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SGLT2阻害剤とDPP‐4阻害剤の有効性と安全性の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤とDPP4阻害剤の直接比較.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年2月6日ウェブ掲載された、
最近使用される頻度の高い、
2種類の経口糖尿病治療薬の、
有効性と安全性とを比較した論文です。

現在非常に評価の高まっている糖尿病治療薬が、
SGLT2阻害剤です。

これは尿に出るブドウ糖の量を増加させる薬ですが、
メカニズムは不明の点があるものの、
心血管疾患のリスクを低下させ、
生命予後にも良い影響を与えることが報告され、
心不全や慢性腎臓病の治療薬としても、
その有効性が確認されています。

ただ、そうした作用がそれ以外の糖尿病治療薬にはないのか、
という点については、
直接比較したような臨床試験はあまりないので、
明確ではありません。
また、SGLT2阻害剤には、
尿にブドウ糖が増えることによる、
尿路や外陰部の感染のリスクや、
血糖コントロールが不良の患者に使用した場合の、
糖尿病性ケトアシドーシスのリスクなどが指摘されていますが、
糖尿病のコントロール状態により、
SGLT2阻害剤の有効性や安全性に違いがあるのか、
というような点についても、
あまり詳細なデータが存在していません。

そこで今回の研究では、
アメリカの医療保険の患者データを解析する手法で、
新規にSGLT2阻害剤を開始した患者を、
別個のポピュラーに使用されている経口糖尿病治療薬で、
尿にブドウ糖を増加させるような作用のない、
DPP-4阻害剤というジャンルの薬を開始した場合と、
その安全性と有効性とを比較検証しています。
その有効性は血糖コントロールの指標である、
HbA1cの値毎にも解析されています。

トータルで144614名の2型糖尿病の患者が対象となり、
そのうち60523名はSGLT2阻害剤を開始し、
84091名はDPP-4阻害剤を開始しています。

中間値で8か月の観察期間において、
SGLT2阻害剤を使用している患者は、
DPP-4阻害剤を使用している患者と比較して、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクが
15%(95%CI:0.75から0.95)、
心不全による入院のリスクが
54%(95%CI:0.35から0.57)、
それぞれ有意に低下していました。

この心血管疾患や心疾患の予防効果は、
HbA1cが7.5未満であっても、
9%以上という悪いコントロール状態であっても、
同様に認められました。

一方で糖尿病性ケトアシドーシスのリスクは、
HbA1cが9%を超えるというコントロール不良群では、
SGLT2阻害剤使用群はDPP-4阻害剤使用群と比較して、
2.06倍(95%CI:1.57から3.42)有意に増加していました。

このように、
心血管疾患のリスク低減のためには、
DPP-4阻害剤よりSGLT2阻害剤の使用で、
より高い有効性のあることは間違いがなく、
その有効性は血糖コントロールに関わらず認められました。
その一方で血糖コントロールの不良群では、
特にHbA1cが9%を超える状態で、
糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加が認められていて、
SGLT2阻害剤の使用時には、
そうした有害事象の慎重な観察が必要であると考えられました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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βブロッカーの精神疾患に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
βブロッカーの精神作用.jpg
PLOS MEDICINE誌に2023年1月31日ウェブ掲載された、
心臓病や高血圧の治療薬の、
精神作用についての論文です。

βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。

交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。

βブロッカーに、
直接的な精神作用のあることは実証されていませんが、
緊張や不安時には脈拍は増加しますから、
脈拍を低下させる作用のあるβブロッカーは、
経験的に不安や衝動的な行動の抑制のために、
半ば安定剤的に使用がされています。
その後の主に観察研究などのデータにおいても、
一定の抗不安作用や衝動的行為の抑制作用が、
βブロッカーにはある、というデータが存在しています。
ただ、その一方でそうした効果はない、
という結果も複数存在しています。

また、βブロッカーの使用により、
自殺企図が誘発されるという報告が複数存在しています。

このように、
βブロッカーに一定の精神作用のあることは、
ほぼ事実と言って良さそうなのですが、
その実態はあまり明確ではなく、
データも正反対のものや矛盾するものが多いのが実際です。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制を敷いているスウェーデンにおいて、
βブロッカーが処方された15歳以上の1400766名を8年間観察し、
精神疾患や自殺企図との関連を検証しています。
単独の研究としては、
これまでで最も大規模と言って良いものです。

