リンゴペクチンのセシウム排泄効果について [科学検証]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はある種の食品に、
放射性物質、特に放射性セシウムの体外への排泄を、
促進する作用があるのではないか、
という話です。
こうした物質には幾つかの候補があり、
それぞれの特徴がありますが、
今日取り上げるのはリンゴペクチンです。
ペクチンは代表的水溶性食物線維で、
リンゴの皮や柑橘系の果実の皮に含まれ、
食品のとろみを付ける目的で使用されています。
このうちリンゴの皮に含まれているのが、
リンゴペクチンです。
このペクチンには、
多くの身体に良い作用があることが、
色々な見地から研究されています。
まず、その効果が明らかなものから言うと、
ペクチンはコレステロールの吸収を抑え、
血液中のコレステロールを低下させる作用があります。
それから腸の環境を正常に保ち、
お子さんの下痢などの症状を改善する働きを持っています。
更には確実性はやや落ちますが、
大腸癌の発癌を抑制したり、
胃潰瘍を予防したり、
血圧を低下させるような作用も、
併せ持っていることを、
示唆するようなデータもあります。
ペクチンは内部にカルシウムイオンなどの陽イオンを取り込むので、
重金属の中毒の際の排泄促進に、
効果があるのでは、という考えがあり、
実際鉛や水銀の中毒の際には、
一定の効果が得られた、という報告もあります。
そこからの推測として、
放射性セシウムや放射性ストロンチウムに対して、
その排泄を促進するのではないか、
という考えが生まれ、
動物実験ではそれを示唆するデータもあります。
そして、チェルノブイリの原発事故後のセシウム汚染に対して、
実際に使用された結果が、
何篇かの論文になっています。
主によく引用されているのは、
2004年に同じスイスの医学誌に発表された、
2編の論文で、同じ研究グループの手によるものです。
中心人物はベラルーシで研究活動をされている、
ネステレンコ先生という方で、
スイスで製作されたドキュメンタリーが、
過去にNHKでも放映されています。
ただ、正直なところ、
論文が掲載されているのは、
あまりレベルの高い医学誌ではないと思います。
その1つ目の論文がこちら。
これはベラルーシの汚染地域に住む、
64名のお子さんを対象として、
そのうちの32名には、
1日10グラムの規定の濃度のリンゴペクチンの粉末を与え、
残りの32名にはプラセボの粉末を、
それぞれ3週間ずつ飲んでもらいます。
そして、ホール・ボディ・カウンターで、
その前後の全身の放射性セシウム137の含有量を測定します。
お子さんの身体に、
どれだけの量の放射性セシウムが存在するのかを、
実測するのです。
通常その地域のお子さんは、
常に汚染された食品を日々食べているのですが、
この実験の期間は放射性物質の含まれていない食事を摂り、
比較をしています。
従って、プラセボでも時間と共に、
セシウムは排泄されるのですが、
リンゴペクチンを使用した方が、
より多くのセシウムが排泄された、
と言う結果でした。
ペクチン摂取量は、
論文の説明によれば、
1日1.6グラム程度で、リンゴ1個分くらいです。
コレステロールを低下させるには、
1日6グラムを越えるペクチンの摂取が必要、
というデータがあるので、
この量は少な過ぎて、
ちょっと疑問に思います。
平均の低下率は、
プラセボが13.9%であったのに対して、
リンゴペクチン群は62.6%です。
つまり、明らかに有意に、
リンゴペクチンがセシウムの排泄を促進しているのです。
これは64名のセシウム含量の、
生データが全て示されているので、
結構説得力があります。
お子さんの平均の放射性セシウム含有量は、
体重1キロ当たり30ベクレル程度です。
たとえばあるお子さんは、
最初の計測で1キロ当たり40.2ベクレルであったのが、
リンゴペクチン摂取3週間後には、
15.3ベクレルに低下しています。
続いて発表されたのがこちら。
今度はプラセボとの比較ではなく、
事前に測定した放射性セシウムの被ばく量によって3群に分類し、
中等度の被ばく量の群と、
高度の被ばく量の群のお子さんに、
16日間リンゴペクチンを使用し、
その低下率を比較すると共に、
前後で心音や心電図所見を比較しています。
何故そんなことをするかと言えば、
著者らの推論では、
放射性セシウムの内部被曝により、
心臓の機能に問題が起こり、
伝導障害や不整脈の増加が起こるのでは、
と考えているからです。
これも動物実験のデータがありますが、
