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治療前の血圧値から見た降圧治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日は石原が研修会出席のため、
午後の診療は休診とさせて頂きます。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
降圧目標と予後JAMA.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
治療前の血圧値と降圧治療の効果との関係についての論文です。
スウェーデンの研究者によるもので、
これまでの論文や臨床研究のデータをまとめた、
システマティック・レビューとメタ解析の論文です。

高血圧が心筋梗塞や脳卒中などの病気のリスクを上げ、
生命予後にも影響を与えることは、
多くの疫学データで実証された事実ですが、
血圧の高い人に降圧剤の治療をして血圧を下げると、
そのリスクが下がるかどうかは、
またそれとは別の問題です。

疫学データでは収縮期血圧が120mmHgを超えると、
病気のリスクが増えることは事実としても、
120を超える全ての人に、
120を下回ることを目標として治療を行った方が、
その方にとって良い結果になるとは限りません。
それはまた別の話なのです。

現行の多くのガイドラインにおいては、
収縮期血圧が140mmHgを降圧目標として治療が行われていますが、
最近幾つかの臨床試験やメタ解析において、
より低い目標値を設定した方が、
患者さんの予後には良い影響を与えるのではないか、
という指摘がされるようになりました。

最も大きな影響を与えたのはSPRINT試験という、
大規模臨床試験で、
ここでは収縮期血圧が140未満を目標としたコントロールと、
120未満を目標としたコントロールを比較したところ、
総死亡のリスクも心血管疾患のリスクも、
120未満を目標としたコントロールの方がより低下した、
という結果が得られています。

ただ、糖尿病の患者さんを対象としたデータにおいては、
120を目標とするようなコントロールは、
あまり良い結果に結びついていません。
それが糖尿病の患者さんに限定したことであるのかは、
まだ結論は出ていないのです。

今回の論文の研究者達は、
どちらかと言うと120未満を目指したような、
厳格な血糖コントロールには懐疑的な立場のようで、
2017年2月までの最新のデータも含めた、
これまでの臨床データをまとめて解析して、
この問題の再検討を行っています。

74の臨床データに含まれる、
平均年齢63.6歳の306273名の患者さんのデータを、
まとめて解析した結果として、
まだ心血管疾患の既往のない患者さんの一次予防としては、
降圧治療の心血管疾患予防効果は、
治療開始の時点での収縮期血圧に関連が認められました。

治療開始時の収縮期血圧が160mmHg以上の場合には、
降圧治療により総死亡のリスクは7%(95%CI; 0.87から1.00)、
心血管疾患の発症リスクは22%(95%CI; 0.70から0.87)
の低下を示していて、
収縮期血圧が140から159mmHgでは、
降圧治療により総死亡のリスクは13%(95%CI;0.75から1.00)、
心血管疾患の発症リスクは12%(95%CI; 0.80から0.96)
の低下を示していました。
一方で治療開始時の収縮期血圧が140mmHg未満の場合には、
総死亡も心血管疾患発症のリスクにも、
治療による有意な低下は認められませんでした。
心血管疾患を発症した患者さんの再発予防についてのデータでは、
平均の登録時の収縮期血圧が138mmHgの状態で、
心血管疾患の再発のリスクは10%(95%CI; 0.84から0.97)
有意に低下していましたが、
総死亡のリスクについては有意な低下は認められませんでした。

このように、
治療前の収縮期血圧から見ると、
それが140mmHg以上であれば、
一定の病気の予防や生命予後の改善に、
血圧の治療が結び付くと言って良いのですが、
140を切るような場合には、
そうだと言い切ることは難しいとという結果が、
今回のメタ解析からは得られています。

これは血圧の測定法による違いがあるのでは、
という議論もあり、
患者さんの病態によっても差があるのも当然なので、
かなり大雑把な検証に過ぎないのですが、
降圧治療がどんな患者さんに対して有効であるのか、
と言う点については、
一筋縄で結論が付くような事項ではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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「彼女がその名を知らない鳥たち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
彼女がその名を知らない鳥たち.jpg
沼田まほかるさんの原作を、
白石和彌監督がほぼ忠実に映画化し、
魅力的で実力派のキャストが顔を揃えた、
「彼女がその名を知らない鳥たち」を観て来ました。

