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睡眠の乱れが骨代謝に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
睡眠と骨代謝.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
短期間の睡眠の乱れが骨代謝に与える影響についての論文です。

寝不足が骨折の原因になることは、
広く知られている知見です。
また、睡眠時間が長くても短くても、
いずれの場合も骨塩量が低下するという報告もあります。

ただ、こうした睡眠の異常による骨折などの変化が、
実際に睡眠の異常自体が骨の代謝に影響を与えているのか、
それとも睡眠の異常に伴う生理的な変化によるものなのか、
と言う点については必ずしも明らかになっていません。

たとえば、
寝不足が続けば頭はボーッとして、
集中力や注意力は低下しますから、
それで躓いて転びやすくなり、
転倒から骨折に至る、
という可能性は当然想定出来ます。

これはただ、睡眠不足が直接骨に影響をしている、
ということではなく、
不眠に伴う体調不良からの二次的な原因によるものです。

それ以外に睡眠の乱れ自体が、
骨代謝に影響を与えることがあるのでしょうか?

今回の研究はその点を検証する目的で、
20から65歳の11人の健康なボランティアに、
シフトワークのような不安定な睡眠習慣を3週間強制的に続けさせ、
その前後で骨代謝の指標である複数の骨代謝マーカーを測定、
その変化を検証しています。

まず1日10時間という充分な睡眠時間を数日確保した上で、
21.47時間起き続け、それから6.53時間眠るという、
28時間サイクルの睡眠リズムを3週間強制します。
当然ねる時間も起きる時間もずれてゆく訳です。

測定されているマーカーは、
骨吸収のマーカーであるCTX、
骨形成のマーカーであるP1CP、
骨細胞から分泌されて骨形成を抑制するスクレロスチン、
そしてリンを低下させるFGF23です。

その結果…

明確に違いが見られたのは、
P1CPが3週間後に有意に低下したことで、
これは睡眠リズムの乱れにより、
骨形成が低下したことを示しています。
この変化は特に20から27歳の若年群で、
55から65歳の高齢群より、
強く認められました。

CTXとFGF23には有意な変化は認められず、
スクレロスチンについては、
若年層のみで有意に高値となっていました。
これは骨形成がより抑制されていることを示しています。

このように今回の短期間の検討では、
骨形成は抑えられて骨吸収にはあまり変化がない、
という結果になり、
その変化は骨代謝回転が速い若年層で、
より顕著な傾向が見られました。

ステロイドの骨作用においても、
比較的短期的な影響と長期的な影響では、
異なる面があるので、
今回の結果が即睡眠の乱れが骨代謝に与える影響の全て、
というようには考えない方が良いのですが、
こうした知見の積み重ねにより、
まだ謎の多い睡眠の骨への影響が、
解明に向かうことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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