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サクシ…で始まる薬 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は朝一番で往診に行き、
戻って来たらすぐ外来の診療で、
結局更新が今になりました。

それでは、今日の話題です。

徳島の病院で、
医師が「サクシゾン」の点滴と入力した筈が、
「サクシン」の点滴と誤って入力してしまい、
高齢の肺気腫の患者さんが亡くなられる、
という痛ましい医療ミスがありました。

指示を出した医師は、
まだその病院では経験が浅く、
コンピューターの入力の時に、
サク、まで入れると、
「サクシン」しか薬剤が出なかったので、
うっかりそれを「サクシゾン」と思い込んで、
そのまま処方の指示を出してしまった、
ということのようです。
「サクシゾン」200mg の点滴の筈が、
「サクシン」200mg の点滴に変わってしまったのです。

その後看護師が一度、
その処方でいいのか、
と確認したのですが、
その医師は訂正をしなかったので、
そのまま薬が投与されてしまったのです。

「サクシゾン」はステロイドの注射薬です。

解熱剤との報道がありましたが、
ステロイドは所謂解熱剤とは違います。
強い抗炎症作用と抗アレルギー作用、
それから強いストレスから、
身体を守る作用があります。

報道されているケースの場合、
入院中の患者さんが高熱を出し、
それに対しての指示として、
ステロイドが出されたようです。

使用量は200mg。
ステロイドは人間の身体でも、
副腎という組織から、分泌されているホルモンです。
通常1日の分泌量が薬に換算して20mg くらいです。
ただ、強いストレスが身体に掛かると、
通常の5倍から10倍くらいの量は出るのです。
従って、ストレスの時の分泌量を、
そのまま点滴したことになります。

何故こういう薬の使い方をするのだと思いますか?

高齢の患者さんが高熱を出すような時、
副腎の働きも弱っていて、
本来なら出るべきステロイドが、
あまり分泌されないことが想定されるのですね。
そのためにそれを予め補って、
患者さんが重症化するのを防ぐのです。

ただ、この考え方は、
必ずしも一般的なものではありません。
推測だけで予防的に薬を使うなど、
もってのほか、という意見の医者も多い、
と思います。

でも、僕は割と好んで使っているんです。
たとえば、ノロウイルスの腸炎で、
高齢の方が激しい嘔吐と下痢とを起こすとしますよね。
点滴の中にステロイドを少し入れるのと入れないのとでは、
間違いなく翌日の回復が違います。
勿論入れた方が回復が早いのです。
これは、ちょっとした臨床のコツのようなものですね。

ただ、報道のケースを読む限り、
この患者さんにステロイドを使う意味が、
大きかったとはどうも思えません。
発熱の原因を調べつつ、
全身管理とすることの方が、
どう考えても先決ですよね。

この医師がステロイド剤と打ち間違えた、
「サクシン」は、筋弛緩剤と言って、
筋肉の緊張を緩める薬です。

全身の筋肉が弛めば、
どうなるでしょうか?

呼吸が止まりますね。

呼吸とは、呼吸筋による運動だからです。
何故そんな危険が薬があるかと言えば、
一般的には気管挿管といって、
気管に人工呼吸のための管を入れる時に使うのです。
それを呼吸管理の準備のない状況で、
200mg も点滴すれば、
ほぼ確実に呼吸が止まります。

ただの薬の取り違えではあっても、
殺人に近い事故であったことが、
このことから分かります。

怖いですね。

「サクシン」は呼吸管理や麻酔と切り離して使用することは、
まず有り得ない薬なので、
病院の管理にも問題のあったことは、
間違いないと思います。

今日は最近の事例から、
薬の話題をちょっと取り上げました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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サクシンとサクシゾン

この男性患者は肺炎と胸膜炎で入院していた。17日午後9時ごろ、39度を超える発熱があったため、看護師が当直医に連絡。当直の30代の女性医師は、患者のアレルギー体質を考慮して抗炎症剤の副腎皮質ホルモン「サクシゾン」の投与を決め、電子カルテのパソコン端末に記入。その際、最初の3文字(サクシ)だけを入力して薬剤名を検索したが、同病院でサクシゾンは扱っていなかったため、画面には筋弛緩剤の「サクシン」だけが表示された。
 病院によると、医師は画面を見たが「サクシゾン」のことと思いこんだという。薬剤師は、投与の量が200ミリグラムと少なかったため不自然と思わず用意。点滴での投与を担当した看護師は、医師に「本当にサクシンでいいのですか」と口頭で確認したが、医師は「(点滴の時間設定を)20分でお願いします」とだけ答えたという。患者は投与から約2時間半後、意識不明の状態で見つかり、約2時間にわたって人工呼吸などを施したが死亡した。
 同病院は、両方の薬品名が紛らわしいため、5年ほど前にサクシゾンの常備をやめていた。代わりに、サクシゾンと同じ成分で、両方の薬品名が紛らわしくないソル・コーテフの常備を開始した。
by サクシンとサクシゾン (2008-12-01 20:00) 

fujiki

補足して頂き、ありがとうございます。
たまには時事ネタを、
と思い書いたのですが、
ステロイドの使用法以外には、
それほどの興味がなかったので、
読み返してみると、
あまり内容がないですね。
すいません。
by fujiki (2008-12-02 06:14) 

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