SSブログ

三島由紀夫「わが友ヒットラー」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
体調は悪かったのですが、
今日走らないとズルズルになるな、
と思ったので、
走りには行きました。
道はつるつるに凍っていて、
気をつけているつもりで一度転びました。

今日は予定があったのですが、
体調が悪く墓穴を掘りそうなので、
あきらめて家にいることにしました。
早く良くなるといいのですが…

休みの日は趣味の話題です。

今日の話題はこちら。
ミシマダブル.jpg
最近は何でもありの狂い咲きの感のある蜷川幸雄が、
三島由紀夫の比較的晩年の2つの戯曲、
「サド侯爵夫人」と「わが友ヒットラー」を、
ほぼ同じセットによる、
同時上演の形で上演しています。

三島由紀夫は多くの戯曲を書いていて、
劇作は彼の藝術活動の柱の1つでもあったのですが、
現在それなりのレベルで上演されることは、
それほど多くはありません。

「サド侯爵夫人」はその中では、
比較的恵まれた位置にあって、
初演当時から名作の誉れが高く、
三島の死後も何度も上演がされています。
「黒蜥蜴」は三輪明宏の独占物のようになって、
無残な姿を曝し、
「鹿鳴館」は浅利慶太の手によって無残な姿を曝し、
近代能楽集はその短さのためによく上演されますが、
三島戯曲として上出来なものではありません。

「わが友ヒットラー」は、
「サド侯爵夫人」と一対で元々構想された作品ですが、
その題名がヒットラー礼賛のように取られかねず、
単独での上演は滅多にありません。

ただ、勿論そんな単純な作品ではありません。

実際に上演されるのを観るのは、
僕も今回が初めてですが、
非常に叙情的で悲劇的な物語で、
役者のレベルや疑問の残る演出など、
不充分な上演ではありましたが、
それでも感銘を受けました。

この作品は所謂「レーム事件」を題材にしています。

ドイツの首相となったヒットラーは、
かつての盟友であり親友であった、
ナチス突撃隊隊長のエルンスト・レームを、
騙して武装解除させた上で、
部下諸共一夜にして粛清するのです。

この作品のレームは、
軍服好きの少年が、
そのまま大きくなったような潔癖な軍人で、
乱暴者で純粋で変態の、
つまり三島自身の分身的存在です。

彼は親友のヒットラーに、
唯一無二の絶対的な忠誠を捧げ、
その存在は彼の世界そのものです。

「わが友ヒットラー」という題名の意味は、
レームの視点でのヒットラー、
ということなのです。

語られませんが、
結局この作品のヒットラーは、
三島の思う天皇陛下なのです。
この作品は226事件の陰画のようなもので、
青年将校が天皇陛下に裏切られ殺されるのと、
ほぼ同一の物語です。

このレームを、
東山紀之が演じたのですが、
このキャスティングは秀逸で、
この役は自分の肉体に対する、
ナルシスティックな信頼がなければ、
成立しない役どころなので、
彼が演じると、
演技は未熟であっても、
彼の存在自体が、
三島の魂を引き寄せるような思いがあり、
レーム自身がそこに出現したような、
非常に神秘的なものを肌で感じました。

対するヒットラー役は生田斗真で、
熱演ではありましたが、
ヒットラーの苦悩だけが表に出て、
台詞の裏に暗示されている、
彼の狡猾さが見て取れなかったのは、
特にレーム死後の3幕を、
ちょっと蛇足に感じさせてしまったと思います。

三島の戯曲には、
他にも上演して欲しいものが多くあるのですが
(勿論ある程度の納得のいくレベルの上演に限ります)、
それが叶うことはなさそうです。
蜷川幸雄の演出は、ムラがあり、
今回はどちらかと言えば失敗の部類で、
音楽がワーグナーというのも、
あまりに当たり前過ぎて脱力してしまうのですが、
この時代にこの作品を持って来る辺りは、
その嗅覚には時代を生き抜いて来た、
ハイエナの知恵を感じる思いがしました。

多くのレームが今もいて、
粛清が行なわれ、
それが見当外れのニュースになっているのです。
では、ヒットラーは誰でしょうか?
おそらくその本人には、
自分がヒットラーだと言う自覚はない筈で、
自覚のない権力者ほど、
怖ろしい存在はないのだと、
日々実感する思いもあるのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(22)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 22

コメント 4

いっぷく

三島関連では今、やはりジャニーズの森田剛が
「金閣寺」の火を付けた僧侶を演じていますね
森田は昨年、蜷川演出で「血は立ったまま眠っている」にも出て
テロリストを演じていますし
使い捨てのアイドルで終わらせない
ジャニー喜多川翁の構想の深さを感じています
by いっぷく (2011-02-13 19:18) 

fujiki

いっぷくさんへ
コメントありがとうございます。
矢張り華があるので、
役柄が嵌まれば、
輝きを増します。
そうした選択は、
蜷川幸雄は上手いと思います。
by fujiki (2011-02-13 20:21) 

iyashi

先生のお話には大抵オチがあるので、読ませて頂いていて楽しいです。
落語がお好きだからでしょうか(^^)
by iyashi (2011-02-13 22:11) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
締め括りにちょっと意味ありげなことを、
付け加えるのは好きなのですが、
正直そう考えてしている訳でもありません。
by fujiki (2011-02-14 06:26) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0