その結果、
βブロッカーの使用期間において、
精神疾患による入院のリスクは8%(95%CI:0.91から0.93)、
暴力的な犯罪を犯すリスクは13%(95%CI:0.81から0.93)、
それぞれ有意に低下していました。
その一方で、
自殺企図や行為のリスクは8%(95%CI:1.02から1.15)、
こちらは有意に増加していました。
条件を変更しても同様の結果が出るかどうかを検証すると、
自殺企図や精神疾患による入院のリスクは変動しましたが、
暴力的行為の抑制については、
抑制される傾向は一致していました。

このように、
βブロッカーの精神作用はそれほど明確なものではなく、
その一部は仮定により変動する性質のもので、
βブロッカーを使用している心疾患などの基礎疾患が、
影響している可能性も示唆されました。
その一方で暴力や衝動的行為の抑制作用については、
条件を変えても一定の効果が維持されていて、
その点についてはβブロッカー自体に一定の有効性が、
存在していると考えて良いようです。

この問題はまだ解決されているとは言い難く、
βブロッカーの精神作用については、
今後より精度の高い検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新規降圧剤バクスドロスタットの有効性(第2相臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バクスドロスタットの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年2月2日掲載された、
新しいメカニズムの降圧剤の、
第2相の臨床試験結果をまとめた論文です。

高血圧の治療薬は、
カルシウム拮抗薬、ACE阻害剤もしくはARB、
サイアザイド系利尿薬のいずれかが第一選択で、
病態によりβブロッカーやαブロッカーが補助的に使用されます。
このうち1つの薬剤を充分量使用しても、
目標とする血圧(概ね130/80mmHg以下)に達しない場合には、
複数の薬が併用されることになります。
そして、3種類以上の薬を一緒に使用していても、
目標の血圧に達しない場合、
「治療抵抗性高血圧」と言われることが多いのです。

今回のバクスドロスタットは、
こうした治療抵抗性高血圧症の治療薬として開発されたもので、
アルドステロン合成酵素の選択的阻害剤です。

アルドステロンはステロイドホルモンの一種で、
身体の水分と塩分とを維持することがその役割ですが、
過剰に産生されることにより血圧上昇を来します。
従って、アルドステロンを抑制することは、
血圧の低下に繋がるのです。

ただ、アルドステロン合成の最終段階の酵素は、
CYP11B2ですが、
この酵素はステロイドホルモンの代表である、
コルチゾールの合成酵素であるCYP11B1と、
93%は同一の構造を持っています。

そのため、これまでにもアルドステロン合成酵素の阻害剤は、
開発はされていたのですが、
実際に使用してみると、
コルチゾールの合成も少なからず阻害してしまうので、
その弊害があって成功しなかったのです。

今回のバクスドロスタットは、
最新の創薬技術によってその酵素阻害の選択性を高め、
コルチゾール合成酵素の阻害作用は、
アルドステロン合成酵素の阻害作用の、
100分の1にすることに成功したと記載されています。

今回の第2相臨床試験においては、
治療抵抗性高血圧の患者さん248名に対して、
1日0.5㎎から2㎎の複数の用量でバクスドロソタットを上乗せ使用し、
その降圧効果と安全性を検証しています。
その結果、既に3剤以上の降圧剤を使用中の患者さんにおいて、
用量依存的な血圧低下作用が確認されました。
高用量の2㎎では、
偽薬と比較して平均20.3mmHgの血圧低下が認められています。

副作用と有害事象については、
最も危惧される高カリウム血症も、
その影響は比較的軽微で、
すぐに中止が必要と考えられる、
血液中のカリウム濃度が6.0nmol/L以上であったのは2名のみで、
薬剤の中止により、
カリウム濃度は速やかに低下が認められました。

治療抵抗性高血圧に有効かつ安全に使用可能な薬剤は、
世界的に必要性が高いと言って良く、
今後より長期の有効性と安全性のデータにも、
注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「レジェンド&バタフライ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
レジェンド&バタフライ.jpg
木村拓哉さんが信長を演じる、
東映70周年記念映画が今公開されています。

脚本は古沢良太さんで監督は大友啓史さんという、
とても魅力的な座組です。
ただ、大友監督は最近作品のムラが大きく、
「何でこんなヘンテコな作品なの?」と、
叫びたくなるような作品も多いので、
るろうに剣心の完結編も、
イメージ重視で物語的盛り上がりは乏しかったですし、
若干の危惧を感じてはいました。

鑑賞後の感想としては、
絵的には素晴らしいところも多いのだけれど、
トータルにはギクシャクしていて、
オヤオヤという感じも多い、
昔の「底抜け超大作」という感じの作品でした。

発想は斬新なんですよね。
織田信長の生涯を描くのに、
正妻の濃姫との恋愛関係だけを軸にして、
基本それのみを描くという趣向なのです。

要するにキムタクの昔の恋愛トレンディドラマの世界を、
そのまま戦国時代でやろう、
ということなんですね。

物凄く斬新。
ただ、そんなものが本当に成立するのでしょうか?