これは原作がとても良いのですよね。

湊かなえさんと比較されることの多い、
イヤミスのまほかるさんですが、
湊さんよりは格段にミステリーの趣向は上手いですし、
僕は湊かなえさんは嫌いですが、
まほかるさんはそう悪くないと思います。
僕の読んだ中では「彼女がその名を知らない鳥たち」が、
その持続する凄まじい熱量というか、
筆圧のようなものが素晴らしくて、
この手の話としてはラストを含めて、
格別目新しくはないのですが、
キャラは抜群に立っていますし、
ミステリーとしての趣向も成功している、
完成度の高い作品だと思います。

ラストには独特の余韻がありますし、
絶望的な中に陶酔的なカタルシスがあって、
ラストの一文も見事に決まっています。

題名も良いですよね。
多分大した意味はないと思うのです。
謎めいていて、要するに、
「彼女が何かを知らない」
というのがポイントなのだと思うのですが、
そこに幻惑的で無意味な装飾句を付けて、
不可思議な感じを出しているのだと思うのです。
映画では鳥を飛ばしたりして、
それなりの意味をそこに含ましているのですが、
多分それはあまり意味のあることではなく、
「ティファニーで朝食を」と同じで、
映画というのは本質的に、
そうしたジャンルなのかも知れません。

仕掛けのある話なので、
あまり内容を言えないのですが、
どちらかと言えば原作を読んでから、
映画を観て頂いた方が良いと思います。
ラストの衝撃性は、
矢張り原作に分があるように思うからです。

ただ、映画もかなり頑張っています。

蒼井優さん演じる主人公が、
元の恋人の竹野内豊さん演じる黒崎のところに、
電話をしてしまうと、
その折り返しで奥さんが出てしまうというところがあるのですが、
映画では幻聴として黒崎の声が聞こえ、
その場面が浮かぶという表現になっています。
それからDVDに記録された黒崎と主人公との性行為の映像など、
黒崎の登場場面の不気味さの表現の仕方や、
中嶋しゅうさんの最初の登場のさせ方など、
映画のオリジナルの趣向がなかなか成功しています。
この辺り、演出も優れていますし、
台本も原作をリスペクトしながら、
効果的に映像化するために、
非常に時間を掛けて練られていることが分かります。

ただ、不満はラストで、
原作のシャープさと比較すると、
色々と工夫をし過ぎて、
同じ場面を何度も重ねすぎて、
結果として緊迫感が損なわれているように感じますし、
情緒的に盛り上げるのであれば、
デ・パルマの「愛のメモリー」くらいに、
仰々しくやって欲しかったと思います。
ちょっと中途半端でしたよね。
原作のラストの一言と似た台詞を、
最後にブラックアウトで声のみで聞かせるのですが、
これは原作を尊重しているようで、
映画的表現になっていないので、
あまり感心しませんでした。
最後は絵で締めて欲しかったですね。

後松坂桃李さん演じるゲス男が、
主人公にキスをするのは、
原作では2回目に訪問した時なのですが、
映画では最初の訪問の時なので、
それが原作より展開を唐突にしていました。
元々不自然な展開ではあるのですが、
これは原作通りであった方が、
良かったのではないかと思いました。

キャストは蒼井優さんが抜群の安定感で、
この役でヌードにならないのは違和感がありますし、
何となく大竹しのぶ化が危惧されますが、
今回は良かったと思います。
阿部サダヲさんは原作のイメージとは少し違うと思うのですが、
結果としては違和感はありませんでした。

竹野内豊さんと松坂桃李さんが新旧ゲス男で共演するのですが、
こちらもなかなか見応えがあったと思います。

そんな訳で不満もあるのですが、
原作の好きな方にも、
充分満足が出来る映画に仕上がっていたと思います。

なかなかお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ジグソウ:ソウ・レガシー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ジグソウ:ソウ・レガシー.jpg
第1作がこれまでにない新しいホラー・スリラーとして、
大ヒットし、
これまでに7作品がシリーズとして製作された、
「ソウ」シリーズの最新作が、
今ロードショー公開されています。

