SSブログ

高マグネシウム血症死亡例の検証 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先週、極めて良く使われる下剤である、
酸化マグネシウムの製剤で、
2例の死亡例が出たことが、
新聞等で報道されました。

酸化マグネシウムは、
カマとかマグラックスとかという名称で、
非常に多く使われている下剤の一種です。
僕自身患者さんに多く処方しています。

下剤という言い方は必ずしも正確ではなく、
便を柔らかくして、
排便を促す性質の薬剤です。
要するに排便を直接刺激する効果はない訳です。
その作用は、
あくまで便を柔らかくするだけです。

酸化マグネシウムの化学式はMgO。
至ってシンプルな物質です。
マグネシウムと酸素がくっついただけです。
これが身体の中に入ると、
まず胃の中で酸を中和して、
塩化マグネシウムになります。
このため、過酸を中和するので、
制酸剤として、
古くから胃薬として使われている訳です。

そうして出来た塩化マグネシウムは、
腸で炭酸水素マグネシウムとなり、
腸の中に水を引っ張るので、
便の水分を増やして効果を表わすのです。
その過程で、マグネシウムは血液の中に、
吸収されます。
「一粒で二度おいしい」、巧妙に出来たいい薬ですね。

下剤というのは、依存性が問題となります。
特に大腸を刺激するタイプの薬や浣腸は、
あまり連用していると、
それなしでは、
自然に排便することが出来なくなってしまうことがあります。
身体が下剤の刺激に頼ってしまうのですね。
酸化マグネシウムは刺激性の下剤ではないので、
そうした副作用はありません。

ここまでは非の打ち所のない薬ですね。

問題はこの薬を飲むことによって、
マグネシウムが身体に吸収されることです。
それが過剰になれば、
血液のマグネシウムの濃度は高まります。
それがあるレベル以上になれば、
重篤な障害を引き起こすことがあるのです。
このことは確かに事実です。
しかし、滅多に起こることではない、
と言われています。

これは僕が勝手にそう言っている訳ではなく、
日本の一般的な教科書にもそう書かれていますし、
僕の信頼している海外の教科書、
「ハリソン内化学」にも、
間違いなくそう書かれています。

では、一体滅多にないどんなことが、
今回の2例の死亡例では起こったのでしょうか。

その事例を検討してみましょう。

死亡例のうち内容が公開されているのは1例のみです。
患者さんは80代の女性です。
認知症にて施設に入所されていて、
便秘にたいし、
酸化マグネシウム1日2グラムが処方されていました。
突然大量の下痢を起こし、
ショック状態となって、
救急入院。
入院時に血液のマグネシウムが17.0mg/dl と異常高値。
その後血液に細菌が増殖する敗血症を起こし、
亡くなりました。
甲状腺の機能亢進症がある、
と書かれていますが、
治療はされていなかったらしく、
詳細は不明。
腸が腐る、腸管壊死の疑いがあった、
とも書かれています。

酸化マグネシウムの2グラムという量は、
一般的な量で決して多くはありません。
僕も便の硬さを見ながら、
通常1日3グラムまでは使用することがあります。
マグネシウムの血液の濃度は、
通常は2.5mg/dl 以下です。
10.0mg/dl を超えると心停止を起こしてもおかしくない、
と言われているので、
事例の17.0mg/dl というのは、
極めて重症な数字なのです。

他の検査データなどは公開されていません。

僕は以前製薬会社の担当者に質問したことがありますが、
通常こうしたデータは、
開示されている以上のものは、
直接主治医に問い合わせる以外、
探す手段はないもののようです。

皆さんはこの事例を、
どうお考えになりますか?

普通に使う量の酸化マグネシウムが、
高マグネシウム血症を起こして、
患者さんは亡くなったのでしょうか?

僕はそうは思いません。

明日はその点について、
まずマグネシウムの代謝の話を検証し、
それから事例の検証をしたいと考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

eriko

40代の女性です。初めてのお便りで恐縮ですが、先生にお尋ねしたいことがございます。私は大便を軟化させたくて(排便の頻度は概ね正常。大便が酷く硬くて大きな塊になり排出の際に肛門が切れて出血する為)MgO製剤を服用していました。この目的の適量(1980mg/dayを就寝前に1回服用)でした。常用ではなく、休前日に1回、但し、どうしても便が硬くてつらい時は1回、増やして服用しました。最大でも服用は週に2回でした。最初の服用から暫くの間(2年余)は副作用等は無く、目的の薬効のみで無難に過ごしていました。ところが半年前くらいに、服用すると強い悪心と腹痛、嘔吐、顔面蒼白、脂汗(冷や汗)、めまい(座位すら不可能で倒れてしまう)と四肢(特に末端)の痺れが起こりました。この時、四肢が重くダラーンとしました。この状態は、それ以前には起こりませんでした。血中Mgが4. 9mg/dLくらいで起こる高Mg血症かと思いましたが、徐脈ではなく、逆に脈は速まって呼吸も浅く速くなり(過換気症候群になった時に似ていて苦しかったです)、皮膚は潮紅どころか逆に蒼白でした(顔が冷たくて驚いて鏡を見ました)。ほかの症状については自分一人では判りません。この状態が最初に起きた時は、偶々この時だけかな、と思ったから、その後にもMgOを服用したのです。すると二度めの、この状態が起こりました。この状態では動けないので、動けるようになってから医師に受診しましたが、受診時はほぼ平常状態なので、所見が無いみたいに済まされました。既述のとおり、大便が本当に硬くて、しかも大きい塊になってしまいます。硬さと大きさのせいで、便意を催しても排出は容易ではなく、汗をかくほどいきんでもいきんでも出なくて肉体疲労が嵩み、肉体的負荷がとても大きいです。都度、肛門が切れて出血するのもつらいです。ほかに便を軟化させる良い薬があるか、または、私はMgO服用を再開、続行しても良いかどうか。どうかご助言ください。私は甲状腺腫があり、甲状腺腫とは無縁、無関係の(診た医師がそう言いました)甲状腺機能低下症です。長い書き込みになり、申し訳ありません。宜しくお願いします。
by eriko (2015-11-30 00:11) 

fujiki

erikoさんへ
他の軟化剤としてはひまし油やアミティーザがあります。
変更を試みても良いかも知れません。
酸化マグネシウムが原因の可能性は低いと思いますが、
念のため一度血液のマグネシウム濃度は、
測定をしておいた方が良いと思います。
症状については、
便が硬いことで腹圧が強く掛かることが、
血圧低下などの誘因になっている可能性が、
あるように思います。
by fujiki (2015-11-30 08:06) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0