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コレステロール低下剤と糖尿病の発症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

うっかりしてホームページに告知しなかったのですが、
本日は健診があるため、
一般の診療は午後5時で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。

スタチンと呼ばれる薬があります。

商品名ではメバロチンやリポバス、
リピトール、クレストール、リバロ、
などがそれに当たります。

その主な働きはコレステロールの合成を、
肝臓で抑えることで、
そのことにより血液のコレステロールを、
強力に減少させます。

メバロチンの創薬は、
正に画期的なことでした。
コレステロールが高いことが、
動脈硬化を進め、多くの病気の原因となることは、
分かっていたにも関わらず、
それまで有効にコレステロールを低下させるという、
薬剤が存在しなかったのです。
多くの臨床家には無念の思いがあったのです。
その多くの医師の夢が、
ここに叶うことになったのでした。

そうした薬剤が次々と発売され、
動脈硬化を予防する時代が始まりました。

スタチンの治療が、
多くの患者さんの、
特に病気の再発予防に、
大きな貢献をしたことは、
これは紛れも無い事実です。

ただ、こうした薬の効果が著明であったので、
あまりに安易にその使用が拡大した、
という面があったことは事実です。

そしてその効果ばかりでなく、
スタチンの持つ問題点が、
最近指摘されるようになりました。

その中で、
最近注目されているものの1つが、
スタチンに糖尿病の発症を、
増やすような作用があるのではないか、
噛み砕いて言えば、
スタチンを飲んでいると血糖値が上がるのではないか、
という指摘です。

実際、コレステロールの高い方に、
スタチンを使用したところ、
比較的短期間で血糖値が糖尿病のレベルまで上昇し、
スタチンを中止したところ、
その血糖値がまた速やかに低下した、
という症例報告が少なからず存在し、
また僕自身もどうもそうではないか、
と思えるような事例を経験しています。
現在日本ではリピトール(アトロバスタチン)のみに、
糖尿病患者で使用注意の文言が加えられていますが、
これはちょっと公平を欠く、
という気がします。

昨年の2月の英国の医学誌「Lancet 」に、
これまでの多くの大規模臨床試験を検証した、
メタアナリシスの論文が掲載され、
それによると、
どのスタチンを使用した場合においても、
若干の血糖値の上昇が認められ、
4年間のスタチンの治療により、
255名に1名の比率で、
糖尿病が発症する、という結論でした。
ただ、これは心臓病のリスクのある患者さんに使用する上においては、
その心臓病予防のメリットを上回るものではなく、
コレステロール低下療法自体のメリットを、
否定する内容とはなっていません。

僕の経験的な印象としては、
スタチンが全ての患者さんの血糖を、
上昇させる作用があるとは、
とても思えません。

ただ、稀にスタチン使用中に、
血糖値が急激に糖尿病域に、
上昇する患者さんがいることは事実で、
問題はどのような患者さんに、
そうしたことが起こり易く、
またそれはどのようなメカニズムによるものなのか、
ということの解明にあるのではないか、
と思います。

インスリンの効きを悪くするような作用があるのでは、
というデータが報告されていて、
また、インスリンの重要な働きは、
細胞の中にブドウ糖を取り込むことですが、
その時に働くグルコース・トランスポーターという蛋白質に、
スタチンが影響を与えるのではないか、
という報告もあります。
ただ、それと反対の報告もあり、
そのメカニズムはまだ立証されたものではなく、
スタチン間に差があるかどうかも、
はっきりとはしていません。

リバロ(一般名ピタバスタイン)は、
日本で創薬されたスタチンで、
CYPで代謝を受けず、
血糖を上昇させる作用はない、
と製薬会社では説明しています。

ただ、これは事実かも知れませんし、
まだそうしたデータの蓄積が少ないためで、
同様の作用があるのかも知れません。

いずれにしても、
スタチンを使用している患者さんでは、
定期的な血糖のチェックは必須です。
スタチンを使用している患者さんで急に血糖値が上昇したら、
まずはスタチンの中止が、
糖尿病の治療に優先するからです。

