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ピオグリタゾンと膀胱癌との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日こんなニュースがありました。

【仏、武田の糖尿病薬の投与禁じる 新規の患者対象】
フランスの規制当局は10日までに、武田薬品工業の主力製品で、糖尿病治療薬「アクトス」について、新規の患者への投与を禁じる措置を決めた。既存の患者に対しては医師に相談なく服用をやめてはいけないとしている。武田薬品側が明らかにした。アクトスを服用している患者と服用していない患者に対する調査の結果、服用している患者の方が、ぼうこうがんになる率が高かったことに対応した。

ピオグリタゾン(商品名アクトス)は、
インスリン抵抗性を改善するタイプの糖尿病治療薬で、
その主な作用は、
PPARγと呼ばれる一種の転写因子を刺激することにあります。

PPARγは主に脂肪細胞に多く発現していて、
それが刺激されることにより、
遊離脂肪酸が抑えられ、
アディポネクチンというサイトカインが増える、
等々のメカニズムにより、
結果としてインスリンの効きが良くなり、
糖尿病が改善すると共に、
動脈硬化の進行が抑えられる、
と考えられています。

つまり、単純に血糖を下げるだけではなく、
糖尿病の身体に対する有害作用を、
取り除くことが期待されている薬です。

こうした点からPPARγ作動薬は、
動脈硬化の進行予防薬として注目され、
ピオグリタゾン以外にも多く開発されましたが、
実際にはグラクソ社のロシグリタゾン以外は、
その開発の段階で中止され、
ロシグリタゾンも有害事象の懸念から、
ほぼ発売が中止されています。

何故こうした結果になったのでしょうか?

大きく言えば2つの懸念材料があるからです。

その1つは心疾患の発症を増やすのではないか、
という懸念で、
もう1つは発癌を誘発するのではないか、
という懸念です。

このタイプの薬は、
動物実験のレベルで、
発癌への影響が疑われることが多く、
そのために開発中止となった薬剤も多く存在します。

ピオグリタゾンの場合は、
動物実験ではラットのオスで膀胱癌が増加する、
という結果が得られましたが、
メスのラットでは増加は認められず、
マウスや犬の試験でも、
増加は認められませんでした。

そのために発売には問題なしとされたのですが、
膀胱癌増加のリスクについては、
発売後も慎重なフォローアップが必要である、
という認識は共有されていたのです。

何故ラットのオスで膀胱癌が増加したのでしょうか?

尿路結石の増加が1つの原因と考えられていますが、
人間ではピオグリタゾンの使用により、
特に尿路結石が増えることはないので、
これはラットに特有の現象とも考えられます。

膀胱癌は喫煙やアニリン系色素、
コーヒーや食品添加物、人工甘味料など、
多くの科学物質との関連性が指摘されています。

フェナセチンやシクロフォスファミドといった、
薬剤の長期使用も、
その原因の1つと考えられています。

膀胱は尿中の物質と接触する場所なので、
尿に排泄される化学物質と、
大きな関連性があるのです。

昨年の9月にアメリカのFDAは、
ピオグリタゾンと膀胱癌のリスクについて、
調査中であるとの声明を発表しました。

この元になったのは、
10年間で19万人以上の糖尿病患者さんのデータです。
平均2年の観察期間で、
5年間の中間解析を行ないました。

すると、全体では有意差はなかったのですが、
2年以上使用した患者さんのみを解析したところ、
有意差が認められたというものです。

勿論中間解析なので、
この結果はまだ暫定的なものです。

今回のフランスの発表は、
フランスで独自に行なわれたもので、
フランス国内のデータベースを解析したところ、
相対リスク1.22で、
ピオグリタゾン使用群で、
膀胱癌の発症が多かったというものです。

ただこれは後ろ向きの研究です。
つまりデータベースを後からチェックして、
どちらが多いかを検討したもので、
FDAのデータのように、
登録した患者さんの経過を見たものではないので、
他の要因が膀胱癌の誘発因子となっていた可能性を、
完全には排除出来ない性質のものです。

従って、現時点では膀胱癌のリスクについて、
灰色ではあっても黒とは言えない、
という表現が妥当だと思われます。

PPARγ作動薬は有用性のある薬剤と思いますが、
その効果には現時点で解明されていない部分があり、
心疾患の増加と膀胱の異常の出現には、
充分に注意を払いながら使用する必要があると思います。
現時点での有害事象の報告は、
まだ確定的なものではなく、
フランスからの今のタイミングでの発表というのも、
何となく引っ掛かりを感じる部分があります。
全ての処方を中止するということではなく、
患者さん毎にご説明をしながら、
今後の対応は個別に考えたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

catfish

石原先生、こんにちは
先週金曜日の朝日新聞に掲載されたので、患者さんからの問い合わせがあるのではないかと土曜日、月曜日身構えておりましたが何事もなく過ぎました。特に処方薬の変更なども見かけませんでした。もしかしたら自主的に服用を控えてしまってる人はいるかもしれません。そうでなくてもむくみの副作用は頻繁に見かけますので勝手にやめてる人、います。ましてガンとか書かれた日には・・・と思ったのですが。
テレビほどインパクトないのでしょうかねー。ためしてガッテンなどの健康番組で何かあった次の日などはけっこう聞かれます。お薬手帳拒否したら150円得!とか放送された時もすぐ反応ありました。
これからでしょうか。
もうすぐ後発品発売するつもりだった製薬会社にとっても他人ごとではないですね。
タイムリーなお話をありがとうございました。
by catfish (2011-06-13 18:05) 

fujiki

catfish さんへ
コメントありがとうございます。
ためしてガッテンは本当に影響力が大きくて不思議です。
つい最近も患者さんが、
「内臓がドロドロに溶ける怖ろしい病気が流行っているらしい」
と言われるので、
何のことかと思ったら、
急性膵炎の話でした。
何と言うのか、
脱力しますし、
ちょっと怒りを覚えます。
by fujiki (2011-06-14 08:21) 

catfish

私もです!
近くのメンタルクリニックの先生も、ためしてガッテンでむずむず足症候群が放送されて以来「ビシフロール」を処方せざるを得なくなった、とこぼしておられました。責任の重大さをわかってるんでしょうかねw-
by catfish (2011-06-14 08:34) 

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