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チャンピックス自動車等運転禁を憤る [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日もチラと触れましたが、
禁煙補助剤のチャンピックスの、
使用上の注意が今月になって急遽改訂され、
「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」
という一文が新たに加わりました。

これまでにも「自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること」
という記載がありましたが、
それがより強い表現に改訂されたのです。

2011年7月という日付になっていますが、
実際に7月の何日に出されたものかは、
明記されていません。
(7月5日のことのようです)

当該の製薬会社の担当者の方は、
診療所にも定期的にお見えになっているのですが、
この件ではまだお話を聞いてはいません。
僕がこの事実を知ったのは、
他の医師の方のブログを読んだからです。

当該の会社の担当者の方を、
非難するつもりは毛頭ありません。
もとより全ての医療機関を、
数日のうちに訪問することなど不可能なことですし、
担当の方がその義務を負う、
という性質のものでもないと思います。

ただ…

僕は禁煙外来で、
毎日のようにチャンピックスを処方しています。

その処方がある時から急に、
処方中は自動車の運転が禁止と変更になったのです。

その重要な情報が、
実際にはネットで常に情報を検索していないと、
得ることすら出来ないのです。
それを知らずに患者さんにそうした注意をお話せず、
この薬の処方を行なったとすれば、
それは即処方した医者の落ち度になってしまいます。

皆さんは驚かれるかも知れませんが、
こうした情報を伝えるようなネットワークが、
医者には系統的には存在しませんし、
行政はそうした情報を、
末端の医者に届かせるような仕組みを、
作るようなつもりはさらさらありません。

上に引用した文面を皆さんはどうお読みになりますか?

注意させること、とか、
注意すること、と書かれている主体は何でしょうか?
勿論処方した僕のような医者のことです。
こう書かれている以上、
同様の事例がまたあれば、
その責任は製薬会社にも国にもなく、
全て処方した医者にある、
ということになります。
「危険を伴う機械」という言い回しはどうでしょうか?
意味不明ですがその解釈も、
「お前が自分で判断しろよ」ということなのでしょう。
(勿論英語の同様の言い回しの訳語であることは分かりますが、
とても日本語にはなっていません)
そこまで医者に責任を負わせるような通達であるのなら、
何故周知徹底する時間の余裕もなく、
サイトに掲示してそれでお終いなのでしょうか?

どうにも納得のいかないことばかりです。

どうしてこのような改訂が行なわれたのでしょうか?

製薬会社の文書によると、
交通事故に至った事例が報告されたことが、
その主な理由のようです。
同様の事例が3例あるようですが、
使用上の注意で公開されているのは、
1例のみです。

公開されている事例は、
60歳代の男性で、
慢性の肺疾患に対して、
数ヶ月前よりチオトロピウム塩酸塩(商品名スピリーバ)
の投与が行なわれていました。

そこに併用する形で、
禁煙治療のためチャンピックスの使用が開始され、
8日目に内服量は1回1mgに増量されたところ、
使用20分後によだれと全身の震えが出現して意識消失。
再度使用すると矢張り同様の症状が出現して、
幸い大事には至らなかったものの、
交通事故となりました。

症状がチャンピックスを増量した途端に出現し、
内服20分後で再現性もあることから考えて、
副作用であることはほぼ間違いがありません。

症状はコリン作動性クリーゼやセロトニン症候群に似通っています。
ただ、チャンピックスは脳のA10神経に作用して、
ドーパミンを分泌させることがその主作用の筈ですから、
それでアセチルコリンが急上昇したり、
セロトニンが急上昇したりする、と言うのは、
やや理屈には合わない、
という気がします。

しかし、A10神経は脳の他の様々な経路とも関連しており、
統合失調症などの病気とも関連性があるので、
何らかの素因があって他の脳内アミンが、
急上昇した可能性は否定出来ないと考えます。
SSRIの使用時にも、
投与後20分程度で脳内のセロトニンレベルは上昇しているので、
タイミング的にはおかしくはないのです。

診療所ではこれまで、
200例以上の患者さんに、
チャンピックスを使用していますが、
同様の事例は1例もありません。

この程度の例数で、
何かを言うことは出来ませんが、
脳内のセロトニンが急上昇するような事態が、
そう頻繁に起こる訳ではないと思います。

矢張り何らかの患者さん側の素因が、
大きな影響を与えていた可能性が、
高いのではないかと思われるのです。

この方の腎機能には問題はなかったのでしょうか?
本当に併用薬剤はスピリーバのみだったのでしょうか?
もう少し詳細な検証が必要なように、
僕には思えてなりません。

車の運転というのは、
多くの方にとって、
日常生活の一部でもあります。

それが当初は問題ないとされて認可を受け、
途中から急に禁止になるというのは、
かなり異例の事態だと思いますし、
海外でそういう性質の通達が、
出ている訳でもありません。
(眠気やめまいが生じることがあるので、
運転等には注意すべし、という内容は、
海外の添付文書にも書かれていますが、
禁止ではなく、
その意味するところは、
今回の事例とは別物です)
勿論患者さんの安全が優先ですし、
この決定が理解出来ない訳ではありません。
しかし、中止がやむなしであるのなら、
もう少し現場の混乱を避けられるような、
実地の医療機関に配慮した、
対応があってしかるべきではなかったかと僕は思います。