普通はとても出来ないと思うところですが、
古沢良太さんは、おそらく今、
どんな素材をどのようにも料理出来る、
という底知れぬ自信があるんですね。

それで実際に信長の生涯を、
濃姫との関係のみで描くという荒業に挑戦しているのです。

ただ、実際に出来上がった映画を観ると、
「当然描かれるべきものが描かれていない」
という違和感と落胆とを感じるんですね。
濃姫は戦場には行かないので、
基本的には戦闘シーンはないんですね。
最後の本能寺のみは、
主役の2人が離れ離れで最後を迎え、
幻想の中で1つになる、という趣向なので、
唯一本格的なアクションとなるのですが、
もう信長の生涯も最後なので、
最後だけではなあ、という思いがどうしても残ります。

主人公2人のドラマとして観ても、
前半は確かに成立しているのですが、
2人がすれ違うようになってからが、
どうも釈然としない感じになるんですね。
せっかくの信長がのし上がってゆくところが、
殆ど描写もされていませんし、
どのような生きざまであったのかがまるで分かりません。

それから中段にちょっと奇妙な場面があって、
主人公の2人が密かに町に出て、
そこで低い階層の民衆に襲われて、
民衆を切り殺し、
その後廃屋で抱き合うという倒錯的なシーンなんですね。
その前に濃姫が白塗りの化粧で笑いを取る、
という、ともかく外しまくったような脱力シーンがあるので、
余計この場面の浮き方が異様なものになっていました。
何か斬新なことをやりたかったのは分かるのですが、
こうした際どい場面を、
主役の2人にやらせるのは無理があったように思いますし、
出来上がったものは、
意味不明の失敗に終わっていました。

そんな訳で、
昔懐かしい「底抜け超大作」的な本作ですが、
昔はこうした「大作」が沢山公開されて、
期待して行って、騙された、とガッカリして映画館を出ることも、
映画好きのある種の快感でもあったので、
まあ、これはこれでいいかな、
という気分で映画館を後にすることが出来ました。

鑑賞予定の方は、
あまり期待値を上げずに、
ディテールの豪華さを楽しむつもりでお運び下さい。
今はあまりこうした映画はないので、
その意味では懐かしい気分に浸れる1作です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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唐十郎「赤い靴」(2023年唐組若手公演・第70回公演) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
赤い靴.jpg
唐組の若手公演として、
1996年に初演され、
2002年には特別公演的に数日のみ再演された、
「赤い靴」が劇場で上演されました。

これは初演は観ているのですが、
渋谷の映画館で通常の映画の上映が終わってから、
簡易的なセットを組んで上演されたものです。
実質的な上演時間は1時間半強くらいの短い2幕劇です。

初演が上演された渋谷のミニシアターは、
あまり演劇上演に適した環境ではなく、
ムードもあまりありませんでした。
最後唐先生演じる主人公は、
スクリーンを切り裂いてその向こうに消えて行くので、
それを映画館でやりたかったのだろうなあ、
ということは分かるのですが、
実際のスクリーンを切り裂くという訳にはゆきませんし、
正直物足りなく感じたことを覚えています。

今回の上演はその初演に比べると、
遥かに本格的なもので、
セットも簡易的なものではありながら、
なかなか工夫されていましたし、
場面転換も小劇場的な興趣に満ちていました。

従って、間違いなく今回の上演は、
唐組の初演を超えていましたし、
今回の上演を観て、
初めてこの作品の真価に接した、
という思いがありました。

唐先生の作品としては小品ですが、
実際にあった少女誘拐事件を元にして、
赤い靴とビデオテープと1台の車の数奇な運命と、
そこに複数の人間の妄執が絡み合う物語は、
心地良いリズム感があって、
スケール感やまとまりには欠けるのですが、
ジャズのセッションのような自由闊達な雰囲気に満ち、
その良さを再認識させられました。
唐作品の初心者には意味不明のところも多いのですが、
それは初演が基本的には、
唐先生が同じ義眼の探偵を演じる、
シリーズ物の1作なので、
それを別の役者さんが単独で演じている時点で、
分かり難くなることは仕方のないことなのです。

