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唐十郎「少女都市からの呼び声」(2021年唐組第66回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
少女都市からの呼び声.jpg
唐組は昨年は新型コロナ禍のため、
春予定されていた「さすらいのジェニー」を秋に上演しただけでした。
その代りということではないのでしょうが、
通常は本公演は行わない1月に、
下北沢駅前劇場で「少女都市からの呼び声」を上演しました。

本公演ですが、
演出の久保井さんの前説では、
「若手公演」という位置づけでもあるようです。

この「少女都市からの呼び声」は、
僕にとってはかなり特別な作品です。

初演は1985年の秋の、
状況劇場若衆公演で、
珍しくテントを離れて、
新宿のスペース・デンという、
密室性の高い小劇場での公演でした。

これはねえ、本当に素晴らしい珠玉の作品で、
とてもとても感銘を受けました。
唐先生のお芝居で生で観劇したものの中では、
間違いなくベストワンでしたし、
これまでに観た全ての芝居の中でも、
ベストワンと言っても悔いはない、
というくらいの作品でした。

内容的には同年に初演された「ジャガーの眼」の、
姉妹編的な設定の中に、
劇中劇のように唐先生の旧作である、
「少女都市」が入っている、
というような構造のお芝居です。

舞台装置は段ボールと蚊帳だけ、
ライトはブリキのバケツの中に入っていて、
照明は白と赤のみという、
シンプルを極めたお芝居でしたが、
シンプルでありながら、
唐先生のお芝居の特徴である、
猥雑さや過剰さにも満ちていました。
役者は素晴らしく演出も細部まで完成度が高く、
何より唐先生のロマンチズムが、
極めて高純度に迸っている点が魅力でした。

その後この戯曲は状況劇場解散後、
唐先生が1年だけ立ち上げた下町唐座で再演されました。
唐先生自身が婦長として登場し、
フランケ醜態博士役には、
「少女都市」の初演キャストである、
麿赤児さんが復活するという豪華版で、
とても期待して観に行ったのですが、
仮設劇場の大きな舞台に作品が合わず、
麿さんも久しぶりの唐芝居本格復帰の舞台に、
あまり調子が出ないという感じで、
ギクシャクした芝居でした。
(麿さんはその後唐組の「電子城2」で、
本領発揮の見事なお芝居を見せました)

この作品は新宿梁山泊でも度々上演され、
それ以外の企画公演のような舞台も複数ありましたが、
唐先生が直接関わったもの以外は、
僕は基本的に観ないと決めていたので、
そうした舞台には足を運びませんでした。

そして、今回本家の唐組として、
初めて「少女都市からの呼び声」が上演されました。

久保井研さんの唐作品演出は、
もう名人芸の域に達していますから、
今回は非常に期待をして出掛けました。

ただ、今回は正直今ひとつでした。

一番の問題は舞台となった駅前劇場と、
唐組の演出との相性の悪さですね。

あの劇場は小劇場である割に、
舞台の幅がかなり大きいのですね。
横長の劇場なのですが、
その舞台が上手く使えていませんでした。
群衆シーンは人間で舞台が埋まっていないといけないのですが、
とてもスカスカの感じでした。
それからフランケ醜態博士を全原徳和さんが演じていたのですが、
非常に実力のある魅力的な役者さんで、
今回の顔ぶれでは他にないな、
ということは分かっていたのですが、
今回はやや手に余るという感じでした。
もう少し存在自体の凄味のようなものが感じられないと、
この役は持ちません。

良い点を言うと、
ヒロインを演じた大鶴美仁音さんが抜群でした。
硝子化される少女のあの狂気と鮮烈!
彼女のこうした芝居は、
「吸血姫」を超えて、
ほぼ完成に到達した、という感がありました。

そんな訳で今回は不満の残る「少女都市からの呼び声」でしたが、
それでもヒロインの見事な芝居を観るだけで値打ちはあり、
今回は端役の稲荷卓央さんと久保井研さんの芝居も円熟の極みでしたから、
観た価値は充分にあるものでした。

今年は春に「ビニールの城」の再演になるようですから、
これはもう気合いを入れて待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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