矢張りあまり有名ではない医学誌に掲載されています。
その結果…
セシウムの被ばく量の少ないお子さんと比較して、
被ばく量の多いお子さんでは、
高血圧や心音の異常、
心電図所見の以上が、
有意に多かったと書かれています。
そして、16日間のリンゴペクチン使用後、
中等度と高度の被ばく量のお子さんでは、
心電図所見の異常の比率が、
有意に低下した、
とされています。
つまり、セシウムの被ばくが心臓への毒性を持ち、
その影響がペクチンによりセシウムが排泄されることによって、
改善した、というのが、
著者らの主張したいことなのだと思います。
ただ、論文の題でも「予備的所見」と書かれているように、
正直内容はかなり精度の低いものです。
まず、ペクチンの効果自体も、
今回のデータでは中等度被ばく群で39%の低下、
高度被ばく群で28%の低下と、
最初の論文に比べると、
かなり見劣りのするものですし、
プラセボでも低下はするのですから、
実際のペクチンの効果が、
どの程度あったのかが、
まるで検証されていません。
本来は最初の論文と同じように、
21日間ペクチンが使用されるべきだったのではないか、
と思えますが、
使用期間は今回は16日間なので、
中途半端で比較が出来ないのです。
セシウムの心毒性に関しては、
心電図の所見や心音異常の詳細が、
具体的には記載されていないので、
その評価は困難なものになっています。
そもそもセシウムの心臓への蓄積により、
心臓の伝導障害などが起こるとすれば、
それが16日間程度のペクチンによる排泄の促進により、
改善するとという考えには、
やや無理があるような気がします。
従って、この論文はかなり細部の詰めが甘く、
そもそもの発想自体に疑問の残るもので、
説得力のある最初の論文の信頼性にも、
却って疑問を投げ掛けるような結果に終わっていると思います。
その後にもっと精度の高い検証の行なわれた論文は、
僕の検索した限りでは見当たらなかったのですが、
僕の見落としもあるかも知れませんので、
御存知の方がいらっしゃいましたら、
文献をご教授頂ければと思います。
総じてリンゴペクチンによるセシウムの排泄効果は、
それが存在すること自体は間違いがなさそうですが、
それがどの程度のものかについての、
実証的なデータには乏しい、
というのが実際だと思います。
上記の最初の論文におけるペクチンの効果は、
事実であれば一旦臓器に取り込まれたセシウムも、
かなりの部分まで排泄される可能性を示唆していますが、
何故少量のペクチンにそれほどまでの効果があるのかは、
論文にもあまり明瞭な説明はありません。
ただ、皮の汚染がなければ、
毎日皮ごとリンゴを1個食することで、
体内のセシウムが排泄される可能性があるなら、
試しても多くの場合実害はないと思いますし、
健康にも食生活のバランス上も、
有意義なのではないでしょうか。
しかし、個人的には過度な期待は禁物ではないかと考えます。
今日はペクチンの放射性セシウム排泄効果についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はある種の食品に、
放射性物質、特に放射性セシウムの体外への排泄を、
促進する作用があるのではないか、
という話です。
こうした物質には幾つかの候補があり、
それぞれの特徴がありますが、
今日取り上げるのはリンゴペクチンです。
ペクチンは代表的水溶性食物線維で、
リンゴの皮や柑橘系の果実の皮に含まれ、
食品のとろみを付ける目的で使用されています。
このうちリンゴの皮に含まれているのが、
リンゴペクチンです。
このペクチンには、
多くの身体に良い作用があることが、
色々な見地から研究されています。
まず、その効果が明らかなものから言うと、
ペクチンはコレステロールの吸収を抑え、
血液中のコレステロールを低下させる作用があります。
それから腸の環境を正常に保ち、
お子さんの下痢などの症状を改善する働きを持っています。
更には確実性はやや落ちますが、
大腸癌の発癌を抑制したり、
胃潰瘍を予防したり、
血圧を低下させるような作用も、
併せ持っていることを、
示唆するようなデータもあります。
ペクチンは内部にカルシウムイオンなどの陽イオンを取り込むので、
重金属の中毒の際の排泄促進に、
効果があるのでは、という考えがあり、
実際鉛や水銀の中毒の際には、
一定の効果が得られた、という報告もあります。
そこからの推測として、
放射性セシウムや放射性ストロンチウムに対して、
その排泄を促進するのではないか、
という考えが生まれ、
動物実験ではそれを示唆するデータもあります。
