不眠症の薬物治療 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から書類を整理して、
往診に行って、
それから今PCに向かっています。
それでは、今日の話題です。
先週からの睡眠障害の話題の、
一応のまとめとして、
不眠症の薬物治療について、
その概説をお話します。
現在の薬物治療は、
「ベンゾジアゼピン系」と言われる一連の薬剤が、
その中心です。
GABAと言われる神経伝達物質があって、
それによって刺激を受ける神経が興奮すると、
催眠や不安の鎮静作用、
それから筋肉を緩めるような作用があることが、
分かっていました。
GABAは、主にレム睡眠を作り出す、
神経網に分布していますが、
別にそれが刺激されても、
必ずしも人がレム睡眠に陥る訳ではありません。
この辺が、脳の仕組みの一筋縄では行かないところですね。
ベンゾジアゼピンは、そのGABAの代わりに、
その受容体にくっついて、
GABAに似た働きをする物質です。
その元になる物質が、
ジアゼパムで、
これはセルシンなどの商品名で、
今も使われています。
1960年代には既に使われていた古い薬ですね。
この薬は主に鎮静剤や抗痙攣剤として使われています。
催眠作用はない訳ではありませんが、
それほど強くはありません。
その後より睡眠導入作用を強化した、
ベンゾジアゼピン系の薬が次々と開発され、
睡眠剤の主流に位置するようになりました。
フルニトラゼパム(商品名、サイレース、ロヒプノール)は、
古い薬ですが、
今でもよく使われているベンゾジアゼピン系の、
基本薬の1つです。
血液の濃度が半分になるまでの時間(半減期)が、
およそ1日で、
通常睡眠の出来る時間は6~7時間くらい。
1mgから2mgくらいが常用量で、
僕も好んで使っています。
その後、これでは効いている時間が長すぎるのではないか、
という考えがあり、
効果時間を短くした薬が開発されました。
要するに、受容体に薬がくっついている時間を、
短くした訳です。
こうした短期作用型の薬の代表が、
多分皆さんもよくご存知の、
トリアゾラム(商品名、ハルシオン)です。
ベンゾジアゼピン系の薬は、
少なくともそれ以前の睡眠剤に比較すれば、
安全性の高い薬ですが、
それでも幾つかの問題点があります。
そのうちの1つは、
アルコールとの併用が危険である、
ということです。
これはアルコールとベンゾジアゼピンが、
そもそも似た構造を持ち、
同じ神経の働きに影響を及ぼす、
というところから来ているもので、
特に大量のアルコールと一緒に飲むと、
時に錯乱のような状態を起こすことがあります。
現実には併用を禁止することの、
困難なケースも多いのですが、
原則としては、アルコールとの併用は、
してはいけません。
それから、ベンゾジアゼピンには、
筋肉を緩める作用があり、
それが朝のふらつきなどの副作用の、
原因になっています。
1980年代にベンゾジアゼピンの受容体の構造が明らかになり、
ω1とω2と言われる、
2つの受容体の種類があり、
そのうちのω2が、
筋肉を緩める作用と、
不安を抑える作用を持っている、
ということが分かって来ました。
それに対して、
睡眠導入作用は、
ω1にくっついた時の効果なのです。
このため、ω2には殆ど作用しない薬が開発されました。
このうちベンゾジアゼピンとは別の構造で、
ω1にしか作用しない、
効きの短い薬が、
ゾルピデム(商品名、マイスリー)です。
皆さんの中にも、
飲まれたことのある方が、
おそらくいらっしゃると思います。
現在ポピュラーに使われている薬です。
ただ、前評判とは異なり、
目覚めがすっきりしているかどうかは、
個人差が大きく、
明らかにハルシオンより優れている、
というほどは評価出来ません。
また、幻覚を見たりする副作用も、
ハルシオンより多い印象です。
ゾピクロン(商品名、アモバン)も、
同じタイプの薬ですが、
これも意外に飲む人を選ぶ薬です。
以上2種とは異なり、
ベンゾジアゼピンの構造は持ちながら、
ω1にしか効かない薬が、
