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鈴木清順「ツィゴイネルワイゼン」 [映画]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
遊びに出掛けるつもりでいたのですが、
妻の調子が悪いので、
そんな気分になれず止めました。

それでは今日の話題です。

今日は映画の話です。
DVDで久しぶりに鈴木清順監督の
「ツィゴイネルワイゼン」を観直しました。
こちらです。
ツィゴイネルワイゼン.jpg
これは矢張り、凄い映画ですね。

僕は1980年の公開時に、
東京タワー下のプラネタリウムみたいな映画館、
シネマプラセットで初めて観ました。

その時はね、正直良く分からなかったんです。
何より長過ぎて途中で尿意を催し、
後半はそれと眠気と両方との闘いでした。

二度目に観たのは当時実家のあった鎌倉の駅前の映画館。
母と一緒に観に行ったんです。
あの映画館、今でもあるんでしょうか。
この映画は鎌倉でロケした場面が多いですよね。
それを鎌倉の映画館で観るというのも、
また趣きがありました。
その時は長さも分かっていたので、
最後までしっかり観ました。
1981年だったと思います。
初回よりは、分かったような気がしましたね。

その後テレビでやった時に観て、
ビデオでも観て、今度が6回目くらいになります。

以下、ネタばれの感想です。

この映画は内田百閒の、
幾つかのエッセイみたいな短編を原作としていますが、
ストーリー自体は殆どオリジナルです。

内田百閒にはコミカルな短編と、
怪談めいたちょっとぞっとする話との、
二つの系譜があって、
この映画の元ネタは、
その怪談めいた部分の抽出です。

具体的には、
サラサーテのレコードに謎の声が入っている話と、
屋根に石つぶての音が聞こえる話。
それから、死んだ友達の奥さんが、
貸した本を催促に来る話あたりが、
短編からの引用ですね。

主人公は青地豊二郎という、
陸軍士官学校のドイツ語教授。
これは内田百閒自身のことですね。
ただ、これは設定をもらっただけで、
この人物の内に籠もった人物像は、
百閒とは遠く隔たったものです。
彼と対比されるのが、
原田芳雄演じる中砂という謎の人物で、
青地本人とは正反対に自由奔放。
その悪魔的な言動に、
青地は翻弄され、
次第に現実と妄想との境界が、
不鮮明なものになってゆきます。

この映画のポイントは、
何処までが青地の妄想で、
何処までが現実なのか、
ということですね。

今回観直して見て思ったのですが、
前半の旅行の場面などは、
中砂という存在自体が、
青地の妄想と考えても、
成立するように撮られているんです。

ジキルとハイドのように、
秩序を重んじて絶対に羽目を外さない青地という人格が、
自分と正反対の中砂と言う人格を、
作り出しそれを遊ばせている、
とも取れる訳です。

中砂という人間自体は実在するけれど、
その性格設定は青地による都合のいい創作だ、
という解釈も出来ますね。

この映画には、一つの謎があります。

それは中砂の妻が身籠った娘の父親は誰なのか、
という謎で、
まあ謎というには、
かなり露骨な伏線が張られています。

青地が中砂の家で彼の妻に会う場面で、
障子が赤く燃えていたり、
子供に青地の名前にある豊の字が付けられていたり、
といった具合に。

そう。娘の父親は青地なのですね。
ただ、最後まで映画の中でそのことははっきりは語られません。

ラスト直前に印象的な場面があって、
前妻の幽霊のような女の家を訪れた青地が、
「ツィゴイネルワイゼン」の流れる中、
振り向いて何かを語るのです。

僕は初見の時は何を言っていたのか分からなくて、
2回目の時に、「豊ちゃんは俺の子だ」
と言っているのを確かに聞いた気がしたのですが、
今回改めて聞いてみると、
「豊ちゃんは…」以下は、
はっきり分かる形では録音されていません。

元のセリフを消して、
別の言葉を被せてあるんですね。
しかし、意味合いはそれで間違いはないと思います。
この場面、まさに映像の怪談といった怖さがあります。
真実が決して語られないのが、
恐怖を煽るんですね。

この映画は非常にエロティックな味わいがありますね。
セックスそのものは描写されないんですが、
セックスの持つ肌触りのようなものが、
実に見事に抽象化されていて、
性の全てを知り尽くしたような作り手の拘りを感じます。

そして、その頂点で、
奇跡的に美しくエロティックなのが、
大谷直子の存在です。

この映画の大谷直子の美しさは、
まさに映像の奇跡ですね。
鈴木清順の演出はかなりムラがあって、
奇跡のように美しい場面があるかと思うと、
如何にもやる気の欠片もないような、
説明的なカットがそれに続いたりするんですが、
大谷直子の映っているカットは、
全て傑作です。

色々小細工もしているんですね。
長廻しで撮ったかと思うと、
最後に幽霊めいた存在として現れる所は、
微妙に角度の違う顔のアップをババッと、
幾つも重ねたりもしています。

全部いいんですけど、
特に前半で弟の骨が桜色に染まっていた、
という話を一人語りする場面。
これがね、1カットなんですよ。
その角度といい、表情といい、
もう最高ですね。
信じ難い程に美しくエロティックなんです。
青地とのセックスを隠喩したような場面もいいですね。
着物がするりと脱げて、
両の乳房が露わになるんです。
そのタイミングの妙。
そして、その次に上半身裸でパチリと指を鳴らすカットが続くんです。
この馬鹿馬鹿しいセンス。最高ですね。
 
DVDは酷い画質のものも多いですが、
この映画のものはまあまあですね。
映画館のイメージと、
左程変わらない印象で観ることが出来ます。

まだ、観ていない方は是非。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 4

末尾ルコ(アルベール)

この頃の鈴木清順は凄いクリエイティヴィティでしたね!

                         RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2010-11-21 13:58) 

midori

鈴木監督は、会社の近くでたまに見かけます。
お祭りの神輿の後をついていらしているようです。
白髪で白顎髭でいつも着流しなので目立ちますが、誰も声をかけません。
これも会社の近所の総合病院の待合室で、だいぶ前に、新藤監督をお見かけしました。
みんな素知らぬ顔をしているのですが、監督が受付に呼ばれているのに気がつかずにいて
「新藤さん、あんた呼ばれてるよ」って周りの患者に当然のように言われてました(笑)。
付添いの女性はオトワさんではなかったです。

この頃の大谷直子は、当時小学生だった私でも、妙な色気を感じて、
しかもそういう役をやることが多くて、見ちゃいけない人と思ってましたねぇ。
(あとは烏丸せつ子とか吉行和子とか。。。)

「ツィゴイネルワイゼン」は、知ってはいるけど観てない映画の代表作でした。
ちょっと興味出てきましたね。観てみようかな。
長々とすみません。
奥様お大事になすってください。
by midori (2010-11-21 14:30) 

fujiki

RUKO さんへ
そうですね。
ムラの大きな監督ですが、
当たると抜群です。
by fujiki (2010-11-21 21:22) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
清順監督は一時役者でも、
良い味を出していましたね。
by fujiki (2010-11-21 21:30) 

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