SSブログ

ビタミン剤で認知症が改善するのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

数日前にこんなニュースがありました。

【葉酸・ビタミンB12投与、アルツハイマー改善】
軽症期のアルツハイマー病患者にビタミンB群の一種の葉酸とビタミンB12を投与すると症状が改善することを、○○病院のA医師が実証した。葉酸とビタミンB12が、アルツハイマー病の危険因子とされるホモシスチン(必須アミノ酸の老廃物)の血中濃度を下げることは従来の研究で明らかになっているが、患者の集団に投与して証明したのは初めて。

ビタミン剤を使用したら、
アルツハイマー病の初期症状が改善した、
というのです。
しかも、記事によればその効果は、
認知症の進行予防薬であるアリセプトより、
優るものだった、と書かれています。

本当にこんなことがあるのでしょうか?

全くないとも言い切れませんが、
「実証」とか「証明」とかというのは、
ちょっと言い過ぎのような気がします。

まず、この記事のバックグラウンドを整理しておきましょう。

認知症のうち、特にアルツハイマー病について、
栄養療法がその発症予防に有用なのではないか、
という意見は以前からありました。

その代表は抗酸化物質の使用と、
ホモシステイン(上記の記事のホモシスチン)の低下療法です。

アミロイドの神経への沈着が、
アルツハイマー病の初期に起こる、
特徴的な変化であることは良く知られています。
これが酸化ストレスを増大させる、という考えがあり、
それならば、抗酸化剤により、
アルツハイマー病の発症予防が可能なのではないか、
という観点から、抗酸化物質である、
ビタミンCやビタミンE、カロテンの効果が期待されました。

2004年に発表された研究では、
ビタミンCとビタミンEの両方をサプリメントとして使用すると、
若干ながらアルツハイマー病の発症が減った、
とされています。
また、ビタミンEとビタミンCの接種量が多いと、
それだけ認知症の発症は少なかった、
という報告もあります。
ただ、これはアルツハイマー病とは関連がありませんでした。
一方で2003年にはカロテンもビタミンCもビタミンEも、
アルツハイマー病とは無関係だった、という報告もあります。

つまり、研究対象や方法によっても、
こうした研究結果はバラバラであり、
特定の結論を引き出せるほどクリアなものではない、
ということが分かります。

次に上の記事の元になった、
血液中のアミノ酸であるホモシステインと、
認知症との関連についての話に移ります。

ホモシステインはアミノ酸ですが、
その血液中の量は、
ビタミンB12とビタミンB6、そして葉酸に深い関係があります。

多くの人で調査をすると、
ホモシステインが血液で高いほど、
アルツハイマー病の頻度が高い、というデータがあります。

ただ、その危険因子としての位置付けは、
必ずしも定まったものではなく、
そのメカニズムも、
はっきりと分かっている訳ではありません。

せいぜい、神経毒性があるかも知れない、という程度のものです。

ホモシステインを下げるには、
ビタミンB12と葉酸を摂ることで一定の効果がある、
ということは事実です。

この点に着目して、276人の参加者に2年間、
ビタミンB12と葉酸を飲んでもらい、
認知機能への影響を見た研究が既に行なわれていて、
その結果はむしろ認知機能は悪化した、
というあまり有難くないものでした。
2004年に行なわれた、
大規模な同様の研究でも、
その効果は矢張り否定されています。

つまり、ビタミンB12や葉酸を一定の量摂っても、
認知症の予防にはあまりならない、
というのが今までの一般的な見解だった訳です。

そこで上の記事に戻りましょう。

上の記事の研究は、ある病院の患者さんを対象にして、
病初期のアルツハイマー病に対する、
ビタミンB12と葉酸、
およびアリセプトの効果を比較したものです。

記事によれば、
葉酸のみを飲んでもらった90人と、
葉酸とビタミンB12を一緒に飲んでもらった92人、
そしてアリセプトを飲んだ40人を1年後に比較したところ、
認知機能の検査の数値が、
葉酸とビタミンB12を飲んだ2群では改善したのに対し、
アリセプト群では悪化した、と書かれています。