クアゼパム(商品名、ドラール)です。
これはやや長めの効きの薬ですが、
矢張り副作用は確実に少ないとは言えません。
また、不安は不眠の原因になっていることが多いのですが、
ω2は不安を抑える効果を持っているので、
そうした意味で不安の強い不眠の患者さんには、
むしろ古いタイプの薬の方が、
よく効くことが多いのです。
最近の新薬の開発が、
下手に副作用を減らそうと構造を変えて、
却って効かなくなったり、
予想外の強い副作用の出たりする、
これもそうした事例の1つですね。
薬の開発というのは、
どうも一筋縄ではいかないものなのです。
現在の睡眠剤の全般的な問題点は、
軽度ではあるものの、
依存性のあることと、
自然な眠りにはならない、
ということです。
睡眠剤で誘導された眠りは、
脳波のパターンは変化し、
レム睡眠は減り、
ノンレム睡眠は浅くなる、
という共通の異常があります。
要するに、
作り出された、人工的な眠りなのです。
そのために、もっと自然の眠りに近い効果の薬剤がないか、
と開発が進められ、
幾つかの新薬が準備段階にあります。
そのうち、海外ではもう発売され、
日本でも発売の準備段階にあるのが、
ramelteon という薬です。
これはメラトニンという睡眠と覚醒のリズムを調節するホルモンの、
受容体にくっついて、
その作用を刺激する、
全く新しいタイプの睡眠導入剤です。
日本の製薬会社の開発品で、
アメリカでは2005年にもう発売済みです。
効果は抜群とは言えないようですが、
ベンゾジアゼピン特有の副作用は殆どなく、
日本での発売が待たれるところです。
それ以外にも幾つかの新薬がありますが、
ベンゾジアゼピンとは異なる作用で、
GABAを刺激するとされ、
注目されたgaboxadol という薬が開発中止になるなど、
その道程はそう平坦なものではないようです。
今日は睡眠導入剤の概説をお届けしました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から書類を整理して、
往診に行って、
それから今PCに向かっています。
それでは、今日の話題です。
先週からの睡眠障害の話題の、
一応のまとめとして、
不眠症の薬物治療について、
その概説をお話します。
現在の薬物治療は、
「ベンゾジアゼピン系」と言われる一連の薬剤が、
その中心です。
GABAと言われる神経伝達物質があって、
それによって刺激を受ける神経が興奮すると、
催眠や不安の鎮静作用、
それから筋肉を緩めるような作用があることが、
分かっていました。
GABAは、主にレム睡眠を作り出す、
神経網に分布していますが、
別にそれが刺激されても、
必ずしも人がレム睡眠に陥る訳ではありません。
この辺が、脳の仕組みの一筋縄では行かないところですね。
ベンゾジアゼピンは、そのGABAの代わりに、
その受容体にくっついて、
GABAに似た働きをする物質です。
その元になる物質が、
ジアゼパムで、
これはセルシンなどの商品名で、
今も使われています。
1960年代には既に使われていた古い薬ですね。
この薬は主に鎮静剤や抗痙攣剤として使われています。
催眠作用はない訳ではありませんが、
それほど強くはありません。
その後より睡眠導入作用を強化した、
ベンゾジアゼピン系の薬が次々と開発され、
睡眠剤の主流に位置するようになりました。
フルニトラゼパム(商品名、サイレース、ロヒプノール)は、
古い薬ですが、
今でもよく使われているベンゾジアゼピン系の、
基本薬の1つです。
血液の濃度が半分になるまでの時間(半減期)が、
およそ1日で、
通常睡眠の出来る時間は6~7時間くらい。
1mgから2mgくらいが常用量で、
僕も好んで使っています。
その後、これでは効いている時間が長すぎるのではないか、
という考えがあり、
効果時間を短くした薬が開発されました。
要するに、受容体に薬がくっついている時間を、
短くした訳です。
こうした短期作用型の薬の代表が、
多分皆さんもよくご存知の、
トリアゾラム(商品名、ハルシオン)です。
ベンゾジアゼピン系の薬は、