演出も緻密にかつ大胆に仕上がっていて、
久保井研さんが今回監修に廻ったからかも知れませんが、
より昔の唐演出に近いタッチになっていました。

若手主体のキャストの踏ん張りも楽しく、
改めて唐戯曲の魅力に浸りながら、
劇場を後にすることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗うつ剤の慢性疼痛への有効性は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗うつ剤の慢性疼痛への有効性は?.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年2月1日ウェブ掲載された、
抗うつ剤の慢性疼痛への有効性を再検証した論文です。

腰痛や頭痛など身体を苦しめる痛みの多くは、
原因を特定することが出来ない慢性疼痛です。

こうした痛みは従来、
アセトアミノフェンや、
非ステロイド系消炎鎮痛剤などの、
所謂「痛み止め」で治療することが多かったのですが、
近年鎮痛剤の臓器障害などの有害事象や、
依存性などが問題となるようになり、
それに代わって使用頻度が増しているのが、
三環系抗うつ剤やSSRI、SNRIなどの抗うつ剤です。

慢性疼痛では中枢での痛みへの感受性の亢進があり、
それが痛みを強く感じさせている、
という側面があります。
抗うつ剤には脳内ホルモンを調整して、
その感受性の亢進を抑制し、
痛みを緩和させる働きがあると想定されているのです。

ただ、慢性疼痛と一括りに言っても、
その内容は千差万別ですが、
その性質に関わらず抗うつ剤は、
やや漫然と使用されているという側面があります。

実際に慢性疼痛に対する抗うつ剤の有効性は、
どの程度実証されているものなのでしょうか?

今回の研究は、
この分野におけるこれまでの主だった臨床データを、
俯瞰的に検証するシステマティックレビューの解析という手法で、
この問題の再検証を行っているものです。

これまでの156の個別の臨床研究に含まれる、
25000人以上の患者データに基づいて、
26のシステマティックレビューが発表されています。
そこにおいては、
8種類の系統の抗うつ剤の、
22種類の慢性疼痛に対する有効性が、
42種類の偽薬との比較において検証されています。

このうち11種類の比較試験において、
抗うつ剤の疼痛への有効性が示されていて、
そのうちの4試験は中等度の信頼性のあるデータです。
これはいずれもSNRIによるもので、
腰痛、術後疼痛、神経障害性疼痛、線維筋痛症に対する有効性です。
それ以外の31種類の比較試験では、
5種類で有効性は確認されず、
26種類では有効性は明確なものとは言えませんでした。

このように、
これまでに多くの臨床試験が施行されていますが、
精度の高い臨床試験で有効性が確認された研究は、
それほど多くある訳ではなく、
一部の疼痛に対する、
1系統の抗うつ剤(SNRI)以外の有効性は、
明確になっているとは言えません。

従って、現状のデータに基づいて考える上では、
慢性疼痛への抗うつ剤の使用は、
原則SNRI(商品名でイフェクサー、サインバルタ、トレドミンなど)に限って、
その有害事象にも留意しつつ慎重に行うことが、
適切と考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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簡単な呼吸法のリラックス効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ため息のリラックス効果.jpg
Cell Reports Medicine誌に、
2023年1月17日ウェブ掲載された、
簡単な呼吸法のリラックス効果についての論文です。

精神的なストレスが強く、
常に自律神経が緊張している人の多い現代では、
簡単に短時間で交感神経系の緊張を緩め、
リラックスする方法が求められています。

その方法として現在広く使用されているのが、
マインドフルネス瞑想と呼ばれる手法で、
これは仏教の座禅などをヒントにして、
個人で出来る簡単な瞑想法をマニュアル化したもので、
一定のリラックス効果が科学的に認められています。

ただ、体得するには一定の訓練と時間とが必要で、
誰でも簡単に実行可能、
とまでは言えません。

もっと簡単な方法はないのでしょうか?