日本では乙一さんの小説などがあるので、
公開当初はそれほど目新しいという印象はなかったのですが、
ある日気がつくと見知らぬ部屋の中にいて、
謎の声が聞こえ、
サバイバルのための残酷なゲームが始まる、
という趣向の面白さと、
徹底した「痛さ」を感じるような残酷描写、
そしてラストに意外な真相が明らかになり、
それを超高速の早回しのように説明するネタばらしなど、
必ずしもこのシリーズがオリジナルとは言えないのですが、
1つの定番の趣向として確立され、
その後のホラーやミステリーに多大な影響を与えました。

ただ、シリーズの常で、
初期の新鮮さは次第に失われ、
残酷描写だけが売り物の粗雑なスリラーにレベルダウンして、
7作目をもって一応の打ち止めとなったのです。

さて、今回久しぶりに復活した「ソウ」シリーズの新作は、
ゲーム殺人鬼のジグソウが、
死亡して10年後が舞台となっています。
死んだはずのジグソウをそのままコピーしたような、
連続殺人が起こり、
何処かで死のゲームが行われているらしい、
という話になり、
その死のゲームの模様と、
それを追う捜査官や検死医の行動が並行して描かれ、
途中で死んだ筈のジグソウが実は生きているの?
という話になり、
そして意外な真相が明らかになります。

正直これまでの「ソウ」シリーズを観ている人には、
ほぼほぼ真相は分かってしまうような内容です。
過去作のあるものと良く似たトリックが使われています。

ただ、そうした点を差し引いても、
原点に戻ろうという姿勢が強く感じられて、
とても楽しく観賞出来ました。
台本もなかなか練り上げられていたと思いますし、
即物的な残酷描写も悪くありませんでした。

悪趣味でグロな映画であることは間違いがありませんので、
万人向きではありませんが、
こうした物がお好きな方には、
「今回のソウは悪くないよ」
くらいは言って間違いがないと思います。

マニアにはお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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DPP-4と認知機能との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP4と認知機能.jpg
今年のFrontiers in Aging Neuroscience誌に掲載された、
糖尿病との関連で指摘されることの多い、
インクレチンを分解するDPP-4という酵素と、
認知機能との関連についての論文です。

老化と関連のある物質というのは、
昨日取り上げたオステオポンチンなど複数が指摘されていますが、
インスリン分泌を刺激するインクレチンを分解する酵素であるDPP-4も、
その1つの候補となる物質です。

インクレチンであるGLP-1は、
血糖を下げる以外に酸化ストレスを抑制し、
炎症を抑えるような働きがあります。
その反対に血液のGPP-4活性が高いと、
炎症や酸化ストレスが促進されるという知見もあります。

つまりDPP-4は老化を促進する物質である、
という可能性があるのです。

今回の研究は中国において、
60歳以上の年齢の糖尿病のない1229名の住民において、
血液のDPP-4活性の高さと、
認知機能との関連を検証しています。

対象者を登録してその経過を追ったものではなく、
ある時点での認知機能とDPP-4活性との関連を検討したものなので、
それほど精度の高いデータとは言えません。

その結果、
血液のDPP-4活性が4分割して最も低い群と比較すると、
最も高い群は2.26倍(95%CI; 1.36から3.76)、
有意に認知機能低下のリスクが増加していました。

これはまだそうした傾向があった、
と言う程度のものなのですが、
動物実験においてはDPP-4阻害剤による治療が、
認知機能の低下を予防した、という報告もあり、
DPP-4阻害剤やGLP-1アナログを、
治療に使うという選択肢がすぐに浮かぶ、
と言う点がこの知見の1つの大きな魅力です。

