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診断書とその影響力についての一考察 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

心療内科的疾患の診断書については、
いつも悩みながら書いているのが、
実際のところです。

産業医で関わっている企業で、
協調性がなく、
入社して2ヶ月ほどで体調不良を訴え、
休職を希望して受診された方がいました。

主治医の診断書を持参されたのですが、
それを見ると、
病名は「自律神経失調症」で、
半年間の休職が必要です、と書かれていました。

その医療機関は初診です。

つまり、初診の患者さんを自律神経失調症と診断し、
即日に半年の休職が必要、
との診断書を交付しているのです。

果たして初診でその患者さんが、
半年間も仕事を休む必要性があると、
判断することが出来るのでしょうか?
第一、その診断書の持つ意味を、
その担当医は理解しているのでしょうか?

僕はそのことを疑問に思い、
当該の医療機関に連絡を取って、
担当医の先生にその点を問い合わせてみることにしました。

電話でお話をさせて頂いた精神科の先生は、
概ね次のようなことを言われました。

自律神経失調症という病名は便宜的なもので、
実際には適応障碍、という範疇の病態と考えられる。
その場合、本人が職場復帰に対して、
前向きな考えを持っていなければ、
結局どんな医療的介入も、
無駄だと考えられる。
従って、本人が復帰に向けて何とかしたい、
という意思を示せば、
その時点が投薬治療やカウンセリングの、
開始のタイミングになる。
休職期間の半年というのは、
本人に「どのくらいの休みが必要と思いますか?」
と尋ねた結果である。
本人が半年休みたいと言えば、
その期間は前向きな考えは持たない、という意味であり、
それは本人の責任で決めるべきことで、
それに従って診断書は記載したのだ。

皆さんはこの考え方をどう思われますか?

この先生の考えは、
ある意味的を得ているのです。
僕は正直こうした考え方はしたことがなかったので、
カルチャーショックに似た驚きを覚えました。
こうした患者さんは言わば登校拒否に近い状態です。
はなから長期休みたいという希望を持っているので、
確かにその期間は本人は社会復帰する意思はなく、
結果として医療的介入は無意味なことが多いと思われます。
従って、治療の必要性を本人に判断させる、
というのも、
こうしたケースでは医療機関の立場からすれば、
合理的だと言えなくはありません。

ただ、産業医の立場としては困ります。

うつ病などとは異なり、
適応障碍でどのくらいの休養が必要か、
というような点については、
明確な基準はないと思います。

その状況で本人の言い分通りに、
半年や1年の休職の診断書が書かれ、
その通りに休職が認められれば、
職場は混乱しますし、
人事や総務の担当者の理解も得られません。

それで本人とも相談の上、
僕は1ヶ月の休職の診断書を書いて、
1ヶ月毎に受診をしてもらいながら、
休職期間を一緒に考えてゆく、ということになります。

この方を診断した精神科医は、
ある意味冷酷な治療者だと思います。
本人は自分の思い通りに行かず、
スムースに溶け込めない職場が不満で、
そこから逃避するために病気になったのですが、
半年休んでも1年休んでも、
本人にその自分の状態を、
客観視する意識が生まれなければ、
症状は良くはならないでしょうし、
結局は職場を離れざるを得なくなるからです。
つまり、長く休むことは、
結果的には本人にとっても損なことになるのですが、
それは仕方がないことで本人の責任であり、
医療の介入するポイントではない、
と割り切っているからです。

ただ、これはこの本人にとって、
本当にあるべき治療者の態度でしょうか?
本人にとって本当に必要な休職期間はどれくらいでしょうか?
半年、1年、それとも1ヶ月でしょうか、
いやいや実際には休職以外の選択肢こそ、
探るべきなのではないでしょうか?

僕も日々そうした葛藤を感じつつ、
休職の診断書を書き、
何かから逃げざるを得ない人々に、
相対しているのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

まみしゃん

あくまでも患者の立場としての感想ですが「お医者さんがそう言うのだからそうなんだろう」と自分だったら思うだろうなぁ~と。

自分がうつ病と診断された時、お医者さんに「治りますか?」と聞いたら「あなたが治りたいと思えば治ります」と言われました。

もしかして治ったかも?と思えるようになったのはそれから9年後でした。
その後も、何度か悪くなった良くなったという状態を繰り返していますが。

外科的な病気と違って、メンタルな病気はお医者さんでも診断は難しいですよね。

それが生活に関わる産業医という立場であれば、なおさらのことだと思います。

とても難しいことですよね。
by まみしゃん (2010-11-20 21:06) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
勿論自然な回復を本人が自覚することが、
一番なのは間違いがないのですが、
現実には社会生活上のタイムリミットもあり、
兼ね合いが非常に難しいところです。
by fujiki (2010-11-21 21:17) 

ちこ

私の知り合いは良い精神科のドクターに出会えず今は社会復帰はおろかほとんど寝ないで叫び続けまともな会話もできず言葉が悪いですが狂っていると言うのが一番わかりやすい表現な状態でいます。先生に叱られた事で高校生で引きこもり10年…まだ若い彼女は結婚も出産も無理なんでしょうか。親御さんも入院させたりしても変化なしで困りはてています。正直もう打つ手なしなんでしょうか。このままだと親子共倒れなんて事にならないか心配しています。初期の頃は薬が効いてかアルバイトに出たりできたのにここ数年は悪化ばかりです。この先どうすれば良いのか教えて下さい。宜しくお願いします。
by ちこ (2010-11-21 21:55) 

fujiki

ちこさんへ
コメントありがとうございます。
難しい問題で僕も偉そうなことは言えません。
ただ、まだお若いし社会復帰が無理、
というようなことはないと思います。
まずは行政を相談の窓口にして、
継続的に対策を考えてゆくのが良いと思うのですが…
by fujiki (2010-11-22 06:24) 

ちこ

突然の相談にもかかわらずお返事いただきありがとうございました。まだ可能性があるならどんな事でもしてほしいです。自分達で調べ受診しても心ない医者の言葉に傷つき途方にくれる患者がいるのです。行政の窓口で聞いてみるよう助言だけしたいと思います。ありがとうございました。
by ちこ (2010-11-22 11:25) 

九子

もちろんfujiki先生のお考えが正しいと思います。
適応障害と言うと都合がいいですが、もしかしたら今流行の仕事嫌いの「新型うつ病」の可能性だってあるのではないでしょうか?

そうしたら彼に休職させるのは本人の思うつぼというか、甘やかしになっちゃいます。

最初の精神科の先生だけで終わっていたらそのまま半年の休職になっていたんですよね。先生のところで診て頂けたのは、彼の人生にとって幸運だったと思いますよ。
by 九子 (2010-11-22 22:06) 

fujiki

九子さんへ
コメントありがとうございます。
ストレス耐性の低下は、
非常に深刻な問題ですが、
あまり明確な処方箋は見付かりません。
今後もその方に合った、
最適の処方箋を模索したいとは思っています。
by fujiki (2010-11-23 19:27) 

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