今日はコレステロール低下剤の、
稀な副作用についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 12

元MR

はじめまして。
いつも更新を楽しみにしております。

2年前にMRをやっていた頃、
先生のおっしゃる内容と同じ理由(血糖値への影響)で
某ストロングスタチンの処方量を減らしていたドクターが
いらっしゃったことを思い出しました。

そのドクターはメバロチンとゼチーアの併用という
一風変わった処方をされていました。

ストロングスタチンの血糖への影響・・・
最近は、よく言われるようになっているんでしょうか。
by 元MR (2011-02-14 16:24) 

fujiki

元MRさんへ
コメントありがとうございます。
まあ、時々チラチラ出る程度の話題だと思います。
ただ、稀に急上昇するようなケースの、
存在することは事実だと思います。
by fujiki (2011-02-14 21:41) 

はる

いつも勉強させていただいている薬剤師です。

糖尿病を合併した患者さんはリピトールは控えた方がよいと思っていましたが、リピトールを悪者扱いしすぎでしょうか・・(笑)。

当院では脳梗塞や糖尿病の入院患者さんはクレストールの新規処方が圧倒的に多く、時々ゼチーアの併用もみられます。ゼチーアの血糖上昇作用はスタチンと比べていかがでしょうか・・。

by はる (2011-02-15 00:40) 

fujiki

はるさんへ
コメントありがとうございます。
メカニズムがはっきりしていない以上、
リピトールを特別視する必要はなく、
どんなスタチンでも、
稀に血糖の上昇をきたすケースがある、
という理解で良いのではないかと思います。
by fujiki (2011-02-15 08:15) 

MDISATOH

Dr.Ishiharaとても勉強に成りました。

私の妻は、私と共に精神科に通っていますが、ある時血液検査で血糖値が軽度に上昇しているとの事で、それ以来糖代謝内科に通院し、
寧ろ、コレステロールを抑える為に、最初リポバスを処方されましたが、
余り効果が無く、クレストールに切り替え効果が出ました。
然し、先回正月明けの検査で、軽度の血糖値上昇が有り、糖尿病予備軍とされましたが、単に正月に美味しいものを食べ過ぎたのが原因とばかり思わない方が良いのでしょうか?
by MDISATOH (2011-02-16 04:33) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。
おそらくはクレストールとは無関係だと思いますが、
急にインスリン抵抗性が悪化した場合などは、
クレストールの影響も、
否定は出来ないと思います。
by fujiki (2011-02-16 08:16) 

とも

Diabetologia (2014) 57:878-890
エゼチミブで血糖上昇の機序の論文があります
by とも (2014-04-30 17:05) 

にゃおん

クレストール2.5を1.5ヶ月服用してHa1cが5.4から6.0に上昇しました。お医者様は食べ過ぎ(?)とおっしゃいましたが
その間、2週間ほど歯痛その他であまり食べられない日々があったのです。6.0と言う数値は今まで経験したことがなく、自分の感覚としては「食べられなかった」なので、どの様に食べていったらよいのか考え込んでしまいました。
この記事を読ませて頂いて合点がいった気がします。
by にゃおん (2015-04-16 00:10) 

fujiki

にゃおんさんへ
コメントありがとうございます。
もう少し経過を見ないと、
何とも言えないかも知れません。
長期間でジワジワ上がることが、
多いように思います。
by fujiki (2015-04-16 08:26) 

にゃおん

お返事ありがとうございます。
確かに1.5か月で答えを出すのは早計ですね。
ストレスでも血糖値は上がるのですよね。歯痛はかなりのストレスですから。
でも怖くて飲めません。誰かにお話ししたかったので、聞いて頂けてありがたかったです。
by にゃおん (2015-04-16 14:33) 

um

私は数か月スタチン製剤を服用 尿検査で+++が出ました。
服用を止めると正常値になりました。
稀にある間違いのない事実だと確信します。
石原先生のブログ、大変参考になります。
先生もお体にご自愛ください。
by um (2016-09-23 21:28) 

fujiki

umさんへ
コメントありがとうございます。
umさんもお身体ご自愛下さい。
今後ともよろしくお願いします。
by fujiki (2016-09-24 06:12) 

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