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抑肝散での死亡事例を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

抑肝散という漢方薬があります。

以前、慢性肝炎に対して「小柴胡湯」という漢方薬が、
効果のあることが一時期話題になり、
医療系の雑誌などで盛んに宣伝されたので、
あまり漢方に詳しくない医者も、
その薬をじゃんじゃん使用し、
それが間質性肺炎という重篤な副作用を引き起こして、
問題となったことがありました。

今、同様の使い方をされている漢方薬が、
この「抑肝散」です。

抑肝散は虚弱な体質で神経がピリピリした状態の時に、
そのイライラを抑えるために使用する漢方薬です。

元々はお子さんの処方ですが、
日本の漢方医が大人の半身不随に用いて、
その震えなどの症状が改善したことから、
大人にも広く使われるようになりました。

最近になって、認知症の周辺症状に、
この抑肝散が効く、という報告が多く発表され、
イライラや興奮、妄想などが見られる認知症の症状に対して、
この薬が広く使用されるようになりました。

認知症の患者さんの多くは虚証と考えても、
そう間違いはないので、
症状だけからこの薬を使用しても、
そう大きな問題はないと思われます。

ただ、いつものことですが、
漢方薬の本来の使用法は、
症状を見るのではなく、
患者さんの状態全体を見て、
その処方を決定するべきものなので、
「認知症=抑肝散」のような短絡的な使い方は、
あまり好ましいものではないと僕は思います。

最近この薬の添付文書の改訂があり、
全体で6例の間質性肺炎の副作用が報告され、
そのうちの1例の方はそのために亡くなっています。

その死亡事例は70代の女性で、
統合失調症と高血圧、甲状腺機能低下症と骨粗鬆症の持病があります。

内服されていた薬の一覧が書かれていましたが、
これがちょっと尋常ではないもので、
ちょっとお示しすると以下のようになります。

ベサコリン、ウブレチド、フォサマック、デパス、セロクエル、マイスリー、ムコスタ、アムロジピン、スピロノラクトン、ハロペリドール、アキリデン、ヨーデルS、チラージンS、ワンアルファ、カマ、アスパラCa、コーパデル、シンメトレル、セレニカR、トーファルミン、コメスゲン、バナール、コンスーベン、麻子仁丸。

ここまでが常用薬と思われます。

更にこの方はお風邪を引いたらしく、
これに加えて、
クラビット、クラリス、ピペラシリン、麻黄附子細辛湯、
が加わっています。

そこに更にダブる形で、
抑肝散が加えられたのですが、
その投与4日後から症状が出現し、
間質性肺炎のために亡くなられています。

皆さんはこの事例をどうお考えになりますか?

まあ、処方のニュアンスは分かるのですが、
矢張りどう考えても薬の数が多過ぎますよね。

何故お風邪の薬も飲んでいたような状態の時に、
更に追加で抑肝散を使用したのかは、
経過が分からないので不明ですが、
基本的に漢方薬をこのように複数の薬と併用することは、
あるべきことではない、と僕は思います。

他の漢方薬でもそうですが、
副作用としての間質性肺炎の事例は、
圧倒的に他剤と併用した時に多いのです。

漢方薬はそもそも単独で使うべきもので、
そうした場合の効果の検討はあっても、
他の薬とちゃんぽんで使用した場合に、
果たしてどういうことが起こるかについての、
厳密な検討などされたことはありません。

従って、複数の西洋薬が使用されている、
特に慢性のご病気の患者さんに対して、
その慢性のご病気の症状のコントロールのために、
漢方薬を上乗せで使用することには、
慎重であるべきだと僕は思います。

漢方薬は基本的には副作用の少ない、
安全性の高い薬ですが、
西洋薬とちゃんぽんで使用するような場合には、
予測不可能な副作用が出現する危険性を孕んでいます。

僕自身は他院の処方の継続で、
抑肝散と抗精神病薬やアリセプトとの併用をすることはあっても、
自分から進んでそうした処方をすることはありません。

抑肝散による間質性肺炎の事例は、
この薬が大量に他の認知症の薬剤と、
併用して使われている現状を考えると、
今後更に増えるのではないか、
と思えてなりません。

抑肝散はそもそもは認知症の薬ではありません。

従って、その使用はあくまで症状に対して、
明らかな改善効果が見られる場合に限るべきで、
「何となく」認知症に対して使用することは、
僕はあまり正しい選択であるとは思いません。

今後の副作用情報を注視したいと思います。

念のため補足しますが、
現在皆さんもしくは皆さんのご家族が、
抑肝散を飲まれていて、
もしこの記事でご不安をお感じになりましたら、
まずは主治医にその必要性と効果とについて、
お尋ね頂くのが良いと思います。
僕は自分の考えが100%正しいと主張するつもりはありませんし、
個々の医者にはそれぞれの処方方針がある筈だからです。

ただ、副作用の情報は皆さんの目には、
なかなか触れない面がある一方で、
それほど重要とは思えないような副作用情報が、
マスメディアに過激に報道されることも稀ではありません。

僕は現時点で抑肝散という薬は安易に使われ過ぎだ、
という考え方で、
そのひずみが徐々に現われ始めているのではないか、
という危惧を持っています。
その意味で今回の死亡事例の情報は、
広く皆さんと共有すべきものではないかと考え、
今日記事にしました。

その趣旨をご理解の上、
慎重にお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 13

まみしゃん

父は、脳腫瘍手術後せん妄状態が続いた時から「抑肝散」を処方されて今も飲み続けています。

義母がアルツハイマーと診断されアリセプトを処方されていますが、最近興奮状態になったりすることが多いと聞いて「抑肝散」のことを主治医に聞いてみるよう義父と話していたところなのですが・・・

