SSブログ

ACE阻害剤やARBと新型コロナウイルス感染症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACEIのCOVID19に対する効果論文.jpg
Circulation Research誌に2020年の4月17日にウェブ掲載された、
ACE2受容体を増加させる作用を持つ降圧剤と、
新型コロナウイルス感染症との関連についての論文です。

SARSの原因ウイルスや、
今回の新型コロナウイルスは、
下気道の細胞などにあるACE2という受容体に結合し、
そこから細胞に侵入して感染を起こします。

ここで1つ問題となったことは、
幾つかの薬剤が結果としてACE2を増やすような働きを持っている、
ということです。
高血圧の患者さんに使用される、
ACE阻害剤やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、
結果としてACE2受容体を増やす作用があります。
また、インスリン抵抗性改善剤で糖尿病の治療に使用される、
チアゾリジンジオン(ピオグリタゾンなど)と、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンによっても、
ACE2は増加することが報告されています。

ただ、ACE2は高血圧の悪玉とされるACE1とは異なり、
血管を拡張して血圧を下げ、
肺などの臓器障害を抑制するような効果も認められています。

興味深いことに、
新型コロナウイルスがACE2受容体に結合して、
細胞に入り感染すると、
ACE2受容体の発現は抑制され、
ACE1受容体を介したシグナリングが優位となります。
ACE1受容体の刺激は、
血管を収縮させて血圧を上げ、
臓器障害も進行させる方向に働きますから、
一旦感染が成立した状態では、
ACE2が減少した方が感染は進行しやすい、
という言い方も出来るのです。

こちらをご覧下さい。
ACEとCOVID19の図.jpg
これは上記の文献ではなく、
この問題を解説した、
the New England Journal of Medicine誌の解説記事にあるものです。

左側に描かれているように、
新型コロナウイルスはその突起を細胞のACE2に結合させ、
それにより細胞内に侵入して増殖します。
ここでウイルスの遺伝子が複製されると、
その一方で細胞のACE2の発現は抑制されます。
すると、右に描かれているように、
血管を収縮させ急性肺障害を惹起する、
アンジオテンシン2を増加させることになる訳です。

そうなると、
ACE2受容体が多くなることにより、
新型コロナウイルスの感染が起こりやすくなる、
という可能性は否定は出来ませんが、
むしろ感染の重症化は防ぐ、
という可能性もまたある訳です。

それでは、
実際にACE2を増加させるような薬剤の使用は、
トータルに見て新型コロナウイルス感染症の患者さんの予後に、
どのような影響を及ぼすのでしょうか?

上記論文においては中国武漢市の複数の病院において、
高血圧症があって新型コロナウイルス感染症に罹患した、
トータル1128名の患者さんを解析し、
ACE2受容体を増やす働きのある降圧剤である、
ACE阻害剤とARBの使用が、
患者さんの予後に与える影響を比較検証しています。

患者さんのうち、
188名がACE阻害剤もしくはARBを使用していました。

解析の結果、
ACE阻害剤もしくはARBを使用していた、
患者さんの死亡率は3.7%だったのに対して、
使用していなかった患者さんの死亡率は9.8%で、
ACE2を増加させる降圧剤により、
総死亡リスクは58%(95%CI: 0.19から0.92)有意に低下していました。
複数の統計処理により解析を行っていますが、
いずれにおいてもACE阻害剤やARB使用は、
総死亡のリスクを低下させていました。

このように、今回の検証においては、
一旦感染した患者さんに限ってみると、
ACE2を増加させるような薬剤を使用している方が、
生命予後が良いという結果になっていました。

この問題はまだ解決したとは言えませんが、
少なくともACE2を増やすような薬が、
感染者の予後を悪くすることはないと、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(5) 

nice! 7

コメント 5

熱心な読者

以前、イブプロフェンについてうかがった者です。
改めてありがとうございます。
今後の動向も注目したいです。
ACE2受容体は、上気道、血管内(血栓の原因に?)、BBBを通って脳内の海馬(突然倒れる原因に?)、腸(便にウイルスが長く検出される原因?)、などにも発現しているような解説を聞いたことがあります。色々分かってきたら、また教えてください。よろしくお願いします。
by 熱心な読者 (2020-04-27 11:28) 

fujiki

熱心な読者さんへ
これね、全然逆のことを主張している研究が複数あるんですね。
現時点ではあまり惑わされない方が良いように思います。
個人的な意見としては、
ACE2のない場所には感染は起きないのですが、
感染後はむしろACE2は病状を抑える方向に働き、
予後を悪くする因子ではないのではないか、
というように考えています。
他にもACE2がなくてもヘパラン硫酸との結合で、
感染は成立するとしているものもありますし、
Cell誌のこの間の論文は、
肺と小腸と上気道では感染が成立し、
ネズミの実験系は当てにならない、
というようなものでしたし、
完全にACE2悪玉説に立った論文でした。
by fujiki (2020-04-27 14:25) 

熱心な読者

返信ありがとうございます。
身体の中は一つの宇宙(地球)みたいな感じなのでしょうか。
ひとつのものが一つの働きだけ専門にしているわけではないし、ある側面から見たら悪者だけれど、ある側面からみたらお助けマンみたいなこともある、という感じなんでしょうか。。。論文を書かれる方の思惑や立場ややっている研究に使えるかどうかなども結論を左右するのでしょうか。。。
今後とも、色々な論文の紹介をしていただけると幸いです。読むのが楽しみです。どうもありがとうございます。よろしくお願いします。
by 熱心な読者 (2020-04-27 17:48) 

市井の外科医

JAMAに載ったNYの5700例の解析( doi:10.1001/jama.2020.6775 )では、高血圧症患者で、ACE阻害剤、ARB、両者服用せずの死亡率はそれぞれ32.7%、30.6%、26.7%。
これを優位差があるとみるかどうかですが、これを見て私はARBの内服をやめて、Caブロッカーだけにしました。
by 市井の外科医 (2020-04-28 08:01) 

熱心な読者

(以下引用)
アンジオテンシン変換酵素阻害剤およびアンジオテンシンII受容体遮断薬の使用
(中略)
自宅でACEiを服用している患者のうち、91人(48.1%)は入院中もACEiの服用を継続し、残りは来院中にこのタイプの薬剤を中止しました。自宅でARBを服用している患者のうち、136人(50.1%)は入院中ARBの服用を継続し、残りは来院中にこの種の薬物の服用を中止した。自宅でACEiまたはARBを処方されなかった患者のうち、49人が入院中にACEiによる治療を開始し、58人がARBによる治療を開始した。 ACEiまたはARBを服用していない、ACEiを服用している、およびARBを服用している高血圧患者の死亡率は、それぞれ26.7%、32.7%、および30.6%でした。
(以上引用
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765184
より)
ですね。ありがとうございます。
色々な見方があるのですね。両先生、これからも色々教えてください。

by 熱心な読者 (2020-04-28 15:30) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。