まだインクレチン関連薬で認知症が明確に予防された、
というようなデータはありませんが、
老化の1つの現れである筋肉量の病的な低下(サルコペニア)に対しては、
100例程度のデータですが、
DPP-4阻害剤で糖尿病の患者さんにおける改善がみられた、
という2つの報告があります。

このように老化の病態の一部に、
DPP-4が関連しているという知見は興味深く、
まだ確実性があるというレベルのものではありませんが、
今後の知見の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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長寿の予測因子としてのガレクチン3とオステオポンチン [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オステオポンチンと長寿.jpg
2015年のClinical CHemistry and Laboratory Medicine誌に掲載された、
100歳を超える長寿の人と通常の高齢者で、
2種類のバイオマーカーを測定して、その比較をした論文です。

100歳を超えて持病のない長寿の人に、
そうでない大多数の人と比べてどのような特徴があるのか、
というのは長寿医学や老年医学において注目をされる分野で、
日本でも研究が行われ幾つかの知見が報告されています。

今回の研究ではイタリアにおいて、
100歳を超える高齢者81名と、
70から80歳の通常の高齢者46名を対象として、
血液中のガレクチン3とオステオポンチンという2つのマーカーを測定し、
その違いを見たものです。

オステオポンチンについては、
このところ連日のように話題にしていますが、
そもそもは骨代謝のマーカーとして発見されたものですが、
炎症を誘発する炎症性サイトカインとしての性質を持ち、
老化によって特徴的に増加する免疫細胞から過剰に分泌されるため、
老化のマーカーの1つと想定されて多くの研究が行われています。
ただ、血液の濃度でどの程度のことが言えるのかは、
まだ議論の余地があります。

ガレクチン3というのは、
糖尿病の臓器障害で指摘されることの多い、
AGEs(終末糖化産物)と関連の大きなマーカーです。
過剰な糖により変成したタンパク質が、
これも炎症などを惹起して、
生物の老化の一因となっていることは広く知られています。
老化との関連という点では、
少し前まではその主役の位置にいました。
ガレクチン3というのはAGEsが結合する受容体タンパクの1つで、
ここに結合したAGEsは分解処理されるので、
老化を抑制するために働いていると想定されています。
老化の進行に伴いガレクチン3は増加するので、
ガレクチン3の増加というのは、
老化の原因ではなくその結果を示していると思われます。

さて、今回の検討においては、
ガレクチン3もオステオポンチンも、
通常高齢者と比較して100歳を超える高齢者で有意に低値を示していて、
この2つのマーカーを使用することにより、
健康な老化を高い精度で予測可能だ、
という結果になっていました。

これは2つのマーカーを使用しないとそうした結果にはならない、
という辺りがややトリッキーな感じがしますし、
この2つの組み合わせが適切であるという根拠も、
かなり弱いという気がします。
年齢をマッチングして比較したと言っても、
100歳のデータなどそもそもほとんどないのですから、
それが妥当なものなのかも疑問です。

正常な老化というものがあるのかどうかは、
ある種哲学的な問題かも知れませんが、
「健康で長生き」という抽象的な概念が、
科学的に検証され一定のデータとして算出可能、
という試みはそれなりには興味深く、
今後もこの分野のリサーチは続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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オステオポンチンと心血管疾患との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日でクリニックは午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オステオポンチンと心血管疾患.jpg
これは昨年のPLOS ONE誌に掲載されたものですが、
老化に関わる炎症性サイトカインであるオステオポンチンの血液濃度と、
心血管疾患との関連を、
PEACE研究という過去の大規模臨床研究のデータを活用して、
検証した論文です。

オステオポンチンが何かについては、
11月13日のブログ記事をご覧下さい。

PEACE研究というのは、
心機能が正常かやや低下した安定狭心症の患者さんに対する、
ACE阻害剤の上乗せ効果をみたものです。
そこに登録された3567名の冠動脈疾患の患者さんにおいて、
オステオポンチンの血液濃度を測定し、
心血管疾患の予後との関連を検証しています。

