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モンテルカストの精神神経系有害事象について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

台風は風は強かったですが、
他はそれほどのことはなく通り過ぎたようです。

今日はソネットのメンテナンス(?)のため、
更新が昨日から出来なくて遅くなりました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
シングレアのリスク.jpg
今年のPharmacology Rearch & Perspectives誌に掲載された、
喘息の治療にお子さんと大人に関わらず、
幅広く使用されている内服薬の、
有害事象のデータを解析した論文です。

記載されている数値だけを見ると、
かなり衝撃的なのですが、
有害事象の報告事例を後から解析しただけのものなので、
今後のより詳細な検証の、
足掛かりくらいに考えておいた方が良いと思います。

モンテルカスト(商品名シングレア、キプレスなど)は、
選択的ロイコトリエン拮抗薬というタイプの飲み薬です。

ロイコトリエンは白血球から分泌される、
炎症を誘発する物質の1つで、
特にアレルギー反応や喘息の発症に、
関連があることが分かっています。

そのためこのロイコトリエンの作用を抑える、
ロイコトリエン受容体拮抗薬が、
喘息の発作予防やコントロール、
アレルギー性鼻炎の鼻づまり症状の緩和などに、
主に他の薬と併用する形で使用されています。

代表的なロイコトリエン拮抗薬には、
プランルカスト(商品名オノンなど)と、
モンテルカストがあります。

ロイコトリエン拮抗薬は基本的には有害事象や副作用の少ない薬と、
考えられています。

ただ、以前よりアレルギー性肉芽腫性血管炎という、
自己免疫の関わるアレルギー性の血管炎が、
ロイコトリエン拮抗薬の使用と関連がある、
という報告が、
頻度的には稀なものですが報告されています。

それに加えて最近報告が多いのが、
睡眠障害や抑うつ状態、攻撃的言動などの精神神経系の有害事象です。

今回の研究はオランダの有害事象のデータベースと、
WHOの世界規模のデータベースを活用して、
モンテルカストの使用と有害事象の頻度との関連を検証しています。

WHOのデータを子供と大人合わせたトータルで見ると、
ロイコトリエン拮抗薬以外の薬での報告の頻度との比較において、
モンテルカストによるうつ病のリスクは、
6.93倍(95%CI; 6.54から7.36)有意に増加していました。
これを子供のみ(19歳未満)に絞って解析すると、
20.52倍(95%CI; 18.65から22.58)とより高くなっていました。
ただ、このうつ病リスクの増加は、
オランダのデータのみの解析では有意ではありませんでした。

攻撃的言動の有害事象については、
WHOのデータのトータルでは、
24.99倍(95%CI; 23.49から26.59)と有意に高く、
子供のみ(19歳未満)のWHOデータでの解析でも、
29.77倍(95%CI; 27.54から32.18)と有意に高くなっていました。
オランダのデータベースの解析では、
この項目はありませんでした。

頭痛の有害事象は、
WHOのデータのトータルでは、
1.85倍(95%CI; 1.75から1.97)と有意に高く、
子供のみのWHOデータの解析でも、
1.91倍(95%CI; 1.72から2.12)と有意に高くなっていて、
オランダのデータベースの解析でも、
2.26倍(95%CI; 1.61から3.19)と高くなっていました。

悪夢の有害事象については、
WHOのデータのトータルでは、
22.48倍(95%CI; 20.87から24.21)と有意に高く、
子供のみのWHOデータの解析でも、
78.04倍(95%CI; 69.75から87.07)、
オランダのデータベースの解析でも、
トータルで19.29倍(95%CI; 12.75 から29.17)、
子供だけの解析で56.72倍(95%CI; 56.09 から57.35)と、
それぞれ有意に増加していました。

アレルギー性肉芽腫性血管炎については、
WHOのデータベースで563件、
オランダのデータベースで8件の報告が蓄積されていました。

このようにそれが薬剤によるものであるという、
因果関係は確定しているものではありませんが、
モンテルカストを使用している患者さんにおいて、
うつ病や不眠、悪夢、攻撃的言動などの症状が、
多く認められている、と言うこと自体は事実であるようです。

モンテルカストは血液脳関門を通過して、
脳にも影響を与える可能性はあり、
セロトニンやノルアドレナリンの産生を抑制する、
という報告も存在しています。
ただ、一方で人間の脳にはロイコトリエンの受容体はない、
という知見があり、
仮にモンテルカストに脳神経機能への影響があるとしても、
現時点でそのメカニズムは不明です。

また、思春期の喘息の患者さんで、
病状が不安定であれば、
それがうつや不眠、精神的不安定などの原因となることも、
容易に想定されることなので、
薬物の影響ではなく、
そうした病状の不安定さを見ているに過ぎない、
という可能性も否定は出来ません。

いずれにしても、
モンテルカストの使用により、
こうした精神神経症状が発症する可能性がある、
という意識を持つことは重要で、
特にその使用は必須とまでは言えないような患者さんにおいては、
その継続は開始には、
より慎重な姿勢が必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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