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東野圭吾「新参者」 [ミステリー]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療所は休みですが、
何も出来ずに何となく悶々としています。
でも、天気も良いし、
どうにか気持ちを切り替えないといけないですね。

今日はミステリーの話です。

司馬遼太郎の「翔ぶが如く」が、
今5巻目に入っていて、
その合間に東野圭吾を数冊読みました。

「新参者」は今ドラマもやっているので、
2週間ほど前に読みました。

うーん、これはどうなんでしょうか?

いまさら東野圭吾!?の雰囲気を超絶技巧で跳ね返し、ダブル1位に輝いた、かつてない読後感の新境地長編

と帯に書いてあるので、
僕は単純にあっと驚く結末、
みたいなものを期待したのですが、
そんな意外性はさらさらなく、
連作短編の形式で、
人情話のような小ネタを重ねて、
最後は予定調和的に収束する、
僕の好みからは多分、
対極にあるような作品でした。

帯の文句は確かに嘘ではないけれど、
ちょっとずるいな、と思いました。

最近の東野圭吾は、
意図的に他の作家の作品を、
自分なりになぞっているような観があって、
僕もそうまめに読んではいないのですが、
たとえば「流星の絆」は、
赤川次郎か宮部みゆきか、
という感じだし、
例のガリレオのシリーズは、
あれはもう森博嗣そのものですよね。
「新参者」は横山秀夫か宮部みゆきの、
連作短編みたいなイメージです。
でも、それなら宮部みゆきの方が、
絶対上手いですね。

僕が乗れないのは、
たとえば宮部みゆきは、
自分の書いている人情話みたいな世界を、
真面目に信じている人だと思うのですが、
東野圭吾は絶対にそうではないので、
「新参者」に描かれているような、
「下町人情」の世界など、
商品と割り切って書いているに過ぎない、
と思うからです。

僕は彼の作品は、
比較的初期の「ブルータスの心臓」が、
非常に気に入って、
それから一時期は、
処女作から20冊くらいはまとめて読みました。
まだあまり一般に名前の知られていない時期の話ですね。
初期の作品に、少年野球を扱った、
「魔球」というのがありますが、
青春推理小説というような枠組みなのに、
ちょっと異常な話で、
良い意味でも悪い意味でも、
この人はちょっとまともな神経の人ではないな、
という思いを強く感じました。

何と言うのか、何を忌むのか、という基準が、
ちょっと常人とは違っていて、
通常の倫理観からは確実に外れた何かを持っています。
彼の小説を好きな人が、
そのある種の異常さを、
ひっくるめて好きなのかどうか、
という点には、僕は非常に興味があります。

ただ、確かに一部のアニメや、
新本格以降の日本のミステリーの一部には、
かなり似通った倫理観の欠如のようなものがあり、
それはむしろ時代の空気であって、
東野圭吾はそれを先取りした部分が、
その創作の初期からあったのかも知れません。

直木賞を取った「容疑者Xの献身」も、
その異常さがちょっと垣間見える作品で、
賞の選考の時に、ある作家が、
直木賞の持つヒューマニズムの精神に馴染まないのではないか、
というニュアンスの発言をして、
一般の総スカンを食った、ということがありましたが、
僕はどちらかと言えば、
その疑義を呈した作家の意見に賛成で、
こういう作品を書いても勿論悪くはないのですが、
万人に勧められるようなものではないし、
賞を取るような性質の作品ではない、
というのが僕の意見です。

ただ、ブレイクのきっかけとなった「秘密」は、
矢張り絶品で、ここには彼自身の喪失体験が、
非常に濃厚に刻印されていると思いますし、
以前にも書きましたように、
今でも読後の感動を鮮やかに覚えているほどに、
その印象は鮮烈でした。

そんな訳で僕のお勧めは、
現時点では「秘密」を別格にして、
「ブルータスの心臓」と「鳥人計画」、
「ある閉ざされた雪の山荘で」くらい。
「白夜行」は力作とは思いますが、
あまり好きではありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 6

ritton2

う~ん鋭い分析ですね。確かにそう思います!
by ritton2 (2010-05-04 10:48) 

uduyuimama

おぉ。私も東野さんは15年以上前から愛読していました。「秘密」が映画になってがっかりしたのを覚えています。売れてしまって・・・映像化とか止めて欲しいんです・・・。
まともじゃないっていうのに笑ってしまった。理系の人が描いた感じがよく出ていますよね。
なんか、鋭いですね・・・。「ブルータスの心臓」も好きでした。
私は、特に『宿命』が好きだったな。
by uduyuimama (2010-05-04 23:30) 

fujiki

rittonn2 さんへ
コメントありがとうございます。

危ういけれど、好きな作家です。
by fujiki (2010-05-05 09:13) 

fujiki

uduyuimama さんへ
コメントありがとうございます。

町工場の技術者の屈折した感じとか、
彼以外には書けない独特の感触があります。
満足のゆく映画化はないですね。
そもそも映画向きのプロットではないと思います。
仕方がないにせよ、
「秘密」は映画にして欲しくはなかったですね。
by fujiki (2010-05-05 09:18) 

ほし

はじめまして。

本の好みが似ている・・・と思いましたので、
もしまだ読んでいらっしゃらないのであれば是非。

ブログで触れていらっしゃった宮部みゆきさんであれば、
「火車」を是非。

あと、少し系統は違いますが、貴志佑介さんの作品を。
映画化された「黒い家」と「青い炎」では作品の感じが
違っていますが、まぁおもしろいです。

ちなみに、黒い家をはじめて読んだ時は高校生の時だったのですが、
ゾクソクして電気を点けないと眠れませんでした。
あまり、気持のいいお話ではありませんが・・・
ですが、それ以来、立て続けに貴志佑介さんの作品を読みました。

本は人に勧めるのは難しいですし、おこがましいですが、
もし何を読もうかな~と思うことがあれば、パラパラと書店でめくってみて下さい。

ちなみに、私も東野さんのはじめて読んだ作品「秘密」がとてもよかったので続けて読みましたが、初期から順に読んでいないからか、私の好みに合う作品と、全く合わない作品
の差が激しかったです。

by ほし (2010-05-07 00:30) 

fujiki

ほしさんへ
コメントありがとうございます。

東野圭吾の出来不出来の差が激しいのは、
ある種「商品」として、
割り切って書いている点があるからかも知れません。
本人が思うほど、器用な人ではないので、
手を抜いた仕事だと、すぐに読んで分かってしまいます。
「秘密」は本気で作者が書きたかった作品だったのだと思います。

「火車」は読みました。
僕も好きです。
ただ、ドロドロした話の割に、
何か爽やかな感じなのが、
勿論作者の持ち味なのですが、
読後しっくりしない感じはしました。
松本清張の作品、特に「砂の器」を下敷きにしている、
と感じました。
ラストはそっくりなのですが、
清張さんはもっとどす黒い感じなので、
対象的で面白く感じました。

貴志佑介は未読です。
今度読んでみますね。
by fujiki (2010-05-07 09:02) 

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