アルツハイマーの症状は、傍にいる人の接し方によっても大きく変わるものだと思いますが・・・

漢方だからと言って、安易に薬に頼るのも問題ですね。
診て下さっているドクターが判断してくださるでしょうが・・・
by まみしゃん (2010-08-09 09:53) 

yuuri37

おおー食事のような量だ。。。お腹いっぱいで苦しかったね。
by yuuri37 (2010-08-09 13:15) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
漢方は特に西洋薬と併用する場合には、
安全とは言い切れないと思います。
主治医の先生とよくご相談の上、
その使用をご検討頂くのが良いと思います。
by fujiki (2010-08-10 06:06) 

fujiki

yuuri37 さんへ
処方が多科に跨ると、
どうしてもこうしたケースがありますね。
by fujiki (2010-08-10 06:07) 

non

はじめまして。今回、右わき腹痛を訴えたら抑肝散を処方されました。まだ一日しか飲んでいないので何もわかりませんが
来週腹部エコーをとり、内臓も検査する予定です。
どうやらイライラストレスから痛みが出ているようです(医師の診断)それは否めないと実感しております。(内臓も不安ですが)
認知患者の西洋薬との混合での使用で死亡事故がおこったのですか?私のようなイライラ癇癪ストレスの場合はどうなのでしょうか?この先、常用していくかもしれないとおもうとやはり漢方薬でも不安です
by non (2012-02-20 22:33) 

non

追伸・・・その死亡事例は70代の女性で、
統合失調症と高血圧、甲状腺機能低下症と骨粗鬆症の持病があります。

こちらのくだりですが。
うちの母はまさにこの症状です。
認知の疑いもあり、かなり、妄想(被害妄想)があり、いつも何かに落ち込んで、怒りをぶつけてくる事もしばしばあります。
私自身は親や娘の事で悩みすぎてイライラして今回わき腹痛になったのですが・・・(症状は10年以上前から極まれにあったのですが、最近になり痛みが頻繁になり病院へ駆け込んだしだいです。)
まだこの漢方は飲んでいませんが、母の場合には
避けたほうがよさそうですね。。。

by non (2012-02-20 22:38) 

fujiki

non さんへ
コメントありがとうございます。
僕の個人的な意見としては、
極力漢方薬は西洋薬との併用は避け、
原則単剤で様子を見るのが本来だと思います。
基本的に証が合っていれば、
滅多に重篤な副作用はないと思いますが、
症状のみをターゲットにして、
闇雲に使用するのは危険だと思います。
by fujiki (2012-02-22 08:21) 

雪

主人が統合失調症で16年ほど苦しんでます。アサイチを見て、ヨクカンサンを知りましたが、慢性なので、処方は考えた方がいいですね。
昨日から、養命酒飲んでます。少し
元気でた感じです。
去年、断薬により、症状が悪化しました。インベガ、グットミン、サイレースが常備薬です。
良くなってきているので、下手に漢方は入れない方がいいかもです。
主治医と相談してみます。

by (2012-03-06 15:10) 

fujiki

雪さんへ
コメントありがとうございます。
漢方の使用については色々な考え方があり、
何が正しいということは現時点では言えません。
僕は漢方の本来の使用法から言えば、
西洋薬とちゃんぽんにするようなことはせず、
単独で使用することが望ましく、
かつ安全性が高いのでは、
という立場ですが、
それが全面的に正しいと主張するつもりはありません。
主治医の先生とよくご相談の上、
決めて頂くのが良いと思います。
by fujiki (2012-03-07 08:22) 

雪

返信ありがとうございます

主治医と相談しましたが、
イライラを抑えるヒルナミンの代わりに、抑肝散を使いましょうとのことです。夜中に中途覚醒がありましたが、
抑肝散を飲んで、やっとなくなりました。妄想を抑えるくすりではないので、インベガも飲ませてます。
なんでもかんでも抑え込む感じで、投薬だけでは可哀想になります。
主人の親が、境界性シンドロームに近いです。
親の理想の生き方を、強いられ、心をすたずたにされ未だに兄弟で比べられ、正当な愛情をもらえないでひきこもりです。
あまり薬は増やさず、心のケアに重点を置いてみます。
by (2012-03-10 23:45) 

羅愚毘威

はじめまして。
私は長期間不安神経症に悩んでおり、現在の症状としては胸から腹の辺りの不快感及び口が渇くことです。
医師から長年「ドグマチール」と「レキソタン」を処方されており、薬が効いている間は症状は気になりません。
さて、一生薬と付き合うのは嫌なので、「抑肝散」の服用を考えています。
上記の薬と併用して様子をみても大丈夫でしょうか?
by 羅愚毘威 (2012-03-12 20:53) 

fujiki

羅愚毘威さんへ
現状使用出来るエキス剤の漢方では、
単独で安定剤や抗鬱剤に、
代わり得るような効果は、
僕はあまり期待されない方が良いのではないか、
と思います。
試してみること自体は、
問題はないと思います。
ただ、1週間程度使用して、
あまりピンと来ない感じであれば、
無理に続けない方が良いと考えます。
身体に合った漢方は、
間違いなく「いいな」という実感のあるものですし、
漢方も身体に合わない薬であると、
決して無害ではないからです。

抑肝散がベストの処方とは言い切れないので、
出来れば漢方に詳しい先生か、
薬剤師の方などに、
ご相談の上服用して頂くのが良いと思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2012-03-13 08:35) 

羅愚毘威

早速のご返信、ありがとうございます。
過度な期待をせずに、漢方薬局に行ってみます。
そういえば、以前疲れに効くという漢方薬を飲んだところ、体に発疹ができたことがありました。
by 羅愚毘威 (2012-03-13 18:52) 

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