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甲状腺未分化癌の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はずっと事務仕事を続ける予定です。
朝から健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は以前予告しました、
「甲状腺未分化癌」の話です。

甲状腺の癌は、その殆どは癌という名前は付いていますが、
極めておとなしい性質で、
癌そのものが命に関わることは、
殆どないとも言われています。

しかし、「甲状腺未分化癌」だけはその例外です。

甲状腺未分化癌は、
甲状腺癌全体の1パーセント程度の頻度ですが、
極めて予後の悪いことで知られています。

その「腫瘍倍加時間」は27時間というデータがあります。
これは培養細胞のデータなので、
直接患者さんに適応は出来ないかも知れませんが、
いずれにしても、ほぼ1日で倍の体積になる、
という意味合いですから、
恐るべきスピードです。
通常進行の早い肺癌の倍加時間が、
1ヵ月程度と言われていますから、
その桁違いの進行の早さが、
お分かりになると思います。

従って、見付かった時には積極的治療は困難となることが、
殆どなのです。

原因は不明ですが、
一部におとなしいタイプの癌が、
変化したのではないか、
と思われる事例があり、
その可能性が指摘されています。
他のタイプの甲状腺癌は、
おとなしいものであるにも関わらず、
治療が必要だと考えられているのは、
そうした理由があるからなのですね。
勿論相棒スペシャルにあったような、
工場の廃液で起こる病気ではありません。

甲状腺の病気は、
女性に多いものが殆どですが、
この未分化癌については、
明らかな男女差はありません。
通常60代以降で発症します。

気が付くきっかけは、
「首の腫れ」です。
何せ1日で倍になるスピードなので、
あれっ、と思った時には、
大きく腫れているのです。
進行が急激な場合には、
痛みを伴うことがあります。
また、周囲の神経に広がって、
声が嗄れて気付くこともあります。

ご高齢の方で急に甲状腺が腫れる時には、
未分化癌か悪性リンパ腫を疑うのが、
1つの鉄則です。

僕が以前甲状腺専門の教授から教わったことは、
未分化癌を疑ったら、
決して甲状腺を強く押してはいけない、
ということです。
不慣れに強く押すと、
それで癌が広がってしまうことがあるのです。

怖いですね。

幸い初期に見付かれば、
手術が可能ですが、
そのケースは左程多くはありません。
転移の多いのは肺ですが、
甲状腺の周辺に留まっていても、
すぐ後ろには気管や食道があります。
周囲の組織に浸潤してしまえば、
矢張り手術は困難になります。
その場合、放射線治療か抗癌剤の治療を、
単独もしくは併用することが一般的な考え方です。
勿論無理をしない範囲の手術と、
組み合わせて行なうこともあります。

診断されてから、数ヶ月で亡くなる例が多いのですが、
化学療法で2年以上の生存例も報告されています。
例数が少ないため、
統計にはばらつきがあり、
正確な数値を出すのは困難なようです。

こうした病気の場合は、
完治を目指すのではなく、
病気と付き合いながら、
身体に負担の掛かり過ぎない治療で、
病気と共存の道を探るのが、
現状なのだと思います。

今日は甲状腺の悪性の病気の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。


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コメント 8

ikeda

初めまして。
昨年末に母が甲状腺癌と診断され、年明けすぐに全摘出手術を受けました。組織検査の結果、右肩付近のリンパ節に転移した部分が未分化転化していることが判明したのですが、ごく一部、、腕神経(?)付近に浸潤した部分が取り切れなかった、と説明を受けました。
半月ほど前から経口抗癌剤と放射線照射を受けていますが、最近右の上腕の痛みを訴えるようになりました。

主治医の話ではもしかすると腕神経付近に残った癌細胞が増殖し、神経を圧迫し始めているのかもしれない、とのこと。

これはつまり、放射線と抗癌剤では癌の進行を若干遅くしている程度の効果しか出ていない、と考えていいのでしょうか。
来月半ばに放射線治療が終了しますが、ということは、その後一気に癌の進行が進んでしまう、、ということなんでしょうか。

