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僕の経験した髄膜炎の話 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日はガイドラインに沿った、
細菌性髄膜炎の診断についての話でした。

今日は僕が今までに経験した、
成人の髄膜炎(一部脳炎を含む)の話です。

大学の内科の医局に入ってから、
半年の研修の後、
民間の関連病院に1年間派遣の形で所属しました。

そこですぐに担当したのが髄膜炎の患者さんで、
発熱と強い頭痛の症状で、
担当していた外来に担ぎ込まれました。

今はそんなこともないのでしょうが、
当時はまだ半年しか研修を受けていないのに、
もう外来を任されていたのです。

わめき散らすなど混乱した状態にあり、
軽度の意識障害が疑われました。
重症感があったので、すぐに入院の方針としたのです。

こうした状態の患者さんでは、
項部硬直のあるなしなどと言うことは、
全く判断は出来ません。

それで血液の検査をして、それから頭のCTを撮り、
血液検査で中等度以上の炎症所見があり、
CTでは脳ヘルニアや出血等、異常のないことを確認して、
入院した上で腰椎穿刺を行ないます。

腰椎穿刺というのは、
横向きに寝てもらって、
腰の下の辺りの背骨の隙間に長い針を刺し、
その先を脊髄腔に入れて、
脊髄液を採取する、という検査です。

使い捨ての細身の針があるのですが、
当時病院で使っていたのは、
金属製の太い針で、
それをズブズブと深く刺すのは、
大きな危険は少ない、と分かってはいても、
ちょっと最初は勇気の入る作業です。

その患者さんは大暴れしていたので、
数人掛かりで押さえ付け、
それで針を刺しました。
僕は腰椎穿刺を見るのもやるのも、
その時が全くの初めてでしたが、
指導医は「まあ、やってみろ」みたいな感じで、
僕が恐る恐るに針を刺しました。

本来は何度かは指導医が施行するのを見て覚えるべきで、
今思うとかなり乱暴なことをしていたと思います。
患者さんにも申し訳なく思いますが、
当時はそんな様子だったのです。

髄液腔の深さがどの程度なのか、
最初は分からないので、
ブラインドで針を進めて行くのです。
そのうちに「抜けた」と分かる感じがあって、
二重になっている針の内塔を引き抜くと、
その抜いた穴からポタポタと髄液が流れ出します。
そこに最初に上向きの管を指して、
その管をどのくらい髄液が上るかで、
「髄液圧」を簡易的に測り、
それから下に小さな試験管のような容器を当てて、
髄液を採取します。

初回がうまくいったので調子に乗って、
その後病院での1年間で、
20回くらいは腰椎穿刺をしました。
ただ、何度目かにはうまく針が入らず、
患者さんが痛みを訴えて、
冷や汗を掻いたこともあります。

この髄液を検査に出して、
白血球がある程度以上検出されれば、
それは髄液に炎症がある、ということになり、
髄膜炎が確定します。
白血球の種類によって、それが細菌性かウイルス性か、
もしくはそれ以外の原因によるものかを、
判断するのです。

僕が実際に採取した髄液は、
見た目は全て無色透明なものでした。
しかし、細菌性髄膜炎が重症になると、
ドロドロの黄色い膿のような髄液になるそうです。

その派遣先の病院の前院長が、
細菌性髄膜炎で亡くなったのですが、
その時は最初は風邪と思われて、
そうした処方で様子を見ましたが、
熱が下がらず、そのうちに頭痛が強くなったので、
念のためと腰椎穿刺をすると、
出て来た髄液はドロドロの黄色だったそうです。

こうした急激に進行する細菌性髄膜炎は、
初期に症状が出揃えば、診断は可能ですが、
そのタイミングを逸すると、
その経過は極めて厳しいものになるのです。

診療所で診療を始めるようになってから、
数名の成人の髄膜炎の患者さんを、
高次の医療機関にご紹介しています。

概ね、最初は風邪症状なのですが、
熱の下がりが悪く、そのうちに頭痛が強くなる、
という経過が一般的です。
はっきりした項部硬直は出ないことも多いのですが、
矢張り頚の前屈は曲げ辛い感じはあります。

ただ、中には数日のうちに急速に進行する事例があると言われていて、
その場合は初期診断で、髄膜炎を疑って紹介することは、
非常に困難なのではないかと思います。

昨日取り上げた裁判の事例の患者さんが、
どういう経過であったのかは分かりませんが、
もし頭痛の出現から数日以内で、
急激に増悪したのだとすると、
僕も診断する自信は全くありませんし、
状況によっては数日分のお薬を出して、
「様子を見て下さい」とお話したと思います。

今日は僕の経験した髄膜炎の事例をご紹介しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

もも

髄膜炎は下手したら命取りになりますからね~
大変でしたね・・・

by もも (2010-09-18 08:37) 

恋人は女医の会社員

髄膜炎の裁判は、被告側、原告側いずれも考えさせられる事件です。

コメント欄だけですと、いろいろ書けませんが、現在の「崩壊」の末端の一現象のような気がします。

医師というか、現在の医学界全体の問題点もあるのでしょう。

患者も権利だけを見ているという点もあるのでしょう。

安易な救急車や治療拒否の問題も同じ根のような気がしてなりません


by 恋人は女医の会社員 (2010-09-18 20:25) 

恋人は女医の会社員

ちなみにこの件、彼女も、「こんなケースだったらどうしよう」って言っていました。
勤務先の病院である程度、保険みたいなものもあるらしいのですが・・・
by 恋人は女医の会社員 (2010-09-18 20:28) 

fujiki

ももさんへ
コメントありがとうございます。
その診断が決して簡単ではないところが、
問題だと思います。
by fujiki (2010-09-19 10:08) 

fujiki

恋人は女医の会社員さんへ
コメントありがとうございます。
閉院になった診療所が、
まだ検索サイトなどでは残っていて、
それを見ると非常に切ない気分になります。
とても他人事とは思えません。
by fujiki (2010-09-19 10:11) 

井出

先日、母親が細菌性髄膜炎と診断され現在意識不明の重体となっております。
今後のことを調べようとネットで検索し、当サイトを拝見させていただきました。

母は大きな脳神経で有名な病院に緊急搬送されたのですが、当時3連休最中の夜
間であり、当直の医師からは診察後に「髄膜炎では無い」と断言されました。

その時から頭痛・発熱・意識障害・難聴が認められていたにも関わらず、髄膜炎
のガイドラインに則った検査を行わなかったことは是なのでしょうか。
髄膜炎の診断について、きちんとしたガイドラインが定められており、その病院
もガイドライン作成の学会に所属されている医師が沢山いるということを知った
のはつい先ほどのことです。

その後、別の病院に急性胃腸炎として転送され、髄膜炎と診断されました。

誤解を恐れずにいえば、知識が不十分な当直医が、十分な所見があるにも関わらず、
ガイドラインに則った診療を怠ったのではないかと考えてしまいます。

当直医の方も、髄液採取に踏み切ることを躊躇する気持ちも十分に分かるのですが、
いったいどこまでの所見があれば検査をしてくれるのがが理解できす、どうしよう
も無い気持ちで一杯なのです。

もしあの時、髄膜炎と診断され抗生物質を打ってもらっていれば、もっと症状は軽
かったかもしれない・・・と、どうしても考えてしまいます。

こんな昔のブログにすいません。
貴殿のように、医者の立場からの肌感覚を教えて欲しいだけです。
by 井出 (2013-12-30 22:38) 

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