SSブログ

狂犬病ワクチンについての補足 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

今朝「めざましテレビ」をチラ見していたら、
ワクチンを多分5歳くらいのお子さんの三角筋部に、
明らかに筋注している画像が映っていました。
テーマはインフルエンザでしたから、
インフルエンザワクチンと言うことのようですが、
それは日本では明らかな違反行為で、
小さいお子さんの、
あのような乱暴な筋注でのワクチン接種は、
リスクが高いので絶対にしてはいけません。
現行お子さんの筋肉注射で認められているのは、
サーバリックスの10歳以上のお子さんへの、
同部位の接種だけです。

それでは今日の話題です。

先日ワクチン会社の担当の方がお見えになり、
主に狂犬病ワクチンの話をお聞きしました。

今日はその内容を中心に、
狂犬病ワクチンについての、
ややマニアックな情報を整理しておきます。

問題点1;
検疫所のホームページを見ると、
狂犬病の流行地域に渡航される方には、
予防のために日本で狂犬病ワクチンを、接種するのが望ましい、
というニュアンスのことが書いてあります。
その一方で、厚生労働省のサイトを見ると、
基本的には動物に咬まれた後で速やかにワクチンを打つことが強調され、
必ずしも渡航前のワクチン接種は推奨されていません。
予防のためのワクチン接種は、
必要なのでしょうかそれとも必要性は薄いのでしょうか?

現時点での解答;
日本の現行のガイドラインによると、
狂犬病ウイルスに感染した可能性のある動物に咬まれた場合、
発症予防のために数日おきに、
5回のワクチン接種を行ないます。
この接種は咬まれてから2~3日以内に、
開始しないと間に合わない可能性があります。
また、海外では通常ワクチン接種以外に、
血液製剤である免疫グロブリンの投与が、
同時に行われます。
しかし、日本ではこの免疫グロブリンは使用が認められていないので、
特殊な場合以外には投与はされません。

一方事前に3回の狂犬病ワクチン接種が行われていれば、
1週間以内に2回のワクチン接種を行なえば、
同等の予防効果があるとされています。
この場合には免疫グロブリンの投与は不要です。

つまり、予めワクチンを打っておけば、
余裕を持って医療機関に掛かることが可能になり、
通常咬まれるのは海外ですから、
日本に戻って日本の医療機関に掛かる、
という選択肢が生まれます。
また、血液製剤でそのためリスクは皆無ではない、
免疫グロブリンの使用を免れることが出来ます。

つまり、ワクチンにはある程度の有用性があります。
それが推奨されないのは、
第一義には矢張りワクチンの製造量が限られていて、
渡航者全員に打つことは出来ないからなのです。

本当に事前にワクチンを接種するのと、
事後に慌ててワクチンを接種するのとで、
その狂犬病の発症に差はないのでしょうか?
日本では免疫グロブリンの使用が出来ませんが、
それで発症予防に充分であると言えるのでしょうか?
逆に海外では免疫グロブリンが投与されるのですが、
その安全性に問題はないのでしょうか?
これらの疑問にクリアに答えてくれる、
信頼の置けるデータは存在しないのです。
にも拘らず、
何故行政は予防のためのワクチンは不要だと、
はっきり言い切れるのでしょうか?

売りたいワクチンは必要性を強調し、
足りなくて売りたくないワクチンは、
不必要だと言うのは、
何かダブルスタンダードの言い回しのように、
僕には思えます。

問題点2;
日本の狂犬病ワクチンは何故慢性的に不足しているのでしょうか?
より多くのワクチンを製造する方法はないのでしょうか?

現時点での解答;
現行狂犬病ワクチンは1社の国産のワクチンメーカーでのみ製造されており、
輸入ワクチンは承認されていません。

ワクチンの本数は概ね1年に25000本から50000本で推移しています。

ある本には「年間5万本が製造量の限界とされ」、
という意味合いの記述がありますが、
これは毎年5万本製造している、という意味ではなく、
平成18年に渡航者の狂犬病患者が発生して死亡された事例があり、
一般に報道もされて問題になったので、
ワクチンの需要が急に高まり、
国の要請を受けて、メーカーがフル回転した結果が、
50000本だった、という意味なのです。

従って、5万本が製造されたのはその年1年だけで、
翌年は4万本強でその次の年は3万本台です。
つまり毎年5万本作れる訳ではなく、
無理をして5万本作った年が、
1年だけあった、というのが正確な表現です。

何故これ以上の本数が作れないかと言うと、
それはこのワクチンが、
SPF有精卵という、
無菌状態で厳密に育てられた、
特殊な規格の卵をその培養に必要とするからです。
この卵は日本ではあまり生産されておらず、
アメリカやメキシコからの輸入に頼っています。
そのために本数がすぐには増やせないのだ、
というのがワクチンメーカーの説明です。

1年に3万本程度、という本数は、
海外で動物に咬まれた後の感染予防としては、
充分過ぎるほどの本数ですが、
渡航者の事前の予防に使用するとすると、
とても足りない、という中途半端な量です。

実は今年の8月には、
国内のワクチンメーカーが海外の狂犬病ワクチンの、
輸入販売の契約を結んでいて、
今後海外のワクチンが日本で使用される、
道筋を付けています。

ただ、現時点で専門家の多くや行政の説明は、
このワクチンは咬まれた後に使用するのが本来で、
事前に予防に使用する性質のものではない、
というものです。

であるなら、そのことをもっと啓蒙するべきで、
一方で輸入ワクチンの道筋を付けているのは、
本当に現時点で必要なワクチンの本数は何本なのか、
また事前の予防は必要なのか不必要なのか、
という本質的な問題の議論をうやむやにするもので、
僕は適切ではないと思います。

以上、狂犬病ワクチンに関わる、
おそらくは何処にも明確には書かれていない、
マニアックな情報を今日はお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(29)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 29

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0