急性期脳卒中の酸素吸入の効果について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
脳卒中の急性期に酸素吸入を行うことの、
効果と安全性についての論文です。
脳梗塞や脳内出血によって脳を栄養する血管が障害されると、
血流が完全になくなった部位では、
数分で脳の神経細胞は死んでしまいます。
ただ、その周辺に血流量は低下していても、
細胞自体はまだ死んでいない部分があり、
これをペナンブラ(penumbra)と呼んでいます。
脳卒中の予後がそうなるかは、
このペナンブラの部分が生き延びるかどうかに掛かっていて、
発症後数日の間に起こる、
脳浮腫や血管収縮、炎症などの合併症が、
ペナンブラの部分の細胞の生死を分けると考えられています。
脳細胞が低酸素状態に陥ることは、
ペナンブラの部位の細胞を死滅される、
大きなリスクであることは間違いがなく、
実際に急性期の低酸素状態が、
脳卒中の予後を悪化させることは実証されています。
勿論急性期の入院中では、
動脈血の酸素飽和度は常にモニターされていて、
低下するようであれば酸素投与が開始されるようにはなっています。
しかし、
そうは言っても24時間完全に監視していることは、
そう簡単なことではありませんから、
1つの考えとして、
酸素飽和度にはそれほどの低下はない状態でも、
脳卒中の急性期の数日は、
酸素の吸入を持続していた方が、
その予後にも良い影響があるのではないか、
という考え方が成立します。
ただ、酸素は過剰に与えられれば、
組織障害の原因ともなりますし、
鼻からのチューブやマスクによる酸素投与は、
患者さんのストレスにもなり、
またチューブを介しての感染などのリスクも軽視は出来ません。
これまでの臨床研究において、
12時間以内という比較的短期間の、
10から45L/minという高濃度の酸素投与は、
脳卒中の患者さんの予後を改善しませんでした。
24時間3L/minという低用量の酸素を使用した試験でも、
明確な改善効果は認められませんでした。
その一方で、低用量の酸素を72時間使用した試験においては、
一定の予後改善効果が認められました。
つまり、評価は割れていて一定の結論に至っていません。
現行のガイドラインにおいても、
この点は明確な指針を提示していません。
そこで今回の研究においては、
酸素飽和度を測定してそれに合わせた用量の酸素を使用すると共に、
3日間連続の使用と、
酸素の低下し易く監視が不十分になり易い夜間のみ、
酸素を使用した群とに分け、
この問題の再検証を行なっています。
イギリスの複数の専門施設において、
年齢は18歳以上で脳卒中のために入院となり、
入院後24時間以内の患者さん、
トータル8003名をクジ引きで3つの群に分け、
第1群は原則として72時間の酸素吸入を継続し、
第2群は同様の酸素吸入を夜間のみ行い、
第3群は酸素が病的に低下した時のみ酸素吸入を行なって、
開始後1週間及び90日間後の予後を比較検証しています。
治療者には3群の差についてあらかじめ開示されています。
判定は主にランキン・スケール(mRS)という指標で評価されます。
これは0から6の数字で予後の程度を表現していて、
0は全く後遺症のない治癒で、6が死亡。
0から2であれば日常生活には支障のない状態を示しています。
酸素投与は経鼻のチューブにより行われ、
酸素使用群では動脈血酸素飽和度が93%以下であれば、
3L/minで酸素が流され、
93%を超えていれば2L/minで流されます。
酸素を使用しない群でも、
原則として93%以下であれば酸素の使用が開始されます。
その結果…
90日後の時点でのランキン・スケールには、
3群間で有意な差はなく、
その間の有害事象にも差はありませんでした。
今回のこれまでで最も大規模で、
最も厳密な検証において、
急性脳卒中後の継続的な酸素の使用は、
夜間のみの使用を含めて、
従来の酸素飽和度をモニターしての酸素使用と比較して、
患者さんの予後の改善効果は得られませんでした。
有害事象にも違いはなく、
酸素飽和度は計測上は若干上昇する程度なので、
管理が不十分な施設においては、
使用継続も1つの選択肢ではあるようにも思いますが、
基本的にはその有用性は確認はされておらず、
上記文献の結論としても、
酸素の低下時のみの酸素吸入で必要にして充分である、
