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続・高マグネシウム血症死亡例の検証 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務仕事に終われます。
いつも通り、往診から戻って来て、
今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日に引き続き、
マグネシウムの話を続けます。

マグネシウムは、
カルシウム、カリウム、ナトリウムに次いで、
人間の身体の中で4番目に多い、
陽イオンです。

また、マグネシウムはカリウムに次いで、
細胞の中に多い陽イオンでもあります。
カルシウムとナトリウムは細胞の外に多く、
それに対してマグネシウムとカリウムは、
細胞の中に多いのです。

細胞の中のマグネシウムは、
細胞のエネルギーの大元の1つである、
ATPという物質と結び付いて存在しています。
従って、人間の身体がエネルギーを使うには、
マグネシウムが必要です。
また、神経や筋肉が正常に働くためにも、
マグネシウムは必要なのです。

ここまで、よろしいでしょうか。

人間の身体の中には、
おおよそ25グラムのマグネシウムが存在する、
と言われています。
(これは海外のデータなので、平均的日本人は、
若干少ないかも知れません)
このうち、約半分が骨に存在しています。
それ以外のマグネシウムは99パーセントが細胞の中にあり、
それ以外の僅かな部分のみが、
血液の中にあります。

食事で1日に摂るマグネシウムは、
多く見積もって、300mg くらいです。
そのうち吸収されて血液に入るのは、
せいぜい100mg 程度で、
残りの200mg は便の中に出て行きます。

血液の中とほぼ同量のマグネシウムは、
尿から毎日排泄されます。
腎臓の働きが正常であれば、
5グラム~6グラムのマグネシウムを、
1日に排泄する力を、
腎臓は持っています。

通常酸化マグネシウムの使用量は、
上限が1日3グラムです。
このうち吸収されるマグネシウムは、
多く見積もってせいぜい1グラムですから、
それが全部血液に入ったとしても、
おしっこに出るマグネシウムが増えるだけで、
血液のマグネシウムが異常になることは、
理屈の上では考えられないことになるのです。

よろしいでしょうか。

それでは、昨日ご紹介した死亡例に戻りましょう。
お読みでない方は、まず昨日の記事をお読み下さい。

患者さんは80代の女性で、
1日2グラムの酸化マグネシウムを服用していました。
報告されたデータには、
腎機能が記載されていないので、
ここからは推測になります。
もし腎機能が健康な方の20パーセント程度は保たれていれば、
原理的には酸化マグネシウムのせいで、
高マグネシウム血症になることは有り得ません。

そうすると、
可能性の第一は、
患者さんは腎臓の働きが非常に悪い状態、
すなわち腎不全の状態であったのに、
漫然とマグネシウムが投与されていたので、
こうした事態になった、
という考えが成り立ちます。

マグネシウムの測定は、
必ずしも一般的な検査ではありませんが、
腎機能の検査は、
ある程度定期的にするべき検査です。
従って、そうした検査が行なわれていたかどうかが、
このケースの問題点の1つです。

ただ、昨日のケースをもう一度お読み頂きたいのですが、
僕は腎臓以外の身体の異常が、
患者さんの重篤な症状の原因ではなかったのか、
という疑いを持っています。

それは患者さんが下痢で症状を出している点と、
敗血症が認められ、
最終的には腸の壊死が疑われている、
という点です。

高マグネシウム血症の症状で、
通常嘔吐はあっても下痢はありません。
従って、激しい下痢は、
マグネシウム以外の原因で起こったのです。

一番の可能性は、
勿論腸の感染症です。
患者さんは施設に入所していて、
認知症もありました。
体調不良は少し前からあっても、
見過ごされた可能性は充分にあります。

その後腸の壊死が起こったとすると、
感染症の発生以前に、
腸の虚血があったり、
腸閉塞に近い状態が、
腸の一部に生じていた可能性も考えられます。

最初に書きましたように、
マグネシウムは細胞の中に多いので、
細胞が壊死するような状態が起これば、
当然破壊された細胞から、
大量のマグネシウムが血液の中に入ります。
従って、
別に酸化マグネシウムを飲んでいなくても、
血液のマグネシウムが上がって、
おかしくはないのです。

僕の結論はこうです。
この症例の高マグネシウム血症は、
病気の結果であって原因ではありません。
腸の状態が悪かったのに、
酸化マグネシウムを飲ませ続けていたとすれば、
それも病状に影響はしたかも知れませんが、
薬剤のせいで高マグネシウム血症になったと考えるのは、
明らかに無理があります。

皆さんはどうお考えになりますか?

明日は報告された、
もう1人の高マグネシウム血症の実例を、
同様に検証したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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