素人ながら色々ネットで調べてみましたが、確かに現状打てる手は抗癌剤と放射線くらいということしかわかりませんでした。

なにか他に打てる手はないのでしょうか。
やはり、放射線が効いてくれることに期待するしかないのでしょうか。。
by ikeda (2009-03-13 10:48) 

fujiki

ikedaさんへ
ブログ拝見しました。
癌がどの程度の速度で進行しているのか、
その点を検証するのが、
まずは重要な点ではないか、
と思います。
記事の内容からは、
術前に上昇していた腫瘍マーカーは、
CA19-9 と思われますが、
甲状腺癌で上昇するのは、
稀ではないか、と思います。
術後のマーカーの推移はどうなのでしょうか?
具体的に画像で見て分かるような、
腫瘍の増大が、
術後に見られているのでしょうか?
右腕の痛みについては、
腫瘍の増大以外にも、
可能性は考えられ、
必ずしも進行の証拠とは言えないと思います。

マーカーが上昇しているなら、
癌は進行している可能性が高い訳ですが、
上昇していなければ、
進行はそれほどではない、
と考えることも出来そうです。

抗癌剤については、
多くの報告があり、
薬を変更することによって、
ある程度の効果が望めるケースもあるようです。
なるべく多くの情報を収集し、
可能性については主治医に逐一相談し、
提案するのも必要なことではないか、
と思います。
副作用が強すぎず、
腫瘍の増大をある程度抑えることの可能な薬であれば、
試みる価値はあります。

甲状腺自体に未分化癌が確認されない、
ということであれば、
極僅かに未分化癌のフォーカスが存在しただけ、
という可能性もあります。
問題は今後の経過と、
残存した腫瘍の進行のスピードにある、
という気がします。

まとまらない内容ですみません。
今の時点で考えたことは、
以上です。
多少でもご参考になればいいのですが…

by fujiki (2009-03-13 22:43) 

ikeda

石原先生、お返事ありがとうございます!また、拝見するのが遅くなってしまい、大変失礼致しました。

主治医の説明によると、甲状腺がんは当初左側に発生し、徐々に右側へ移っていったようです。その際に少し悪性化し、転移の時に未分化転化してしまったのではないか、とのことでした。
確かに肩口の腫れは気付いてから1ヶ月くらいで急激に大きくなってきたので、未分化ガンの症状(?)と合致すると思われます。


ちなみに先月末くらいから腕の痛みが無くなった、と身振りで言うようになったのですが、同時にちょっとぼんやり・・というか、悪く言うと痴呆に近いような状態に陥ることが増えてきました。

その後ですが、やはりじわじわと進行していたようで・・
残っていた部分だけではなく、切除してしまったはずの喉付近にも硬い部分ができているようです。

また、先々週くらいのレントゲンで左肺が機能しておらず、また、なんらかの「モノ」により気管が右に押されズレていることがはっきりわかりました。

現在もまだ入院中ですが、ほぼ寝たきりとなり意識もあるのか無いのか、、反応にかなりムラがある感じです。
カニューレ近くのマスクから酸素吸入していますが、サチュレーションが90ちょっとという時もあります。


主治医からは今月一杯かもしれない、いつ急変してもおかしくない状態だと告知されています。

動けない、話せない、飲めない、食べられないという状態になってしまった母を見ていると、ここで頑張らせても1、2週間しか命を延ばせないならば、いっそ早く楽にしてやりたい、と感じてしまいます。
もちろん私や医師の予想を裏切って、奇跡的に回復・退院してくれることを祈ってはいるのですが・・・


取り留めの無い文章、大変失礼致しました。
またなにか変わりがありましたら、ご報告致します。

先生もどうぞ、体調にお気をつけください。
by ikeda (2009-04-13 22:35) 

ikeda

こんにちは、ご無沙汰してしまいました。

上のコメントをさせていただいた一週間後、4/20に病院から急変の連絡があり、同日11:16に母が逝去しました。

最期は眠るように静かな顔で逝ってくれましたので、僕としても少し安心できました。


先生にはいろいろと助言頂き、本当にありがとうございました。

時折、ブログも拝見しておりますので、どうかお体にお気をつけて
これからも頑張ってください^^


取り急ぎ、ご報告まで。

by ikeda (2009-05-25 15:24) 

fujiki

ikedaさんへ
わざわざご連絡頂きありがとうございます。
何と言ったらいいか…
あまりうまく言葉が見付かりません。
お母様のご冥福をお祈り致します。
by fujiki (2009-05-25 21:54) 