自然対数変換したオステオポンチン濃度の1ポイントの上昇に対して、
心血管疾患による死亡と非致死性心筋梗塞と心不全による入院を併せたリスクは、
1.56倍(95%CI; 1.27から1.92)有意に増加していました。
年齢と性別で補正しても、
そのリスクは1.31倍(95%CI; 1.06から1.61)、
喫煙や腎機能、糖尿病などの因子を全て補正しても、
1.24倍(95%CI; 1.01 から1.52)と、
弱いながら有意に相関が認められました。

個別のリスクに関してみると、
心不全による入院のリスクが、
2.04倍(95%CI; 1.44から2.89)と、
最も大きなリスクの増加を認めていました。

このように解析自体はちょっとトリッキーな感じもしますが、
心機能がそれほど低下していない安定狭心症の患者さんにおいて、
オステオポンチンの血液濃度は、
特に心不全のリスクについて関連のある可能性という結果が得られました。

オステオポンチンは老化や慢性の炎症性疾患などにおいて、
重要な意味合いを持つ物質であることは間違いがありませんが、
そのデータの解析法やその判断については、
まだ確立されたものはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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DHAの非アルコール性脂肪肝炎進行予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オステオポンチンがDHAで低下する.jpg
今年のPLOS ONE誌に掲載された、
オステオポンチンと脂肪肝炎に関する論文です。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
お酒をあまり飲まない人に、
アルコール性脂肪肝炎に似た、
中性脂肪の過剰な肝臓への蓄積が起こるもので、
進行すると肝硬変や肝臓癌のリスクも高まります。
内臓脂肪の蓄積と大きな関連があり、
メタボリックシンドロームの、
内臓病変の1つとして考える見方もあります。

内臓脂肪の蓄積が、
免疫老化と呼ばれるようなT細胞の変化をもたらし、
オステオポンチンという炎症物質の過剰な産生が、
慢性の炎症を惹起して老化を進行させるのでは、
という仮説があります。

この考え方からすれば、
内臓脂肪の蓄積によって生じる非アルコール性脂肪肝炎というのも、
この免疫老化の1つの現れということになる訳です。

今回の論文は免疫老化と直接に関連するものではなく、
DHA(ドコサヘキサエン酸)という、
青身魚の脂に多く含まれる多価不飽和脂肪酸(ω3脂肪酸)の、
高脂肪食によってもたらされた非アルコール性脂肪肝炎への、
進行予防と治療効果をみた動物実験の論文ですが、
脂肪肝炎の炎症マーカーの1つとして、
オステオポンチンを測定していて、
その変化を見ているという点で、
DHAのオステオポンチンへの効果もみるような結果となっています。

高脂肪食を22週間継続する負荷で、
メタボリックシンドロームと、
非アルコール性脂肪肝炎の状態となったネズミに対して、
その時点で解剖して検査をした場合と、
高脂肪食にオリーブオイルを加えた場合、
高脂肪食にDHAを加えた場合、
普段の飼料に戻してオリーブオイルを加えた場合、
普通の飼料に戻してDHAを加えた場合の、
4種類のパターンの食事を8週間継続し、
その後に解剖して検査を行なった場合の比較を行っています。

その結果…

オリーブオイルの補充では、
肝細胞の炎症や線維化は抑制されなかったのに対して、
DHAの補充を行なうと、
炎症性マーカーを含めて脂肪肝炎の進行が抑制されていました。
オステオポンチンも、
血液濃度においてはあまり変化を認めていませんが、
肝細胞内の発現量についてみると、
DHA群で強い抑制が認められました。

更に食事を高脂肪食から通常の飼料に戻し、
そこにオリーブオイルやDHAを添加すると、
肝臓の状態はほぼ高脂肪食負荷前の状態に、
改善していることが確認されました。

これを昨日の免疫老化と内臓脂肪との話と組み合わせて考えると、
内臓脂肪の蓄積に伴い、
肝細胞にも免疫老化が起こって炎症が持続し、
脂肪肝炎や肝臓の線維化などの変化が進行しますが、
DHAには内臓脂肪の組成を変化させて、
炎症を軽減する効果があり、
更に食事の脂肪量を低下させることにより、
その効果は持続可能なものとなって、
一旦進行した脂肪肝炎も、
改善する可能性がある、
ということになります。

