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日本の骨粗鬆症治療の問題点 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は僕の考える、
日本の骨粗鬆症治療の問題点を、
まとめておきたいと思います。

まず、どのような患者さんを、
ビスフォスフォネートを主体とした、
治療の対象にするか、
と言う点についてです。

「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」によると、
骨に含まれるカルシウムを測定する検査で、
若い年代の骨の量の7割を切るような数値が得られれば、
それだけで薬物治療の開始を考慮する、
と書かれています。

勿論細かく読むと付帯条件は色々ありますし、
その治療薬も必ずしもビスフォスフォネートだけではないのですが、
実際には薬物の評価表を見れば、
全てA判定なのはビスフォスフォネートだけなのですから、
骨の量が骨粗鬆症の治療基準以下であれば、
ビスフォスフォネートを処方するのが最善の治療だ、
とどうしても考えるように書かれています。

ビスフォスフォネートは高価な薬剤で、
製薬会社にとってはドル箱の1つです。
その薬をジャンジャン使うことが、
正しい治療だと言わんばかりの内容は、
僕にはちょっと違和感がありますし、
何となく裏の意味合いを感じさせます。

昨日ご紹介したように、
欧米のガイドラインでも、
骨粗鬆症にはビスフォスフォネートは第一選択の薬です。

しかし、欧米で主に治療の対象になっているのは、
閉経後の女性です。

骨粗鬆症の臨床研究は殆ど全て、
特にビスフォスフォネートの骨折予防効果については、
閉経後の女性に使用した場合の結果です。

確かにビスフォスフォネートを、
男性の骨粗鬆症に使用したデータもありますが、
その多くは比較的古いもので、
骨塩量の増加は認められても、
骨折の予防効果、特に大腿骨の骨折の予防効果は、
閉経後の女性のデータと比べると、
かなり見劣りのするものです。

つまり、閉経後の女性以外でビスフォスフォネートの治療を行なっても、
その骨折予防効果が本当にあるのかを含めて、
信頼のおけるデータはあまりないのです。

これは僕の個人的な意見ですが、
高齢の男性における骨量の減少は、
カルシウムやビタミンDの不足による場合が多く、
骨吸収が亢進してはいないケースが多いのです。
それに対して骨吸収を強力に抑制するビスフォスフォネートを使用することは、
却って有害な場合も多いのではと思います。

しかし、日本の治療開始基準は、
年齢の制限すらなく、
骨のカルシウム含有量の検査のみで、
副作用もある薬の使用を、
当然の如く求めています。

これは本当にあるべき姿と言えるのでしょうか?

次に治療開始の基準にもなっている、
骨密度測定法への疑問です。

昨日ご紹介したアメリカの文献では、
骨の量の測定は、
デキサ法を用いて、
背骨と大腿骨の頚部の、
両方を測定することが望ましい、
と書かれています。
デキサ法とは2つの異なるエネルギーの放射線を用いて、
定量的に骨の密度を測定する方法です。
この手法は原理的には、
全身の骨の測定を、
その部分ごとに行なうことが出来ます。

日本のガイドラインでも、
腰椎の測定が望ましい、と書かれていますが、
実際に日本で行なわれているのは、
同じデキサ法でも腕の前腕の骨を測定する方法と、
通常の手のレントゲン写真から計算式で割り出す方法の、
2種類が主なのです。

しかし、そもそも骨粗鬆症の治療の目的は何でしょうか?

それは骨折の予防です。

それも骨粗鬆症の主に関わる骨折は、
背骨の圧迫骨折と大腿骨頚部骨折の、
2種類です。

お年寄りの腰が前に曲がっているのは、
背骨が潰れたためです。
この原因が背骨の圧迫骨折で、
腰の曲がる原因になるばかりではなく、
激しい痛みで活動が困難になることも稀ではありません。
また、大腿骨頚部骨折は、
躓いたような時に、
足の骨の付け根が折れるもので、
折れれば歩行が出来なくなり、
お年寄りの寝たきりの大きな原因になります。

それ以外の骨折は頻度自体が稀ですし、
寝たきりの原因になるような、
影響を与えることは少ないのです。

つまり、骨折というのはその2種類の骨折の予防、
と言い換えても間違いではないのです。
とすれば、骨の量を測定するなら、
その場所で測定しなければ、
あまり意味はない、ということになります。

骨には大雑把に言えば、
皮質骨と海綿骨の2種類があります。

両者の骨は、
実際にはどの骨でもミックスされて存在するのですが、
その配分にはその骨の部位によって、
かなりの違いがあります。
海綿骨というのは背骨や踵の骨の成分に多く、
固いスポンジのような構造をしています。
その一方で皮質骨というのは、
層状の構造をしていて、
手や足や指の骨がその配分の多い骨の代表です。

そして、この2種類の骨は、
その減り方にも違いがあるとされています。

つまり、背骨の減りは大きいけれど、
手の骨はそれほど減っていない、
というようなことが実際には有り得るのです。
たとえば、副甲状腺ホルモンの機能亢進症では、
皮質骨優位に骨量が減少します。

従って、背骨のような海綿骨の多い部分の、
骨折のし易さを判断するのに、
手の指の骨や腕の骨のような、
皮質骨の多い部分のデータを用いるのは、
本来はあまり適切なこととは言えません。