そして、チェルノブイリの原発事故後のセシウム汚染に対して、
実際に使用された結果が、
何篇かの論文になっています。
主によく引用されているのは、
2004年に同じスイスの医学誌に発表された、
2編の論文で、同じ研究グループの手によるものです。
中心人物はベラルーシで研究活動をされている、
ネステレンコ先生という方で、
スイスで製作されたドキュメンタリーが、
過去にNHKでも放映されています。
ただ、正直なところ、
論文が掲載されているのは、
あまりレベルの高い医学誌ではないと思います。
その1つ目の論文がこちら。
これはベラルーシの汚染地域に住む、
64名のお子さんを対象として、
そのうちの32名には、
1日10グラムの規定の濃度のリンゴペクチンの粉末を与え、
残りの32名にはプラセボの粉末を、
それぞれ3週間ずつ飲んでもらいます。
そして、ホール・ボディ・カウンターで、
その前後の全身の放射性セシウム137の含有量を測定します。
お子さんの身体に、
どれだけの量の放射性セシウムが存在するのかを、
実測するのです。
通常その地域のお子さんは、
常に汚染された食品を日々食べているのですが、
この実験の期間は放射性物質の含まれていない食事を摂り、
比較をしています。
従って、プラセボでも時間と共に、
セシウムは排泄されるのですが、
リンゴペクチンを使用した方が、
より多くのセシウムが排泄された、
と言う結果でした。
ペクチン摂取量は、
論文の説明によれば、
1日1.6グラム程度で、リンゴ1個分くらいです。
コレステロールを低下させるには、
1日6グラムを越えるペクチンの摂取が必要、
というデータがあるので、
この量は少な過ぎて、
ちょっと疑問に思います。
平均の低下率は、
プラセボが13.9%であったのに対して、
リンゴペクチン群は62.6%です。
つまり、明らかに有意に、
リンゴペクチンがセシウムの排泄を促進しているのです。
これは64名のセシウム含量の、
生データが全て示されているので、
結構説得力があります。
お子さんの平均の放射性セシウム含有量は、
体重1キロ当たり30ベクレル程度です。
たとえばあるお子さんは、
最初の計測で1キロ当たり40.2ベクレルであったのが、
リンゴペクチン摂取3週間後には、
15.3ベクレルに低下しています。
続いて発表されたのがこちら。
今度はプラセボとの比較ではなく、
事前に測定した放射性セシウムの被ばく量によって3群に分類し、
中等度の被ばく量の群と、
高度の被ばく量の群のお子さんに、
16日間リンゴペクチンを使用し、
その低下率を比較すると共に、
前後で心音や心電図所見を比較しています。
何故そんなことをするかと言えば、
著者らの推論では、
放射性セシウムの内部被曝により、
心臓の機能に問題が起こり、
伝導障害や不整脈の増加が起こるのでは、
と考えているからです。
これも動物実験のデータがありますが、
矢張りあまり有名ではない医学誌に掲載されています。
その結果…
セシウムの被ばく量の少ないお子さんと比較して、
被ばく量の多いお子さんでは、
高血圧や心音の異常、
心電図所見の以上が、
有意に多かったと書かれています。
そして、16日間のリンゴペクチン使用後、
中等度と高度の被ばく量のお子さんでは、
心電図所見の異常の比率が、
有意に低下した、
とされています。
つまり、セシウムの被ばくが心臓への毒性を持ち、
その影響がペクチンによりセシウムが排泄されることによって、
改善した、というのが、
著者らの主張したいことなのだと思います。
ただ、論文の題でも「予備的所見」と書かれているように、
正直内容はかなり精度の低いものです。
まず、ペクチンの効果自体も、
今回のデータでは中等度被ばく群で39%の低下、
高度被ばく群で28%の低下と、
最初の論文に比べると、
かなり見劣りのするものですし、
プラセボでも低下はするのですから、
実際のペクチンの効果が、
どの程度あったのかが、
まるで検証されていません。
本来は最初の論文と同じように、
21日間ペクチンが使用されるべきだったのではないか、
と思えますが、
使用期間は今回は16日間なので、
中途半端で比較が出来ないのです。
セシウムの心毒性に関しては、
心電図の所見や心音異常の詳細が、
具体的には記載されていないので、
その評価は困難なものになっています。
そもそもセシウムの心臓への蓄積により、
心臓の伝導障害などが起こるとすれば、
それが16日間程度のペクチンによる排泄の促進により、
改善するとという考えには、
やや無理があるような気がします。
従って、この論文はかなり細部の詰めが甘く、
