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診療所周辺情報(2011年4月) [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から介護保険の意見書を書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は診療所周辺の医療情報です。

地震の頃からインフルエンザが、
再び一時的な流行を示しました。

B型が主体の流行で、
処によってA型(H1N1pdm)が混じる、
というちょっと不思議なパターンです。
A型は典型的なものは先に咳が先行して、
それから熱が出ます。
B型は症状はかなり幅があるのですが、
夜には高熱が出て、
昼には微熱まで下がることを繰り返すのが、
比較的一般的な経過です。

お子さん中心の感染で、
保育園や小学校の集団感染が主体です。
大人も感染はしますが、
概ね軽く済みます。
お子さんの場合も3日程度で回復することが多いのですが、
お一人のお子さんは急性気管支炎を併発して、
5日経っても熱が下がらず、
高次の医療機関にご紹介しました。
これは他の病原体との、
重複感染の事例と考えられました。

甲状腺ホルモン製剤を始めとして、
震災に伴う薬の不足が、
都心でも危惧されていますが、
現時点ではまだ診療所周辺でも、
チラージンSは処方は可能です。
しかし、明日は分かりません。

危機的状態にあるのは、
成分栄養剤の代表であるエンシュアリキッドで、
これは製造元の説明では、
製剤を入れる缶を岩手の工場でのみ作っていたので、
栄養剤自体はあっても、
それを缶に詰めることが出来ずに、
品薄になっていしまっている、
ということのようでした。

それなら別の缶に詰めれば、
それで良いではないか、
と考えるところですが、
医薬品の扱いになっているので、
簡単にそうした措置が取れないのだそうです。

1000年に一度の災害なのですから、
容器くらい特例で他のものと変えられるように出来ないのでしょうか?

行政の柔軟な対応を望みたいと思います。

この影響を受け、
同種の栄養剤であるラコールも、
エンシュアリキッドからの切り替え需要の急増で、
品薄になり使用出来ない状態となっています。

これは非常に困ります。
エンシュアリキッドには胃瘻用に、
パック入りの製剤があるので、
それを牛の乳を搾るように、
コップに絞って利用することを、
1週間ほど前に来た製薬会社の方に勧められました。
それでも良いかな、
と思っていたら、
昨日の話では胃瘻用のパックも、
既に品薄で使用は困難とのことです。

聞くところによると、
納豆や牛乳の不足も、
原料ではなくパックの容器の工場が、
被災したことが品薄の要因のようで、
ペットボトルの水もペットボトル容器の不足が、
品薄の1つの要因になっているようです。

如何に多くのこうした容器が、
北関東から東北地方で作られていたのか、
ということを、
今回初めて知った思いがします。

他の現時点での情報によると、
まずツムラの漢方薬に、
出荷制限が掛かっています。

これは茨城にある工場が、
計画停電の影響で生産が出来ず、
使用量が確保出来ないためのようです。
(伝聞の情報なので不正確でしたらご指摘下さい)

抗痙攣剤で抗不安薬としても使用されることの多い、
リボトリールも出荷制限が掛かっています。
工場の被災もしくは計画停電の影響のようです。

この薬は心療内科領域では、
非常に使用頻度の多いものですが、
古い薬で利益が少ないため、
ジェネリックが存在しません。

チラージンSのケースもそうですが、
ジェネリックの制度を無理矢理に推進する、
というのが国策であるなら、
もう少しこうした薬の流通の問題も、
同時に考えて頂きたいと思います。

一般に人気の高いハップ剤である、
モーラステープも出荷制限が掛かっています。
これもツムラと同様の理由のようです。

いずれも現時点での見通しは、
4月下旬には改善し、それでもこれまでの生産量の、
7割程度しかその後も回復はしない、
というのが、
メーカーの一致した見解です。

これはおそらく、
計画停電が4月下旬には不要になる、
ということがその前提で、
しかしその後も、
ギリギリの節電を東京電力や国から要求されるとすれば、
7割程度の生産に留まらざるを得ないだろう、
という試算なのだと思います。

従って、そうなる保障もなく、
供給は回復しない可能性もあります。

福島県の南相馬や宮城県から、
都内に疎開されて来た方が、
先週から診療所にも受診をされています。

先日初診でお出でになった高齢の男性の被災者の方は、
それまで避難所で生活をされていたのですが、
受診をされ診察室で血圧など測っているその瞬間に、
急に左半身がダラリとなって動かなくなりました。
診察室には普通に歩いてお出でになったのに、です。

ええ、どうして…
という感じでしたが
救急病院に電話をして受け入れの依頼をすると、
救急車を呼んですぐに診療所から救急病院に運びました。

数日後にご家族がお出でになり、
かなり広範な脳梗塞を起こされていた、
とのことでした。

こうした時に僕のような診療所の医者は全くの無力ですが、
ご家族の方が、
「これが避難所だったら今は死んでいたと思います」
と言われたので、
少し心が救われました。

