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急性心筋梗塞における酸素投与の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心筋梗塞における酸素投与の効果.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心筋梗塞の急性期に酸素を使用することの有効性についての論文です。

昨日は脳卒中に対する急性期の酸素投与の話題でしたが、
同様の検証を心筋梗塞に対して行ってみた、
という意味合いの論文です。

狭心症や心筋梗塞に対する酸素療法の歴史は古く、
1900年には既に酸素療法によって重症の狭心症が改善した、
という論文が発表されています。

狭心症や心筋梗塞では、
心臓の筋肉の酸素不足が起こりますから、
血液の酸素が低下した状態であれば、
酸素吸入がその予後にも良い影響を与えることは、
理に適った治療と言って良いと思います。

ただ、血液の酸素濃度が低下していない場合に、
酸素吸入が心筋梗塞の予後改善に有用であるかどうかは、
現時点で明確な結論が得られていません。

心臓の筋肉は酸素欠乏の状態になっているのですから、
通常より高濃度の酸素を供給することにより、
心臓の酸素不足の改善に繋がるという可能性は否定出来ませんが、
一方で高濃度の酸素は細胞に対しての毒性も持っていますから、
それが却って予後に悪影響を与えるという可能性も、
同様に否定は出来ません。

実際にはその有効性は確認されていないのにも関わらず、
心筋梗塞の急性期に低酸素血症がなくても酸素吸入を行なうことは、
この数十年間世界的に一般的な治療として行われて来ました。

しかし、その根拠はあまり明確なものではなかったのです。

2015年のCirculation誌に掲載されたAVOID試験という大規模臨床試験では、
STが上昇するタイプの心筋梗塞に、
予防的な酸素投与を行なったところ、
その予後は使用しない場合と比較して、
むしろ悪化していました。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
急性心筋梗塞が疑われ、
血液の酸素飽和度が90%以上である患者さん、
トータル6629名をクジ引きで2つの群に分け、
一方はマスクにより6L/minの酸素を6から12時間使用し、
もう一方は使用をしないで、
1年後の患者さんの予後を比較しています。

その結果、1年以内の心筋梗塞の再発も、
1年後の時点でも生命予後にも、
両群で差は認められませんでした。

昨日の脳卒中の研究と一緒で、
今回の心筋梗塞の酸素投与の影響も、
決して使用した方が予後が悪い、
という結果は得られていないのですが、
酸素濃度が明確に低下していない場合の、
予防的な酸素投与が、
患者さんの予後にメリットがないと言う点については、
ほぼ結論が得られたと言って、
間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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