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認知症治療薬の効果を事前に判定することは可能か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アリセプトの効果と白質病変.jpg
今年のGeriatrics & Gerontology International誌に掲載された、
認知症治療薬の有効性を、
事前に推測する方法についての論文です。

台湾からの報告ですが、
この雑誌は日本老年医学会の英文誌です。

アルツハイマー型認知症の治療薬としては、
コリンエステラーゼ阻害剤のドネペジル(商品名アリセプトなど)が、
世界的に最も幅広く使用されています。

アルツハイマー型認知症の特に初期においては、
アセチルコリンで信号伝達される神経の働きが低下するため、
その部分の神経伝達物質の働きを増強させることにより、
認知症の進行を予防しよう、というメカニズムの薬で、
根本的な原因治療ではないのですが、
症状の進行を遅らせ、
問題行動などを抑制して、
介護者の負担を軽減するなどの効果が確認されています。

ただ、こうした効果は、
全ての患者さんにおいて同じように見られるものではなく、
これまでの報告でも適応と考えられる患者さんの30から74%が、
ドネペジルに充分な反応を示さなかった、
とされています。

つまり、トータルには治療効果のある患者さんの比率は、
それほど高いものではありません。

一般的に初期の認知症である方が、
ドネペジルの有効性は高いと考えられています。
ある程度以上神経細胞の脱落が進んでしまえば、
アセチルコリンを増やしても、
その効果があるとは思えないからです。

しかし、症状的には比較的進行していても、
有効な事例も実際にありますから、
それだけで有効性が判断出来る、というものではありません。

ドネペジルも有害事象や副作用の少ない薬ではありませんから、
使用前にある程度効くかどうかが推測可能であれば、
患者さんにとってもご家族にとっても、
それに越したことはないように思います。

果たして、そうした指標はあるのでしょうか?

今回の研究においては台湾において、
患者さんの脳CT所見と、
ドネペジルの反応性との関連を検証しています。

CT所見のうち特に白質病変と呼ばれる、
はっきりと血流が途絶えた梗塞部位ではないけれど、
血流が低下している部分の範囲に着目をしています。

アルツハイマー型認知症との診断を受け、
ドネペジルを使用している196名の患者さんを、
臨床的な有効例と無効例とに分けたところ、
有効例は72例(36.73%)で無効例は124例(63.27%)でした。
有効例と無効例でCT所見の比較を行うと、
前頭部と基底核の白質病変が多い事例が、
無効例と有意な関連を示しました。
この関係性は、
データを年齢や性別、
アポE遺伝子の多型や糖尿病の有無などで補正しても、
同様に有意に認められました。

要するにCT所見上の前頭部や基底核の白質病変は、
その部位のアセチルコリン作動性神経の、
高度の機能低下を現わしていると思われ、
そうした事例でのドネペジルの有効性は、
それほど期待出来るものではない、
と考えて良いのではないか、
という結論です。

これはまだ比較的少数例の検討に過ぎませんが、
診断目的の検査や所見によって、
ある程度薬の有効性が推測可能であるという結果は興味深く、
実際今回のデータでも3分の2の患者さんは、
薬の効果が充分ではなかったのですから、
臨床的にもこうした検討には大きな意義があり、
不必要な投薬を減らして治療の精度を高め、
医療コストの削減にも繋がるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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