SSブログ

骨粗鬆症とビスフォスフォネートの適応について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は夕方まで先月のレセプトのチェックをして、
それから妻が今日からまた入院したので、
病院に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は骨粗鬆症の話です。

骨粗鬆症は、
骨が複数の要因により脆くなることにより、
骨折を起こし易くなる病態で、
骨折はご高齢の方の寝たきりの大きな原因となり、
また背骨の骨折は強い痛みで患者さんを苦しめます。

骨が年齢と共に、
そのカルシウム量が減り、
その構造が脆弱になることは、
ある意味自然なことで、
所謂老化の現われです。

従って、これは病気ではなく、
特に病気としての治療は必要ない、
という考え方も成り立ちます。

ただ、特に女性では閉経後に、
比較的急速に骨が脆くなり、
骨折の頻度も増加します。

そのために閉経後の女性で、
年齢に比して骨の量の減りが大きく、
その若い頃の平均値と比較して、
概ね7割を超えて低下している場合を、
病的と判断しています。

つまりこうしたケースでは、
骨折を予防するための治療を考慮する、
ということになります。

つい最近のNew England Journal of Medicine 誌に、
シカゴ大学の専門医による、
骨粗鬆症治療の実践的総説が載っていました。

非常に興味深い内容でしたので、
それを今日はちょっとご紹介します。

この先生の意見では、
骨のカルシウム量をデキサ法という方法で測定し、
その背骨と大腿骨の頭部で測った数値が、
T-score で-2.5未満を治療の対象としています。
それ以外に、背骨の圧迫骨折や、
大腿骨頚部骨折を、
それまでに起こした方で、
骨の減少傾向のある方も対象に加えます。
ただ、重要な点は、
これはあくまで閉経後の女性に限った方針だ、
ということです。

治療の目的は骨折の予防です。
それも具体的には、
背骨の圧迫骨折と、
大腿骨の頚部骨折の2種類に、
ほぼ限った予防です。

治療の第一選択はビスフォスフォネート製剤です。
現実的に、大規模な臨床試験で、
背骨と大腿骨の、両方の骨折を予防した、
というデータがあるのは、
現状はビスフォスフォネートと女性ホルモン製剤の、
2種類だけだからです。
それも全てのビスフォスフォネートではなく、
アレンドロネート(商品名ボナロン、フォサマック)と、
リセドロネート(商品名アクトネル、ベネット)の2種類のみが、
そうしたデータの存在する薬剤です。
それ以外に副甲状腺ホルモンの注射薬がありますが、
これはちょっと特殊な薬で、
高価で毎日の注射が必要なため、
あまり一般には使用されていません。

ビスフォスフォネート製剤は、
骨に取り込まれ、
骨を破壊する破骨細胞を壊死させる、
という働きを持つ薬剤です。

ただ、骨が壊れなくなるのは、
確かに治療効果として優れたものですが、
実際には骨は造る働きと壊す働きとを、
同時に行なっている訳で、
壊す働きと造る働きが、
スムースにリンクしていないことこそが問題で、
骨を壊す細胞自体が、
別に悪役、ということではないのです。

従って、骨の代謝が抑制され過ぎれば、
却って骨折のリスクが増えるのでは、
という危惧が生じます。

ただ、現時点でビスフォフフォネートにより、
骨折が全体として増加した、
というようなデータはないのです。
トータルで見れば骨折は減り、
骨の含有するカルシウムの量も増えています。

しかし、抜歯後に顎の骨が壊死したり、
大腿骨の通常は骨折し難い部位に骨折が起こったりする、
というような特殊な症状が、
特に長期間この薬を使用した際に、
複数報告されていることは事実です。

この点についての上記総説の著者の見解は、
5年間の使用の後、
しばらくは休薬期間を置く、
というものです。

要するに骨の代謝を抑え過ぎることはいけないのですが、
現在それを感知するような、
簡便な検査は存在しないのです。
ただ、5年間程度の使用については、
ほぼ安全である、というデータが得られているのと、
5年の使用で薬を中断しても、
少なくとも1~2年はその弊害は少ない、
というデータも存在するからです。

ビスフォスフォネート使用中の患者さんへの検査方針は、
使用後1ヶ月で薬剤の副作用の有無をチェックし、
3ヶ月後と6ヶ月後に、
骨の代謝マーカーの検査を行ないます。
そして骨の量の検査を、
使用後1年、3年、5年でそれぞれ施行する、
というスケジュールです。

さて、上記の骨粗鬆症に対する治療指針は、
概ね理に適ったものだと僕は思います。

皆さんはこれと同様の治療が、
日本でも行なわれている、
と思われるかも知れません。

ただ、実際にはこのアメリカの治療方針と、
日本のガイドラインとは、
異なる点が多く存在します。

また、この先生と同じ方針で治療を行なおうと思っても、
日本の健康保険では認められない部分があります。

1例を挙げると、
この先生は治療前と治療後3カ月と6カ月の2回、
骨がどれだけ壊れているかの指標となる、
骨代謝マーカーの検査を推奨していますが、
日本の保険診療では、
この検査は前後2回しか測定することが認められていません。

明日はそうした点を含む、
現在の日本の骨粗鬆症の治療の問題点について、
僕なりに考えたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(43)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 43

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0