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カンピロバクター腸炎の傾向と対策 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日も朝から往診に行って、
帰るのが遅れました。
書類の整理も滞っているし、
相変わらず慌しく時間が過ぎて行きます。

それでは、今日の話題です。

今日は普通の病気の話です。
特に目新しいことは何もありません。
ただ、診療所ではこうした症状の方を診ることが多いので、
たまにはこういう話題もいいかな、
と思って取り上げました。

題して、「カンピロバクター腸炎の傾向と対策」です。

カンピロバクター(Campylobacter)は、
グラム陰性のらせん状の細菌です。

グラム陰性というのは、
グラム染色という細菌を染める方法で、
染まらないという意味で、
らせん状というのは、
その名の通り、らせん状の紐のような、
形をしているという意味です。

同じ種類の細菌の代表選手が、
梅毒の病原体の梅毒トレポネーマで、
胃潰瘍の原因の1つである、
ヘリコバクター・ピロリ菌も、
同じ仲間です。

カンピロバクターの代表株は、
Campyrobacter jejuni と言って、
人間や牛、羊などの口の中や腸、
陰部に生息していますが、
動物の菌が食べ物を介して、
人間の体内に入ると、
カンピロバクター腸炎という病気を起こします。
これは要するに食中毒です。

カンピロバクターは食中毒の原因菌の1つなのです。

最近カンピロバクターの腸炎を、
診療所で多く診ています。

先月1ヶ月に診療所で、
下痢などの症状で受診された患者さんのうち、
7名に便の培養の検査を施行しましたが、
そのうちの2例が病原性の大腸菌で、
残りの5例は全てカンピロバクターが原因でした。
それも同時に感染した訳ではなく、
互いに全く無関係の事例です。

下痢の患者さん全てに便の培養検査をしている訳ではなく、
あくまで経過や症状から、
細菌の感染症の疑われるケースに限って検査をしているので、
それでこの確率は、
かなり高いものだと言っていいと思います。

意外に流行っているのですね、
カンピロバクターの腸炎は。
そう言えば、今年吉本興業のタレントさんの経営する焼肉店で、
食中毒の事例がありましたが、
その原因もカンピロバクターでしたね。

代表的な事例をお示しします。

患者さんは20代の女性です。
大学生で、ある夜友達と焼肉を食べました。
それから2日後の朝から寒気がして、
39度の発熱と共に、
腹痛を伴う激しい水下痢に襲われます。
最初は普通の便の色でしたが、
半日ほどすると、
イチゴゼリーのような出血の塊を伴った、
粘液便になります。
その翌日も腹痛と下痢とは続いたため、
患者さんは診療所を受診されました。

これが比較的典型的なカンピロバクター腸炎の症状です。

原因は生肉と生ガキが代表で、
無殺菌の牛乳で感染することもあります。
先月の診療所の事例では、
焼肉が2名、バーベキューが1名、
タルタルステーキとレバ刺しがそれぞれ1名ずつでした。
カンピロバクターは42度までの温度では、
生きているので、
肉も生焼けなら、感染しておかしくないのです。
焼肉を食べた4人のうち、
1人だけが感染したりするのもこのためです。
しっかり肉を焼いた人は、
感染しないのですね。

潜伏期は教科書的には3~5日です。
要するに、食べてから3日以上経ってから、
下痢や熱などの症状が出るのです。
ただ、先月の患者さんのお話を聞くと、
潜伏期は2日から3日という印象でした。
この辺は教科書と現実は結構違います。

結構熱も上がりますし、
お腹も痛くなり、下痢になります。
下痢は茶色い水下痢のことが多いのですが、
上の例のように出血性になることもあります。
一般には上の例のような出血性の下痢は、
O-157 のような病原性の大腸菌の感染の特徴ですが、
そうでないケースもあるのですね。

通常は数日の経過で徐々に回復しますが、
稀に重症化して、
髄膜炎を起こしたり、
また回復した後で、
神経の病気である、
ギラン・バレー症候群を起こしたりすることもあります。

勿論自然にも治りますが、
抗生物質が有効です。
培養の結果を見ると、
ペニシリンの効くタイプのものと、
効かないタイプのものの、
大雑把に言って、
2種類が検出されています。

ただ、治療に抗生物質を使う場合は、
通常はペニシリンは使わず、
エリスロマイシン系か、
ニューキノロン系の薬を使います。

上の患者さんは、
当日はホスミシンという抗生物質を入れた、
ブドウ糖の点滴をして、
オフロキサシン(商品名オゼックス)という、
ニューキノロン系の抗生物質を、
3日間処方しました。
症状は2日程度で回復しました。

これがカンピロバクターによる食中毒です。

生肉と生ガキにはご注意下さい。

今日は極めて一般的な病気の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

tanico

こんにちは!
毎日お忙しそうです。先生、お疲れはたまっていませんか?

カンピロバクターは、6月にやりました。
お腹がとても痛くて、生まれて初めて血便がでて、びっくりして病院に駆け込みました。
おそらくは、焼き鳥やでたべた生のささみか、山中湖にいった帰りに寄った、サービスエリアで食べた生焼けのステーキ串が原因です。
相当、辛かったので、ついついコメントしてしまいました。
本当に気をつけたいものです。

でも。
やっぱりちょっと生っておいしいんですよね。
のどもと過ぎれば熱さ忘れるって、よく言ったものです。


by tanico (2008-12-05 10:28) 

fujiki

tanicoさんへ
以前のブログの記事拝見しました。
大変でしたね。
僕も肉はレアが好きです。
患者さんには言っても、
自分はあまり気にせず食べます。
多分そんなものですね。

お気遣いありがとうございます。
今のところ元気です。
ただ、年末には必ず1度は酷い風邪を引くんですよね。
まあ、毎日ウイルスを浴び続けているので、
仕方がないのかも知れません。
よく、「先生はどうして風邪を引かないんですか?」
と聞かれますが、
勿論引きます。
当たり前ですよね。

もう年の瀬です。
お互いに元気で乗り越えたいですね。
by fujiki (2008-12-05 23:05) 

まゆ

こんばんは
昔の記事で返信がもらえるかわからないのですが、とても不安でコメントさせていただきます。
病院に2回行ったのですが明確に医療機関でカンピロバクターによる食中毒と診断はされていません。ですが症状も合致しており発祥の3日前に鳥刺しを食べており食中毒で下痢などの症状で5日ほど苦しみました。
症状は治ったのですがギランバレー症候群というのが怖くて仕方ありません。食中毒発症から4日ほどで手足のしびれ筋肉痛が出て起き上がれないほど痛かったです。1週間以上たった今も手足の痺れが続いています。ですが私はもう10年ほど手足の痺れに悩んでおろり疲れがたまると痺れたりします。いつもなる方の痺れなのかギランバレーによる痺れなのかよく分かりません。症状も痺れも発症から1週間以上たった今だいぶよくなっているのですがとても怖いです。他にも喉の痛みで咳が出るなどの症状が治ってから出てきています。ネットでこういう症状がギランバレー発症してる人は出ると書いてありとても怖いです。歩行は問題なくふらつきもないのですが一度病院に行って相談した方が良いでしょうか?
by まゆ (2017-01-04 04:27) 

fujiki

まゆさんへ
カンピロバクターによるギランバレー症候群は、
通常3から4週くらいしてからの発症になりますから、
関連はない可能性が高いと思います。
少し様子をみて頂いて心配はないと思いますが、
絶対はありませんから、
症状が持続するようでしたら、
ご相談に行って頂くのが良いと思います。
by fujiki (2017-01-05 10:36) 

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