僕が体験した唐先生の芝居を振り返る(1987年~1989年) [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
メトロポリタンオペラの「ルチア」に行こうかな、
でもチケット代は法外だし、
でもダムラウはもう絶対日本になんて来ないだろうし、
今年の秋が駄目になったら、
招聘会社は軒並み潰れて、
もうオペラなんて海外から来ることもなくなるだろうな、
などと考えつつ、
今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
2週前からは唐先生の芝居を振り返っています。
今日は1988年からの公演です。
⑪下町唐座「さすらいのジェニー」(1988年春公演)
1986年の「少女仮面」を最後に、
状況劇場は解散しました。
その翌年の1987年には公演はなく、
非常に切ない思いを感じましたが、
1988年に隅田川のほとりに、
安藤忠雄が創案した劇場が造られ、
「下町唐座」と銘打たれて公演が春に始まりました。
後に最初の「平成中村座」が公演したのと、
同じ場所です。
公演期間は1ヵ月で、
その後も番外公演と称して、
6回の追加公演が行なわれました。
この芝居はメインが緑魔子と石橋蓮司の、
「第7病棟」コンビで、
そこに狂言廻しとして唐先生が絡み、
悪役として柄本明も登場します。
番外公演では、
柄本明の代わりに、
数回のみ麿赤児が同役を演じました。
僕は柄本明版と麿赤児版を、
1回ずつ観ています。
下町唐座はテントとは比べものにならない、
大掛かりな仮設劇場で、
シルク・ドゥ・ソレイユの公演でもやるような、
感じの建物でした。
黒塗りの外観はワクワク感があるのですが、
実際に中に入ってみると、
劇場自体の雰囲気は普通の劇場と変わりません。
3幕劇で1幕と3幕は、
舞台上に大きなプールが造られ、
その後方は劇場の外に続いています。
オープニングには、
唐先生がお椀の船のようなものに乗って、
後方から水をオールで切りながら、
舞台に登場します。
3幕のオープニングでは、
そのプールに唐先生が飛び込みを見せます。
猫が変身した女性の物語ですが、
3幕劇の割にはこじんまりとしていて、
あまりダイナミックな展開はなく、
それほどワクワクする舞台ではなかった、
と言う記憶があります。
ただ、正直細部はもう忘れてしまいました。
音効は五輪まゆみの「恋人よ」の前奏が、
何度も使われていたのが、
印象に残っています。
麿赤児の特別出演には非常に期待しましたが、
物凄くマイペースの演技で、
さほどの迫力も感じませんでしたし、
変な裏声を出すのですが、
却って間を空け過ぎて全体のテンポが乱れてしまい、
初見の印象は正直ガッカリするものでした。
久しぶりの演劇の舞台に、
彼自身まだ手探りの状態だったのだと思います。
麿赤児の真価を僕が知るのは、
後年の「電子城2」を観た時でした。
⑫下町唐座「少女都市からの呼び声(再演)」(1988年夏公演)
前回の「さすらいのジェニー」から時を置かず、
下町唐座の2回目の公演が行なわれました。
演目は1985年の名作「少女都市からの呼び声」の再演で、
かつての「少女都市」でフランケ博士を演じた麿赤児が、
再び同役を演じる、
というのが一番の売りでした。
ダブルキャストの公演だったようですが、
僕が観たのはヒロインが藤原京で、
雪子の兄役に狩野芳則という役者さんだったと思います。
千野宏さんは、
初演と同じ田口の友人役で、
初演には出ていなかった唐先生は、
おかしな看護師役での出演でした。
初演に感銘を受けた僕としては、
この芝居は正直ガッカリでした。
後に唐組の主力となる役者さんが、
多く出演していたのですが、
まだまだのレベルで、
特に雪子の兄役の役者さんは、
下手くその上に唾を飛ばしまくるので、
それだけで気分が悪くなりました。
麿赤児は「さすらいのジェニー」の時よりは、
遥かに良かったのですが、
それでも他の役者さんとは、
その演技の間合いが全く違うので、
舞台の流れがスムースに進まず、
正直苛々させられました。
一番の問題は、