現時点でこの内容が論文化されているものなのか、
定かではないので、
あくまで上の記事の情報からの推測になりますが、
まず「患者の集団に投与して証明したのは初めて」
という記事の表現にはちょっと問題があります。
上でご説明したように、
こうしたデータは別に今回が初めてのものではないからです。
敢えて言えば、日本でまとまった人数での検討は初めて、
というくらいが常識的なところでしょう。

ホモシステインが高いことが、
心臓病の危険因子であることは、
特に海外では注目されています。
先に紹介したオバマ大統領の健康診断でも、
ホモシステインの数値が測定されています。
また、葉酸やビタミンB12の欠乏が、
ホモシステインの濃度を上げることも明らかになっています。

ただ、欠乏のある人に補充することは、
当然有用性がありますが、
そうでない人に使用しても果たして意味があるかどうかは、
それとは全く別の問題として考えるべきだと僕は思います。

実際に海外においても、
心臓病の予防にはっきりと葉酸やビタミンB12が効果がある、
という確証は得られていません。

上の記事だけを読むと、
如何にもビタミンB12と葉酸さえ飲んでいれば、
どんな人でも認知症が予防出来そうですが、
勿論そんなことはなく、
効果があるとすれば、
それはビタミンB12 や葉酸の欠乏のある方に、
限ったものではないか、と僕は思います。

僕の経験から言うと、
特にご高齢の方でビタミンB12や葉酸の欠乏がある方は、
意外に多く、
手足の痺れやふらつき、口内炎などの症状が、
補充療法で改善することは稀ではありません。

しかし、認知症が目に見えて改善するということは、
経験的にはあまりないのではないか、と思います。

上の記事の研究では、
ミニメンタルテストという認知症の簡単な検査が、
認知症の進行の度合いの評価として使われています。

これはただ、長谷川式スケールと同様に、
軽症の認知症の事例の、
経過の評価にはあまり適した方法とは思えません。
やるタイミングによっても、
比較的簡単にその数値は変わってしまうからです。

それでは今日のまとめです。

ご高齢の方で軽度の認知症が疑われる場合には、
出来れば血液中のビタミンB12と葉酸を、
測定して置くのが望ましいと思います。
欠乏が疑われる数値であれば、
補充療法が全身的な体調不良を改善し、
その後の血管病や認知症の進展にも、
良い影響を及ぼす可能性があります。

しかし、一般に認知症がビタミンで改善する、
という言い方は、ちょっと言い過ぎだと僕は思いますし、
たった1つの臨床研究の結果をもって、
それが実証されたとか立証されたとかと言うのは、
あまり科学的な表現とは思えません。
それに反するようなデータも、
実際には報告されているからです。

医学のニュースというのは、
もう少し有意義で確実性のあるものを、
仮にそれが難解なものであっても、
噛み砕いて分り易く伝えるというのが、
あるべき姿ではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(25)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 25

コメント 6

みぃ

もしも、葉酸とビタミンB12で、認知症を予防できるとしたならば、素晴らしい事ですね。  
母にアリセプトを飲ませて見たり、時に迷ってしまったりもしますが、葉酸とビタミンB12ならば、少し安心な気がします。
駄目もとで、ちょっと試して見ようかしら?
牛乳等に、葉酸を加えた物も有りますので…。。
by みぃ (2010-05-06 20:50) 

ritton2

そんな…メチコバールがそんな大した薬なんて…かなりエビデンスレベル低そうですがΣ( ̄◇ ̄*)エェッ
by ritton2 (2010-05-06 21:57) 

iyashi

疫学というものは難しいですね。。。
by iyashi (2010-05-06 23:05) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

不足しないように気を付けることは、
大事だと思います。
上の効果については、
多少眉に唾を付ける必要があります。
by fujiki (2010-05-07 06:14) 

fujiki

ritton2 さんへ

コメントありがとうございます。
ビタミンB12の欠乏は、
意外にあるというのが、
僕の印象です。
ただ、上の内容は僕も信じてはいません。
by fujiki (2010-05-07 06:17) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。

こういうものを大仰に取り上げるところに、
メディアはちょっと問題があると思います。
by fujiki (2010-05-07 06:20) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0