こうした時には被災地の状況が、
他人事ではなく頭を過ぎり、
今なすべきことをなすべきだ、
と改めてそう思います。

嘱託医をしている老人ホームの正面に、
大きな桜の木があるのですが、
昨日はもう1割程度の蕾は開いていました。

暗いニュースが多いですが、
フランスが本格的に原発事故の収束のため、
介入に乗り出したことには、
僕は希望を持っています。
昨日はフランスの専門家が、
もっと広範な地域で、
ヨード剤を配布するべきだ、
との見解が報道されましたね。

あれは、昨日の記事でお話しましたように、
フランスの基準では日本の半分の、
50mSvが投与の基準になってるからです。

このように情報がオープンに出て来ることが、
事故の終息に向けては何よりも大事なことだと、
ああ結局日本は外圧がないと何も出来ないのだな、
とは思いながらも、
希望は持っているところです。

今日は診療所周辺を中心とした、
雑駁な医療情報をお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

iyashi

これからのジェネリックのあり方を、意義を再考する時ですね。
利益だけを追求するようなジェネリックではなく、こういった災害時の為に代用品が存在し、安定した医療が継続できなければならない訳ですから。
薬価が安くとも大切な薬は沢山存在しますから、そういった薬をジェネリックメーカーには製造するよう行政が介入し、医薬品が安定供給されるべきだと思います。
by iyashi (2011-04-02 09:41) 

ごぶりん

茨城県は被災地ということで計画停電地域外なんですよ。
当初は入っていたのを県の橋本知事が抗議したとかしないとか・・・。
阿見工場は震災のダメージによる操業停止と管薬さんから聞きました。
去年、工場見学させて頂いたばかりということもあり当初は本当に心配でしたが
http://www.tsumura.co.jp/emergency/index.html
にあるように生産のめどが立ってきているので少し安心しました。

茨城工場で生産されている為、欠品の連絡があった18品目のうち、
43と100はよく使われているのでやむをえず分割調剤となった処方もあります。
ただ、これを機にツムラが推し進めてきた病名調剤を見直せば、他の方剤を使用するという選択肢も出てきて患者さんの負担にならないかなとも思いました。
実際、100は大腸癌手術後のイレウスによく使われているのですが、
効かない患者さんも多いのです。
本当は1日6包の用法なのに多いと患者さんが嫌がるということで3包になっているからかもしれませんが、何より証が合っていない事の方が大きいと思います。

チラーヂンSは今のところ用意しているジェネリックは使わずに済んでます。
震災後、最初の月曜日に180日処方があり、その後も前回処方よりさらに日数が増えた処方ばかりになってますが、何とかなっています。

インフルエンザB型は何だか漢方での少陽病期と似てますね。
かなり前にB型が流行った時に浅田宗伯先生の考案された柴葛解肌湯(スペイン風邪に効いたらしい。)が処方された患者さんもおられましたが 、それでかな?


by ごぶりん (2011-04-02 12:01) 

山崎博史

いつも、大変参考にさせて頂いております。あすか製薬のホームページによると、チラーヂンですが、サンドから緊急輸入になります。また、いわき工場も復旧しつつあるようですよ。
by 山崎博史 (2011-04-02 14:48) 

なまず

いつも楽しく読ませていただいてます。
大阪府の調剤薬局で働いています。
昨日ツムラの大建中湯が底をつきました。
チラーヂンほどの命に係わるものではありませんが
かかりつけ薬局としてかかりつけ患者さんの薬を確保できないことほど申し訳ないことはありません。
ツムラの茨城工場の天井の一部が破損して、工場がGLPの基準を満たさなくなったので操業できないという話を聞きました。ラインは無事だそうです。計画停電の影響もありうる話ですね。

by なまず (2011-04-02 15:47) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
ご指摘の通りだと思います。
新薬だけを売ろう、という姿勢は、
変えるべきだと思いますし、
薬価を下げ過ぎて、
古い良い薬が利益の出ない状態になっている、
というもの健全なことではないと思います。
上げるものは上げて、
下げるものは下げて、
薬価自体をもっとトータルに見直すべきだと思います。
by fujiki (2011-04-03 11:20) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
不正確な記述をすいません。
ごぶりんさんにお聞きしてから記事にした方が良かったですね。
チラージンSは多分大丈夫そうですが、
他にも色々と影響は出そうです。

by fujiki (2011-04-03 11:23) 

fujiki

山崎博史さんへ
コメントありがとうございます。
場所がいわき市だという所に、
若干の不安があります。
ただ、日産の工場も再開の方向ですし、
いわき市に影響が今後及ぶなど、
そんなことは許さないぞ、
という姿勢が大事なような気もします。
by fujiki (2011-04-03 11:25) 

fujiki

なまずさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
計画停電の話はないようです。
裏取りをしないで書いてしまったので、
申し訳ありませんでした。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-04-03 11:26) 

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