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メトロポリタンオペラ「ランメルモールのルチア」 [オペラ]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は日曜日ではありませんが、
趣味の話題です。
今日はこちら。
メトロポリタンオペラ.jpg
アメリカの誇るオペラハウス、
メトロポリタンオペラの所謂「引越し公演」が、
今東京で開催中です。

震災後の外来オペラハウスの公演としては、
初めてのもので、
想定されたことではありましたが、
そのキャストも指揮者も、
最初の予定とは大きく変わりました。

今一番の売れっ子テノールの1人、
ヨナス・カウフマンは、
4月の時点では来日の意志を示していましたが、
5月には主に放射能への不安から、
急遽キャンセルとなり、
予定演目の「ドン・カルロ」は、
大幅にそのキャストが入れ替わりました。

売れっ子ソプラノのアンナ・ネトレプコは、
直前まで来日の意志を示しながら、
来日直前で、
「放射能塗れの日本になんか行くのは嫌だわ」
と言ったかどうかは分かりませんが、
来日を取り止め、
キャストは再び大きく移動しました。

何度か来日して新国立劇場の舞台にも立った、
ボチボチのテノールのジョゼフ・カレーニャは、
来日の飛行機まで決まっていながら、
「この飛行機には乗れない」
と来日をその日に断わったのだそうです。

そうした中、
本当に奇跡的に来日して
(しかも2歳のお子さんと一緒に)、
見事な歌唱を聴かせてくれているのが、
おそらく現時点で最も脂の乗ったコロラトゥーラソプラノ、
ディアナ・ダムラウです。

今回来日公演の演目の1つ、
ドニゼッティの名作「ランメルモールのルチア」で、
そのタイトルロールのルチアを見事に演じました。

ルチアは意に沿わない結婚を強要された貴族の娘が、
その初夜の晩に夫を殺害し、
その狂気を長いコロラトゥーラのアリアで歌うのが見せ場、
という壮絶な作品で、
アリアを歌い切るとルチアは狂い死にをします。
これが狂乱の場と呼ばれる聴き所ですが、
それ以外にもオープニングからラストまで、
全てが聴き所と言って過言ではない、
非常に緊張感に溢れた見事なオペラです。

僕はルチアはボンファデリやデヴィーア、
ルキアネッツなど何度か聴いていますが、
今回が間違いなく最高に素晴らしかったですし、
もう多分このレベルの舞台を、
日本で観ることは出来ないのだろうな、
と思うと、
福島の原発は親の仇のように憎いですし、
ちょっと切ない思いもしました。

今の日本の放射能など何の問題もないのだと、
言われる方のお気持ちは僕にも分かるのですが、
でもこの有様を見ると、
僕はそうしたレトリックでは、
報道ステーションの視聴者は納得させられても、
藝術家のキャンセルも、
企業や外国人の資金を含めた海外への逃避も、
防ぐことは出来ず、
日本人を救うことは出来ないのではないかと思います。
科学的云々よりも、
矢張り対外的にも見える形で、
放射能汚染を軽減するような、
行ない得るあらゆる施策を速やかに施行し、
事故前に極力近い状況に戻ったと、
強くアピールする以外にはないのではないかと思うのです。

ダムラウはドイツのいかつい感じで、
基本的には僕の好みではないのですが、
歌は文句なく一級品で、
低音域から高音まで実に安定して声が飛びますし、
高音の廻しはちょっとグルヴェローヴァにも似ています。
演技も巧みであのいかつさなのに、
狂乱の場では少女の面影が確かに宿っていました。

ダムラウ以外のキャストも粒が揃っていますし、
演出も狂乱の場のカヴァレッタで、
医者が鎮静剤を打ち、
最後はフラフラになりながら歌う、
というなくもがなの設定を除けば、
概ね納得のいくもので、
セットも美しく出来ていました。
狂乱の場は歌手の見せ場なので、
その歌を枠に嵌めてしまうような演出は、
基本的に駄目なのです。

通常はカットする場面も、
ほぼノーカットで上演していましたし、
オケも指揮者も充実していました。

チケット代は如何にも法外なので、
全ての方にお勧めは出来ませんが、
これだけの舞台が日本で実現することは、
おそらくは今後しばらくはないのではないかと思いますし、
ひょっとしたらもう永久にないのではないかと、
僕には思えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

末尾ルコ(アルベール)

今年一番楽しみにしていたパリ・オペラ座バレエのニコラ・ル・リッシュを中心としたガラが無くなりました(発表は延期)。

他の海外バレエはだいたい来日しているので、ル・リッシュの選択はどうだったのかというのはありますが、もともと原因を作ったのは(あらゆる意味で)日本なのですよね。

                          RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2011-06-14 09:17) 

midori

ご覧になれて良かったですね。
これだけ世界で騒がれていて、よく来日してくれたものです。
by midori (2011-06-14 11:48) 

minK

今回来日してくれた方々は、もう永久に応援していきたいくらいですね。


by minK (2011-06-14 22:59) 

fujiki

RUKOさんへ
コメントありがとうございます。
今年の秋以降がどうなるか、
というのが1つのネックで、
僕はオペラに関しては、
あまり楽観的な予測は出来ません。
ベルリンフィルもウィーンフィルも、
来るとは言っていますが、
それもまだ分からないですね。
by fujiki (2011-06-15 08:08) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
アメリカの「善意」というのは、
こういう時には強く感じます。
ただ、今回は特例で、
もう次はないような気もします。
by fujiki (2011-06-15 08:09) 

fujiki

mink さんへ
コメントありがとうございます。
急に来ないのもある意味藝術家らしくて、
実害がなければ嫌いではないのですが、
来日してくれた方には、
本当に素直に感謝したい気持ちでいっぱいです。
by fujiki (2011-06-15 08:11) 

kiyo

こんにちは。通りすがりのものですが、いきなり失礼します。
私も今日、観てきました。
直前まで迷い、結局当日券。C席4階席2列目なのに4万円…高っ!!という感じでしたが、大満足です。
ダムラウは素晴らしかったし、ルチアはオペラとしての完成度が非常に高いですね。
誰でも知っているような有名な曲があるわけではありませんが、音楽と脚本と演出と…、他のオペラにありがちな途中のダレや話の無理やり感が無く、あっという間に感じました。
楽しかった!
来日してくれたMetの皆さんに感謝です。
by kiyo (2011-06-19 23:29) 

fujiki

kiyo さんへ
コメントありがとうございます。
これだけ緻密な「ルチア」は、
実際には滅多にないものだと思います。
他の2演目はボロボロでしたが、
それでもよく実現したと思います。
by fujiki (2011-06-20 08:26) 

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