能「求塚」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日でもう連休も終わりですね。
昨日はデスクトップのパソコンを買って、
色々いじっていたら1日終わりました。
それから、少しジョギングでもしようかと思い立って、
ジャージの上下を買いました。
今日は健診の結果の整理とか、
診療報酬のチェックをしないと間に合わないので、
もう少ししたら診療所に行きます。
夜は劇団ひとりのライブに行きます。
上の画像は4月に行った、能の会のちらしです。
演目は「求塚(もとめづか)」。
これはなかなか凄い演目で、
僕の最近のヒットです。
この能は全編で2時間掛かります。
2時間の能というのは、かなり大作の部類で、
緊張を切らさずに最後まで観るには、
相当の気合を必要とします。
「求塚」以外には、
「江口」、「定家」、「芭蕉」辺りが2時間を超え、
いずれも名作ですが、正直辛い部分があります。
ただ、この「求塚」は仕事の後の、
かなり疲労したコンディションであったにも拘らず、
最後まで緊張をあまり切らさずに観ることが出来ました。
それは勿論内容に魅力があったからですね。
この作品は世阿弥の父親の観阿弥の作とされていて、
洗練からは遠く離れた、
古くドロドロした雰囲気のある作品です。
大和物語が元ネタとなっていて、
2人の男性に思いを寄せられた1人の処女(をとめ)が、
そのうちの1人に思い人を決められず、
思い悩んで川に身を投げて死に、
その亡骸の後が塚になっている処に、
2人の男が赴き、その塚の前で、
互いに刺し違えて、
共に命を落とします。
処女の魂は成仏出来ずに、
塚の周りの闇を彷徨います。
主人公は旅の僧で、
彼の前にまず里の女の姿で、
処女の亡霊が現われ、
その謂れを告げて姿を消します。
後半は塚の中から亡霊が現われ、
僧はお経を唱えて成仏を促します。
ここまでは通常の能の世界ですが、
結局僧の力でも彼女は成仏出来ず、
闇の中に亡者の姿は消えて行きます。
絶望的なのに、何故か開放感の漂う、
不思議なラストです。
後シテの最初のセリフはこうです。
おう荒野人稀なり、わが古墳ならでまた何者ぞ。
ラスト地獄の責め苦を受ける亡者は、
最後に全てが消えた闇の中に残されます。
三年三月の苦しみ果てて、少し苦患の隙かと思へば、鬼も去り火炎も消えて、暗闇となりぬれば、今は火宅に帰らんと、ありつる住みかはいづくぞと、暗さは暗しあなたを尋ね、こなたを求塚いづくやらんと、求め求めたどり行けば、求め得たりや求塚の、草の陰野の露消えて、亡者の姿は失せにけり。
能には幾つかの絶対的な瞬間のようなものがあって、
この「求塚」の前場で、
里の女として登場したシテが、
自分が亡者であることを露にする場面と、
塚の中から最初の声が聞こえる場面、
そして最後に責め苦の後に、
虚無の闇が広がる場面は
そうした瞬間として、
鮮烈に印象に残りました。
1970年に寺山修司との対談の中で、
三島由紀夫はこんなことを言っています
死の直前、おそらくは自らの死を決めていた頃の話です。
「お能のスピードは、電光石火をスローモーションで撮れば、ああなるに決まっている。恋愛でも、ドラマでも、迅速そのものにすべてが過ぎてしまって、あとには何も残らない。それで、塚の上に、秋の風が吹いている」
つまり全てのドラマは、
結局は死という静止でしか表現出来ないのですが、
その静止の瞬間の表現に、
全てを込めるのが、
能の世界なのだ、ということなのかも知れません。
「求塚」には舞はありません。
つまり踊りの要素すらなく、
2時間を掛けて描かれるのは、
塚の上を吹く風の音色だけなのです。
同じ女を愛した2人の男がね、
自殺したその女の墓の前で、
互いに刺し違えて死ぬ、
というのはどんな気分のものでしょうか?
ひょっとして、本当に愛し合っていたのは、
その男同士の方ではないかしら。
「求塚」というのは、探し求め続けて、
辿り着いた場所、ということなのですが、
そこに何が待っていたのかと考えると、
今を忘れて中世の闇を彷徨う心地がします。
それではそろそろ出掛けます。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2010-05-05 09:11
nice!(22)
コメント(2)
トラックバック(0)
おつかれさまです.
私も,今日は何か片付けないと今週つらいな,
と思って職場に来ました.
でも天気が良くて,だらだらしてしまいそうです.
私は,機会がなくて「能」を観たことがないのですが,
これすごく面白そう.
せっかく職場のそばに能楽堂があるのだから,
行かなきゃもったいないですね.
by midori (2010-05-05 11:59)
midori さんへ
コメントありがとうございます。
僕もあまり詳しい訳ではありませんが、
良い能は矢張り良いと思います。
ただ、良い能がそう多い訳ではありません。
by fujiki (2010-05-05 22:10)