これはまだ動物実験のレベルの知見で、
そのまま人間に適応可能であるかどうかは分かりませんが、
多くの慢性病に実は老化の促進という共通項があり、
それが食事+薬もしくはサプリメントという組み合わせで、
一定レベル改善させることが可能だ、
というデータは興味深く、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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内臓脂肪と老化との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オステオポンチンと免疫変化.jpg
今年のPLOS ONE誌に掲載された、
肥満による免疫細胞の老化の影響が、
減量後も持続しているという興味深い動物実験のデータです。

最近老化の研究でテレビなどにも沢山出演されている、
慶應大学の佐野政明先生などの研究グループによる知見です。

老化の本態はまだ解明されているとは言えませんが、
最近話題となっていることの1つは、
リンの蓄積を誘導するクロトー遺伝子で、
もう1つが最近佐野先生が広められている、
オステオポンチンです。

オステオポンチンはその名の通り、
骨の組織に豊富に含まれる物質として発見された、
酸化リン酸化タンパク質で、
細胞に結合してその増殖などを調整する、
一種のホルモンやサイトカインのような働きを持っています。

当初は骨吸収を促進する物質として、
主に骨の状態のマーカーとして測定されていました。

それがその後の研究により、
骨以外の場所でも産生され多彩な働きをしていることが、
次第に明らかとなり、
現時点では身体に炎症を引き起こす、
炎症性サイトカインとしての働きが主に注目されています。

長寿の高齢者では相対的にオステオポンチンの血液濃度が、
低値であることが報告されています。
つまり老化とオステオポンチンとは何らかの関連がありそうです。

その関連とはどのようなものなのでしょうか?

身体の細胞の老化に伴い、
身体をウイルスや細菌などの病原体から守る働きをしている免疫細胞も、
老化をするということが知られています。

これを免疫老化と呼んでいます。

加齢に伴い、T細胞と呼ばれる免疫細胞の機能が、
低下することが分かっていて、
それにより免疫力が低下するとともに、
過剰な慢性の炎症が身体に起こります。

2009年に京都大学の湊長博先生のグループが、
この免疫老化というのは、
T細胞全体の老化ということではなく、
若い人には存在しない特殊な性質のT細胞が増殖して、
それが大部分を占めることで生じている、
という新たな知見を報告しました。

佐野先生達のグループは、
内臓脂肪の増加とこの免疫老化との関係に着目し、
研究を重ねています。

内蔵脂肪が増えたいわゆるメタボの状態では、
インスリン抵抗性が高まって動脈硬化が進行し、
全身の臓器の障害に結びついて寿命も短縮することより、
メタボでは老化が進行する、
という言い方が可能です。

ネズミに脂肪の多い食事を摂らせて、
内臓脂肪が増加したメタボのネズミを作ると、
そのネズミの脂肪細胞は慢性の炎症を起こし、
そのときに血液のオステオポンチンは増加します。
そして、オステオポンチンを過剰に産生している細胞は、
若い痩せたネズミにはほとんど存在しない、
CD153とPD-1というマーカーが表面に見られるT細胞でした。

この特殊なT細胞は高齢のネズミにおいて増加していて、
オステオポンチンを産生して細胞に炎症を起こし、
その一方で正常な免疫反応は起こさないので、
そのネズミでは慢性に炎症が持続して動脈硬化は進行し、
インスリン抵抗性により糖尿病を発症、
免疫力は低下して感染には弱くなります。
当然そうしたネズミの寿命は短くなりますから、
かなりの蓋然性を持って、
このT細胞こそ免疫老化の本態であろうと推測されるのです。

つまり、高齢になると、
免疫の働きはなく、炎症を起こすという、
有害な免疫細胞が何故か増加して、
そのために全身の老化が進行してしまいます。
このときに炎症の主体になるのが、
異常な免疫細胞から分泌されるオステオポンチンで、
このオステオポンチンが欠損しているネズミでは、
炎症やインスリン抵抗性は生じないことも分かっています。

