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続・「チーム・バチスタの栄光」のトリックについての一考察(ネタばれ注意) [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日に引き続いて、
「チーム・バチスタの栄光」のトリックについての話です。

昨日の記事を読まれていない方は、
まずそれからお読み下さい。
また、この記事は、
小説と映画、テレビドラマの同作品のネタばれなので、
まだ未見未読の方は、
お読みにならないようにお願いします。

それでは続けます。

昨日は、小説版のトリックの疑問についてでした。

その欠点を改良すべく考案された、
テレビドラマのトリックはどういうものだったのでしょうか。

以下、ネタばれです。

犯人は矢張り小説と同じ麻酔医です。
(もう1人の犯人というのが、
ラストに登場しますが、
これはかなり蛇足の感じが強いですね)
彼はスワン・ガンツ・カテーテルという器具を密かに改造。
その何箇所かに設置された電極に、
通常の数十倍の電流が流れるようにして、
それを患者さんの身体に挿入。
心臓を動かすために行なう、
ペーシングという刺激の時に、
その電流で心臓内のポイントの何箇所かを、
同時に焼き切り、
心臓を「殺してしまう」というのです。

ドラマでの説明は極めて短時間で、
無雑作に行なわれたので、
あまり理解出来なかった方も、
多かったのではないかと思います。

これはね、心臓の刺激伝導系という部分を、
何箇所かでずたずたに焼き切ってしまう、
という意味合いなのですね。

その点について、もう少し説明しましょう。

たとえば脳死をされた患者さんから、
心臓を移植する目的で、
切除したとしますよね。

取り出された心臓は、
しばらくはまだどくどくと動いています。

何故こんなことが起こるのでしょうか?

それは、心臓の筋肉には、
「自動性」があるからですね。

要するに心臓の筋肉の一部を、
切り取っても、それは周期的に興奮し、
収縮します。
これは他の筋肉にはない、
心臓だけの特徴なのです。

ただ、全ての心臓の筋肉に、
そうした働きがある訳ではありません。
刺激伝導系と言われる一部の筋肉にのみ、
その働きがあり、
他の筋肉はその自動的な刺激の影響下で、
動いている訳です。

よろしいでしょうか。

従って、刺激伝導系があれば、
それだけで心臓は動きます。
なければ、外からどんな刺激を加えても、
心臓は動きません。
つまり、心臓を確実に殺すには、
刺激伝導系を完全に遮断してしまうのが、
最も確実な方法なのです。

ドラマのトリックで説明された、
心臓の何箇所かを焼き切る、
というのは、要するに、
刺激伝導系を焼き切るという意味なのですね。

ただ、理屈はそれでいいとして、
そんなことが簡単に出来るものでしょうか。

刺激伝導系が正確に心臓の何処にあるかは、
外見からは決して分かりません。
確かにその大元の「洞房結節」という部分は、
右心房の近くにありますが、
その場所にピンポイントで電極を合わせなければ、
ドラマのような効果を期待することは出来ません。

それから、スワン・ガンツ・カテーテルに電極があって…
という設定なのですが、
映像に出て来たのは、
僕の見る限り、
スワン・ガンツ・カテーテルではなかったですね。

スワン・ガンツ・カテーテルというのは、
心臓のポンプとしての働きを診るために、
静脈から挿入し、
通常その先端を肺動脈の入り口に、
固定するチューブのことです。
その先端には小さな風船が付いています。
また、圧力と温度を測るセンサーも付いています。
肺動脈の圧力を継続的に測定することと、
心臓から送り出される血液の量を測定することで、
心臓の機能を手術中からその後にチェックするのが、
その主な目的です。

しかし、通常ペーシングをするような、
電極は付いていません。
仮に付いていたとしても、
その先端は風船なのですから、
しっかり固定される訳ではなく、
その位置も微妙に動いています。
従って、電極の位置もぶれてしまう結果になり、
ドラマで説明されたような結果は、
到底実現されるものではないのです。

更には、麻酔科医がペーシングのカテーテルを操作したり、
電極に通電したりすることが、
通常起こり得るとは考えられません。
常識的には外回りと言って、
手術には直接は入らない医者が、
最低1人はいて、
その医者がそうした操作をするのが、
一般的でしょう。
現実には外回りの仕事が、
結構多いものなのです。
ドラマでは、麻酔科医を犯人にするために、
強引にそうした設定にしたのですね。
犯人を変えずにトリックを変えたことで、
そうした矛盾が生じてしまったのです。

小説で提示された謎は、
非常に魅力的なものです。
衆人環視の状態で、
手術中に人為的かつ確実に心臓を停止させる、
というね。
ただ、実際には小説版もドラマ版も、
その謎を説得力を持って、
解明してくれたとは言い難いですね。

特にドラマ版は医学用語を散りばめて、
幻惑して誤魔化した、という感じです。

でも、心臓って不思議ですよね。
大学時代に「心臓は何故動くのか?」、
という質問で始まる講義があって、
それが僕は非常に印象に残っているのです。
その正解は勿論、「自動性」なんですよ。
今日はドラマの話にこと借りて、
心臓の不思議の話をお届けしました。

ええと、念のため付け加えますが、
この記事はドラマや小説自体の価値に言及したものではありません。
あくまでトリックが現実的かどうかのみの検証ですので、
どうかその点はご理解の上お読み下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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クラウド・バスター

素晴らしい考察。文章も構成も上手くて驚きました。医療モノは専門知識でごまかしているものが多いですよね。戦前には医師であり推理小説作家であった小酒井不木さんのものがありましたが、こちらは短編が主で、トリックも単調でわかりやすいものでしたね。チームバチスタの作家さんのものは未読ですし、テレビドラマも未見です。ただし、映画版はきちんと映画館で見ました。医療モノでトリックが明解で面白いものがあればいいんですがねぇ。
by クラウド・バスター (2009-03-29 23:32) 

fujiki

クラウド・バスター様
コメントありがとうございます。
医療ものであっと驚くトリック、
というのは確かにあまりない気がしますが、
山田風太郎のミステリーには、
かなりユニークな発想があったような記憶があります。
最近の医者の書いたミステリーは、
素人を眩惑するような、
ちょっとずるいものが多いですね。
by fujiki (2009-03-30 08:23) 

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