初演の小さな劇場とは異なり、
言わば普通の中劇場と同じ「下町唐座」の空間に、
ほぼ同じ演出を持ち込んだことで、
舞台の濃密さが大きく薄れ、
あちこちに隙間風が吹いているような舞台になりました。
⑬唐組「電子城」(1989年春公演)
2年間の休演を経て、
紅テントが1989年の春に復活しました。
「唐組」の旗揚げです。
旗揚げの演目は「電子城」で、
ドラゴンクエストがそのモチーフになった3幕劇です。
新調の紅テントは、
状況劇場後半のテントの、
3分の2くらいの大きさの、
ややこじんまりしたものでした。
僕はこの芝居を東京と長野で2回観ましたが、
唐先生復活、という印象を強く感じ、
胸が熱くなりましたし、
非常な感銘を受けました。
僕自身はこの時、
かなり切羽詰った辛い状況にあったのですが、
その時に観たこの芝居は、
ちょっとした救いにもなったのです。
キャストは唐先生が狂言回し役のソフト作家で、
敵対する精神科医に斉藤暁、
そして善悪を超越した風来坊役に、
状況劇場初期の怪優、
大久保鷹が復活しました。
それ以外のキャストは、
前年の「下町唐座」時代に養成された、
若手の役者陣ですが、
いずれもなかなかの好演で、
唐先生には珍しいダブルヒロインの設定で、
それぞれタイプの異なるヒロインを演じた、
藤原京と増井ナオミも良かったですし、
オープニングすぐにテンション高く登場する鳥山昌克や、
儲け役の伊藤正之、色悪の長谷川公彦と、
脇役まで目の離せない布陣でした。
しかし、何と言っても素晴らしかったのは、
大久保鷹と斉藤暁です。
大久保鷹は勿論その時が、
僕は観るのは初めてでしたが、
イメージするテントのアングラ役者そのもので、
唐先生の台詞との相性は抜群です。
その役柄は以前の「唐版・風の又三郎」の夜の男を、
彷彿とさせるもので、
オープニングの台詞も、
その時と同じ「コンバンワ」です。
唐先生の演出も快調で、
大久保鷹が振り向く度にサスが入るのですが、
そこで絶叫する鷹さんは素敵でしたし、
唐先生の彼に対する愛情を感じました。
長野公演のラストのカーテンコールでは、
雨合羽をマントのように翻して、
振り向きざま宙を飛んで去ったのですが、
その姿は今も目に焼き付いています。
2幕のラストでは、
いきなり現われてヒロインを背負うと、
そのまま全速力で花道を駆け去るのですが、
その姿は本当に人間離れしたもので、
かつての名作「吸血姫」のト書きに、
「とたんに大きなコウモリが、窓からこちらに飛び込み、黒い羽を大きく振るや、海之ほおずきを小脇に、花道の上空から客の頭をとび越えてゆく」
という壮絶なものがあって、
こんなことの出来る役者がいる訳もないのに、
何故唐先生はこんなト書きを書いたのだろう、
と僕は長年謎だったのですが、
疾走する大久保鷹の姿を見て、
ああ、そういうことだったのか、
と合点がいったのです。
彼の姿は確かに客の頭を、
飛び越えるコウモリのように見えたからです。
(ちなみにト書きのコウモリ役は、
実際には麿赤児です)
斉藤暁は当時東京壱組の役者さんで、
今はテレビのバイプレーヤーとして、
活躍されていますが、
唐組客演当時は、
一般には無名に近かったと思います。
とぼけた雰囲気でそれでいて迫力があり、
彼と大久保鷹は、
唐戯曲で想定される悪党の、
ほぼ理想的な形です。
要するにこの芝居は、
想定される理想の怪優達の競演で、
この調子で唐組が続いてくれれば、
もう何も他には要らない、
という思いさえ感じることが出来たのです。
しかし、例によってあまり幸福な時間は続きませんでした。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
メトロポリタンオペラの「ルチア」に行こうかな、
でもチケット代は法外だし、
でもダムラウはもう絶対日本になんて来ないだろうし、
今年の秋が駄目になったら、
招聘会社は軒並み潰れて、
もうオペラなんて海外から来ることもなくなるだろうな、
などと考えつつ、
今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