かめきちママ

はじめまして。。私の父(70)ですが

甲状腺未分化癌
ステージⅣ
N1b
M0
T4b
大学病院にて10月12日に余命3か月と診断下りました。

抗がん剤投与するか、なにもせず自宅で家族と過ごすか選択して下さいとの事でした。告知しなかったため本人は抗がん剤投与を臨みましたので11月8日から3日間•シスプラチン投与しました。
思ったより副作用がでず、吐き気もなく5日目に1日気分が悪くなった程度でした。また来週結果がでますとの事。

最初主治医の話では左5cmの癌細胞は大きすぎて頸動脈に浸潤しているので手術不可能です。

ですが、今上司にあたられる教授が手術しましょうとおっしゃって下さってますが、どうしたらいいのか迷ってます。

頸動脈のバイパス手術でリスクが伴います。
しかしいまぎりぎりの処ですので早く決断をして下さい。

主治医は手術までして痛い思いさせなくても残された日々を家族と過ごしては・・・

教授は一刻も早く手術の決断を・・・

同じ病院内で意見が違うのでどうしたらいいのか悩みます。

先日家族とともに主治医の先生が告知されました。
ただ父は聞いても早く完治しないとと思ってるみたいで
手術も検討してるみたいです。

と、先生に相談させていただいても返答に困りますよね。

すみません。



by かめきちママ (2010-11-24 15:35) 

fujiki

かめきちママさんへ
お父様ご心配なことと思います。

以下はあくまで僕の個人的な意見です。

僕も大学病院にいたのはかなり前のことで、
今の事情に明るい訳ではありませんが、
一般論で言って、
医局の中で意見が露骨に対立する、
というのはあまりあるべきことではない、
と思います。
何より患者さんにとって失礼です。

手術と抗癌剤の治療を組み合わせる場合もあり、
お父様のご病状によって、
どちらかを選択する、
ということではなく、
その時点で最適の方法を考える、
というのが本来ではないでしょうか?

主治医の先生にもう一度、
医局全体としての最善の方法を、
全員で検討して頂き、
主治医個人の意見ではなく、
医局の意見としての最善と思われる治療を、
提示して頂く、というのはどうでしょうか?

それはたとえば「手術に決める」、
ということではなく、
手術のメリットとデメリットというような形で、
治療法を整理して頂き、
その中から最終的にはご家族と本人に、
決断をして頂くのです。

本来医局のカンファランスや教授回診というのは、
そうした目的で行なわれるものの筈です。

統一した方針がないのに、
どちらかに決めれば、
また後でトラブルが生じかねないと思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-11-25 06:29) 

かめきちママ

早速御返事いただけて先生に感謝いたします。

主治医の先生とぶっちゃけトークをしたさい、「実は今教授から手術をすすめるのはお前の仕事だぞと言われました。でも僕はもうあとのこり少ない時間を手術して抗がん剤投与までして御父さんを苦しませずに楽に逝かせてあげたいと考えてます。でもこのT4bの状態で手術しようって言って下さる先生はいませんよ。」と御話して下さいました。。

っでどう判断したらいいんですか?

当然リスクはあります。
術死、動脈破裂出血死、脳梗塞、気管切開、いろいろあげられました。

「でも開いたら以外に小さくてポロってとれるかもしれませんよ。」(教授)


それなら~と父が半分傾いている状態です。

告知されていても手術で治るならと思っている様子です。

そんな父に手術しても苦しい思いするだけだよとも言えず辛いです。
母は絶対手術は反対すると言ってますが、手術するなら一刻も早くしないと時間がないし、父の好きなようにさせてあげてはと思ったりもします。
ただその症例は2年1回あるかないかの実績らしく不安です。

ただ愚痴愚痴言ってるだけで申し訳ないのですが、病院以外の先生の意見が知りたくて御邪魔させていただきました。

白い巨塔や医龍じゃないですけどいろいろあるんでしょうね。。。



by かめきちママ (2010-11-25 13:25) 

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