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Lancet 誌の2つの論文を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
今のところ午後は予定はありません。
家に早く帰れればちょっと嬉しいです。

それでは今日の話題です。

今日はちょっと落葉拾い的な話題です。
まだ、未整理な点をお許し下さい。

Lancet 誌は、イギリスの代表的な権威ある医学誌ですが、
ちょっと毛色の変わった研究や、
風変わりな研究を、
積極的に掲載する、
という特徴があります。

今年の2月2日に、この雑誌に以前掲載された、
1つの論文が抹消されました。

それは、1998年に掲載されたものです。
それまで健康だった小児が、
3種混合ワクチン(MMRワクチン)の接種後に、
腸炎の症状と発達障害の症状を示した、
というもので、
これが「ワクチンが自閉症の原因なのでは…」という、
一部で主張されている意見の、
1つの原資料となっているのです。

この場合の3種混合ワクチンというのは、
麻疹と風疹とおたふく風邪のワクチンを、
1つにしたもので、
日本では現在その組み合わせのワクチンは、
使用されていません。

お子さんの数は12人で、
そのうち8人がワクチン接種後だった、
と記載されています。
慢性の腸炎と行動発達の異常が、
ある種の抗原刺激の後で現われるのでは、
というのがこの論文の肝で、
腸というのは一種のリンパ組織で、
脳と腸とには、免疫的に相関があり、
仮にそうしたことが有り得るとすれば、
非常に示唆的だ、と言うことが出来ます。

内容には実際にはかなりあやふやな部分があるのですが、
それでも掲載されたのは、
こうした報告により、今後新たな疾患概念が誕生するのでは、
という推論があったものと思われます。

ところが…

現在までに、この報告を補強するような報告は、
殆ど存在しません。

その上、この論文のデータが、
実はワクチンの被害に遭った患者さんの、
裁判に使われていたことが判明しました。
そのデータは論文発表以前に、
裁判の資料として使われていたのです。

そうしたあれこれがあって、
10年以上の議論の末、
この論文はその存在自体が、
抹消されることになったのです。

研究というものの、1つの限界を感じさせる事例ですね。

それではもう1つ、これは昨年10月のLancet 誌に載った、
ワクチン絡みの論文をご紹介します。

ワクチンを打った後に、熱が出ることがあります。
この時に、解熱剤や風邪薬を使ってもいいのでしょうか、
と時々お母さんからご質問を受けることがあります。

僕は概ね、
「お元気が良ければ、少し薬は使わないで様子を見て、
次の日にも熱があったり咳などの他の症状があったら、
出来れば診察にお連れ下さい。
もし無理でしたら、一時的に薬を使うことは特に問題はありません」
とお話しています。

上記の論文は、そのことを実際に研究対象としたものです。

ワクチンを打ったお子さんを2つの群に分け、
1つの群では何も薬は使わず、
もう1つの群では解熱剤を、
ワクチンを打った直後から24時間に、
数回使用します。
別に熱がなくても、
無理矢理使うのです。
そして、接種後3日間の熱を測ります。
それから、ワクチンの効果を見るために、
接種前と1ヶ月後に血液の抗体を測定します。
お子さんの数は全体で800人以上ですから、
かなり大規模な研究です。

どのような結果が出たでしょうか?

解熱剤を使った群では、
一部の抗体の上昇が、
やや低下していました。

つまり、ワクチンを打った後で1~3日に出る熱は、
その全てではないでしょうが、
一部はワクチンによる免疫反応の結果として起こるものなので、
それを無理に下げると、
免疫の反応はやや鈍り、
ワクチンの効果もやや減弱します。
ただ、全体として見れば、
それほどの違いはありません。

従って、この結果を信用するとすれば、
他にあまり全身症状のない熱であれば、
安静にして、薬は使わずに、
少し様子を見た方が良い、
という結論になる訳です。

新型国産ワクチンのご高齢の方の死亡事例が、
接種後数時間から数日の間に集中していることも、
免疫反応による発熱などの症状が、
この期間に起こることと、
無関係ではないのではないか、と僕は思います。

