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ワルファリンの抗癌作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワルファリンと癌リスク.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
抗凝固剤の抗癌作用の可能性についての論文です。

ワルファリンは最も広く使用されている抗凝固剤で、
その目的は心房細動などの原因による血栓症の予防になります。

ただ、基礎実験や動物実験のレベルでは、
ワルファリンはその抗凝固作用とは独立に、
AXL受容体チロシンキナーゼによる腫瘍形成を阻害して、
抗癌作用を持つことが報告されています。

それでは、
ワルファリンを使用している患者さんは、
未使用の患者さんより癌が少ないのでしょうか?

この点については、
これまで不充分なデータしかなく、
一部の癌のリスクが低下した、
という報告がある一方で、
トータルな癌のリスクには差はなかった、
と言うデータもあって一定の結論には至っていません。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制を取るノルウェーの健康データを活用して、
6ヶ月以上継続されたワルファリンの処方と、
処方開始後2年以降の癌の診断との関連から、
ワルファリンと癌のリスクとの関連を検証しています。
対象人数は1256725名で、
ワルファリン使用者は92942名です。

その結果、
ワルファリン未使用者と比較した使用者のトータルな癌のリスクは、
年齢や性別を補正した結果として、
16%(95%CI; 0.82から0.86)有意に低下していました。
個別の癌では、
肺癌が20%(95%CI; 0.75から0.86)、
前立腺癌が31%(95%CI; 0.65から0.72)、
乳癌が10%(95%CI; 0.82から1.00)、
それぞれ有意に低下していました。
一方で大腸癌にはワルファリンによるリスクの低下は、
認められませんでした。
これを心房細動や心房粗動の患者さんに限って解析すると、
全ての癌のリスクはより大きく、
38%(95%CI; 0.59から0.65)有意に低下していました。

このように、
どうやらワルファリンの使用が、
その抗凝固作用とは別個に、
癌のリスクを低下させるような作用があることは、
そう眉唾でもなさそうで、
今後多方面からの検証が必要のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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