SSブログ

携帯電話による脳腫瘍リスクを考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日こんなニュースがありました。

【携帯電話の電磁波に脳腫瘍リスク WHO組織が指摘】
世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は5月31日、携帯電話の電磁波と脳腫瘍リスクについて過去の調査を評価した結果、携帯電話の電磁波による脳腫瘍リスクには「限定的な証拠が認められる」とする結果を公表した。

携帯電話の使用で、
脳腫瘍の増える可能性がある、
というのです。
ちょっとゾッとするような話です。

携帯電話は電磁波を発していて、
それは微量なものではありますが、
耳に密着して使用するとすれば、
それが長時間で長期間に渡る場合には、
人間の耳の奥、
すなわち脳に何らかの影響を与えるのでは、
という考えは以前から存在していました。

携帯電話が発生するラジオ波領域の電磁波の安全性については、
その開発の当初から問題視はされ、
主として動物実験や細胞に対する毒性の検証等が行われました。
その結果は特に問題になるものではなかったため、
その販売が開始された訳ですが、
今度は実際に使用してみた段階で、
何らかの有害作用があるのかの疫学的な検討が、
必要であると考えれ、
1997年のIARCの会合において、
国際共同疫学研究が、
開始されることになったのです。

その疫学研究は世界各国で行なわれ、
日本でも同様の研究が、
2008年に論文として発表されています。
その結果は携帯電話の使用により、
特に脳腫瘍のリスクの増加は、
認められなかった、というものです。

同様の研究は世界各国でも別箇に文献となっていて、
その内容も若干のリスク上昇のあった、
というものから、
全くなかった、というものまで様々です。

今回そうしたデータのとりまとめをして、
それによる一定の結論を、
IARCがまだ最終的なものではないものの出した、
というのが今回のニュースの経緯です。

従って、これまでにも色々な意見があり、
概ねアメリカと日本は「問題なし」との意見で、
ヨーロッパの研究は「問題があるかも…」という意見でした。
これは他のリスクの調査でもいつも同じですね。
ただ、それが国際機関の調査で、
「可能性あり」との判断がなされたのは、
今回が初めてで、
その意味では非常にインパクトの大きなニュースです。

IARCは人間の発癌のリスクと成り得る物質を、
放射線や喫煙、食品などを含めて、
幅広くその影響を検討し、
一種のランク付けをしています。

そのランクはグループ1からグループ4に分かれ、
グループ2は更に2Aと2Bに分類されています。
グループ1は疫学調査でも動物実験のレベルでも、
発癌作用の明らかなもので、
ここには放射線や放射性物質、
飲酒や喫煙、アスベストなどが含まれています。
2AはProbably carcinogenic to human、
2BはPossibly carcinogenic to human で、
その両者の区別は微妙ですが、
いずれも確定ではないが何らかの発癌性を疑わせるデータのあるもので、
そのうちよりデータの多いかその信頼性が高いものが、
2Aという区分になるようです。

今回の携帯電話の電磁波のカテゴリーは、
2Bです。

今回の基礎となったデータは、
WHOのプレスリリースを読むと、
昨年も発表された、
1つの研究結果によるもので、
これは2004年までに携帯電話の使用状況と、
脳腫瘍の発症との関連性を調べたところ、
1日30分以上の通話を10年以上続けた群において、
神経膠腫というタイプの脳腫瘍が、
40%のリスク増加を認めた、
というものです。
ただ、放射線の発癌の調査の時にもご説明しましたが、
こうした検証は、
ある程度電磁波の被ばく量と、
その腫瘍の発生との間に、
量的な相関がないと充分とは言えないのです。
仮にしきい値のようなものがあるなら、
それは何処であるのかの検証も必要です。
この結果はそうした相関性には乏しいため、
データの価値はまだ弱いのです。

こうした限定的な関連性は、
神経膠腫以外に、
聴神経腫瘍という、
聴覚を伝える神経の腫瘍についても認められましたが、
結局現時点でトータルには明瞭な差異が検出出来ず、
動物実験のような裏付けのデータもないので、
そのカテゴリーは2Bになった、
ということのようです。

脳の神経膠腫というのは、
脳の組織の間質から由来する腫瘍で、
脳腫瘍の中では一番頻度の高いものです。
この病気には登録制度のようなものはないので、
日本の統計はあまり信用性のないものです。
従って、実際の日本でのこの病気の頻度は、
正確には分かりません。
アメリカの資料によると、
人口10万人当たり、1年当たりの脳腫瘍の発症が十数人で、
そのうちの25~30%程度が神経膠腫だと書かれています。
(ハリソン内科学の記載は脳腫瘍の5~6割が神経膠腫とされています)

脳には神経細胞がある訳ですが、
脳腫瘍の殆どは神経細胞以外から発生しています。
これは心臓に癌が少ないのと同じで、
人間にとって最も重要な細胞群は、
発癌から守られるように出来ているようです。
このメカニズムが分かれば、
癌の抑制に非常に役に立つと思われますが、
現時点ではクリアではないようです。

神経膠種はグリア細胞という間質細胞由来の腫瘍で、
星細胞系腫瘍など幾つかの種類に分類されます。

この神経膠腫はその悪性度は様々ですが、
基本的には全て悪性腫瘍です。
このタイプの脳腫瘍が、
放射線の被ばくで誘発されることはよく知られていて、
以前の白血病の治療などで脳に照射された放射線により、
二次発癌が起こることが複数報告されています。

