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ステロイド性骨粗鬆症は何故起こるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

南相馬の牛のセシウム汚染の話は酷いね。
ちょっと呆然としてしまう。
米ソ核実験の時でも、
牛の尿と便のセシウムとストロンチウムの測定はしているんだよ。
どうしてやらなかったの?
信じられないよ。
ガイガーカウンターで牛の表面を撫でて、
それで線量が測定されなければ出荷するなんて、
汚染区域でそんなことをすれば、
まずいのは火を見るより明らかじゃん。
セシウムもβ線を出してるんだよ。

どうしてそういう杜撰なことをするんだろう。

何故?

物凄く賢い専門家の方が、
沢山オブザーバーに付いていて、
優秀なお役人様が基準を決めて粛々と実行されていた筈なんでしょ。
それを世界一優秀と自画自賛しているメディアの皆さんが、
適切に監視しているんでしょ。
それで何故こんなことになるの?

人間はどうしてそうやって、
自分で自分を殺すようなことをするのだろう。

これはある種の自滅への本能というか、
自己破壊の衝動の為せる業なのかしら。
日本のエリートの方は、
意識下で破滅を望んでいるのかしら。

理解不能なので気を取り直して今日の話題です。

今日はステロイドの骨に対する副作用の話です。

それに関する総説が、
New England Journal of Medicine誌の今月号に、
掲載されていましたので、
その内容を含めてお話ししたいと思います。

ステロイド、より正確には糖質コルチコイド
(プレドニゾロンやプレドニンがその代表です)は、
強い免疫抑制作用と抗炎症作用とを併せ持ち、
アレルギー疾患や自己免疫疾患を始めとした、
多くの病気のコントロールにおいて、
現在でも重要な役割を持っている治療薬です。

免疫系の調整薬は、
特定のサイトカインに対する抗体など、
遺伝子工学の技術を駆使した創薬の進歩により、
昨今は多く発売されていますが、
その効果は強力な反面、
予想外の副作用などもあり、
また非常に高価な薬剤なので、
効くからと言って使用すれば、
保健医療など簡単に破壊されてしまいます。

専門医と称する方の多くが、
そうした点には概ね無関心で、
新薬を推奨される態度は、
僕は正直非常な違和感を持ちますし、
皆が節電している中で、
電気を使い捲るような行動と、
同質のものを感じてしまいます。

ステロイドは免疫を全体に抑えてしまう点が、
欠点であると共に、
ある種の利点でもあります。
免疫が全体に抑えられることによる副作用は、
概ね想定の付く範囲のものですが、
今流行りの新薬のように、
ある種のサイトカインだけを、
強力に抑制するような薬剤は、
その効果が予測し切れない、
という危険を常に有しているのです。

このように有用性の高い薬であるステロイドですが、
皆さんも御存知のように、
多くの副作用が存在します。

その中で、
これまでやや軽視されることの多かったのが、
ステロイドにより骨の健康が損なわれ、
骨折や骨壊死などが起こるという、
骨への有害作用です。

ステロイドの使用は骨粗鬆症の原因となり、
かつまた骨壊死という特殊な骨の病変の、
原因ともなります。

ステロイドによる骨の病変は、
どのくらいの頻度で起こるのでしょうか?

海外のある大規模研究によると、
1日10mg以上のプレドニンというステロイドを、
90日以上使用していた患者さんでは、
使用していない人に対して、
足の付け根の骨折が7倍、
背骨の骨折が17倍増加した、
という結果が報告されています。
また、それとは別の研究によると、
長期間のステロイド治療を受けている患者さんのうち、
3割から5割の患者さんが、
その経過の中でステロイドを原因とする骨折を来たす、
という報告もあります。

つまり、非常に多いということが、
お分かり頂けるかと思います。

それでは、どのくらいの量のステロイドを、
どのくらいの期間使用すると、
こうした骨の病変が起こるのでしょうか?