2週前からは唐先生の芝居を振り返っています。
今日は1988年からの公演です。
⑪下町唐座「さすらいのジェニー」(1988年春公演)
1986年の「少女仮面」を最後に、
状況劇場は解散しました。
その翌年の1987年には公演はなく、
非常に切ない思いを感じましたが、
1988年に隅田川のほとりに、
安藤忠雄が創案した劇場が造られ、
「下町唐座」と銘打たれて公演が春に始まりました。
後に最初の「平成中村座」が公演したのと、
同じ場所です。
公演期間は1ヵ月で、
その後も番外公演と称して、
6回の追加公演が行なわれました。
この芝居はメインが緑魔子と石橋蓮司の、
「第7病棟」コンビで、
そこに狂言廻しとして唐先生が絡み、
悪役として柄本明も登場します。
番外公演では、
柄本明の代わりに、
数回のみ麿赤児が同役を演じました。
僕は柄本明版と麿赤児版を、
1回ずつ観ています。
下町唐座はテントとは比べものにならない、
大掛かりな仮設劇場で、
シルク・ドゥ・ソレイユの公演でもやるような、
感じの建物でした。
黒塗りの外観はワクワク感があるのですが、
実際に中に入ってみると、
劇場自体の雰囲気は普通の劇場と変わりません。
3幕劇で1幕と3幕は、
舞台上に大きなプールが造られ、
その後方は劇場の外に続いています。
オープニングには、
唐先生がお椀の船のようなものに乗って、
後方から水をオールで切りながら、
舞台に登場します。
3幕のオープニングでは、
そのプールに唐先生が飛び込みを見せます。
猫が変身した女性の物語ですが、
3幕劇の割にはこじんまりとしていて、
あまりダイナミックな展開はなく、
それほどワクワクする舞台ではなかった、
と言う記憶があります。
ただ、正直細部はもう忘れてしまいました。
音効は五輪まゆみの「恋人よ」の前奏が、
何度も使われていたのが、
印象に残っています。
麿赤児の特別出演には非常に期待しましたが、
物凄くマイペースの演技で、
さほどの迫力も感じませんでしたし、
変な裏声を出すのですが、
却って間を空け過ぎて全体のテンポが乱れてしまい、
初見の印象は正直ガッカリするものでした。
久しぶりの演劇の舞台に、
彼自身まだ手探りの状態だったのだと思います。
麿赤児の真価を僕が知るのは、
後年の「電子城2」を観た時でした。
⑫下町唐座「少女都市からの呼び声(再演)」(1988年夏公演)
前回の「さすらいのジェニー」から時を置かず、
下町唐座の2回目の公演が行なわれました。
演目は1985年の名作「少女都市からの呼び声」の再演で、
かつての「少女都市」でフランケ博士を演じた麿赤児が、
再び同役を演じる、
というのが一番の売りでした。
ダブルキャストの公演だったようですが、
僕が観たのはヒロインが藤原京で、
雪子の兄役に狩野芳則という役者さんだったと思います。
千野宏さんは、
初演と同じ田口の友人役で、
初演には出ていなかった唐先生は、
おかしな看護師役での出演でした。
初演に感銘を受けた僕としては、
この芝居は正直ガッカリでした。
後に唐組の主力となる役者さんが、
多く出演していたのですが、
まだまだのレベルで、
特に雪子の兄役の役者さんは、
下手くその上に唾を飛ばしまくるので、
それだけで気分が悪くなりました。
麿赤児は「さすらいのジェニー」の時よりは、
遥かに良かったのですが、
それでも他の役者さんとは、
その演技の間合いが全く違うので、
舞台の流れがスムースに進まず、
正直苛々させられました。
一番の問題は、
初演の小さな劇場とは異なり、
言わば普通の中劇場と同じ「下町唐座」の空間に、
ほぼ同じ演出を持ち込んだことで、
舞台の濃密さが大きく薄れ、
あちこちに隙間風が吹いているような舞台になりました。
⑬唐組「電子城」(1989年春公演)
2年間の休演を経て、
紅テントが1989年の春に復活しました。
「唐組」の旗揚げです。
旗揚げの演目は「電子城」で、
ドラゴンクエストがそのモチーフになった3幕劇です。
新調の紅テントは、
状況劇場後半のテントの、
3分の2くらいの大きさの、
ややこじんまりしたものでした。
