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アスピリンの一次予防の有効性とリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの一次予防の有効性.jpg
2019年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
アスピリンの一次予防の有効な対象者が、
どのくらいいるのかを検証した論文です。

1日80から100mg程度のアスピリンを継続的に飲むことに、
心血管疾患や腺癌というタイプの癌の、
予防効果のあることは、
多くの疫学データや精度の高い臨床試験においても、
実証されている事実です。

ただ、その一方でアスピリンには出血系の合併症があり、
使用を継続することで、
消化管出血や脳出血などのリスクは増加します。

従って、アスピリンを服用することが、
その人にとって有益であるかどうかは、
その作用と有害事象とのバランスに掛かっています。

その有効性は一度そうした病気になった人の、
再発予防効果としては確立されていますが、
まだ病気にはなっていない場合の、
一次予防効果については、
どのような対象者を選ぶかによっても、
その結果は様々で統一した見解とはなっていません。

2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
糖尿病の患者さんにおけるアスピリンの一次予防効果を検証した論文では、
アスピリンを使用することにより、
心血管疾患は12%減少し、
その一方で出血系の合併症は29%増加していました。

2019年のJAMA誌に掲載された、
システマティック・レビューとメタ解析の論文では、
これまでの13の介入試験のトータル164225名のデータをまとめて解析した結果として、
アスピリンは心血管疾患のリスクを相対リスクで11%(95%CI: 0.84から0.95)、
絶対リスクで0.38%(95%CI: 0.20から0.55)、
それぞれ有意に低下させていました。
これは265人にアスピリンを使用することで、
1人の心血管疾患を予防出来る、
という確率と推計されます。

一方でアスピリンを使用することによる、
重篤な出血系合併症のリスクは、
相対リスクで1.43倍(95%CI: 1.30から1.56)、
絶対リスクで0.47%(95%CI: 0.34から0.62)、
それぞれ有意に増加していました。
これは210名にアスピリンを使用すると、
1人が出血系の合併症を発症する、
というくらいの確率と推計されます。

こうした予防効果と有害事象のバランスを、
どのように考えれば良いのでしょうか?

今回の研究では、
これまでのこうした心血管疾患のリスクの推計と、
出血系の有害事象の生じるリスクの推計を元に、
ニュージーランドにおいて、
30から79歳でこれまでに心血管疾患の既往のない、
トータル245028名の心血管疾患のリスクの算出を行い、
アスピリンの一次予防がどの程度に有効であるかを検証しています。

これはやや大雑把な仮定になりますが、
5年間に1つの心疾患疾患を発症するリスクを、
重篤な血管系の合併症を発症するリスクと、
ほぼ同じとして計算すると、
今回の対象者のうち、
女性の2.5%と男性の12.1%では、
アスピリンの一次予防としての使用が、
メリットがあると計算されました。

もし同じ5年間に1つの心血管疾患を発症するリスクを、
重篤な出血系の合併症を2つ発症するリスクと同じとして計算すると、
女性の21.4%と男性の40.7%で、
アスピリンの一次予防のメリットがあると計算されました。

今回の推計の前提はかなり大雑把なものなので、
これをそのまま適応してアスピリンの一次予防の対象を決定することは、
現時点ではあまり実際的とは言えませんが、
こうしたデータを積み重ねることで、
より実際的なアスピリンの適応が、
決められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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