骨折リスクの上昇は、
使用の早期から起こり、
使用3ヶ月以内でも上昇が認められます。
かつ、1日2.5~7.5mg という少量でも認められ、
気管支喘息に用いられる、
所謂吸入ステロイド剤でも、
認められると報告されています。

勿論その影響は、
ステロイドの使用期間が長ければ長いほど、
またその使用量が多ければ多いほど、
強くなることは間違いがありませんが、
僅かな影響も含めれば、
ステロイドを少量でも使用したその日から、
骨折のリスクは上昇するのだ、
ということは、
認識しておく必要があると思います。

一般的には骨粗鬆症の診断は、
骨塩量の測定で行なわれます。

よく「骨の量を測る」とか、
「骨塩量を測る」と言われるのがこの検査で、
手のレントゲン写真を撮ったり、
腕に放射線を照射して、
測定する方法が一般的に行なわれています。

そしてそうして計測された骨塩量が、
年齢の平均値より、
あるレベル以上低下していた場合に、
骨粗鬆症という診断が成されるのです。

ただ、ここで重要なことは、
骨塩量というのは、
骨が含有するカルシウムが主体のミネラルの量であって、
それが必ずしも骨の強さや健康状態と、
同一ではない、ということです。

その乖離が典型的に現われるのが、
ステロイド性骨粗鬆症のケースです。

骨塩量はステロイドの使用後、
1年間のうちに6~12%減少し、
その後は年におおよそ3%ずつ減少する、
と報告されています。

一方、骨折の増加は、
その多くが使用後3ヶ月以内に認められています。
そして、その時点では骨塩量は、
必ずしも有意に減少はしていないのです。

つまり、骨塩量が計測上減る以前に、
骨の強度は弱体化していて、
それを骨塩量で予測することは出来ないのです。

従って、事前に骨塩量を測定し、
それが正常であるので、
ステロイドの使用には問題はない、
というような説明をされる先生もいらっしゃるのですが、
それは通常の骨粗鬆症と、
ステロイドに起因する骨粗鬆症とを、
混同した誤りなのです。

勿論事前に骨塩量を測定することは、
無意味ではありません。
事前に骨塩量の減少している人であれば、
より骨折のリスクが高くなる、
という言い方が出来るからです。

しかし、事前の骨塩量が正常でも、
ステロイドによる骨折のリスクは増加し、
そのし易さを、
その数値で推測することは出来ないのです。

何故そうなのか、ということを考えるには、
ステロイドが何故骨を脆くするのか、
という原因を考える必要があります。

骨には骨細胞があり、
それ以外に骨を造る働きを持つ骨芽細胞と、
骨を壊す働きを持つ破骨細胞があります。

通常の閉経後の骨粗鬆症では、
破骨細胞の機能が相対的に高まるので、
骨は破壊される方向に働き、
骨の破壊が進行して、
それにつれて骨塩量も減少します。

つまり、こうしたタイプの骨粗鬆症では、
骨塩量すなわち骨量を、
定期的に測定することが、
骨折のリスクをある程度推測する上で、
意味のあることなのです。

一方でステロイドによる骨病変では、
病変の主体は骨細胞そのものにあります。

ステロイドの影響により、
骨細胞は壊死をし易くなり、
その寿命が短縮するので、
骨自体の栄養状態が悪化し、
骨の中の細胞数が減少します。
これはステロイドが骨の成長因子を、
強く抑制する作用によると考えられています。

破骨細胞や骨芽細胞は、
双方とも壊死し易くなり減少しますが、
より骨芽細胞の減少の影響の方が大きいので、
長期的には骨の破壊は進行し、
骨塩量も減少に向かいます。

僕は以前大学にいた時に、
ステロイドに起因する骨の異常について研究していたのですが、
その時のデータでは、
短期的な影響では低回転型の骨粗鬆症になり、
それが長期化すると高回転型の骨粗鬆症になる、
という結果でした。
当時はその結果を別の意味合いで解釈していたのですが、
今回の総説を読み、
なるほどと思いました。

閉経後の骨粗鬆症の本質は、
骨の破壊の亢進であり、
ステロイド由来の骨病変の本質は、
骨の細胞の壊死にあるのです。

ここが非常に重要なポイントで大きな違いです。
しかし、病変が長期化すれば、
骨の破壊自体も進行するので、
両者の性質を併せ持ったものに、
病変は変化してゆくのです。

よろしいでしょうか。

それでは、ステロイド治療中の患者さんでは、
どのような点に注意をし、
ステロイドによる骨折などの予防のために、
どのような対策を講じるのが適切なのでしょうか?

