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牛乳蛋白と1型糖尿病の発症について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

牛乳に含まれる蛋白質と、
1型糖尿病との間に関連性があるのではないか、
という話は、
100年以上前から議論のある、
それでいて完全には解決されていない話題です。

11月11日付のNew England Journal of Medicine 誌に、
それに関する論文が掲載されました。
今日はその内容を含めて、
この問題の概説をお送りします。

糖尿病は大きく1型と2型とに分かれます。

1型糖尿病はHLA抗原遺伝子に、
発症し易い遺伝子の存在することが分かっていて、
その意味では遺伝性の要素の強い病気です。
ただ、1卵生双生児でも半数は発症しないように、
その後の環境要因にも、
大きく左右される部分があります。

典型的な1型糖尿病は、
12歳を頂点としてお子さんの時期に発症し、
インスリンは殆ど出ない状態となるので、
最初からインスリンの注射の治療が、
必要となります。

このタイプの糖尿病は、
欧米に比較して日本には少ないのですが、
最近では大人になってから発症する糖尿病の中にも、
ゆっくりと進行するタイプの1型糖尿病があると分かり、
日本人の糖尿病にも、
従来よりそうしたタイプが多いのでは、
という指摘もあります。

1型糖尿病は自己免疫疾患の1つです。

つまり、身体に自分の膵臓の細胞を、
攻撃するような特殊な抗体が出来て、
それが「元々弱い体質の」膵臓を攻撃することで、
発症すると考えられているのです。

では、何がその抗体を作る要因になるのでしょうか?

北欧フィンランドは、
世界一1型糖尿病の多い国として知られています。

1900年代の疫学研究によると、
母乳ではなくミルクで赤ちゃんを育てると、
それだけ1型糖尿病が増加する、
という結果が報告されました。

否定的な研究もありますが、
その後も同様の研究結果は相次いでいて、
どうやら1型糖尿病になり易い体質を持っている赤ちゃんでは、
母乳よりミルクの方が、
その後の糖尿病の発症が多い、
ということは事実のようです。

それでは一体何故ミルクでは糖尿病が起こり易いのでしょうか?

1つの仮説は牛乳に含まれる、
人間とは異なる蛋白質が、
まだ未熟な赤ちゃんの免疫系を刺激して、
自己抗体を作り出す、
1つの要因になっているのではないか、
と言うことです。

このうち、牛乳蛋白の8割を占めているのが、
カゼインという蛋白質です。

牛乳アレルギーのお子さんでは、
このカゼインをより小さな粒に分解した、
加水分解カゼイン乳と呼ばれるミルクが、
人工乳として使用されることがあります。
日本でもそうしたミルクは販売されています。

今回発表された論文は、
通常のミルクとこの加水分解カゼイン乳を、
母乳が使用出来ない赤ちゃんにそれぞれ使用し、
どちらの赤ちゃんで、
その後の膵臓に対する自己抗体が、
誘導されたかを見たものです。

1型糖尿病の多いフィンランドで、
230名の糖尿病になり易い遺伝子を持つお子さんを対象にし、
平均7.5年の観察を行なったところ、
加水分解カゼイン乳を使用した赤ちゃんの方が、
有意にその後の抗体の出現率が低かったのです。

つまり、糖尿病の素因のあるお子さんでは、
極力母乳栄養を選択し、
それが困難な場合には、
加水分解カゼイン乳を使用した方が、
その後の糖尿病の発症は少なくなるのでは、
と推測されるのです。
勿論これは免疫系がまだ未熟な、
乳幼児期にみに成立する話で、
それ以降はまた別個の話として、
考える必要があります。
安易に「牛乳を飲むと病気になる」
というような文脈で、
乱暴に扱うべきではありません。

今日は牛乳に含まれる蛋白質と、
糖尿病との関連についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ごんた

石原先生
こんにちは

何度かお世話になっているものです。
いつも親切丁寧なご解答ありがとうございます。

以前気胸の話題がアップさせれていたのでそれについて質問させてください。
私の知り合いに30代前半の痩せ型の男性が居まして
その方は何度も何度も気胸をおこし、そのたびに何度も手術をしているようです。

この方のように、何度も繰り返すことは良くあることだと聞いたことがあります。先生のおっしゃるように、気胸を繰り返す方にはあらかじめ嚢胞をつぶしておく方法を選択するのが、良いのでしょうか。

この方がどのような手術をしたかは存じないのですが、聞く限りでは
先生の記事にありましたように、胸腔ドレナージを行ったのではと
思います。

宜しくお願いします。
by ごんた (2010-11-17 13:45) 

fujiki

ごんたさんへ
コメントありがとうございます。
僕は呼吸器の専門ではないので、
1つの参考としてお読み下さい。
自然気胸の原因は、
多くが先天的なブラと呼ばれる嚢胞ですが、
通常複数あり、
再気胸のリスクが高いと判断されると、
胸腔鏡を使用した内視鏡手術で、
そのブラを切除することが治療として行なわれます。
ただ、それでも手術後の再発は皆無ではありません。
もし気胸を繰り返していて、
手術治療の適応について、
これまで検討をされていないようでしたら、
内視鏡手術の経験の豊富な医療機関の胸部外科で、
一度ご相談されるのが良いのではないかと思います。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-11-17 20:05) 

ゴンタ

石原先生
早速ご丁寧な回答ありがとうございました。
ぜひ知人にそのように伝えたいと思います。
本当にありがとうございました。
by ゴンタ (2010-11-18 18:04) 

ちゃすけ

こんにちは。
少し前の記事のようですが、拝見いたしました。
自分は昨秋にSPIDDMの診断を受けたのですが、
幼少期よりアトピー性の皮膚炎だとか、その他もろもろアレルギー持ちです。(食品はありませんが)
早い時期から母乳ではなくミルク、ミルクもかなり早い段階でやめて、牛乳だったようです。
関係あるのかな、と思ってしまいました。
自分が出産したら、できる限り母乳で育てたいと思います。。。
by ちゃすけ (2011-05-18 22:12) 

fujiki

ちゃすけさんへ
コメントありがとうございます。
母乳にはまだ分かっていない、
長所が色々とあるのは事実のようです。
ただ、もちろんそれだけがアレルギーや自己免疫の原因であるとは限りません。
by fujiki (2011-05-19 08:02) 

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