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コレステロールは何処まで下げるべきか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はシンプルに、
コレステロールは何処まで下げるべきか、
という話です。

これには日本と欧米のガイドラインが存在し、
それが微妙に違っている、
という大きな問題があります。

それでは海外と日本のガイドラインは、
一体どのように違っているのでしょうか?

まず海外のATPⅢと呼ばれるガイドラインの内容です。

まず、そもそもコレステロールを何故下げるのか、
という点ですが、
これは冠動脈疾患と呼ばれる、
心臓を栄養する血管の、
動脈硬化による病気を予防するためです。
狭心症や心筋梗塞と呼ばれる病気が、
その代表ですね。

コレステロールのうち、
LDLと人間が便宜的に名付けた、
粒のやや小さなリポ蛋白にくっついたコレステロールが多いと、
それが結果的に動脈硬化を進め、
それによって心臓の病気が起こり易くなることが、
多くの研究によって実証されています。
また、コレステロールを人為的に低下させると、
その病気の発症が減ることも、
多くの研究によってほぼ実証されています。

この点から、
このLDL-コレステロールを、
心臓病の予防のターゲットにすることが、
妥当であると結論付けられたのです。

それではどのレベルのLDL-コレステロールを、
予防の目標にするべきなのでしょうか?

欧米のガイドラインの記載はこうです。

まず高リスク群です。
これはそれまでに心筋梗塞や狭心症の発作を、
起こしたことのある人か、
足の動脈が詰まったり、お腹の動脈瘤が出来たり、
首の血管が半分以上詰まっていたり、
といった、心臓以外の動脈に、
動脈硬化の著明な変化の見られる場合、
そして急速に動脈硬化を進めることの分かっている、
糖尿病のある場合です。

こうした人では、
10年間に心臓病の発作を起こす率は、
2割を超える、と計算されます。

その場合、LDL-コレステロールの目標値は、
100mg/dl 未満に設定され、それ以上では、
生活改善と共に、薬物治療が考慮されます。

次に中等度リスク群は、
喫煙、高血圧、HDL-コレステロールの低値、
心臓病の家族歴、年齢(男性45歳以上、女性55歳以上)
のいずれか2つ以上がある時で、
この場合には10年間に、
その危険因子の種類にもよりますが、
1割以上の方が発作を起こすと計算されます。
(このリスクの重み付けについては、
専用のソフトが公開されています)

この中等度リスク群では、
LDL-コレステロールの目標値は、
130未満と設定され、
薬物治療は160以上で考慮するとなっています。

問題は低リスク群で、
これは危険因子のうち、
当て嵌まるものがないか1つ以下の場合で、
この場合はリスクは一般の人と、
計算上は変わりません。
そのためLDL-コレステロールの目標値は、
160未満で、薬物治療は190以上で考慮する、
とされています。

それでは日本の2007年版
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を見てみましょう。

日本では一次予防と二次予防という表現が、
概ね使われています。

この二次予防というのは、
心臓病の発作を起こしたことがある方と言う意味で、
欧米のガイドラインでは高リスク群の1つとされているものです。

この場合のLDL-コレステロールの目標値は、
100未満ですから、これは欧米のガイドラインと同じです。

ところが、日本のガイドラインには、
これ以外に高リスク群が分類されています。

これはどういうものかと言うと、
危険因子が3つ以上あるというものです。
ただ、糖尿病は別格なので、
1つでも高リスク群になります。
それ以外の危険因子は、
欧米のガイドラインと全く同じです。
ただ、欧米のようなリスクの重み付けはないので、
その個数だけの判断ということになります。

この高リスク群では、
LDL-コレステロールの目標値は、
120未満とされています。

このリスクの数が1から2なのが中リスク群と呼ばれ、
そのLDL-コレステロールの目標値は140未満で、
リスクが0なのが低リスク群で、
その目標値は160未満です。

日本のガイドラインには、
幾つかの問題があると僕は思います。

まず、明らかに欧米のガイドラインを元にしているのに、
わざわざ分類を微妙に変え、
その重み付けも変えていますが、
その根拠があまり明確に示されていません。

全体としては、
欧米より厳しい基準になっているのに、
何故か糖尿病の位置付けは、
欧米より軽くなっています。

また、目標値の設定はありますが、
薬物治療の開始の基準はありません。
ガイドラインには、
目標値は薬物治療の開始の基準ではない、
と書かれていますが、
そうは言ってもその基準が示されていないのですから、
医者としてはそれをどうしても薬物治療の基準として、
捉えてしまいます。

また、危険因子の重み付けを全くしておらず、
発症リスクがどの程度であるのかも明記していませんが、
そんな大雑把で果たして根拠に基く治療と言えるのか、
その点にも大きな疑問を感じます。