しかし、日本では全身の骨を測れるデキサの装置が、
採算に合わないような診療報酬のために、
あまり普及することがなく、
その代わり腕の骨のみが測定可能な、
簡易デキサ測定器が、
主に整形外科の診療所向けに、
比較的廉価で売りまくられたために、
もっぱら腕の骨の測定値のみを元に、
骨粗鬆症の診断が行なわれ、
その数値が基準値を下回れば、
オートマチックにビスフォスフォネートが使用されるような、
やや杜撰な治療が常態となっているのです。

問題は現状のガイドラインが、
実際にはそうした診療を認めている、
と言う事実です。

ガイドラインに引用されているデータは、
殆どが海外のもので、
かつ閉経後の女性に限ったものなのに、
それを年齢や性別の区分もなく、
一定程度骨の量の減った全ての人に適応しよう、
という発想自体にかなり問題があるように、
僕には思えます。

確かにガイドラインにも、
積極的な骨塩量の測定は、
骨折の既往などが無い場合、
65歳以上の女性などとなっていますが、
実際には治療の開始と診断の基準には、
そうした区分はないのですから、
その治療効果の根拠の乏しい多くの人に、
高価で副作用もある薬剤の使用が、
行なわれる余地を残しています。

僕はビスフォスフォネートのような薬剤の保険適応は、
その骨折予防効果が、
信頼のおけるデータで確認出来る場合に限定して、
認められるべきものではないかと思います。

それ以外は自費診療とするべきです。

そして、骨塩量は治療に必須ではありませんが、
測定するのであれば、
本来は面倒でも全身のデキサで、
骨折危険部位の測定を行なうべきです。

ちょっと長くなりましたので、
明日は骨粗鬆症診療の保険診療上の問題点について、
もう少し深く考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

rtfk

皮質骨と海綿骨。恥ずかしながら初めて知りました。
かかとが砕けた、という表現がありますが崩れるように
骨折したということなんでしょうね。
海綿という名前で納得しました。
by rtfk (2010-12-02 13:13) 

fujiki

rtfk さんへ
コメントありがとうごさいます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-12-02 23:16) 

midori

なんということでしょう。
椎間板ヘルニアと診断されて治療に3カ月通いましたが
痛みがあったのは最初の3~4日だけで
あとは全くなんともないので医者は首をかしげていました。
とにかくも背骨の間は狭いらしいのですが。
で。
「今度からは骨粗鬆症の治療をやる」と宣言されてしまいました。
もちろんビスフォスフォネート投与です、週1回服用。
どどどどうしようかなー、と冷や汗かいてます。
by midori (2010-12-09 17:01) 

fujiki

midori さんへ
背骨の骨量の測定と、
代謝マーカーの測定は、
最低限やってから治療の是非を決めた方が良いのでは、
という気がします。
ビスフォスフォネート使用のメリットは、
骨粗鬆症の方の骨折予防だけで、
椎間板ヘルニアには、
基本的には無関係だと思います。
by fujiki (2010-12-10 08:46) 

midori

先生ありがとうございます。
年内の整形の診察はないので、とりあえず薬は飲まないでおきます。
年末に先生のところに伺わせていただきますので、
その際にご相談させてください。
by midori (2010-12-10 10:00) 

ちまきちゃん

先生、はじめまして。私は41歳です。先日「40歳以上の人は骨密度測定を」との市からのお知らせを受けて 上記にある簡易デキサ法で前腕を測定しました。結果0.349g/㎠という大変低い数値で
骨粗鬆症との診断でした。
本当にショックでした。骨代謝マーカーは異状なしでした。月経もまだきちんとあります。痩せ気味ではありますが。①まだ41歳ですので何とか生活習慣の改善だけで、骨量は増やす事はできるでしょうか。②やはり薬物療法が必要でしょうか③整形外科だけでなく婦人科も受診した方がよいでしょうか。


by ちまきちゃん (2011-03-21 11:51) 

fujiki

ちまきちゃんさんへ
生理がきちんとあれば、
婦人科的な問題はまず無関係です。
ビタミンDとカルシウム、リン、
それから副甲状腺ホルモンの数値は、
一度見ておいた方が良いと思います。
女性ホルモン以外のホルモンが原因となる、
骨量の減少も存在します。
後、被爆の問題はありますが、
一度全身のデキサで、
骨量のチェックをしておいた方が良いかも知れません。
前腕のみのチェックでは、
当てにならない場合があります。

成長期のピークの骨量が少ないために、
骨密度に異常のある方もいらっしゃいます。
骨密度と骨の健康度や骨の強さは、
必ずしも一致するものではないので、
心配し過ぎる必要はないと思います。

体質的なものであれば、
生活習慣の改善で骨の量が、
劇的に増えることはありません。

ただ、今の状態が維持出来て、
骨折のリスクが高くなければそれで良いので、
ご病気が隠れていないかどうかのチェックが、
まずは先決だと思います。

骨代謝マーカーで骨吸収の値が高ければ、
ビスフォスフォネートの有効性が高いのですが、
高くなければその効果は限定的で、
年齢も考えると、
長期の使用で骨質を悪化させる薬剤の使用は、
あまりお勧めは出来ないという気がします。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2011-03-21 12:09) 

ちまきちゃん

さっそくの返信ありがとうございまいした。
先生のメール、うれしくてホッとして泣きました。
「骨密度」「骨粗鬆症」骨量正常値」等々
インターネットで調べ進むうちに
怖いことばかり書いてあり、ここ何日もご飯が喉をとおりませんでした。
私の人生はもう終わりだ。41歳で寝たきりになる・・・。
不安で不安で・・。
一度 全身の骨密度を測定して見ようかと思います。

by ちまきちゃん (2011-03-21 15:42) 

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