オステオポンチンが老化物質の1つであることは、
動物実験のレベルでは間違いはなさそうです。

興味深いことはこの免疫老化は、
加齢ではなく脂肪過多によるメタボでも、
同じように誘導されることで、
その意味でメタボというのは、
老化とかなり近い現象である、
という言い方が可能です。

さて、最初にご紹介した文献においては、
高脂肪食で内臓脂肪を増やしたネズミにおいて、
免疫老化が起こっていることを確認してから、
今度は低脂肪食により内臓脂肪を元の量に落とします。
つまり、ダイエットをする訳です。
ところが体重が減少した後も長期間、
有害なT細胞が増殖する状態は続き、
オステオポンチンも前値には戻りませんでした。

つまり、肥満により一旦免疫老化が起こってしまうと、
その後ダイエットで体重を元に戻しても、
免疫老化自体はすぐには元には戻らない、
ということが明らかになったのです。

これは人間において、
メタボの人が食事をコントロールして体重を落としても、
必ずしも全てのデータが元に戻る訳ではなく、
動脈硬化の進行は抑制出来ない、
という疫学データにも一致する知見で、
今後より免疫老化の実態が分かって来れば、
オステオポンチンの抑制など、
根本的に老化を抑制するような治療が、
実現する日が来るかも知れません。

それほど楽観はすることなく、
今後の研究の結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ オペラ・アリア・コンサート [コロラトゥーラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ダムラウ.jpg
ドイツ出身で現在最も広く活躍しているソプラノの1人、
ディアナ・ダムラウが夫君のバス・バリトン、
ニコラ・テステとのデュオコンサートを、
アジアツアーとして行い、
その一環で日本で1日限りのリサイタルが開催されました。

ダムラウは当代きってのコロラトゥーラソプラノで、
リリックソプラノですが、
僕にとって何より忘れがたいのは、
2011年の震災の年の6月に行われた、
メトロポリタン・オペラの来日公演で、
原発事故の影響を恐れてネトレプコやカウフマンなど、
スターが次々と来日をキャンセルする中で、
お子さんと一緒に来日して、
「ランメルモールのルチア」のタイトルロールを、
見事に歌ってくれました。

コロラトゥーラは割とあっさりとしていて、
技巧を駆使するという感じはなく、
高音もあまり伸ばしたりはしないのですが、
狂乱の場の狂気の表現力と、
そこに至るまでの段取りの精緻さ、
アンサンブルの部分での音楽的なレベルの高さなどが素晴らしく、
技巧を駆使したソプラノとは別個のスタイルなのですが、
ある種孤高のルチアとして、
非常な感銘を受けました。

今回はそれ以来の2回目の来日ということになります。

今回のダムラウは絶好調で、
ともかく声の安定感が抜群です。
デセイ様命のコロラトゥーラ好きとしては、
デセイ様のような速度を上げて突っ走るような高速アジリタや、
超高音を伸ばしまくるような感じが、
ダムラウの歌には基本的にないことは、
まあ不満ではあるのですが、
彼女の資質は明らかにそうしたところにはなくて、
抜群の表現力で、
血肉のみなぎるダイナミックかつ繊細な歌唱、
聴衆の心を確実に駆り立てるような歌唱こそが持ち味で、
その面では当代一であることは間違いがありません。

基本的に単独のアリアより、
感情の持続のあるオペラの舞台でこそ、
その真価を発揮するタイプであると思うので、
今回のリサイタルでは「清教徒」1幕の、
バリトンとの二重唱のくだりが、
最愛の男への純な愛を歌っていながら、
その愛情の強烈さにその後の狂気を、
確実に感じさせるという高度な歌唱と演技で、
彼女ならではの高い音楽性を聴かせてくれました。

