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インフルエンザ感染防御における女性ホルモンの役割 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザと女性ホルモン.jpg
2015年12月のAmerican Journal of Physiology誌にウェブ掲載された、
インフルエンザ感染の性差についての論文です。

ウイルス感染に対する免疫の働きには性差があり、
それが患者さんの予後に大きな影響を与えていることは、
様々なワクチンで良く知られている事実ですが、
そのメカニズムはまだあまり分かっていません。

動物実験の多くは性差を無視して行われているからです。

インフルエンザに関しては、
特に鳥インフルエンザなど重症化に多いウイルスの感染において、
若い成人女性は、同年齢の男性と比較して、
2から6倍死亡率が高いと報告されています。

そこで上記文献においては、
副鼻腔の手術に伴って採取された鼻の粘膜の細胞を使用して、
女性ホルモンであるエストラジオール(E2)を加えて培養したり、
特定の女性ホルモン受容体の刺激剤を加えて培養し、
そこにインフルエンザウイルスを感染させて、
ウイルス感染に対する免疫の性差について検証しています。

その結果、
2型のエストロゲン受容体刺激剤とエストラジオールの刺激により、
感染したインフルエンザウイルスの粘膜細胞での増殖は抑制されましたが、
その反応は女性の粘膜でのみ認められ、
男性では認められませんでした。
また、1型エストロゲン受容体を刺激しても、
同様の反応は得られませんでした。

要するに鼻の粘膜でのインフルエンザウイルスに対する防御機能には、
明確な性差が存在していて、
女性の場合にはそれが女性ホルモンにより大きく変化しています。
そして、おそらくは女性ホルモンの変動の影響により、
女性でインフルエンザの重症化が起こりやすいと想定されるのです。

まだ不明の点も多いのですが、
インフルエンザ感染にこのように明確な性差が存在する、
という指摘は非常に興味深く、
今後のデータの蓄積を期待したいと思います。

なお、この論文を紹介した医師向けのサイトがあるのですが、
男性はインフルエンザが重症化する、
という真逆の説明が平然と書かれていて、
今回唖然と思ったことを追記して置きます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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