明日はその管理と治療の問題を、
僕なりに考えたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ごぶりん

以前の勤め先ではステロイド投与の患者さんにビスホスホネート剤が処方されてる
ケースがあって、とても懐疑的だったのですが、長期に服用されているケースだと
有効なのかもと説明を拝見して思いました。
でも、それが併用される基準は患者さんのお話によると、あくまで骨塩量の
結果によるものだったようですが…(^^;)
それと、プレドニンの服用が終了したら直ちにビスホスホネートも処方されなくなってましたが、
それはオーライなんでしょうか?
by ごぶりん (2011-07-12 21:32) 

fujiki

ごぶりんさんへ
いつもありがとうございます。
ビスフォスフォネートは一応有効性は確認されていますが、
その効果は閉経後骨粗鬆症には劣るようです。
ステロイド終了後も、
一定期間の管理が必要と思いますが、
実際にはなかなか難しいところですね。
by fujiki (2011-07-13 08:26) 

まりおん

はじめまして
橋本病の記事を以前読ませていただいてとても参考になりました。
(わたしも治療を始めて1年経った頃に劇的に数値が改善、それから2ヶ月で前より悪くなるという典型的「工場が焼けちゃった」状態を経験しました)
半世紀近く使ってるとあちこちの部品にいっぺんにガタがきたみたいで
4年前から橋本病→甲状腺機能低下でチラーヂンS100/day、2年前から更年期障害でエストラーナテープ(2日に1回交換)のお世話になってます。
甲状腺の病院でドライアイのために抗核抗体とRF定量を検査してもらったら両方とも陽性(80倍・28)
まあ念のためにと膠原病専門の内科で診てもらったら予想してなかった抗CCP抗体が陽性(78)で
プレドニン5/dayとロキソニン・ドグマチールを処方されました。

チラーヂンSやエストラーナには骨粗しょう症を防ぐ効果もあると聞いたことがあります
ステロイドの骨に対する悪影響のことはアトピーでなんとなく知っていましたが
わたしのように重複して処方されている場合も同じように気をつけたほうがいいのでしょうか?
(それぞれの医師には服用中の薬のことは報告してありますが、なんかしっくりした回答がないのです・・・)

by まりおん (2011-08-24 14:05) 

fujiki

まりおんさんへ
更年期障害の骨粗鬆症とステロイド性の骨粗鬆症とは、
そのメカニズムは異なるので、
ステロイドのプレドニン換算の使用量が1日5mg以上で、
それが1か月以上の長期にわたるようでしたら、
ステロイド性骨粗しょう症への対応も、
同時に考えた方が良いと思います。
ビタミンDとカルシウムの補充は行なった方が良く
(場合によってはサプリメントでも構いません)、
ビスフォスフォネート製剤も、
その使用を検討した方が望ましいと思います。
ただ、ビスフォスフォネートの使用は、
副作用も皆無ではなく、
まずは膠原病で掛かられている主治医に、
その点をご相談されるのが良いのではないかと思います。
by fujiki (2011-08-25 08:43) 

まりおん

ていねいでとてもわかりやすいお返事ありがとうございます
これまで骨折したことはないのですが
いちど骨密度も測定しておくべきですね
あとは食べるものとサプリと運動も気をつけないと・・・
できれば「薬には薬」で対抗しなくていいようにしたいです^^
by まりおん (2011-08-26 16:35) 

磯田 愛子

妹は30代よりリュウマチを発症し、その後喘息へと変わり70代後半まで喘息の発作を繰り返していました。ストレスの原因であった夫がなくなった後ぴたりと喘息は治まりました。その間足指や腕の骨折をしていましたが、最近首の具合が悪くレントゲンを撮ったところ頚骨の上2本を残して映像がはっきりしないと言われたそうです。
もっとも数年前に検査で骨粗しょう症といわれ、治療を受けたと聞きました。最近また肩や腕が痛いというので、今日整形外科のある病院に行かせましたが、肩の骨が石灰化しているということです。
姉の私は現在87歳ですが、先日の検査でも骨密度は年齢の上限にあります。医者に妹の話をしましたら、同じ遺伝子を持っているのにおかしいなぁと言われました。そこでふと気がついたのですが、リュウマチや喘息でかなりステロイドを使っているでひょっとしたらその副作用ではないかと思い早速調べたわけです。
先生の書かれたのを読んでやはりそうであったかと思いました。
今後どのようにすればよいか今84歳ですから二人とも長生きしているわけでいまさら慌てふためくこともないとは思いますが。
とてもよくわかるように説明をされていたので感謝いたします。

by 磯田 愛子 (2016-02-22 22:28) 

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