これは抜群でした。

またラストに用意された「椿姫」1幕ラストの大アリアは、
カバティーナはかなり短縮版でしたが、
装飾歌唱の一音一音までが、
全て感情に直結して聴衆の心を揺さぶる、
これまで僕が聴いて来た多くの「椿姫」とは、
明らかに次元の違う彼女ならではの、
これも孤高の「椿姫」であったと思います。
ラストはハイEsには上げなかったのですが、
彼女の歌い方ならこの方が確実に良い、
というように思わせました。

これは驚きました。

今回一番楽しみにしていたのは、
マイヤーベーアの「ディノーラ」の「影の歌」で、
これはデセイ様のフランスオペラアリア集で初めて聴いて、
イタリア物とはまるで違うフランス・オペラの繊細な狂乱技巧が、
素晴らしくて感銘を受けたのですが、
その難易度の高さから、
あまり実際にリサイタルなどで歌われることはありません。

これも影との語り口など、
ダムラウならではの表現力で良かったのですが、
矢張りラストなどは高音を伸ばしてはくれないので、
こうした装飾的な歌ではちょっと不満は残ります。

総じて当初予定されていた演目から、
「清教徒」の狂乱の場やマイヤーベーアの珍しいアリアなどが差し替えになり、
より通俗的で無理をしない感じのプログラムになったのが、
少し物足りなくはあったのですが、
ダムラウの現在の高い水準と、
その藝術性と音楽性に充分に触れることが出来た一夜で、
とても充実した気分で帰路に着くことが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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庭劇団ペニノ「地獄谷温泉 無明ノ宿」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ペニノ.jpg
怪人タニノクロウさんの作・演出による、
庭劇団ペニノの「地獄谷温泉 無明ノ宿」の、
横浜での再演の舞台に足を運びました。

マメ山田さん扮する人形師の老人とその息子が、
翌年には新幹線の開通で閉鎖される予定の、
「主人」のいない温泉旅館に、
一通の謎の手紙で招かれるのですが、
招いた主人は存在せず、
旅館に集う老婆や盲目の男などの、
この世界から忘れ去られた「過去」の人間達の心に、
人形芝居で触発された一夜限りの異様な欲望が、
奇怪な華を咲かせるという物語です。

この作品は2015年の夏に森下スタジオで初演されて、
その時から非常に評価が高く、
第60回岸田國士戯曲賞を受賞しました。
ただ、この時はクリニックの開院準備の時期で、
忙しくて観に行けませんでした。
それで今回の再演はとても楽しみにしていたのです。

これは期待通りの見事な舞台で、
セットの緻密な造り込みは尋常ではありませんし、
音効や照明も完璧に磨き込まれています。
内容の得体の知れなさと、
常人には理解不能の露悪的な淫靡さなどは、
今回も基本的には同じですが、
ナレーションまで付けられた物語は、
これまでのペニノの舞台とは段違いに分かり易くなっています。

特に「国中が気狂い、血に飢え出したいま、
百福の容姿と人形芝居はとくに求められました。
人々はいま惨めさを求めているのです。圧倒的な惨めさを!」
というようなタニノクロウさんとしては、
異例の感じのするアジテーション的なナレーションがあるので、
そこに反応して評価をされたという部分も、
今回はあるように思います。

ただ、言葉は基本的に平明で、
物語のアウトラインも追うこと自体は簡単な一方で、
実際に舞台で起こったことは何なのか、
豊穣で奇怪なディテールには何の意味があるのか、
というような点については、
例によって常人にはとても理解が出来ない部分が、
多々あることは、
これまでのペニノの舞台と同じでもあるのです。

しかし、そうしたモヤモヤは残っても、
祖母の思い出とともにある富山の田舎の情景が、
新幹線とともに葬られた、
という現実に虚構として対決するために、
忘れ去られた怨念と欲望とを取り込んで、
実際に現実より現実的な完璧な温泉旅館を、
舞台に造り上げてしまったタニノさんの執念のようなものには、
素直に脱帽を感じるのです。

僕がこれまで観た中では、
間違いなく最高のペニノの芝居であったことは間違いがありません。

これは小劇場の歴史に残る傑作だと思います。
必見です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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