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ステロイド性骨粗鬆症の治療を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
何もなければ午後は早めに帰る予定です。

それでは今日の話題です。

昨日に引き続いて、
ステロイドによる骨の病変についての話題です。

ステロイドは非常に有用な薬剤ですが、
その使用により、
それがたとえ短期間であっても、
その量が少なくとも、
吸入などの形態であっても、
骨の細胞の寿命を短縮することにより、
骨折や骨壊死の原因となります。

従って、ステロイドを使用する際には、
たとえそれが少量であり短期間であっても、
骨を防御するための、
何らかの方策を講じる必要があります。

全ての人の骨に、
同じようにステロイドが作用する訳ではありません。
最近の研究によると、
副腎にあるステロイド合成酵素の1つである、
11βHSDには1と2の2つのタイプが存在し、
1のタイプは年齢と共に上昇するのですが、
これが身体で作用し易いステロイドの合成を増やすので、
1のタイプが多く発現している人は、
骨の変化もより現われ易い、
と考えられています。

しかし、そうした酵素のタイプを、
簡単に検査することは出来ないので、
リスクを高めに見積もって、
対策を講じるしかないのが実状なのです。

最初に少量のステロイドの短期の使用でも、
骨折のリスクは増加する、
という話をしました。

ただ、それは統計的なレベルの話で、
実際の臨床のレベルにおいては、
治療のコストと効果とを考え合わせた上で、
一定の量のステロイドを、
一定の期間以上使用した場合に限って、
対策を講じる、
というガイドラインを作成しているのが、
一般的です。

日本の2004年に作成されたガイドラインでは、
その量には係らず3ヶ月以上使用した場合に限って、
その管理の対象とし、
骨折のリスクがステロイド以外にもある患者さんと、
骨塩量の既に低下している患者さん、
そして1日の使用量がプレドニゾロン換算で、
5mg以上の患者さんにおいては、
治療の対象にする、
と決められています。

国際骨粗鬆症学会のガイドラインでは、
1日5mg以上で3ヶ月以上、
というのが治療の基準になっていて、
要するにこの点に関しては、
日本でも海外でも、
その基準にそれほどの乖離はありません。

それではどのような治療を行なうべきか、
ということになりますが、
この点については、
日本のガイドラインは2004年の古いものなので、
あまり参考にはなりません。

海外のガイドラインで推奨されているのは、
まずカルシウムとビタミンDの使用です。

ただ、これだけでは、
明瞭な骨折予防効果は得られません。

次に使用されるのは、
ビスフォスフォネートと呼ばれる薬剤で、
主に破骨細胞に働いて骨の破壊を強力に抑制することにより、
骨塩量を増加させ、
骨折を予防するタイプの薬剤です。

アレンドロネート(商品名フォサマック、ボナロン)と、
リセドロネート(商品名ベネット、アクトネル)がその代表で、
日本ではそれ以外にミノドロン酸(商品名リカルボン、ボノテオ)
が使用されていますが、
この薬はあまり海外では言及されることがありません。
アメリカではFDAの認可も受けていません。
以上は飲み薬ですが、
それ以外にゾレドロン酸(商品名ゾメタ)があり、
この薬は注射薬です。

アレンドロネートとリセドロネートには、
ステロイド性骨病変による骨折のリスクを、
4割低下させた、というデータがあります。

ただ、それとは別の報告によると、
その効果は通常の閉経後骨粗鬆症に比較すると、
かなり見劣りのするものだとされています。
それはある意味当然のことで、
閉経後骨粗鬆症の本態は骨破壊の亢進なので、
ビスフォスフォネートが目的に適った治療なのですが、
ステロイド性骨粗鬆症の本態は、
骨細胞の壊死なので、
必ずしもビスフォスフォネートの適応とは言えないのです。
アレンドロネートには骨細胞の壊死を抑制する効果がある、
と言う報告がありますが、
その効果は限定的と考えられます。

しかし、現状ではビスフォスフォネートに代わる薬剤はなく、
日本のガイドラインでも海外のガイドラインでも、
ステロイド性骨病変の治療の第一選択は、
ビスフォスフォネートです。

ただ、この薬にも幾つかの問題があり、
長期の使用により顎の骨の壊死を来たしたり、
足の骨に病的な骨折を起こしたりすることが知られています。
そのメカニズムは現時点では不明で、
その本質が骨壊死であるステロイド性骨病変に対しては、
より慎重な使用が望まれる、
という気もします。

また、日本で現在使用されている用量は、
海外の丁度半分の量で、
それで海外のデータと同じ効果が得られるのか、
と言う点については、
大いに疑問の残るところではあります。

よりリスクの高い患者さんでは、
ビスフォスフォネートに加えて、
副甲状腺ホルモンの注射剤が考慮されます。
テリパラチド(商品名フォルテオ)で、
日本でも発売がされています。

この薬は骨量増加の作用が高い、
というメリットがありますが、
ステロイド性骨病変への有効性はまだ未知数で、
薬もより高価であり、
インスリンのように毎日自分で注射する必要があります。

もう1つの選択肢は、
ビスフォスフォネートの注射薬で、
これも作用は強力ですが、
骨壊死などの副作用は、
より高率である点に問題があります。
そして、日本では骨粗鬆症に適応はありません。

それと海外ではもう1つの選択肢として、
破骨細胞の分化に必須の物質である、
RANKLという誘導因子に対する抗体が、
注射薬として既に使用されています。

破骨細胞はリンパ球の一種から誘導されるのですが、
それにはRANKLが必要なので、
その抗体を使用することにより、
破骨細胞が作られなくなり、
骨が壊れなくなる、
と言う理屈です。