「原発は安全だ」というお題目と同じように、
「ワクチンは安全だ」という、
半ば宗教めいたお題目を唱えるのであれば、
抗体の1ヶ月後の上昇や症状だけではなく、
接種後数日に果たしてどのようなことが身体で起こっているのか、
その点の検証が是非必要なのではないか、
と僕は改めて思いました。

今日は英国の医学誌のあれこれの話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 8

hikkabouya

MMR…
かつては、「麻しん」と「MMR」を保護者が選択して、子供に受けさせてましたね。
その頃も、医師によってはMMRについて否定的な人が多かった記憶があります。
by hikkabouya (2010-02-10 09:07) 

シロ

御返事ありがとうございました。
安心して飲めます。

インフルエンザワクチンの微熱は無理に下げないほうがいいんですね。
季節性のワクチンの時は、すごくしんどかったので、市販の改源という風邪薬を飲んでしまいました。


かねがね、疑問に思うのですが、身体の弱っている人(個室に入院されていたり、自宅療養されているような方)は、あまり他人との接触がないので、打つ必要ない気がするのですが、やっぱり打った方がいいのですか?
by シロ (2010-02-10 10:17) 

まみしゃん

先生の記事を読ませていただいてから母子手帳を確認したのですが・・・息子が麻疹のワクチンを受けたのが1991年でした。
たしかMMRを受けようかどうか迷っているうちに、単独のほうがいいと小児科医に言われて受けた記憶があります。
ただ、その3日後から発熱して小児肝炎になったのですが・・・大きくなってしまってMMRの存在すら忘れていました^^;
そのあと息子はワクチンを受けると必ず発熱する子でした。
今朝の新聞に、麻疹ワクチンは2回受けたほうがいいという記事が載っていました。
ワクチンでたくさんの人が助かっているのはわかりますが、今回の新型インフルエンザのワクチンは疑問だらけです。
by まみしゃん (2010-02-10 19:57) 

yamaneko

はじめまして。先月より拝見していますが、先生のひとつひとつの物事の見方が新鮮に感じ、勉強になります。
ワクチンについての情報は様々で、拠り所をどこに置いたらいいかといつも思います。
昨日小学校入学前の子に2回目のMRを接種させ、残るは日本脳炎ワクチン。現在自治体では積極的勧奨を行っていないし、関東圏居住だし、新ワクチンは開始からまだ一年経ってないようだし、もう少し様子を見ようと思っていたら、入学前説明会では強く接種を勧められ、小児科の先生は「いまなら無料期間だし、みんな結構やっているしやっておけば」的な態度。
結局どうするかは親の判断次第‥‥いろいろ戸惑うところです。

by yamaneko (2010-02-11 00:02) 

fujiki

hikkabouya さんへ
コメントありがとうございます。

日本の場合、新三種混合(MMR)で、
無菌性髄膜炎の副反応が増加したため、
接種が中止になった、という苦い歴史があります。
その原因は未だ不明です。

by fujiki (2010-02-11 16:20) 

fujiki

シロさんへ
コメントありがとうございます。

言われる通りなのですが、
それでも実際には何処から感染したのだろう、
という不思議に思うようなケースが、
結構あるのも事実です。
難しいところですね。
by fujiki (2010-02-11 16:22) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

国産のおたふくワクチンで、
無菌性髄膜炎の多いことは、
紛れも無い事実で、
こうした点を含めて、
ワクチンをもっと積極的に打たせよう、
というのが国の方針であるなら、
もっと安全性については、
突っ込んだ議論が必要だと思います。


by fujiki (2010-02-11 16:29) 

fujiki

yamaneko さんへ
コメントありがとうございます。

日本脳炎の新ワクチンは、
これまで日本ではあまりなかった、
細胞培養の手法によるワクチンです。
それが本当に以前のワクチンより安全性が高いのか、
と言う点については、まだ未知数だと僕は思います。
積極的に打つ必要があるかどうかは、
感染するリスクをどの程度に考えるかで、
変わってくる非常に微妙な問題です。
流行地域の海外に長期滞在される場合や、
豚の飼育される近所で生活される場合には、
接種は必要と思いますが、
それ以外のケースでは、
僕は現時点では、
そう積極的にお勧めはしていません。
日本脳炎は麻疹のように、
人間同士で感染することはないので、
病気としての性質はちょっと違うのです。
by fujiki (2010-02-11 16:38) 

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