という理解が正しいようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
脳卒中の急性期に酸素吸入を行うことの、
効果と安全性についての論文です。
脳梗塞や脳内出血によって脳を栄養する血管が障害されると、
血流が完全になくなった部位では、
数分で脳の神経細胞は死んでしまいます。
ただ、その周辺に血流量は低下していても、
細胞自体はまだ死んでいない部分があり、
これをペナンブラ(penumbra)と呼んでいます。
脳卒中の予後がそうなるかは、
このペナンブラの部分が生き延びるかどうかに掛かっていて、
発症後数日の間に起こる、
脳浮腫や血管収縮、炎症などの合併症が、
ペナンブラの部分の細胞の生死を分けると考えられています。
脳細胞が低酸素状態に陥ることは、
ペナンブラの部位の細胞を死滅される、
大きなリスクであることは間違いがなく、
実際に急性期の低酸素状態が、
脳卒中の予後を悪化させることは実証されています。
勿論急性期の入院中では、
動脈血の酸素飽和度は常にモニターされていて、
低下するようであれば酸素投与が開始されるようにはなっています。
しかし、
そうは言っても24時間完全に監視していることは、
そう簡単なことではありませんから、
1つの考えとして、
酸素飽和度にはそれほどの低下はない状態でも、
脳卒中の急性期の数日は、
酸素の吸入を持続していた方が、
その予後にも良い影響があるのではないか、
という考え方が成立します。
ただ、酸素は過剰に与えられれば、
組織障害の原因ともなりますし、
鼻からのチューブやマスクによる酸素投与は、
患者さんのストレスにもなり、
またチューブを介しての感染などのリスクも軽視は出来ません。
これまでの臨床研究において、
12時間以内という比較的短期間の、
10から45L/minという高濃度の酸素投与は、
脳卒中の患者さんの予後を改善しませんでした。
24時間3L/minという低用量の酸素を使用した試験でも、
明確な改善効果は認められませんでした。
その一方で、低用量の酸素を72時間使用した試験においては、
一定の予後改善効果が認められました。
つまり、評価は割れていて一定の結論に至っていません。
現行のガイドラインにおいても、
この点は明確な指針を提示していません。
そこで今回の研究においては、
酸素飽和度を測定してそれに合わせた用量の酸素を使用すると共に、
3日間連続の使用と、
酸素の低下し易く監視が不十分になり易い夜間のみ、
酸素を使用した群とに分け、
この問題の再検証を行なっています。
イギリスの複数の専門施設において、
年齢は18歳以上で脳卒中のために入院となり、
入院後24時間以内の患者さん、
トータル8003名をクジ引きで3つの群に分け、
第1群は原則として72時間の酸素吸入を継続し、
第2群は同様の酸素吸入を夜間のみ行い、
第3群は酸素が病的に低下した時のみ酸素吸入を行なって、
開始後1週間及び90日間後の予後を比較検証しています。
治療者には3群の差についてあらかじめ開示されています。
判定は主にランキン・スケール(mRS)という指標で評価されます。
これは0から6の数字で予後の程度を表現していて、
0は全く後遺症のない治癒で、6が死亡。
0から2であれば日常生活には支障のない状態を示しています。
酸素投与は経鼻のチューブにより行われ、
酸素使用群では動脈血酸素飽和度が93%以下であれば、
3L/minで酸素が流され、
93%を超えていれば2L/minで流されます。
酸素を使用しない群でも、
原則として93%以下であれば酸素の使用が開始されます。
その結果…
90日後の時点でのランキン・スケールには、
3群間で有意な差はなく、
その間の有害事象にも差はありませんでした。
今回のこれまでで最も大規模で、
最も厳密な検証において、
急性脳卒中後の継続的な酸素の使用は、
夜間のみの使用を含めて、
従来の酸素飽和度をモニターしての酸素使用と比較して、
患者さんの予後の改善効果は得られませんでした。
有害事象にも違いはなく、
酸素飽和度は計測上は若干上昇する程度なので、
管理が不十分な施設においては、
使用継続も1つの選択肢ではあるようにも思いますが、
基本的にはその有用性は確認はされておらず、
上記文献の結論としても、
酸素の低下時のみの酸素吸入で必要にして充分である、
という理解が正しいようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本