従って、電磁波を携帯電話の通話で、
脳に長期間浴びせる行為が、
そのリスクを高めるのではないか、
ということも想定が可能です。

放射線誘発性神経膠腫の予後は、
あまり良くないことが知られていて、
その意味からは、
まだ明確な発癌性が認められた、
というレベルではないようですが、
早期に1つの警告を発した、
という意味は大きいのではないか、
と思います。

おそらくは耳から離して使用するタイプの携帯電話が、
今後は主流になるのではないでしょうか。

Lancet Oncology誌に文献が出るようなので、
入手出来たらその内容もまたご報告したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(40)  コメント(12)  トラックバック(0) 

nice! 40

コメント 12

midori

このニュースは、社内でも衝撃が走っていましたね。
私は電話がキライで、携帯を使うのは8割以上メールとネットなので、
全然気になりませんけども。

だけどもう、この歳ですしね、
これから癌になっても、原因なんかわかんねーよな、
電磁波だかなんだか知らねーけどよぅ、
癌家系だったり、酒だかタバコだかかもしんないし、
ガキん時は公害あったし、ヤベえ駄菓子食ってたしよぉ、
いま放射能だってあんだからよ、そらそーだぁ、
などという、やぶれかぶれな結論に至って仕事に戻りました。

でもでも、
新しい情報お待ちしております。
by midori (2011-06-02 09:52) 

まみしゃん

私は聴神経腫瘍になるリスクがあると新聞で見かけてゾッとしました。
というのも、単身赴任中の夫との連絡は携帯電話だけなので・・・せめてイヤホンを繋いでおこうかと考え中です。
もう人生半分過ぎてるとは言え、避けられる病気は避けたいなぁと。
今後も気になるニュースです。
by まみしゃん (2011-06-02 14:55) 

taka

このニュースを見てついに出たかと思いました。
前から携帯電話やPC、はたまた電子レンジにまでリスクの噂がありましたから。

でもこの歳だしもう心配しても遅いですね(笑)
midoriさんと同じで癌になっても原因は判らないなと思いますし。

by taka (2011-06-02 17:01) 

ide

逆二乗の法則というのがあって、近距離だとものすごい量になるんですよね、これ。
隣のビルの携帯中継局だんだん大きくなってくるんですよ、なんか知らないうちにアンテナ二本になってるし。
公共性のある携帯電話なのだから市役所や公共施設の屋上に建てればいいのになぜか逆に建ててはいけないという法案が成立しそうですし、出力規制なんて皆無ですしね。
回避する労力が多大であればあるほど問題ない安全であると思い込もうとするものですが、さすがにこの状況、行政の対応ではどうしたものかと。数千万かけて引っ越すべきか、アルツハイマーとか肺がんとか付近のお年寄り多いんですよね、原因不明不治の病というのがあるとどうしても関連を疑いたくなりますよ。

by ide (2011-06-02 22:14) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
僕も自分の身体的には、
殆ど気にはしていません。
ただ、これを機会に携帯の長電話が、
少なくなる方向に向かえば、
それはそれで良いな、
と固定電話時代の人間としてはそう思います。
by fujiki (2011-06-02 22:27) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
確かに聴神経腫瘍は増えそうに感じるのですが、
実際にはそのリスクの増加が、
はっきり確認されたデータはないと思います。
by fujiki (2011-06-02 22:29) 

fujiki

taka さんへ
コメントありがとうございます。
便利なものには、
それなりに全てリスクはあると、
考えた方が良いのかも知れません。
by fujiki (2011-06-02 22:30) 

fujiki

ide さんへ
コメントありがとうございます。
神経膠腫は放射線誘発癌が多いので、
ちょっとレアなケースではないかと思いますし、
まだはっきり関連性のある、
と言い切れるほどのものではありません。
ただ、分からない分、
確かに怖い面はありますね。
by fujiki (2011-06-02 22:33) 

fujiki

まみしゃんさんへ
WHOのプレスリリースを読み直したら、
確かに聴神経腫瘍についても、
限定的な関連性が認められる、
との記載がありました。
ご指摘ありがとうございます。
記事にちょっと手を入れました。
by fujiki (2011-06-02 23:10) 

いくみ

昨夜のAXN:判事ジョンディードでの2週間連続のテーマが携帯電話による脳腫瘍発症を裁判で争うものでした。携帯開発の研究者はその関連性を認識し会社に対して警告も会社は利益優先で黙殺その結果の発症という争点でした。BBC制作ドラマですからヨーロッパのほうがその関連性に関しては意識が高いのかと思います。あくまでドラマですが、現実にかなり近いだろうと予想していた先のこのブログを読み、やはりそうだったのかと一言言いたくてコメントしています。
日本では新聞に関連記事が書かれるとしても、小さくあまり注目されません。日本でも関心が高まるような知識層からのアピールやアクションがもっとあることを願います。
非常にタイムリーな記事をありがとうございました。
私自身は携帯はメールのみでほとんど使用しませんが、仕事上欠かせない人は沢山いると思いますので一人でも、注意を喚起してくれれば嬉しいと思います。
by いくみ (2011-06-03 10:43) 

まみしゃん

石原先生、記事を改めて読ませていただきました。
今後も注意深く、適切な情報を得ることができますように・・・お忙しいをころをありがとうございました。
by まみしゃん (2011-06-03 17:24) 

fujiki

いくみさんへ
コメントありがとうございます。
日本の規制が海外に比べて緩い、
という報道もあり、
なるほどな、という感じです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-06-04 08:18) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0