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βブロッカーの精神疾患に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
βブロッカーの精神作用.jpg
PLOS MEDICINE誌に2023年1月31日ウェブ掲載された、
心臓病や高血圧の治療薬の、
精神作用についての論文です。

βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。

交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。

βブロッカーに、
直接的な精神作用のあることは実証されていませんが、
緊張や不安時には脈拍は増加しますから、
脈拍を低下させる作用のあるβブロッカーは、
経験的に不安や衝動的な行動の抑制のために、
半ば安定剤的に使用がされています。
その後の主に観察研究などのデータにおいても、
一定の抗不安作用や衝動的行為の抑制作用が、
βブロッカーにはある、というデータが存在しています。
ただ、その一方でそうした効果はない、
という結果も複数存在しています。

また、βブロッカーの使用により、
自殺企図が誘発されるという報告が複数存在しています。

このように、
βブロッカーに一定の精神作用のあることは、
ほぼ事実と言って良さそうなのですが、
その実態はあまり明確ではなく、
データも正反対のものや矛盾するものが多いのが実際です。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制を敷いているスウェーデンにおいて、
βブロッカーが処方された15歳以上の1400766名を8年間観察し、
精神疾患や自殺企図との関連を検証しています。
単独の研究としては、
これまでで最も大規模と言って良いものです。

その結果、
βブロッカーの使用期間において、
精神疾患による入院のリスクは8%(95%CI:0.91から0.93)、
暴力的な犯罪を犯すリスクは13%(95%CI:0.81から0.93)、
それぞれ有意に低下していました。
その一方で、
自殺企図や行為のリスクは8%(95%CI:1.02から1.15)、
こちらは有意に増加していました。
条件を変更しても同様の結果が出るかどうかを検証すると、
自殺企図や精神疾患による入院のリスクは変動しましたが、
暴力的行為の抑制については、
抑制される傾向は一致していました。

このように、
βブロッカーの精神作用はそれほど明確なものではなく、
その一部は仮定により変動する性質のもので、
βブロッカーを使用している心疾患などの基礎疾患が、
影響している可能性も示唆されました。
その一方で暴力や衝動的行為の抑制作用については、
条件を変えても一定の効果が維持されていて、
その点についてはβブロッカー自体に一定の有効性が、
存在していると考えて良いようです。

この問題はまだ解決されているとは言い難く、
βブロッカーの精神作用については、
今後より精度の高い検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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fujiki

Perrie様
お読みいただきありがとうございます。
非公開で…というコメントを頂きましたが、
このブログは非公開という仕様がないので、
読ませて頂いた上で消去させて頂きました。
今後ともよろしくお願いします。
by fujiki (2023-02-07 21:59) 

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