僕は概ね欧米のガイドラインを指標として、
患者さんのコレステロールの管理を行なっています。

ポイントは別にコレステロールが少し高くても、
それだけでは大きな問題にはならない、
ということです。

問題は他の心臓病のリスクの有無であって、
それが重なって初めて治療や予防の有効性が、
データとして示されるのです。

日本の治療の現状では、
どのガイドラインでも推奨されていない、
LDL-コレステロールの直接測定のみを指標として、
その数値が正常値を上回れば、
薬が使用される、という傾向が、
現実には存在していると考えられ、
本当に予防の必要な患者さんに薬が使われず、
本来リスクはそれほどでなく、
その治療の効果が確認されていないような人に、
薬が使用されているケースがあるということに、
もう少し医者は自覚的になるべきではないかと、
自分も含めてそう思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

まみしゃん

父は腹部大動脈瘤があって、3カ月ごとにCTを受けていたのが、1年間変化がないので半年に1度になったのですが・・・血液検査でコレステロール値などを検査したというのは聞いていないです。

一般内科にかかっていないからでしょうか?

ステロイドを常用しているせいか、体調がよくなったのはいいけど体重が増えて困っているみたいです。

狭心症の既往もありますので、チェックが必要だと思うのですが・・・
by まみしゃん (2010-08-10 09:26) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
腹部大動脈瘤と狭心症の存在は、
欧米のガイドラインでは高リスクに当たるので、
LDLコレステロールは100以下を目標にするのが、
望ましいとされています。
日本のガイドラインでは単独の位置づけはありませんが、
はっきり狭心症の既往があれば、
矢張り目標値は100以下になります。
コレステロールのチェックは是非された方が良いと思います。
by fujiki (2010-08-10 21:10) 

つっちゃん

先生、こんばんは。
わたしは甲状腺亢進症だったのですが、アイソトープ後、現在は低下症になってきました。
昨日の診察では、コレステロールも体重と共に高くなってきてるのですが、食生活などを気をつければ抑えられるものなのでしょうか?

主治医に診察の時に聞けばいいのですが、後になって思いつくので
先生につい質問してしまいます。

持病の無い方より、コントロールが難しいものなのでしょうか?
メルカゾールは、少しずつ減らし始めたところです。
体重を減らすことだけで、結構大変だと思っているのですが・・・
by つっちゃん (2010-08-10 21:25) 

fujiki

つっちゃんさんへ
コメントありがとうございます。

甲状腺機能低下の時のコレステロールの上昇は、
ホルモンの作用の低下による、
コレステロールの分解の遅れによるものなので、
まずはホルモンの環境を、
正常に戻すことが、
先決事項になります。
ただ、体重が増えているのは、
おそらくは機能亢進の状態と同じように食べているからで、
ダイエットは是非必要で、
それにより自然にコレステロールも低下すると思います。

つまり、ホルモンの正常化と、
体重の管理が重要なことで、
コレステロールはそれから考えて全然遅くはありません。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-08-10 21:41) 

ペポ

15歳より陰性T波です。この心電図異常は心筋肥大か
心筋梗塞を過去に経験しているか運動のし過ぎ
が原因のスポーツ心臓だと当時、医師に言われました。

中学時代は殆ど運動せず、
高校で運動部に入った1週間目の時の心電図検査(15歳)
で陰性T波とわかり、その後3年毎年検査して
運動してるからスポーツ心臓と診断されました。
(まぁ15歳以前に胸が痛かった記憶はないので)

でも、運動部に入って1週間で心電図は変わるものなのか? です。
(その後に3,4回胸が苦しいと感じたことがあります)

by ペポ (2010-08-10 22:51) 

fujiki

ペポさんへ
コメントありがとうございます。

心電図の現物を見ている訳ではないので、
あくまで推測としてお読み頂きたいのですが、
成長期には心電図の波形は短期間でも変化する場合があり、
それは概ね心臓の変化によるものではなく、
成長による体格の変化によるものです。
心電図は身体の表面に電極を付けるので、
その位置関係が変化すれば、
波形も変化することがあります。

また、陰性T波はそれを読む医者の判断によっても、
正常となったり異常となったり、
その差が出易い所見だと思います。
また、今はコンピューターによる自動診断が、
記録と同時に行なわれるので、
その所見を鵜呑みにする医者は、
過剰診断に成り易い、という面もあります。

いずれにしても、
そんなにご心配はないのではないかと、
僕は思います。
by fujiki (2010-08-11 08:28) 

ペポ

ありがとうございます。

ずっと気になってたんですが、なんせ子供だったので
医者に質問するのが恐くて尋ねなかったことだったので。

実家に帰省してますが、実父も昔に心電図異常を指摘され
精密検査(CTなど)を数度受けたそうで、
結果はまったくなんともなかったそうです。
極端に脈がゆっくりだそうで・・。
「あなた、死んでるよ。」と医者に言われたそうで(笑)
家族的にそういうのがでやすい体質みたいです。


by ペポ (2010-08-11 17:35) 

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