実際には自分が損をしているのに、
それにすら気付かず、
自分の不幸の全てを、
テレビに出て来る、
何処かの悪人のせいにしているのです。
念のため補足しますが、
国毎の違いはあくまで上記の論文のデータのみからの推論で、
実際の国に対する評価とは、
全くの別物ですので、
その点はご理解の上お読み頂ければ幸いです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2011-08-02 07:58
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コメント(11)
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塾講師も、実は、陰では信頼されていません。
モンスターペアレントは表立って攻撃してきます。
医師も、近頃はモンスターペイシェントが話題になってますね。
心中お察し申し上げます。
by Hirosuke (2011-08-02 10:36)
石原先生
私(保険薬局薬剤師)も患者さんに「耐性菌ができたら困るので3日間で飲みきってくださいね」と歯科処方箋の抗生物質を渡したのに、別件で次の日にお電話したら、薬は置いたまま旅行に行ってしまった(1回だけ飲んで)とご家族に言われてがっくりしたことあります。それ以来さらにしつこく服薬指導していますが、やっぱり飲んでないかも、とか思います。(残ってた抗生物質を風邪の時飲んでいいかとか聞かれますし。残ってるってどういうことよ・・・)インドのような耐性菌地獄にならないか心配です。
by catfish (2011-08-02 18:48)
薬局で患者さんとお話している限りでは、お医者さんのことを本当に信じて
らっしゃる患者さんは多いと思いますけどね~。
信頼しているからこそ受診されると思うんですけど。
でも、薬の服用のアドヒアランスはまた別問題なんでしょうか?
逆に薬剤師は指名制じゃないので誰が担当になるかわからないので申し訳ないです。
満足して戴けるよう勉強しているつもりですが、結構年配のお爺ちゃんの投薬をした時、明らかに隣に座っている可愛い事務の女の子ばかり見ながら話しされた時はとてもへこみました。
あと、患者さんからよく聞くのが、血圧の薬だけは大事だから
きちんと飲んで下さいねと医師から言われたので何があっても
飲むようにしているという言葉です。
そういう人もそうだし、そう言われてない人も特に年配の方は
血圧の薬の飲み忘れは少ないように思います。
ローカルな話で済みません。
あと、新聞に風邪に抗生剤は聞かないという記事も出てたことが
あるのでその影響もあるんでしょうか?
by ごぶりん (2011-08-02 22:58)
Hirosuke さんへ
コメントありがとうございます。
相手のあることなので、
仕方のないことかな、
と最近は思うようにしています。
by fujiki (2011-08-03 08:07)
catfish さんへ
コメントありがとうございます。
日本は長く抗生物質の用量が、
異常に低く設定されていたので、
そのこととマクロライド少量持続療法という、
奇怪な治療法の乱用もあって、
耐性菌が蔓延しているのだと僕は思います。
by fujiki (2011-08-03 08:09)
ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
メディアの影響は何にせよ大きい、
という気はします。
by fujiki (2011-08-03 08:10)
「医療不信は.......深刻なものなのではないでしょうか?」
サンフランシスコでは大変に深刻です。
by サンフランシスコ人 (2011-08-12 08:28)
はじめまして
私は、処方回数が多いに一票。
というのも、それが原因でこのブログに辿りつきました。私は農芸化学を専攻したので、抗生物質については科学的知識はあります。
いま歯の治療で抗生物質を処方されましたが、今朝服用したまま、テーブルの上にわすれてしまいました。回数が多いというのは、こういうトラブルが起こるということです。
by Baba (2012-01-23 22:37)
Baba さんへ
コメントありがとうございます。
確かに海外に比べて、
日本の処方は、
その飲みやすさ、忘れ難さへの配慮が、
乏しい傾向がありそうですね
by fujiki (2012-01-24 09:11)
5ヶ月の赤ちゃんが風邪で抗生物質を一週間飲み、その後一週間後あたりから下痢 うんちに血が混じってます 病院に行ったらアレルギー検査と培養検査をされ結果待ちです 抗生物質で腸がおかしくなってしまったのか心配です
どうなのでしょうか?
by むむ (2013-06-10 10:59)
むむさんへ
抗生物質の副作用で、
出血性の下痢になることは、
少なからずあることですが、
通常は一時的で改善すると思います。
by fujiki (2013-06-11 08:44)