僕は個人的には、
事例の徹底した検証を行なうと共に、
初回と増量後の数回の使用時に、
その後のめまいや不快感等の症状が出現しないかを確認した上で、
問題のない方には運転禁止の措置までは、
必要ないのではないかと考えます。
これはかなり特異な事例である、
という気がするからです。

ただ、ひょっとしたら僕の考えは、
医療機関サイドの事情に、
偏った見解かも知れませんので、
皆さんのご意見もお伺いしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ごぶりん

幾つかの医療サイトからのメールを確認したところ当該について記載されてたのが7月5日に来てました。
pmdaからのものです。
うっかり見そびれてました(汗)

http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei_index.html
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20110705.html

でも、やはり処方実績のある病院には直接MRさんが出向くのは無理にしてもせめてFAXで知らせる位はできそうかなとは思います。
死亡例がないから会社側も悠長に構えてるんでしょうか?
併売品の売り込みの時には毎日でも薬局にすら足を運ぶことができるんだからと思うのですが…。
チャンピックスの副作用は中脳のVTA以外のニコチン受容体にも作用することで起こるんでしょうか?
ドーパミンの薬理作用は多彩なので全然把握できてません(^^;)
by ごぶりん (2011-07-11 17:42) 

opensesame

こんにちは。
この記事でスピリーバで起こった私の副作用を思い出しました。
先生のブログで喘息患者にスピリーバを使用しても他の気管支拡張剤と遜色ない効果があったという記事を読んで、主治医にお願いしてセレベントをスピリーバに変えて頂きました。スピリーバはセレベントでは取れなかった胸の真ん中の苦しさも消えるほど私には良く効きました。ところが、使って2日目くらいから足に湿疹がでてきました。湿疹はどんどんひどくなっていきました。主治医とスピリーバが原因ではないかと疑いセレベントに戻すと2週間程度で治りました。しかし、やはりセレベントでは効果に不足があり、1ヶ月後に再度スピリーバを使い始めたらすぐに湿疹が出始めたので仕方なく中止しましたが、主治医はどうも納得行かないようしたが、その湿疹は掌蹠膿疱症のようでして半年たった今も悩まされ続ける結果となっています。副作用情報が医師スムーズに知らされないというのは、ある意味、患者にとっても不利益だし怖いことだと感じますね。
by opensesame (2011-07-11 18:49) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
矢張り何らかの別個の脳内作用が、
あると考えた方がよいのかも知れません。
今日の患者さんは運転はされない方だったので、
その点は助かりました。
by fujiki (2011-07-11 21:40) 

fujiki

opensesame さんへ
そうですか。
僕の記事が原因の1つのようで責任を感じます。
抗コリン剤自体が掌蹠膿疱症の原因とは考え難く、
何か添加物の影響なのではないか、
という気がします。
早く改善に向かうと良いのですが…
by fujiki (2011-07-11 21:48) 

opensesame

fujiki先生へ
先生の責任だななんて、そんなことはありません。同じ記事を他でも見ておりましたし、主治医に相談した時に主治医もその実験のことを知っておりました。先生の記事はいつも興味深く拝見しておりますし非常に勉強になります。主治医も勉強会やらで聞いてみたりしてくださったようですが、結局、原因は不明のままですが、先日の受診でメーカーに確認しているとお聞きしました。
私自身としては、慢性胃炎や過敏性腸症候群などもあり、喘息、慢性鼻炎、プレ更年期などもあり、そもそも自律神経が失調気味なのかなと感じています。スピリーバの作用の仕方がきっかけとなってしまったのではないかと思っています。今後もいろいろな記事を楽しみにしております。
by opensesame (2011-07-13 20:08) 

チャンピックス服用中

はじめまして。
ブログ記事がとても参考になりました。
最近チャンピックスの服用を始めた者です。
本日、下記のニュース
http://www.asahi.com/science/update/1026/TKY201110260568.html
で、「服用期間中は運転しないよう、指導の徹底を医療機関に求めている」
ことを知りましたが、医師からは運転するかの確認はなく処方されました。

チャンピックスの添付文書を読むと1ページ右下(4)に
「自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること」
と小さく記載されています。
添付文書の日付は2009年5月改定(第5版)でもしかして古い?
とファイザーに電話で確認したところ、

添付文書の最新版は2011年10月で、「運転注意」の文章は同じ。
運転をしないよう警告の記載はない。
「医師から自動車運転について確認がなかったが、説明しなくてもいいんでしょうか」尋ねると、医師が忘れたのかもしれないので、医師に確認して下さいと言われました。
会社としてMRに自動車運転をする人には処方しない旨の連絡を徹底させているかと訊くと「やっているはずですが、今個々の確認は取れない」とのことでした。

自動車を運転する場合はチャンピックスを服用できないんですね?と尋ねると
「他のお薬の服用などの方法もあると思いますので、医師と相談してください」と言われました。

長文失礼致しました。
by チャンピックス服用中 (2011-10-27 17:00) 

fujiki

チャンピックス服用中さんへ
コメントありがとうございます。
色々とこれは矛盾に満ちた注意事項で、
「禁止ではなくお願い」という訳の分からないものなのです。
ただ、原則は使用中は運転をされない方が、
良いと思います。
by fujiki (2011-10-28 21:15) 

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