少なくともそれ以前の睡眠剤に比較すれば、
安全性の高い薬ですが、
それでも幾つかの問題点があります。
そのうちの1つは、
アルコールとの併用が危険である、
ということです。
これはアルコールとベンゾジアゼピンが、
そもそも似た構造を持ち、
同じ神経の働きに影響を及ぼす、
というところから来ているもので、
特に大量のアルコールと一緒に飲むと、
時に錯乱のような状態を起こすことがあります。
現実には併用を禁止することの、
困難なケースも多いのですが、
原則としては、アルコールとの併用は、
してはいけません。
それから、ベンゾジアゼピンには、
筋肉を緩める作用があり、
それが朝のふらつきなどの副作用の、
原因になっています。
1980年代にベンゾジアゼピンの受容体の構造が明らかになり、
ω1とω2と言われる、
2つの受容体の種類があり、
そのうちのω2が、
筋肉を緩める作用と、
不安を抑える作用を持っている、
ということが分かって来ました。
それに対して、
睡眠導入作用は、
ω1にくっついた時の効果なのです。
このため、ω2には殆ど作用しない薬が開発されました。
このうちベンゾジアゼピンとは別の構造で、
ω1にしか作用しない、
効きの短い薬が、
ゾルピデム(商品名、マイスリー)です。
皆さんの中にも、
飲まれたことのある方が、
おそらくいらっしゃると思います。
現在ポピュラーに使われている薬です。
ただ、前評判とは異なり、
目覚めがすっきりしているかどうかは、
個人差が大きく、
明らかにハルシオンより優れている、
というほどは評価出来ません。
また、幻覚を見たりする副作用も、
ハルシオンより多い印象です。
ゾピクロン(商品名、アモバン)も、
同じタイプの薬ですが、
これも意外に飲む人を選ぶ薬です。
以上2種とは異なり、
ベンゾジアゼピンの構造は持ちながら、
ω1にしか効かない薬が、
クアゼパム(商品名、ドラール)です。
これはやや長めの効きの薬ですが、
矢張り副作用は確実に少ないとは言えません。
また、不安は不眠の原因になっていることが多いのですが、
ω2は不安を抑える効果を持っているので、
そうした意味で不安の強い不眠の患者さんには、
むしろ古いタイプの薬の方が、
よく効くことが多いのです。
最近の新薬の開発が、
下手に副作用を減らそうと構造を変えて、
却って効かなくなったり、
予想外の強い副作用の出たりする、
これもそうした事例の1つですね。
薬の開発というのは、
どうも一筋縄ではいかないものなのです。
現在の睡眠剤の全般的な問題点は、
軽度ではあるものの、
依存性のあることと、
自然な眠りにはならない、
ということです。
睡眠剤で誘導された眠りは、
脳波のパターンは変化し、
レム睡眠は減り、
ノンレム睡眠は浅くなる、
という共通の異常があります。
要するに、
作り出された、人工的な眠りなのです。
そのために、もっと自然の眠りに近い効果の薬剤がないか、
と開発が進められ、
幾つかの新薬が準備段階にあります。
そのうち、海外ではもう発売され、
日本でも発売の準備段階にあるのが、
ramelteon という薬です。
これはメラトニンという睡眠と覚醒のリズムを調節するホルモンの、
受容体にくっついて、
その作用を刺激する、
全く新しいタイプの睡眠導入剤です。
日本の製薬会社の開発品で、
アメリカでは2005年にもう発売済みです。
効果は抜群とは言えないようですが、
ベンゾジアゼピン特有の副作用は殆どなく、
日本での発売が待たれるところです。
それ以外にも幾つかの新薬がありますが、
ベンゾジアゼピンとは異なる作用で、
GABAを刺激するとされ、
注目されたgaboxadol という薬が開発中止になるなど、
その道程はそう平坦なものではないようです。
今日は睡眠導入剤の概説をお届けしました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2008-12-01 08:23
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