何か僕にはぞっとするような作用に思えますが、
これが今の科学者の考え方で、
日本でも臨床試験が進められています。

僕の現時点の方針としては、
1日5mg以上のステロイドを、
一定期間以上使用する患者さんでは、
カルシウム製剤と活性化ビタミンDの使用に加えて、
アレンドロネートかリセドロネートを使用し、
5mg以下のステロイドでも、
原則として使用期間中は、
活性型ビタミンDの使用は継続します。
効果判定は骨塩量のみではなく、
半年に一度は腰椎のレントゲンを撮影し、
骨壊死のチェックのため、
大腿骨のMRI検査も、
年に一度は施行を考慮します。

ステロイドによる骨病変は、
通常の骨粗鬆症とは別個のメカニズムを有し、
別個の管理が必要な病態ですが、
そのことは必ずしも広く認識されているとは言い難く、
不正確な知識が流布している面もあるのではないかと思います。

今後よりその病態が明らかとなり、
安全かつ効果的な治療のエビデンスが、
蓄積されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

maro

第一三共が承認目指しているdenosumaという抗RANKLモノクローナル抗体ですかね>国内での試験中の薬
別の適応で承認をめざしているようなので、ステロイド性の骨そしょう症には適応通るのはまだ先になりそうですが・・・やはり価格が問題になりそうな気がします。
あとはモノクローナル抗体と聞くと予期しない副作用がでそうで・・・
by maro (2011-07-13 09:38) 

ごぶりん

随分以前に読んだ文献ではビタミンDよりKのほうが有効だったような
記述がありましたが、実際はどうなんでしょうか?
ビタミンDを服用していた患者さんで高Ca血症から結石ができた方がいました。
Caの吸収を高めても骨に吸着しない為でしょうか?
モノクロナール抗体はお値段も相当高そうですね。
ミクロな部分に作用しようとするとそれを是正するために起こるリアクションが
副作用になるのではという気がします。
あくまで気がするというだけですが(^^;)
by ごぶりん (2011-07-13 23:06) 

fujiki

maro さんへ
コメントありがとうございます。
その通りでdenosuma のことです。
海外でもステロイド性骨病変の適応は、
おそらくないと思います。
モノクローナル抗体は膠原病やアレルギー疾患に対してのものもそうですが、
法外なコストで予期せぬ重篤な副作用が稀でなく、
言われるように非常に疑問です。
by fujiki (2011-07-14 08:13) 

fujiki

ごぶりんさんへ
ビタミンKは日本のガイドラインにはありますが、
海外のガイドラインには殆ど記載はありません。
良く効くというデータも日本のものだと思います。
ビタミンDとの相性もあまり良くないので、
使用し難い薬になっていると思います。
ビタミンDは僕は通常の用途には、
1日0.5μgで充分だと思いますが、
おしっこのカルシウムを測らずに、
1μgを平気で出す先生が多いのが、
問題だという気がします。
by fujiki (2011-07-14 08:16) 

ベビママ

はじめましてベビママです。
三年前に自己免疫の病気になり、現在もプレドニン7.5mg服用中です。妊娠出産を強く希望していたので、骨粗しょう症対策の薬を一切のんでおりませんでした。この夏無事出産したのも束の間、半月程前に腰痛圧迫骨折し、授乳中という事で、湿布のみでした。(整形外科)
最近腰の別の所も痛みがあるので、もしかしたらまた折れてしまったのかもしれません。
整形外科の医師には、授乳が終わってからボナロン等を服用で構わないと言われましたが、子供の体重も益々増えていきますし、またすぐ骨折してしまうのかと思うと恐ろしくて、授乳をやめて今すぐ治療すべきなのか教えて頂ければ有難いです。よろしくお願いいたします。
by ベビママ (2011-10-30 13:15) 

fujiki

ベビママさんへ
1日7.5mgというプレドニンの量は、
必ずしも骨の減少が進行する量ではなく、
骨の脆さが必ずしも全てステロイドの影響とは、
言い切れないものがあると思います。
骨代謝マーカーや骨量のデータなども参考にして、
どのような治療が最適であるかを、
まず検討する必要があるのではないかと思います。
まずは自己免疫疾患で診ていただいている主治医に、
ご相談されるのが良いのではないでしょうか?

ボナロンが著効するような病態であれば、
場合によってはすぐに使用を開始した方が良いと思いますが、
一般論で言えば、
授乳を済ませてからの使用でも、
大きな問題はないのではないかと思います。
カルシウムは多めに取るように、
意識して頂いた方が良いと思います。
母乳にカルシウムが移行することによる影響が、
1つの要因としては考えられるからです。
by fujiki (2011-10-30 19:21) 

ベビママ

お忙しい所、ご回答ありがとうございました。
内科医には、今すぐの骨の検査の指示がなく不安材料が残りました。(骨粗しょう症の薬を飲み始める時に検査はするとは言われました)
血液検査の結果、プレドニンの量(7.5mg)は減量出来ないとの事。それに代わる治療も授乳中で出来ないので、様子見となりました。
授乳を取るか骨粗しょう症対策の薬を飲むのかは、私が天秤に量るしかないみたいです。
腰は一度圧迫骨折してからも別の箇所が痛いのは、かばってるせいなのか?もしくはまた骨折してしまったのか?体がボロボロになってしまうんではないかと考えてしまいます。授乳はたっての希望で止めたくないのですが、カルシウムを意識して取るよう心がけてはいますが、不安で仕方ありません。
by ベビママ (2011-11-01 11:02) 

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