今回の臨床研究では、
3種類の簡単な呼吸法のリラックス効果を、
同じ時間で行われたマインドフルネス瞑想と、
比較検証しています。

新型コロナなどの理由で他人とのコンタクトが困難な、
108名の対象者をくじ引きで4つの群に分けると、
3種類の呼吸法施行群とマインドフルネス瞑想施行群に振り分けて、
いずれも毎日5分施行することを1か月継続します。
呼吸法は「周期的溜息」と名付けられた、
2回に分けて大きく息を吸い、ゆっくり時間を掛けて吐き切るというものと、
吸気と呼気の間に息止めを行い、その周期を継続するもの、
過呼吸と長い息止めを繰り返すものの、
3種類が検討されています。

その結果、施行1か月の時点での気分の改善などの効果は、
マインドフルネス瞑想よりも、
3種類の呼吸法群においてより高く認められ、
特に呼気時間を長くした周期的溜息において、
最も高くなっていました。

呼吸法はヨガや仏教などの修行においても、
基本となる鍛錬法の1つであり、
一時期流行したロングブレスダイエットも、
呼気時間を長くするという意味では、
「周期的溜息」という概念にも近いものです。
瞑想はどうしても観念的で、
多くの人にとって気軽に行うにはハードルの高い面があり、
今後自律神経の緊張を取り、
リラックス効果を図る方法の中で、
呼吸法の指導は、
今後より広く普及することになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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物忘れ予防のための生活習慣の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
健康な生活と認知症予防.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年1月25日ウェブ掲載された、
加齢に伴う物忘れに対する、
生活習慣の影響についての論文です。

認知症は多くが物忘れから始まりますが、
加齢に伴う物忘れ自体が、
病気ということではありません。

加齢に伴って徐々に記憶を留めて置く能力が低下し、
新しいことを覚えることが難しくなり、
また短い時間で確認した事項を忘れてしまうことが多くなるのは、
「生理的な範囲の加齢現象」というように考えられています。

そうは言っても、
加齢に伴う物忘れを予防したい、
記憶の働きを若いままで保ちたい、
というのは、
殆どの方が希望していることではないかと思います。

認知症とその前段階である軽度認知機能障害の予防のためには、
食生活や運動、禁煙や節酒などの、
所謂「健康的な生活習慣」が、
重要であることが、
これまでの多くの疫学データから分かっています。

ただ、これは病気としての認知症のリスクについてで、
生理現象としての物忘れは含まれていません。

それでは病的ではない自然の物忘れの予防にも、
生活習慣の改善は有効なのでしょうか?

今回の研究は中国において、
60歳以上の認知機能低下のない一般住民に、
食生活や運動習慣、社会生活などの生活習慣の調査を施行。
またアルツハイマー病の遺伝的リスクとして知られている、
アポE遺伝子のε4という変異の有無を検査し、
その後の物忘れの進行と認知機能低下に対する、
生活習慣の影響を検証しています。

対象は平均年齢が72.23歳の29072名で、
10年を超える長期の経過観察を行っています。

生活習慣としては、
野菜や魚、食物繊維を多く摂り、動物性脂肪を控えるなど、
健康長寿に結びつくと考えられている食生活、
1週間に中等度までの強度であれば150分以上の運動習慣、
地域の活動などへの週2回以上の社会参加、
知的ゲームをするなどの週に2回以上の脳を使う活動、
喫煙や飲酒の有無の6項目が取り上げられ、
悪い状態(健康的な項目が皆無か1項目のみ)に対する、
良い状態(上記項目の4項目以上で健康的)の、
物忘れに対する影響を検証しています。

その結果、
生活習慣が悪い状態と比較して良い状態を維持していると、
物忘れの長期の進行が、
有意に抑制されることが確認されました。
これはアポEの遺伝子変異のあるなしで違いはなく、
アポEε4陽性群でも同様の効果が認められました。

生活習慣が悪い状態に比較して良い状態であると、
軽度認知機能障害のリスクは29%(95%CI:0.68から0.73)、
認知症と診断されるリスクは89%(95%CI:0.10から0.12)、
いずれも有意に低下していました。
個別の生活習慣毎に見ると、
最もその有効性が高かったのが食事で、
次に脳を使う活動の習慣、運動習慣の順になっていました。

このように、
一般的に良い健康習慣とされる、
食事、運動、禁煙などの生活習慣を継続することにより、
認知症のリスクのみならず、
病気ではない物忘れの進行も予防が可能であることが、
今回のデータからは明確に示されていて、
脳の働きの維持のためには、
生活習慣の重要性が大きなものであることは、
ほぼ間違いがないと言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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