僕はこの芝居を東京と長野で2回観ましたが、
唐先生復活、という印象を強く感じ、
胸が熱くなりましたし、
非常な感銘を受けました。
僕自身はこの時、
かなり切羽詰った辛い状況にあったのですが、
その時に観たこの芝居は、
ちょっとした救いにもなったのです。
キャストは唐先生が狂言回し役のソフト作家で、
敵対する精神科医に斉藤暁、
そして善悪を超越した風来坊役に、
状況劇場初期の怪優、
大久保鷹が復活しました。
それ以外のキャストは、
前年の「下町唐座」時代に養成された、
若手の役者陣ですが、
いずれもなかなかの好演で、
唐先生には珍しいダブルヒロインの設定で、
それぞれタイプの異なるヒロインを演じた、
藤原京と増井ナオミも良かったですし、
オープニングすぐにテンション高く登場する鳥山昌克や、
儲け役の伊藤正之、色悪の長谷川公彦と、
脇役まで目の離せない布陣でした。
しかし、何と言っても素晴らしかったのは、
大久保鷹と斉藤暁です。
大久保鷹は勿論その時が、
僕は観るのは初めてでしたが、
イメージするテントのアングラ役者そのもので、
唐先生の台詞との相性は抜群です。
その役柄は以前の「唐版・風の又三郎」の夜の男を、
彷彿とさせるもので、
オープニングの台詞も、
その時と同じ「コンバンワ」です。
唐先生の演出も快調で、
大久保鷹が振り向く度にサスが入るのですが、
そこで絶叫する鷹さんは素敵でしたし、
唐先生の彼に対する愛情を感じました。
長野公演のラストのカーテンコールでは、
雨合羽をマントのように翻して、
振り向きざま宙を飛んで去ったのですが、
その姿は今も目に焼き付いています。
2幕のラストでは、
いきなり現われてヒロインを背負うと、
そのまま全速力で花道を駆け去るのですが、
その姿は本当に人間離れしたもので、
かつての名作「吸血姫」のト書きに、
「とたんに大きなコウモリが、窓からこちらに飛び込み、黒い羽を大きく振るや、海之ほおずきを小脇に、花道の上空から客の頭をとび越えてゆく」
という壮絶なものがあって、
こんなことの出来る役者がいる訳もないのに、
何故唐先生はこんなト書きを書いたのだろう、
と僕は長年謎だったのですが、
疾走する大久保鷹の姿を見て、
ああ、そういうことだったのか、
と合点がいったのです。
彼の姿は確かに客の頭を、
飛び越えるコウモリのように見えたからです。
(ちなみにト書きのコウモリ役は、
実際には麿赤児です)
斉藤暁は当時東京壱組の役者さんで、
今はテレビのバイプレーヤーとして、
活躍されていますが、
唐組客演当時は、
一般には無名に近かったと思います。
とぼけた雰囲気でそれでいて迫力があり、
彼と大久保鷹は、
唐戯曲で想定される悪党の、
ほぼ理想的な形です。
要するにこの芝居は、
想定される理想の怪優達の競演で、
この調子で唐組が続いてくれれば、
もう何も他には要らない、
という思いさえ感じることが出来たのです。
しかし、例によってあまり幸福な時間は続きませんでした。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2011-06-12 13:09
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先生、こんばんは。
毎日、ブログを拝見しておりますが、コメントさせて頂くのは、お久しぶりですね。
今日、先生のお褒めになられた電子城が気になっているのですが、ビデオなどは残っているのでしょうか?
お手数ですが、又お時間のある時にでも、あらすじなどを教えて頂けると、嬉しく思います。
それでは、お体お大事に、これからも色々御教示下さいます様、よろしくお願い致します。
ゆうな拝
by ゆうな (2011-06-13 00:42)
ゆうなさんへ
これは昔NHKで放映したことがあるのですが、
ソフトにはなっていないと思います。
ただ、映像は再演版で、
斉藤暁さんは出ていないので、
出来は初演と比べるとかなり落ちます。
また、著作権の問題なのかと思いますが、
音効も一部差し替えられていました。
by fujiki (2011-06-13 08:30)