そもそもの発想自体に疑問の残るもので、
説得力のある最初の論文の信頼性にも、
却って疑問を投げ掛けるような結果に終わっていると思います。
その後にもっと精度の高い検証の行なわれた論文は、
僕の検索した限りでは見当たらなかったのですが、
僕の見落としもあるかも知れませんので、
御存知の方がいらっしゃいましたら、
文献をご教授頂ければと思います。
総じてリンゴペクチンによるセシウムの排泄効果は、
それが存在すること自体は間違いがなさそうですが、
それがどの程度のものかについての、
実証的なデータには乏しい、
というのが実際だと思います。
上記の最初の論文におけるペクチンの効果は、
事実であれば一旦臓器に取り込まれたセシウムも、
かなりの部分まで排泄される可能性を示唆していますが、
何故少量のペクチンにそれほどまでの効果があるのかは、
論文にもあまり明瞭な説明はありません。
ただ、皮の汚染がなければ、
毎日皮ごとリンゴを1個食することで、
体内のセシウムが排泄される可能性があるなら、
試しても多くの場合実害はないと思いますし、
健康にも食生活のバランス上も、
有意義なのではないでしょうか。
しかし、個人的には過度な期待は禁物ではないかと考えます。
今日はペクチンの放射性セシウム排泄効果についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2011-07-14 08:09
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はじめてコメントさせていただきます、
こちらのブログにいろいろ文献が載っているようです。
http://blog.goo.ne.jp/nbjc
「ベラルーシの部屋ブログ」
参考になれば幸いです。
by chienosuke (2011-07-14 09:43)
こちらの報告書でも紹介されています。
http://chernobyl25.blogspot.com/
by コンタン (2011-07-14 17:50)
chienosuke さんへ
ご教授ありがとうございます。
矢張りデータは弱いと思うのですが、
現地のお子さんの健康のために、
真摯に取り組んでいる姿勢を強く感じるので、
日本でもこうした取り組みの必要性を感じました。
by fujiki (2011-07-15 06:06)
コンタンさんへ
ご教授ありがとうございます。
もう少し勉強します。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-07-15 06:14)
石原先生、はじめまして。初めてコメントさせていただきます。
大変興味のあるページばかりで、まだ途中ですが少しずつ、楽しく見させていただきました。
最近、フェイスブックなどでも、東北の被爆地に住むお母さんの投稿をみたり、事故から年月は過ぎても今 まだある、被災地の現状を再確認しました。
その上で検索し、先生のこちらの投稿にたどりつきました。
プロペクチンが有効ということを、この事故で悩んでる、小さなお子さんをお持ちの方や家族の方、一人でも多くの方に知っていただけたらいいと思います。
もし承認していただけるなら、サイトとリンクさせたいのですがいかがでしょうか?
by Dream (2013-07-15 20:55)
Dream さんへ
古い記事ですが、
リンクはして頂いて構いません。
by fujiki (2013-07-16 08:20)
全身のアトピーのものです。
アトピーの知人が東京で水道水が汚染されていたときにシャワーを浴びたところアトピーが悪くなったとないていました。
その後水が改善されるとそのようなことがなくなったそうです。
話が違って大変恐縮ですが、私もアトピーを直したい一身で、IGGとIGAの検査をしようかと思っているのですが、何分素人な為IGAまで検査した方が良いのかわかりません。
もし、先生にアドバイス頂ければ幸いです。
おいしい中大変恐縮ですがよろしくお願いいたします。
下記で行おうかと思っています。
http://www.ambrosia-kk.com/product/product_list.php?category=2
IGGはもちろんIGAもやはりアレルギーと関係が有る可能性が科学的に十分有りうるのでしょうか。
それともIGGのみで十分で、IGAはあまり聞かないので、たいして価値は無く業者のビジネスなのでしょうか?
お忙しい中大変恐縮ですが教えて頂ければ幸いです。
by 全身のアトピーのもの (2014-04-30 16:41)